逹瑯のお父さんを歌った「スーパーヒーロー」
──逹瑯さんが作詞作曲した「スーパーヒーロー」も優しさ、温かさが感じられる楽曲だと思います。すごく素直に逹瑯さんの個人的な思いが反映されていて。
ミヤ そうですね。これも去年のツアーでやってたんですが、あまりにも曲がよくて。もともとのアレンジはレゲエで陽気な雰囲気だったけど、歌詞にグッと持っていかれる強さがあったんですよ。「この曲はすごくいいから、アルバムに必ず入れます」とお客さんの前で言ってたくらい。アルバムのレコーディングの際にもっと単純な8ビートにしたことで、より歌が乗りやすくなったと思います。
──歌詞を中心にしたかったと。
ミヤ そうです。表現が素晴らしいんです。悲しい出来事をポジティブに表現していて。逹瑯の父親が亡くなったことを歌っていて、ウチらも親父さんを知ってるから、より感情移入できるっていうのもあるんだけど。
YUKKE うん。
ミヤ 親を亡くすのは誰もが経験することだけど、それを昔話のように語る表現方法がすごくいいなと。“ハッピーな悲しい歌”というか。今回のアルバムは、YUKKEが言ってたように対比の表現が裏テーマになっていて。陽気なロックンロールで歌詞が暗い曲もあるし、その逆の表現もあって。「スーパーヒーロー」もそのテーマと一致してますね。
YUKKE 「スーパーヒーロー」はライブのときのアレンジとはかなり変わっていて。特に始まり方が全然違うんですよ。煌びやかな感じで始まって、だんだんシンプルになっていく。それが逹瑯のお父さんに似てると思っていて。強がったり、カッコつけることもあるけど、実はまっすぐな人柄っていう。
ミヤ 面白い人だったんですよ。パッと見はカッコよくて、ちょっと怖くてダンディなんだけど、実は適当なところもあって(笑)。「逹瑯の父親だな」と納得しちゃうというか。
──こういうまっすぐな曲は今までMUCCにはあまり多くなかったと思うし、ソングライターとしての逹瑯さんも少しずつ変化しているのかもしれないですね。
ミヤ ムラはありますけどね。あえて遠回しな表現をすることもあるし、「スーパーヒーロー」みたいなシンプルな曲も作るし。アルバムのダウンロード版のほうに入っている「taboo」はシンプルで単純なフォークソングですね。
葉月の顔がふっと浮かんだ
──逹瑯さんが作詞、YUKKEさんが作曲した「SANDMAN」のダークな雰囲気も印象的でした。
YUKKE アルバムの中盤に入れられるような、歌モノではない重たくて暗い曲にしたくて。ベースとギターのリフに、重心が低いメロディが乗ってるという。ガソリンの匂いが地面にこびり付いているようなイメージにしたいなと思っていましたね。サビのメロディはリーダーが作ってくれました。
ミヤ YUKKEが持ってきた原曲はクオリティが低いK-POPみたいだったんですよ。
YUKKE はははは(笑)。
ミヤ ダークな曲なのに、サビのメロディだけがやたら明るくて。そこを変えてサイケデリックなロックンロールみたいな感じにしようと。流行りの音も入れたかったから、ビリー・アイリッシュのようなアメリカのトレンドのサウンドを取り入れて。バイノーラル録音でASMRを録ったり、いろいろ遊んでるんですよ。
──ビリー・アイリッシュ、お好きなんですか?
