Mr.Children桜井和寿ソロインタビュー|「30周年は単なる入り口でしかない」ミスチルが見据える未来への道のり (2/2)

興奮、熱狂、寂しさ……ツアーで味わった思いが歌詞に重なる

──「生きろ」の歌詞についても聞かせてください。「またひとつ 強くなる 失くしたものの分まで 思いきり笑える その日が来るまで 生きろ」というフレーズは、今の時代に強く響くメッセージだと思いますし、30周年を超えて進んでいくMr.Childrenの姿にも重なります。

曲を書いた時点では、自分たちのことを投影させるというより、「キングダム2」のシナリオに沿っていたんです。ただ、無意識に自分たちの物語だったり、コロナによって失われた時間、その中でやれなかったこと、やり残したこととも重なっていると思います。

──「生きろ」は30周年ツアーのキックオフとして行われたライブ(2022年4月8、9日開催「FATHER&MOTHER Special Prelive エントランスのエントランス」)でも演奏していましたが、手応えはどうでした?

今言ったように、曲を作ってたときは頭の中が「キングダム」一色だったんですけど、ステージで歌うとMr.Childrenの歌になるんだなと思いました。「行く先々で 触れ合う温もり 優しさが苦しくて 幻だと言い聞かせ跳ね返した」という歌詞は、ツアーで味わってきたことに通じてるんですよね。すごい興奮と熱狂の中でライブをやることだったり、終わったあとの寂しさみたいなものと重なって。歌詞を書いているときはそんなことまったく考えてなかったし、「永遠」と同じで、ツアーに出ている自分たちを想像できない状態で作っていたんですけどね。

──ステージで演奏することでしか確かめられないこともある、と。それにしても「生きろ」という題名、すごいインパクトですよね。

ちょっと強いかな?って、迷いはしましたね。ただ、コロナ禍だからこそ、この言葉をタイトルにしたいと思ったんですよね。

──なるほど。モノクロ映像のミュージックビデオも印象的でした。

カッコいいですよね。メンバーを見て、「エターナルズ」みたいだなと思いました(笑)。

ファンとの絆が深まるにつれ、ライブがどんどん好きになった

──ここからはベストアルバム全体のことについて聞きたいと思います。桜井さん、過去の曲を聴き直すことは……。

しないですね、はい(笑)。

──(笑)。Mr.Childrenにとってベストアルバムはどんな位置付けなんですか?

どういう位置付けなんだろうな……。自分たちのベストアルバムはわからないけど、あまり知らないアーティストを調べるとき、まず聴くのはベストアルバムなんですよ。お菓子で言えば、そのメーカーで売ってるおいしいものを集めたアソートみたいな(笑)。

──今回のベストアルバムをきっかけにして、Mr.Childrenの音楽に初めて触れるリスナーもいるかも。

そうですね。あと、どちらのベストにもライブ盤が付いてるので、楽しく聴いてもらえるんじゃないかなと。僕自身は全然楽しく聴けないんだけど(笑)。昔のライブ音源を聴いても、アラとかが気になってしまって。まずスタッフサイドから「こういう選曲でライブアルバムを付けたいので、聴いてみてください」と言われたんです。でも、イントロがあって歌が始まると、ワンコーラスも聴けなくて。どうしてもアラが引っかかるし、「今だったら、こうするのにな」と思っちゃうんですよ。そのうち「これ、本当に喜んでもらえるのかな?」と不安になって、マネージャーに電話しようと思ったんだけど、「いや、もうちょっと考えてみよう」と。例えば尾崎豊さんのライブベストを聴いて、俺は歌のアラなんて気にするか?と問われたら、「全然気にならない。むしろそっちのほうが、感情が込められた特別な歌だ」と思うだろうなって。だけど自分のことはわからないから、マネージャーに「そのあたりはどう?」と聞いてみたら、「(桜井の歌にも)尾崎っぽい感じがあるんじゃないですか?」って言うから、じゃあ、お任せしますと。

──いろいろ逡巡があったんですね。収録されている一番古いライブ音源は1995年の「innocent world」「Dance Dance Dance」ですが、四半世紀以上前のライブ音源でも「今だったらこう歌う」みたいなことを思いますか?

