藤巻亮太主催による野外音楽フェス「Mt.FUJIMAKI 2023」が、10月7、8日に彼の地元である山梨県の山中湖交流プラザ きららで開催される。
昨年、コロナ禍を経て3年ぶりに山梨で行われた「Mt.FUJIMAKI」。今年もLOVE PSYCHEDELICO、ACIDMAN、THE BACK HORN、OAU、TRICERATOPS、The Songbardsといった骨太なバンドから、高城れに(ももいろクローバーZ)、川嶋あい、PUFFYといった華のあるアーティストまで、多彩な顔ぶれが富士山の麓に集結する。
音楽ナタリーでは、イベントに先駆け藤巻と高城の対談を実施した。高城は毎年3月9日に開催しているソロコンサートにてレミオロメン「3月9日」を披露しており、今年3月にはカバー音源を配信リリースしている。2人はお互いの楽曲に対する思い、アーティストとしてのディープな内面、そして「Mt.FUJIMAKI」への意気込みなどについてトーク。初対面ではにかみながらも、話がどんどんスウィングしていく様子を楽しんでほしい。
取材・文 / 張江浩司撮影 / 笹原清明
高城の人生の一部になった「3月9日」
──高城さんはレミオロメンの「3月9日」をカバーされてますよね。
高城れに そうなんです! 2015年に開催した最初のソロコンから歌わせてもらってます。私たちの世代はめちゃくちゃ聴いていた曲なので、今こうしてご本人とお会いできているのが不思議な感覚です。
藤巻亮太 いやいやいや(笑)。でもずっと歌ってくれてたんですね。
高城 たまたま2年連続で3月9日に名古屋でお仕事したことがあって。「なんか縁があるね」という話から、初のソロコンサートを2015年3月9日に名古屋でやらせていただくことになったんです。チケット代も3900円にして。
藤巻 僕もその日にライブをやってますけど、チケットは3900円になりますよね(笑)。
高城 そうですよね(笑)。感謝の意味を込めて、“サンキュー価格”ということで。私はずっとひいおばあちゃんと一緒に住んでいたんですけど、「3月9日」は2人の思い出の曲でもあるんですよ。この日にこの曲を聴くのは自分の中で恒例になっていたので、ソロコンでも歌いたかったんです。
藤巻 その話を人づてに伺っていたんです。今日はご本人からしっかりお聞きしたいなと。
高城 ひいおばあちゃんは母親代わりと言えるくらいの存在でして、よく一緒に「3月9日」を「いい曲ね」って聴いていたんです。ただ、私がももクロの活動を始める前に倒れてしまって、病院で寝たきりになってしまったんですね。なので、自分の活躍を見せることができなくて。3月9日のライブは毎回この曲を歌っていることもあって、ひいおばあちゃんに歌を届けたい気持ちもあるというか、思い出がよみがえってくる特別な日なんですよね。自分の曲じゃないのに、勝手にすみません(笑)。ご本人にこの話を聞いてもらえて私もすごくうれしいんですけど、ひいおばあちゃんも天国で喜んでいると思います。
藤巻 そんな大事な思い出とともにこの曲を歌ってくださっていると伺えて、僕もすごくうれしいです。
高城 ひいおばあちゃんが亡くなってからは、さらに歌詞が身に染みるようになって。離れたとしても心の中にずっといるんだなって、歌うたびに思い出します。3月9日にソロコンサートを続けてこれたのも、この曲のおかげだと思うんです。正直、途中でやめたいと思って「今年で終わりです」とファンの方々に宣言して臨んだこともあるんですよ。
藤巻 うんうん、続けていくとね。いろいろ大変なこともありますからね。
高城 でも「3月9日」は歌いたいし、ひいおばあちゃんに届くように精一杯やりたいという思いで続けることができたので。すごく救われてきました。
藤巻 「3月9日」は僕の幼馴染の結婚を祝うために作ったんです。そのときまだ大学生で結婚がどういうものかもわからないし、想像しながら2人の人生が豊かになっていくように願いを込めて作りました。でも、音楽は1回こうして完成すると作り手を離れて、聴いてくださる方々の人生の大事な物語の一部になるというか。そこが音楽のすごさですよね。作り手が計算できるものじゃなくて。この曲があったからこそ高城さんとお会いすることができて、今回「Mt.FUJIMAKI」にも出ていただけるわけですよね。ご縁をいただいたなと。
高城 こちらこそです! マネージャーさんから、藤巻さんがラジオで私のカバーの話をしてくださっていると聞いて、「本人が認知してる! 嘘でしょ!?」って(笑)。なおかつ、公式にカバーの音源もリリースさせていただけることになって、また「嘘でしょ!?」と。今度はフェスに呼んでいただいたり、対談させていただいたり、今も「こんなことってあるのか……」という気持ちです。
「人生どん底」を肯定してくれる音楽
藤巻 僕は山梨出身で、やっぱり地元の景色が自分の歌になってきたんです。自分の音楽のルーツが地元にあると30代後半で気付いて、地元からもらってきた分を今度はお返しするというか、音楽で楽しんでもらったり元気になってもらったりする活動ができたらと思って「Mt.FUJIMAKI」を2018年に始めました。フェスを主催するなんてやったことないから手探りだったんですけど、お世話になっている先輩とか尊敬するミュージシャンとか、ご縁のある方々にお声がけしてやってきたんです。高城さんが「3月9日」をずっと大切に歌ってきてくださったことも、つながりを感じるんですね。リリースされた音源もすごく素敵でしたし、本当に思いを込めてオファーさせてもらいました。
高城 私も縁を感じました。ももクロの活動もそうですけど、続けることに意味を感じるというか。自分の信念や意志を持って進んでいくことが、つながることに直結すると思うんです。今までもいろいろなフェスに出演させていただいて、それぞれに意味があるんですけど、何年も続けてきた思いが本人に届いた経緯があるから、今回は特別感がありますね。噛み締めながらステージに立ちたいです。
藤巻 ももいろクローバーZさんの曲も高城さんのソロ曲も、いろいろ聴かせていただいたんです。人は、自分の限界とか枠組みを設定するじゃないですか。歳を重ねれば重ねるほどその枠の中で生きようとするし、そこから出るのは大変になりますよね。ももクロさんの曲には、そういう自分で作った限界を超えていくようなパワフルさがあって、聴いていてすごく元気になりました。
高城 えー! ありがとうございます!