ミヤ 好きですよ。音もそうだし、曲もいいし。宅録で作るってスタイルもいいですよね。お兄ちゃんのフィネアス・オコネルの別の活動も面白いんですよ。
──「目眩」ではlynch.の葉月さんがフィーチャーされています。
ミヤ この曲はもともとは80'sっぽいディスコソングだったんですけど、激しくてふざけてる感じの曲にしようと思って、ラウドなアプローチでアレンジを進めていたら葉月の顔がふっと浮かんだんです。怒りや暗さがある曲なんだけど、それをそのまま出すんじゃなくてバカ騒ぎしながら放出するほうがいいなと。その中で葉月にシャウトさせたらいいだろうなと思ったんです。
──この曲にも相反する要素が共存しているんですね。
ミヤ そうかもしれない。負のオーラをそのまま表現するより、爆発させてバカっぽくやるほうがMUCCらしいかなと。
YUKKE 俺ららしい遊びが入った曲ですよね。ライブでさらに化ける曲だと思うし、アルバムの中でも大好きな曲ですね。
──ミヤさんが作詞作曲した「自己嫌惡」についても聞かせてください。フォーキーで生々しくて、アルバムのテーマを端的に表した曲だなと感じました。
ミヤ シンプルなフォークソングで、そんなに深みはないんですけどね。ただ、この曲がアルバムの始まりの曲ではあるんです。この曲のデモ音源を持ってツアーを回ったことが、今回のアルバムにつながっているので。ライブで2年近くやっているし、その中でアレンジも変わりましたね。パフォーマンスを含めて、最近のMUCCの代表曲の1つになっています。ある程度の期間ライブで演奏し続けて、その中で完成したアレンジをレコーディングすることができた曲だなと。
YUKKE ライブで育った曲ですね。演奏するたびに「こんなに伸びしろがあったのか」と感じたし、どんどん発展していって。パフォーマンスも変わっていったんですよ。ライブでやり続ける中でメンバーも悪ノリしてきて、俺は床に転がって、ミヤは俺の顔の上に座って、逹瑯は俺を蹴っ飛ばしてるっていう(笑)。そういうめちゃくちゃなパフォーマンスを呼び込んだ曲だし、MUCCの最近の武器になってますね。
ミヤ やり始めた頃とは、アレンジも曲も大きさも全然違いますからね。ウチらもそうだけど、お客さんもそう感じてるんじゃないかな。そう言えば去年のアジアツアーでも演奏したとき、中国公演で歌詞をスクリーンに映したんですよ。中国語では“悪”を“惡”と表記するんですけど、そのときに映った“自己嫌惡”という字面がカッコいいなと思って、そこからアルバムのタイトルも「惡」にしたんです。アジアツアーがなかったら、このタイトルにはなってなかったでしょうね。
──「悪」より「惡」のほうがより悪そうなイメージですね。
YUKKE そうですね(笑)。
ミヤ 真ん中が十字架みたいになってるのもいいんです。
40歳の人間が作った最高傑作
──「惡」はMUCCらしさと新しい表現が共存したアルバムだし、バンドのキャリアにとっても大きな意味を持つ作品になりましたね。
YUKKE 最新の音も詰め込めたし、現実を反映させながら自分たちの思いもリアルに表現できたアルバムだなと。MUCCを23年やってきた中で、表現の幅もある、今まで一番“歳上”感があるアルバムだと思います。
ミヤ 最高傑作ですね。新しい表現もそうだし、今思っていることを歌っているのもそうだし。前作のようなファンタジー感のある作品もいくらでも作れるけど、リアルタイムで感じている思いを表現することもまだできると思ったし……40歳の人間が作った音楽ですね。
──収録曲がライブでどう変化していくかも楽しみです。いつライブが再開できるかは不透明ですが、この状況をどう捉えていますか?
ミヤ 今後もYouTubeの公開番組(「MUCC YouTube Special Premier Week」)だったり、配信ライブもやろうと思っていて。ただ、あくまでもライブとは別のフォーマットですからね。ライブの空間を実際に知っている人が、その代わりとして楽しむものというか。空間を使った表現は、この状況が収束するまでできないじゃないですか。
──そうですね。
ミヤ ライブで会えるまで待ってもらう時間が長くなりそうだし、以前とまったく同じようにはできないかもしれないけど、取り決めに違反しない形でやれる新しいエンタメも準備しているんですよ。この状況じゃないとやれないこともあると思うし、思い出になるようなことを企んでいるので。
YUKKE この状況がいつまで続くかはわからないですけど、いつかはまたライブができるようになるはずなので。1回目のライブは一生のうちでもそのときにしか得られない体験になるだろうなと。そのためにやれることをやりながら準備しておきたいですね。
2020年6月23日更新