映像も込みだったら「若さゆえにあり余った力が出すぎて、音楽的な歪みを生んでいる」と思うだろうけど、音だけですからね。

──いろんな時期のライブ音源を聴けること自体、すごく貴重だと思います。桜井さんの中で、ライブへのスタンスは変化しているんですか?

昔はそんなにライブが好きではなかったんです。宅録好きの延長みたいな感じで制作活動のほうが好きだったので。この15年くらいですかね。年を重ねるごとにファンの方との絆も深くなって、どんどんライブが好きになって、楽しいと感じるようになって。

──ファンの皆さんの存在が大きい。

大きいですね。ベスト盤のライブ音源が成立してるのも、お客さんの拍手と声があるからだと思うんです。この前のライブのときもそう思ったけど、多少コンディションがよくなくても……よく「お客さんの力を借りてライブをやっています」という人がいて、以前は「嘘だー」と思ってたし、「それはプロとしてダメじゃない?」という気持ちもあったんです。お客さんの力を借りないで、自分たちの力で皆さんにエネルギーを与えるのがプロの仕事だと思っていたので。でも、パリ・サンジェルマンに移籍した(リオネル・)メッシを見てると、あまり調子がよくないんですよ。つまりメッシでさえ、バルセロナというホームにいて、コンフォートゾーンに入ってプレイしてるから、あれだけいいプレイができていたんだなって。僕らもそうで、ファンの人たちが目の前にいて、拍手や力をもらうことでホームの環境ができてるんですよね。そこから相当な力をもらってますね。

ポジティブな決着をつけてもらえたら

──今回のベストアルバム2作には、2011年から2021年までの楽曲も収められています。Mr.Childrenは「足音 ~Be Strong」(「Mr.Children 2011 - 2015」収録)からセルフプロデュースに移行し、ロックバンド然とした生々しい音像が強まりました。この変化をどう捉えていますか?

それまでは小林さんのピアノが中心となったバンドのグルーヴや音像の物語を作っていたんですけど、それがなくなったことで、バンドの骨格が見えてくるのは当然のことで。僕としてもバンドの4人の姿から見えてくる音像を作りたかったんですよね。例えばストーンズ(The Rolling Stones)だったら、キース・リチャーズがギターを弾いて、チャーリー・ワッツが叩いてるから、その音にしびれちゃうわけじゃないですか。つまりバンドメンバーのキャラクターを含めて、バンドの音が成り立っている。自分たちもそうなりかったんですよね。

──なるほど。

そのことがMr.Childrenにとって一番刺激的で価値があることに思えたので。僕も含めてMr.Childrenはテクニカルなバンドではないけども、それでも愛してもらえる音っていうのは、マネできないものだろうなと。たまたまこうでしかありえない4人の音なんだけど、それを大事にしたいんですよね。

──ソングライティングに関してはどうですか? この10年、いろいろな出来事があって、社会は大きく変化しましたが、そのことは桜井さんが書く楽曲にも影響を与えていますか?

いろんなものが関係してますよね。出会った人もそう、起きた出来事もそう、昨日食べたものもそうで。例えば昨日の夜にハンバーグを食べたとして、それは今日の僕の体の一部になる。それは脳にも影響するだろうし、思考や心と呼ばれるものにも影響があると思うんです。食べものだけじゃなくて、見たもの、聞いたもの全部、今日のウクライナの情勢も、それを見聞きした瞬間から僕の思考に影響を及ぼしている。僕の内側を覗けば、すでに僕の一部になっているんですよね。

──最後に、現在行われている全国ツアー「Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀へのエントランス」についてお聞きします。約3年ぶりのツアーですが、どんな思いで臨んでいますか?

