藤巻亮太×綾小路翔「Mt.FUJIMAKI 2024」開催記念対談|主催者同士だからわかる、フェスを運営する楽しみ (2/2)

お互いがフェスを始めたきっかけ

藤巻 レミオロメンは結成から3年でデビューできて、すごく早かったと思うんです。その翌々年には「粉雪」ができて。下積みの時代がすごく短いんですね。右も左もわからないまま、急に喧騒の中に放り込まれて20代を過ごして、30代になったときに周りのペースと自分のBPM(テンポ)が合わなくなった。そこで一度立ち止まろうと思って、ソロ活動で自分の中のものを全部吐き出したんです。そしたら、もう歌いたいことがなくなってしまって。

綾小路 なるほど。

藤巻 アイデンティティがわからなくなって、ルーツに向かい合う必要があったときに、自分の音楽には地元山梨の要素がたくさん入っていると気付いたんです。桃畑や葡萄畑がある風景で育って、うちも農家でしたから夏の時期は忙しくて、そんな中おじいちゃんやおばあちゃんにかわいがってもらって。悩んでいたときに、そうやって自分に故郷があることを再認識することで、救ってもらったんですね。なので、2018年から地元でフェスをやるご縁をいただいたことは、ミュージシャンとしての核の部分にくっついているというか。「氣志團万博」は、最初はワンマンだったんですよね?

藤巻亮太

藤巻亮太

綾小路 完全なる「GLAY EXPO」の模倣です(キッパリ)。まあ、そのときは僕らも縁があって、父が勤めていた会社が管理している土地があるから、そこで何かやらないかと声をかけてもらって。あの頃の僕はやっぱり田舎っぺで、「少しでもいいから名を上げたい」と考えていたんですよね。要するに、年少スタイル。罪状はなんであれ、少年院帰りはビビられるんじゃねーか?みたいな。どうせ俺たちがインチキなことは遅かれ早かれバレるんだから、今やれることは全部やっておこうと思って。その延長線上に1回目の「氣志團万博」も東京ドーム公演も「NHK紅白歌合戦」もあったんですね。そういうのがひと通り終わったときに、僕は「もうちょっといけそうだから、このまま行けるとこまで突っ走ろうぜ」と、しかしメンバーからは「そろそろ腰を据えて、きちんと音楽と向き合わせてくれ」と、初めて意見が食い違って。そのちょうど一番ヤバい時期に富士急ハイランドさんにお声がけいただいて、2回目の「氣志團万博」を開催したんです(2006年8月に富士急ハイランドで開催された結成10周年ライブ「氣志團万博2006~極東NEVER LAND~」)。

藤巻 そういうタイミングだったんですか。

綾小路 それっきり、氣志團は丸3年動かなくなるんですけどね。メンバーたちには「練習も曲作りも、みんなが納得するまでやるといいよ」と伝えたんです。で、少しお休みを取ったあとに楽器隊4人で集まったらしいのだけど、すぐに折り合いが悪くなって、まったく会わなくなったみたいで、結局そのまま3年間何もやらなかったという。それもすごいけど(笑)。僕は僕で引っ込みがつかず、DJ OZMAをやり始めて。ちなみにKISSES(氣志團のファンの呼称)にはDJ OZMAがトラウマの方も多くて。チャラチャラしてるし、品がないし、何よりメンバーをないがしろにした、と。ライブには多くの方が来なくなりましたね。だけど、不思議なことにまた別世界の人たちが来てくれるようになったんです。真夜中の繁華街の住人的な方たちとかね。客席を見ると、氣志團のときよりも一見ガラが悪い(笑)。