藤巻 アップテンポでアレンジがカッコいい曲も多いんですけど、バラードで噛み締めるような曲もあるし。「3月9日」みたいなタイプの曲が持っている世界観もすごく大事にされていて、振れ幅の広さも感じました。
高城 うわあ、うれしいです。
藤巻 すごく明るい気持ちになりましたし、ももクロのファンの皆さんが励まされているのがわかりましたね。これはやっぱり、高城さんやももクロの皆さんが楽しんでいろいろな曲に挑戦されているからじゃないかと思ったんですよ。
高城 そうですね。でも、もともとは歌うことがあんまり好きじゃなかったんですよ。
藤巻 そうなんですか?
高城 芸能活動をする前は、自分は歌がうまいと思い込んでいて、堂々と歌ってたんです。小学生のときに初めて友達とカラオケに行って「粉雪」を歌ったら、「ヤバイよ!」って言われて。そこで自分が音痴なことに気付きました。音痴を自覚した曲が「粉雪」って、ご本人に言うか迷ってたんですけど(笑)。
藤巻 え、こんなに素敵な歌声なのに! デビューする前にそんなことが。
高城 親に聞いたら「音痴は今に始まったことじゃない」って言われました(笑)。幸い、ももクロはメンバー全員歌がうまくなかったんですけど。
藤巻 そんなそんな(笑)。でも、こういうことを振り返って笑顔で話せるというのが、皆さんのパワーですよね。高城さんはソロでは演歌も歌われてますよね。あれもすごく素敵でした。
高城 いや、そんな、褒めていただけるなんて……。「恋は暴れ鬼太鼓」は初めてのソロ曲だったんですけど、これもひいおばあちゃんと演歌のカセットを聴いていたのが影響しているかもしれないです。
藤巻 うわー、いい話ですね。歌ってみてどうでした?
高城 難しかったですね。でも、曲調とかリズムは聴き慣れたものだったので。
藤巻 僕もおじいちゃんおばあちゃんと一緒に3世代で住んでいて、よく演歌を聴いていたし、父もカラオケで歌うのは演歌でしたね。母はよく童謡を口ずさんでいました。僕はUKロックももちろんすごく好きですけど、演歌が周りにある環境で育った感覚が、すごくわかるんです。曲を作っても、和のメロディだとか情緒的な部分を入れたくなったり。演歌というか歌謡というか、そういうものからの影響はありますね。
高城 共通点があってなんだかうれしいですし、腑に落ちました。藤巻さんの曲って、どれも温かいんですよね。曲調もあると思うんですけど、私はすごく声が好きなんです。どんな曲を歌っていても優しい感じがして、耳にすっと馴染んでくる。その歌声が、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に暮らした影響なのかなって。
藤巻 うれしいです。自分のことを言われると照れちゃいますね(笑)。高城さんの歌声も優しさにあふれてますよね。音楽じゃない活動でも、グループの中で役割を担いながら優しい佇まいで皆さんに向かってらっしゃる。
高城 表向きはそうです(笑)。
──お二人とも歌声がまっすぐ伸びていく印象があって、「この人はいい人だろうな」と思わせるような魅力があると思います。
藤巻 なるほど。でも、だからこそ音楽を作ってる部分もあるんですよね。他人から「いい人」に見える部分と、そうでない部分のグラデーションが人間にはありますよね。その全部を肯定できるのが音楽だと思うんです。「いい人」っていうイメージを守りたくて苦しんでいる人に「そうじゃなくてもいいよ」と言ってあげられる。そういう寛容さがエンタテインメントには必要なのかなと。
高城 私は作曲はできませんけど、いい子なだけじゃない自分を表現してくれる曲を聴くのが大好きで。私は周りから明るいって言われることも多いし、実際そうだと思うんですけど、ネガティブな部分もめっちゃあるんですよ。プライベートで聴くのは“人生のどん底”みたいな曲がけっこう多かったりします。
藤巻 わかりますわかります。すごくわかります。
高城 「この曲を作った人も、こういう思いをしてるのかな」とか、勝手な想像力が膨らむんです。他人からは認めてもらえない自分を認めてくれるのって、音楽だけだと思うので。最近、アリアナ(・グランデ)ちゃんの「7 rings」をよく聴くんです。アリアナちゃんの曲は、「どん底だけど女としてがんばる!」みたいなものが多くて。強い女性の意志が感じられて、いつも歌詞の和訳を見ながら聴いてます。
藤巻 いい話だなあ。すごくわかりますね。ももクロの皆さんもデビューした頃のカラッと明るいところから、いろいろ積み上げてこられたからこそ、明るい曲を歌っても暗さを否定しない明るさになってますよね。
次のページ »
高城れには3拍子?