こんなにも強く、「このツアーを成功させたい」と思ったことは、いまだかつてないです。コロナによって動けなかった時間を穴埋めしたい、取り戻したいという思いもあるし、僕らだけじゃなくて、音楽業界全体、あとはリスナーの方々も相当に大変な思いをしているはずなんですよ。皆さんにライブに来てもらって、僕らが演奏することで、何か1つでも決着がつけられたらいいなと。

──決着ですか。

うん。「大変な思いをしたけど、こうやってライブに来られた。コロナの時間があったから、なおさら染みる」だったり、「失われた2年間はもう取り戻せないんだから、明日を見て楽しく生きよう」だったり。ライブに足を運んでくれた方が、それぞれポジティブな決着をつけてもらえたらいいなと願ってます。

──もちろんMr.Childrenにとっても、大きな意味を持つツアーですよね。

なんだろうな、やっぱり肉体を鳴らしていくような仕事ですからね。筋力とかだけで言えば年齢とともに落ちていくかもしれないけど、それをどうやって上に引っ張っていくか。このツアーをやり遂げることで、“自分に勝つ”と言えば独りよがりだけど、ミュージシャン、歌い手、パフォーマーとして、さらに高い境地に上っていきたいという気持ちがあって。これを成功させたら、相当な自信になるだろうなという予感がありますね。

──50周年を見据えると、まだ半分過ぎたところですからね。

そうですね。本当に入り口に立ったところというか。50年やるなんて、考えたこともなかったですから。30周年にたどり着いたからこそ、やっと50年を目指せるようになったということですね。

ツアー情報

Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀へのエントランス

  • 2022年4月23日(土)福岡県 福岡 PayPayドーム
  • 2022年4月24日(日)福岡県 福岡 PayPayドーム
  • 2022年5月3日(火・祝)愛知県 バンテリンドーム ナゴヤ
  • 2022年5月4日(水・祝)愛知県 バンテリンドーム ナゴヤ
  • 2022年5月10日(火)東京都 東京ドーム
  • 2022年5月11日(水)東京都 東京ドーム
  • 2022年5月21日(土)大阪府 京セラドーム大阪
  • 2022年5月22日(日)大阪府 京セラドーム大阪
  • 2022年6月11日(土)神奈川県 日産スタジアム
  • 2022年6月12日(日)神奈川県 日産スタジアム
  • 2022年6月18日(土)大阪府 ヤンマースタジアム長居(長居陸上競技場)
  • 2022年6月19日(日)大阪府 ヤンマースタジアム長居(長居陸上競技場)

プロフィール

Mr.Children(ミスターチルドレン)

1989年に結成されたロックバンド。メンバーは桜井和寿(Vo, G)、田原健一(G)、中川敬輔(B)、鈴木英哉(Dr)の4人。1992年5月にミニアルバム「EVERYTHING」でメジャーデビューを果たし、徐々に人気を高めていく。1993年11月発売の4thシングル「CROSS ROAD」がドラマ主題歌に起用されバンドにとって初のミリオンヒットとなる。その後も「innocent world」「Tomorrow never knows」「名もなき詩」「終わりなき旅」といったシングルや、「Atomic Heart」「深海」「BOLERO」「IT'S A WONDERFUL WORLD」「HOME」などのアルバムがミリオンセールスを記録。2018年10月にはアルバム「重力と呼吸」、デビューアルバム「EVERYTHING」から「重力と呼吸」までの全楽曲の歌詞を収録した全曲詩集「Your Song」を発売。2018年10月から2019年2月にかけて台湾・台北アリーナ2DAYSを含むアリーナツアー「Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸」、2019年4月から6月まで5大ドームを含む全国ツアー「Mr.Children Dome Tour 2019 "Against All GRAVITY"」を行った。2020年3月にシングル「Birthday / 君と重ねたモノローグ」、12月にオリジナルアルバム「SOUNDTRACKS」をリリース。2022年4月にはデビュー30周年を記念した全国ツアー「Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀へのエントランス」をスタートさせ、5月にベストアルバム「Mr.Children 2011 - 2015」「Mr.Children 2015 - 2021 & NOW」を同時リリースした。