藤巻亮太×奥田民生「Mt.FUJIMAKI 2022」開催記念対談|富士山の麓で尊敬するアーティストの音楽を

藤巻亮太主催による野外音楽フェス「Mt.FUJIMAKI 2022」が、10月1、2日に彼の地元である山梨県の山中湖交流プラザ きららで開催される。

新型コロナウイルスの影響で2020年は中止、2021年も都内からの無観客生配信イベントへと方向転換を余儀なくされた同フェス。3年ぶりに山梨の地で行われる今回は、藤巻亮太はもちろん、奥田民生、岸谷香、竹原ピストル、中島美嘉、橋本絵莉子、真心ブラザーズ、MONGOL800、Salyu(×salyu)、小山田壮平、Saucy Dogという強力な面々がラインナップされている。

イベントに先駆け音楽ナタリーでは、藤巻と、2020年に出演予定だった奥田との対談を実施した。藤巻にとって奥田は自身がエレキギターを始めるきっかけとなった人物であり、バンドを経てソロ活動を始めたという共通点を持つ憧れの大先輩。インタビューでは少年のように目を輝かせながら奥田を質問攻めにする場面も。「Mt.FUJIMAKI 2022」の展望とともにギター小僧となった藤巻の様子も楽しんでほしい。

取材・文 / 大谷隆之撮影 / 山崎玲士

藤巻亮太の音楽活動の原点は奥田民生

藤巻亮太 いきなりすみません! 民生さん、もしよかったらこれ(と、小ぶりな段ボール箱を机の上に乗せる)。

奥田民生 おー、桃ですか。すごいね。今箱を開けた瞬間、甘い匂いがフワーッと広がりました。これって藤巻の地元のものなの?

藤巻 はい。山梨の実家で、父と弟が作った桃なんです。

奥田 へえ、そんないいものを! どうもありがとうございます。

左から藤巻亮太、奥田民生。

左から藤巻亮太、奥田民生。

──藤巻さんがオーガナイズする野外音楽フェス「Mt.FUJIMAKI 2022」が、10月1、2日に、山梨県の山中湖で3年ぶりに開催されます。民生さんも出演予定だった2020年はコロナ禍でやむを得ず断念(参照:「Mt.FUJIMAKI 2020」開催中止、オーガナイザー藤巻亮太がコメント「光は決して絶やしません」)。2021年はネット配信のみ、民生さんの出演はなかったので、今年はいわば満を持しての登場ですね。

藤巻 そうなんです。やっぱり故郷で開くフェスなので、大好きな民生さんの音楽をみんなに聴いてもらいたい気持ちがずっとあったんですよ。2年越しで出ていただけると決まったときは本当にうれしかった。

奥田 直筆のお手紙をもらったんですよ。昨今にしては珍しく。

藤巻 はい(笑)。実は僕、民生さんの影響でエレキギターを手に取ったんです。中学2年生のとき、確か「ミュージックステーション」で民生さんがギブソンのレスポールを演奏されているのを録画して観ていて。別のインタビューでそのレスポールを買った話とかも読んでいました。

奥田 ソロになった直後。「愛のために」の頃だっけ?

藤巻 そうです、そうです。それを観て「うわー、カッコいいな」と憧れて。それこそ桃の出荷のバイトでお金を貯めて、自分もレスポールを買いました。忘れもしない17万円で。

奥田 中2にとっては、大金も大金でしょ。

藤巻 まあ、半分は両親が出してくれましたけど(笑)。そのギターで一生懸命練習して。初めて友人とセッションしたのもユニコーンの「すばらしい日々」でした。あの曲、イントロにギターが2本入ってるじゃないですか。主旋律っぽいメロディと、アルペジオっぽいパートと。

奥田 うん。

藤巻 そのことに気が付いて。2人で「せーのっ!」で音を出したとき、なんて美しいんだろうって感動したんですよね。その瞬間は今でも鮮明に覚えていて。間違いなく自分にとって原点だと思います。そこからどんどん、ギターにハマっていきまして。

奥田 まあ音楽の楽しさって、結局そこに尽きるもんね。

藤巻 はい。その扉を開いてくれたのが、僕の場合は、民生さんの楽曲でした。僕は今42歳ですけど、同世代にはそういう人が少なくない気がする。なので手紙には、そういう個人的な思いも率直につづらせていただいて。正直、ちょっと気恥ずかしかったですけど。

奥田 でも素直にうれしかったですよ。自分の曲が、誰かが音楽を始めるきっかけの1つになっていたというのは。やっぱり心に響くものはありました。

「粉雪」を覚えておけばのちのち便利

──お二人は2021年10月、ギブソンジャパンのYouTube公式チャンネルの「クロスロード TOKYO」という人気セッション企画で初共演されています。レスポール2本のみで演奏される「愛のために」とアコギ弾き語りの「粉雪」。どちらも印象的でした。選曲はどのように決めたのですか?

