ナタリー PowerPush - クレイジーケンバンド
横山剣が語るライブ論 WOWOW連動インタビュー
自分たちは楽曲のしもべ
──ところでクレイジーケンバンドはかなり大所帯のバンドですけど、大所帯ならではの苦労もありますか?
もうね、なにが大変ってとにかくスケジュールが合わないですね。だから本来は12人編成ですけど、たまに11人だったり10人だったり。まあそれはゴールデン・カップス以来の横浜のバンドの伝統なんですけど。
──これだけ多いと意見の衝突もあるのでは?
いや、それが揉めたりすることはないんですよね。やっぱり一番偉いのは楽曲なんですよ。「楽曲様」と僕は呼んでるんですけど、楽曲のしもべとして僕らがいるっていう考え方を結成以来している。それが大所帯でやってても揉めない理由というか。より良いものを出そうという前向きな衝突はありますけど、エゴのぶつかり合いはないです。「俺もっと目立ちたい」とか、そんなことを言い始めたらそれはもう音楽家じゃないんで。そういう考えのメンバーが集まってるんで、12人いてもそんなに大人数とは感じないですね。
──演奏に関してはいかがですか?
テクニックよりも、気持ちみたいなものが出るかどうかですよね。例えばガレージパンクのバンドとか演奏はひどいもんですよ。でもなんか響いてくるものがあるわけです。要は大事なのはそれなんで。ただうまいヘタは関係ないっていうけど、うまくできるのにヘタにやってるのは失礼ですね。これ以上は無理っていうところでやってるのが大事。つまり全部込めてるかどうかだと思うんです。すっごいヘタでもそれ以上はできないっていういっぱいいっぱいのところでやってる人はなんか伝わりますよ。なので僕らも12人で、これ以上は無理!っていうところでやってるわけです。
ライブの音はスカスカにする
──レコーディング音源とライブ演奏の違いについては、どう捉えていますか?
レコーディングではいろんな無茶ができるんで、レコーディングでしかできないことをバンバン投入しちゃうんです。ライブを想定して作ると、やっぱりこぢんまりしちゃうんで。
──じゃあライブではアレンジを変えて?
クルマでも市販車とレース仕様ってありますね。それと同じで、ライブ仕様にだいぶカスタマイズしますよね。レコーディングはスパイスとか隠し味をいっぱい入れるんですけど、ライブの場合は逆で、いかにスカスカにするかっていうのが大事で。
──スカスカにする?
要するに倍音を減らして出音をクリアにするためにPAの方と相談しながら。モニタをなるべく下げるとか。CDと同じ演奏をしても同じにはならないんで、結果聞こえる音を同じにするためにはCDと違うことをしなきゃならないっていうことですね。昔から劣悪な環境には慣れてるんで、モニタなんかなくてもいいし、イヤーモニタなんて絶対いらないし。イヤモニっていうのは今の時代の常識になって慣れなきゃいけないかなと思ってたんですけど、マイケル・ジャクソンの映画を観たら「僕はこれで育ってない」ってマイケルが言ってて「ああ、良かった」ってね。あのマイケルもそうなんだってうれしくなっちゃった。
ライブへの思いは年々高まってきてる
──最後に、剣さんにとってライブとはどういうものですか?
ライブに対する思いっていうのは、年々高まってきてますね。今まではレコーディングとか作曲とかのほうに気持ちが向いてることが多かったんですけど、だんだんライブが侵食してきて、ライブなしではできないグループになってる。だから今年は今まで以上にいろんなところでやろうと思ってます。オールスタンディングでガーッといきたいっていう人のためにライブハウスツアーをやって、スタンディングじゃ無理っていうお客さんもいると思うんでホールツアーもあって、あとちょっとアダルトな感じでいきたい人にはホテルディナーで、夏のミドル&メロウな感じを味わいたい人にはプールサイドパーティみたいな。いろんな形でライブを充実させたいなと思っております。と同時に、わざわざレコーディング期間なんて設けないで、ライブで暖気した状態でスタジオ入って、アイデアが浮かんだらレコーディング、浮かんだらレコーディング。もうそういう感じでやっていこうと思ってますね。
──自由に活動できている感じですか?
そうですね。ハードルがなくなったというか、周りを説得する手間が全部なくなって、すごくやりやすくなりましたね。メンバーもスタッフも、みんな役割分担が整理されてきて。今はすごく自由にやれてますね。
クレイジーケンバンド
1997年、横浜本牧にて結成。翌1998年にアルバム「PUNCH! PUNCH! PUNCH!」にてデビューを果たし、以後横浜を拠点にライブ活動を行う。2002年発表の「GT」で大きな注目を集め、その後リリースしたシングル曲「クリスマスなんて大嫌い!! なんちゃって♥」「あ、やるときゃやらなきゃダメなのよ。」が立て続けにCM曲に起用。2005年には「タイガー&ドラゴン」が同名ドラマの主題歌に起用され、スマッシュヒットを記録する。ロック、歌謡曲、ソウルなどの要素を貪欲に取り入れた歌ものナンバーは、老若男女を問わず幅広く支持されている。2009年にはユニバーサルミュージックに新レーベル「ダブルジョイインターナショナル」を立ち上げる。2012年2月には13thアルバム「ITALIAN GARDEN」がリリースされる。