Mr.Children|リスナーの人生に寄り添うサウンドトラック

大切な曲になる予感

──「Documentary film」もアルバムの軸になる楽曲だと思います。

この曲が最初にできたんですよ。そのときから「これはすごく大事な曲になる」という予感があって。アルバムをどうするかよりも、とにかくこの曲を大事にしたいという気持ちがありましたね、最初は。

──曲を書いたときから、マスタリングが終わるまで、その気持ちは変わらなかった?

いえ、途中で「そうでもない曲かも」と思うこともありました。曲ができたときに「名曲だ」と思うのって、生後半年の赤ちゃんが器用に左足を動かすのを見て、「この子はレフティのすごいサッカー選手になるかもしれない」と思うのと同じだから(笑)。「Documentary film」も制作中に「あれ? つまらない曲なのかな」と思ったり、「いや、やっぱりすごい曲だ」と思い直したり。バンドでレコーディングしてスティーヴ、サイモンと一緒にやることで確信に変わったという感じです。

──曲を書いたときに、「これは大事な曲になる」と感じたのは、どうしてですか?

うーん……。わかりません(笑)。覚えているのは、歌入れしているときに「こうやって歌うと、グッとつかめるな」と感じた瞬間があって。サビの「誰の目にも触れないドキュメンタリーフィルムを」の“ない”のところなんですが、最初はリズムに対してジャストで歌っていたんです。そこを少しタメて歌ったときに、「これでつかめる」という感覚があって。本当にちょっとしたことなんですけど、そこに魔法があったなって、今は思いますね。

──わずかなディテールの変化によって、全体のイメージが大きく変わったと。この曲で歌われているのは、「あらゆるものには終わりがある。だからこそ日々は美しいんだ」という感情だと思いますが……。

若い人にはわからないでしょうね(笑)。毎日、仏壇に手を合わせるような人だと、とってもよくわかると思いますけどね。僕がそうなので。なんて言うのかな、「いずれは自分もそちら側に行くんだな」と意識することで、ちょっとした日常がとても大事だなと思うようになってきたというか。そういう変化はあると思います。

恋愛ドラマを観てもキュンキュンしない

──なるほど。「others」も今だから表現できる楽曲だと思います。男女の関係を描いた曲ですが、ラブソングのあり方も変わってきていますか?

「Mr.Children『Brand new planet』from "MINE"」より。 「Mr.Children『Brand new planet』from "MINE"」より。

そうですね。主人公の設定として、何も問題を抱えていない2人を描くのは難しいのかなと。僕自身、恋愛ドラマや映画を観ても、全然キュンキュンしないですから(笑)。僕以外の人が歌うんだったら喜んでやりますけど、50歳の男が歌うので。

──もう1曲、「The song of praise」について。今の自分が立っている場所、自分自身を肯定することの大切さを描いた歌詞には、この時代に必要なメッセージが詰まっていると思います。

自分自身に向けているところもあるし、自分の子供たちの世代に対する気持ちもありますね。今は、圧倒的なサクセスとか、ハッピーになるための条件を想像しにくい時代なんだろうなと思うし、昭和の時代に僕らが聴いていた「夢に向かって走っていく」ような歌は書きづらい。だけど、「条件が整わないからといって、幸せではないとは言えない」とも思うんです。現状の与えられた状態で、どれだけ自分を充実させられるかは受け取り方次第じゃないかなって。なので子供たちに対して「がんばれよ」という気持ちもあるし、同時に自分に対しては「現状にしっかり満足したうえで、充実させる」という方向にシフトすべきだなとも思っていて。いろんなことに憧れを持ってバンドをやってきたけど、これ以上どうやって憧れを持っていいのかわからないから。それも「The song of praise」の歌詞には出てるんじゃないかな。

──この先Mr.Childrenを続けていくうえで、“さらに上に”というイメージは確かに持ちづらいですよね。

そうですね。そんな欲深い人間にもなりたくないし(笑)。

最高のライブをやりたい

──アルバム「SOUNDTRACKS」を作り上げたことで、Mr.Childrenが得たものとはなんだと思いますか?

バンドのサウンドとして、特に奇抜なことをやっているわけではなくて。装飾を身にまとわなくても「この4人というだけで、Mr.Childrenになるんだ」と感じることができたし、それはすごく自信になりました。あまり自覚はないけど、長く続けていることで自然に醸し出てくるものもあるだろうし、このバンドならではのグルーヴというものがあるのかなと。それは4人に共通した感覚だと思います。

──それこそがバンドの音楽の醍醐味ですよね。特にMr.Childrenは、個性を持ったプレイヤーがそろっているので。

自分たちはそう思っていないかも(笑)。優れたミュージシャンではないからこそ、お互いに補い合って、それがグルーヴにつながっているのかもしれないですね。ただ、次のアルバムも同じようなやり方で作ったら「またか」って思われるだろうから、ずっとこれを続けるわけにもいかないんだけど。

──やはり新しさを求め続ける、と。

僕はそうですね(笑)。飽きられるのが怖いんですよ。だから曲を作るときも仕掛けを考えるし、ライブでも「この曲の2コーラス目あたり、みんな飽きてないかな」と思ってしまったり。ライブの演出、パフォーマンスを過剰にやりすぎてしまう傾向があるのも、それが理由の1つでしょうね。反省を込めて、そう思います。

──新しいアルバムがリリースされれば、当然、ツアーを期待してしまいますが、現状はかなり厳しい状態が続いています。桜井さんはこの状況をどう捉えていますか?

ライブをやりたいという気持ちはすごくあるし、それがなければミュージシャンではないなとも思ってます。状況が整って、「明日からライブができます」と言われたらすぐに対応できるように準備だけはしておきたいですけど、アリーナ規模のツアーはすぐに組めるものではないし、難しいですよね。再来年が30周年なので、そこで満を持して最高のライブをやるんだという気持ちでいますね、今は。

──配信ライブに対する興味は?

ちょこちょこ観てはいますけど、自分たちがやりたいかと言えば、そうじゃないんですよね。リハーサルはやりたいですけどね。

──とにかく演奏したいと。

そうですね。お客さんのことや事務所のスタッフのことはまったく考えてない発想ですけど(笑)。

──ライブはまだ先になりそうですが、それまでは「SOUNDTRACKS」を楽しみたいと思います。今回はアナログレコードも発売されますが、桜井さんは普段、レコードを聴く習慣はありますか?

1年くらい前に環境を整えたんですよ。英会話の先生がレコードコレクターで、やたらとレコードを勧めてくるし(笑)、音楽の会話をするためにもレコードを聴けた方がいいかなと思って。めぼしいレコードを買って聴いてるんですけど、めんどくさいですね(笑)。ボタン1つで聴けたほうがいいです。

──(笑)。最後にもう一つだけ。新しいアーティスト写真、メンバー全員が笑顔なのが印象的で。

写真はスタッフが選ぶので、僕は全然わからないです(笑)。Mr.Childrenがどう見られているのかは、僕ら以上に周りの人たちのほうがわかっていて。50才になった僕らをどんなふうに届けるのがふさわしいのか、音楽をしっかり聴いてもらえるのかを決めるのはスタッフなんですよ。そういえば今回のアーティスト写真を選んだときに、スタッフの1人が「Mr.Children、いつまでもこうあってほしいな」と言ってて。そういうことみたいです(笑)。

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