藤巻 「愛のために」は僕のリクエストです。やっぱり特別思い入れがあるので。好きな曲はたくさんありますけど、迷わず決めました。「粉雪」は確か、いくつか候補を出させていただいた中から、民生さんが選ばれたのかな。

奥田 だったと思います。何しろ名曲ですからね。この機会にコード進行とか覚えておけば、のちのち便利かなと(笑)。そういう目論見はありました。

藤巻 実際、今年3月に「浜崎貴司GACHIスペシャル in 国宝松江城」という弾き語りイベントでご一緒したときも、民生さんから「粉雪」をやろうよと言ってくださって。めちゃめちゃ感激したんです。

奥田 だってほら、俺はもう覚えたからさ!

藤巻 びっくりしたのは、民生さん、すごい高域まで声が出るじゃないですか。しかも「年々、簡単になってきてる」とおっしゃっていて。それっていったい、どういう境地なんですか?

奥田 境地って言うほど大したもんじゃないけど(笑)。高い帯域に関しては、近年ちょっとコツをつかんだんですよ。いわゆるミックスボイス(地声と裏声の混ざった中間的な声)に近い感覚なのかな。強いて言うなら「ファルセットに気合いを入れる」みたいな感じ?

藤巻 はははは(笑)。

奥田 いや違うな。「地声の力をちょっと抜く」か。ま、高けりゃいいってもんじゃないですけど。昔よりは楽に歌えるようになりました。

藤巻 民生さんが歌う「粉雪」、高いだけじゃなくてちゃんと芯が通っていて、素晴らしかったです。この曲、弾き語りで歌うと、僕自身も「キーが高いな」と思うことがあるんですよ。というのも、もとはレミオロメンというバンドから生まれてきた曲なので。1人で歌うことは想定してなかった。

藤巻亮太

藤巻亮太

奥田 ああ、なるほどね。

藤巻 サビの「こなーゆきー」というフレーズも、バンドの音圧に負けないように声を張って歌っていたんです。でもバンド活動を休止し、ソロの弾き語りで「粉雪」を演奏してみると、どこか声が丸裸になってる感覚があって。いまだにちょっと戸惑いがあるんです。民生さんはソロ以降もずっと、バンド活動と弾き語りのライブを並行して続けてこられたでしょう。何か棲み分けみたいなものってあるんですか?

奥田 いやいや、俺も基本、弾き語りのときはバンドの楽曲を1人でやってるだけなので。リズム隊も鍵盤もいないから、当然、印象は変わってきますけど。あまり深くは考えてないですよ。

ライブのセトリの決め方

藤巻 じゃあ曲作りの際、リスナーやファンの存在って意識されてます?

奥田 うーん、それも特には考えないかな。むしろ、ふと思い付いた駄洒落や語呂合わせだったり。あとは、周囲のスタッフとか友達をちょっと笑わせてみよう、みたいな。そういうモチベーションで始まることのほうが多いですかね。そもそも最近、あまり新しい曲は書いてないですし。

藤巻 そうなんですね。

奥田 うん。長年曲を作ってきて、けっこうなストックもあるからね。例えば弾き語りでフェスに出る場合、そこから適当に何曲か選ぶわけだけど、楽器はギターだけでしょう。特にリハとかも必要ないから、事前に曲目も考えてない。基本は会場の空気を見ながら、その場で決めています。雨がパラついてきたら、それっぽい雰囲気の曲をやってみるとか。

藤巻 すごい。ベテランの落語家さんみたいです(笑)。

奥田 まあ「さすらい」や「イージュー★ライダー」なんかは、自分も好きな楽曲ではありますし。皆さんやっぱり、それが聴きたいんじゃなかろうかとも思うので、余程のことがない限りやる。あと、リリースしたばかりの新曲は一応やっておこうか、とか。その程度の緩い縛りはありますけど。それ以外は会場によって、全然セットリストが違ってたりします。

奥田民生

奥田民生

藤巻 ということは、歌詞も全部頭に入っている?

奥田 まさか、まさか。ぜんぶiPadに入れてます。逆に言うとなんでもできるんですよ。適当にスクロールしてると、自分でも「えー、なんでしたっけこれ?」みたいな曲もけっこうありまして(笑)。それを果敢にやろうとして、失敗するケースも多々ありますけど。でも弾き語りの場合は、それもアリなのよ。1番だけで止めちゃうとか。イントロの振りだけして結局やらないとかね。

藤巻 いいなあ、自由だなあ(笑)。民生さんの場合、お客さんがそれも含めて楽しめるのが素敵ですよね。歌い出せば、演奏そのものは揺るぎないですし。

奥田 この間、デジタルの腕時計をしてステージに出ちゃったときは失敗したけどね。いつもは時計の針を見ながら適当に時間調整してるんですけど、デジタル表示で残り時間がわからなくなっちゃった。ただ俺は、もう50代も半ばを過ぎてますから。そういうのも含めて、そこまでカチッとやらなくてもいいのかなっていうのは、正直あります。特に弾き語りの場合はね。

2022年9月1日更新