綾小路翔

綾小路翔

藤巻 その幅の広さがすごい(笑)。

綾小路 楽しかったですよ。人生で一番悩みがない季節だったかも。でも、氣志團的にはたぶんあのときに止まるべきではなかったんだと思いますね。DJ OZMAの後期、ようやくメンバーたちと歩調が合ってきて、ついに復活を決意したんですね。我々は「お待ちかね! 俺たちがとうとう帰ってきたぜーッ!」と思ってたんだけど、こちらが思っていたほどは待っていなかった(笑)。3年は長かったんだろうね。時の移ろいも早かった。一瞬絶望したけど、このまま終わるのも癪だし、俺たちの意味はなんだと考えたときに、ライブは面白いじゃないかと。でも、それが伝わってない気がしたんです。じゃあライブが強いのは誰なんだと調べて、対バン企画「極東ロックンロール・ハイスクール」をやったんですよ(参照:吉川!ももクロ!DJ OZMA!氣志團怒涛の対バンシリーズ)。今まで誰とも交流してこなかったけど、ジャンルも年代も関係なく、5月から12月まで全国で30本。実際にチケットを買って生で観にいって「こりゃヤベえわ」と思った人たちにお声がけして。そしたら、みんなめちゃ強で。毎日が命懸けでした。でも、対バンはやっぱり楽しいなと思えるようになったんですね。これをきっかけに、「氣志團万博」をみんなに出てもらえるフェススタイルにできないだろうかと思って企画しました(参照:氣志團、地元房総で初の主催フェスティバル開催)。単純に友達が欲しいっていうのもあるけどね(笑)。

藤巻 出会った人とのシナジーが「氣志團万博」の礎になっているんですね。

一番近くで感動できる、でも悔しい

綾小路 ただ、やってみてわかったけれど、やはり氣志團は海のものとも山のものともわからない微妙なバンドなもので、苦手に思ってる方もそりゃ少なくないわけで。我々が持つコミカルなイメージが大きいのかも知れません。嫌いなわけじゃないけど、直接絡むのはちょっと難しいかな……みたいなニュアンスは日常茶飯事で。だから、出てくださった方々が「『氣志團万博』面白いよ」と言ってくださるのが本当にありがたくて。「◯◯さんから絶対出たほうがいいよと言われて!」なんてことで出演を快諾してくれた方も多々いて。僕ら、昔は地元の人にも全然受け入れてもらえなかったんです。「お前らのせいで、不良しかいない街だと思われる」って。でも氣志團万博を始めてからは、和田アキ子さんや矢沢永吉さん、山下達郎さんと、スーパーレジェンドの皆様にご出演いただいたおかげで、近隣の漁師さんたちからも優しいお声を掛けてもらえるようになりました。

藤巻 「Mt.FUJIMAKI」にはまだ語れるほどの歴史はありませんが、フェスを始めたことで1人の音楽ファンに戻れたことはミュージシャンにとっての財産だなと思うんです。「すごく好きです!」「この曲聴いてました!」と伝えたい方々にオファーして、一緒に演奏させてもらうこともありますし、一番近くで感動させてもらっているんですよね。なおかつ、それをお客さんと分かち合うことができる。でも、すごいライブを観ると悔しくもあるんですよ。

綾小路 わかるわかる。お互いに負けたくないですよね。そこがまたいいと思うんですよ。僕らも「極東ロックンロール・ハイスクール」のときに、1発目がニューロティカだったんです。初めて僕らを全国ツアーに連れていってくれたお兄さんたちだし、「ひさしぶりに対バンできる~うれしい~」と呑気に行ったらフルボッコ。キラーチューンのオンパレードに、節目のライブにしかやらない特別な演出までをも惜しみなく、とにかく全力だったんです。あのときに「このままじゃ俺たちダメだな」と反省して、もう一度立て直せたことが今につながってるし、かつて一番乗りに乗っていた頃の我々が、グループ魂に完膚なきまでぼてくり回されたことも今となっては宝です。悔しいこともたくさんあるけれど、その先にはほかでは得難い楽しさがあるよね。すごいライブを観ると発見があるし。僕たちはプライドないですから、すぐに取り入れます。後輩からも躊躇なくかっぱらいます(笑)。

藤巻 素晴らしいな。

左から藤巻亮太、綾小路翔。

左から藤巻亮太、綾小路翔。

綾小路 フェスだと、普段はあんなに寡黙なうちのメンバーも感動した勢いでどんどん話しかけにいくんですよ。みんな音楽が好きだからすごく盛り上がる。でも、氣志團万博の開催はいつも夏の忙しい時期だったから、出番終わりですぐ移動しないといけない人も多くて。最初は打ち上げも小規模だったけど、年々残ってくれる人も増えていって。そうそう、HYDEさんが誰よりも早く打ち上げ会場にいてくれたりするんですよ(笑)。そこでの交流がきっかけだったりもするのか、その後ラウド系のバンドたちやアイドルたちがHYDEさんと対バンしたり、互いのイベントや界隈のフェスに出演し合ったりしていて、その様子を見ては感動してます。ヒロミさんが結成した「八王子会」も、「氣志團万博」のバックステージが発端だとおっしゃってくださったり。我々も少しはそういう縁やきっかけに一役買えているのだとしたら、こんなにうれしいことはないです。

藤巻 「Mt.FUJIMAKI」の会場がある山中湖は、昔はジャズフェスが有名だったんです。その文化を中学生が継承していて、山中湖中学校にBLUE LAKE BEATというジャズバンドがあるんですよ。毎年オープニングに演奏してもらっているので、3年生はそこで引退するのが恒例になっているらしいんですよね。

綾小路 わー、それめちゃくちゃ素敵だね。

藤巻 「Mt.FUJIMAKI」ではいろんなお客さんの前で演奏しているのが、僕自身すごくうれしくて。BLUE LAKE BEATが演奏すると、すごくいい空気になるんです。「氣志團万博」に比べるとまだまだですけど、「Mt.FUJIMAKI」もこうやって縁をつないでいければと思いますね。

なんたって富士山がある

藤巻 あとね、山梨ってなかなか皆さんライブをやってくれないんですよ。

綾小路 確かに山梨飛ばしは多いもんね(笑)。

藤巻 東京から近い分、なかなか地元でライブを観る機会がないから、どうにかカッコいい音楽に触れる機会を増やしたいという思いもあります。

綾小路 僕も同じです。うちの地元にもアーティストが来ることはまずなかったんで、来てくれたTHE ALFEEさん、HOUND DOGさん、The Venturesさん、本当にありがとうございました! 僕の同級生なんて、東京にすらほぼ行ったことがない人もいっぱいいて。僕はそれこそ学校サボって東京までライブを観に行って、それで人生変わっちゃったから、やっぱりみんなにも観せたいんですよ。特に、若い奴らに。こんなに一流の人たちが生で演ってるとこを観られたら、そりゃ「人生変えちゃう夏かもね」ですよ。

藤巻 僕も中学生のときに山梨県民文化ホールでBUCK-TICKを観て、「こんなにカッコいいんだ!」と思いましたからね。まず「本当にいる……!」と思いましたし。

綾小路 特に実在してるのかわからない人たちだもんね(笑)。

藤巻 あの衝撃を若い子たちに感じてもらいたいですよね。ミュージシャンにならなくても、生きていくうえで大きなエネルギーになると思うので。学生の皆さんは、コロナ禍で思い出を共有できる時間が減っちゃったので、いろんな方々の協力のもと、高校生以下無料にしてみんなに観てもらえるようにしてます。

綾小路 すごい!

藤巻 あと、山梨県外から来た人に「いい場所だな」と思ってもらいたいなという考えもあるんです。「また来よう」と思えるきっかけになればなと。

綾小路 山梨は今最も熱い県だと思ってるんですよ。都心から近くて、湖も山もあって、食べ物がおいしくて。ヒロミさんもキャンプ場を作ったし、(森山)直太朗も山小屋持ってるし、みんな山梨が楽しいみたい。

藤巻 僕自身、フェスをきっかけに地元の人とたくさん話すようになって、今まで知らなかった魅力を再発見するんですよ。若い頃に地元を出ちゃうと、実はあんまり知らないじゃないですか。

綾小路 そうだよね。意外と知らないんだよ。郷土料理とかも食べてないし(笑)。

藤巻 フェスがあることで、いろんな気付きがありますね。人と人が出会って、循環していくような。

綾小路 山梨には富士山があるからな。富士山はすごい。なんてったって富士山ですよ。

藤巻 会場の山中湖交流プラザきららは本当にきれいに富士山が見えるんです。9月28日ですから、ちょうどいい秋風が吹いてるんじゃないかなと。

綾小路 前々々乗りして、ライブ後は後々々泊くらいしたい! 今回のラインナップだと、高橋優くんは今年の「秋田CARAVAN MUSIC FES」に呼んでくれてるし、カエラちゃんとReiちゃんは同じ事務所。でも、今まで音楽でしっかり関わったことは意外と少ないんです。だから、みんなのライブを観るのも、僕らのライブを観てもらうのもめちゃくちゃ楽しみですね。

藤巻 前のほうで盛り上がってる人もいれば後ろでゆっくり観てる人もいる、すごくカジュアルなフェスなので、氣志團さんのライブをみんなで楽しめることが僕も楽しみです。

左から藤巻亮太、綾小路翔。

左から藤巻亮太、綾小路翔。

公演情報

Mt.FUJIMAKI 2024

2024年9月28日(土)山梨県 山中湖交流プラザ きらら
<出演者>
家入レオ / 氣志團 / 木村カエラ / 斉藤壮馬 / 高橋優 / 藤巻亮太 / flumpool / Rei

公式サイト

プロフィール

藤巻亮太(フジマキリョウタ)

1980年1月12日生まれ、山梨県出身。2000年12月にレミオロメンを結成し、ギター&ボーカルを担当。「3月9日」「南風」「粉雪」など数々のヒット曲を発表したのち、2012年2月にレミオロメンの活動休止を発表する。同月に初のソロシングル「光をあつめて」、10月には1stアルバム「オオカミ青年」をリリース。以降もソロ活動を活発に展開し、2019年4月にはレミオロメンの楽曲をセルフカバーしたアルバム「RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010」を、2023年1月に4thアルバム「Sunshine」をリリースした。2018年からは自身が主催する野外音楽フェス「Mt. FUJIMAKI」を山梨・山中湖交流プラザ きららで開催しており、2024年は9月28日に行われる。

氣志團(キシダン)

1997年に千葉県木更津で結成。メンバーは綾小路 翔(Vo)、早乙女 光(Dance & Scream)、西園寺 瞳(G)、星グランマニエ(G)、白鳥松竹梅(B)、白鳥雪之丞(Dr / 2014年3月より活動休止中)の6名。“ヤンクロック”をキーワードに、学ランにリーゼントというスタイルでのパフォーマンスが話題を集め、2001年12月にVHSビデオで“メイジャーデビュー”を果たす。「One Night Carnival」「スウィンギン・ニッポン」などヒット曲を連発し、2004年には東京・東京ドームでのワンマンライブも開催。2012年からは地元千葉県にて大規模な野外イベント「氣志團万博」を主催し、ほかのフェスとは一線を画するラインナップで多くの音楽ファンの支持を集めている。2023年1月にニューアルバム「THE YⒶNK ROCK HERØES」をリリースし、13年ぶりの東京・日本武道館単独公演を開催した。2024年は11月9、10日に千葉・幕張メッセ国際展示場9~11ホールで「氣志團万博2024 ~シン・キシダンバンパク~」を開催する。

※特集公開時より、本文の表現を一部変更しました。

2024年9月4日更新