Mr.Children|リスナーの人生に寄り添うサウンドトラック

Mr.Childrenが12月2日に20作目のオリジナルアルバム「SOUNDTRACKS」をリリースした。

前作「重力と呼吸」以来2年2カ月ぶりのニューアルバムとなる本作には、「映画ドラえもん のび太の新恐竜」主題歌の「Birthday」「君と重ねたモノローグ」、日本テレビ系「ZIP!」テーマソングの「The song of praise」、キリンビール「麒麟特製ストロング」のCMソング「others」、TBS系ドラマ「おカネの切れ目が恋のはじまり」主題歌の「turn over?」、カンテレ・フジテレビ系ドラマ「姉ちゃんの恋人」の主題歌「Brand new planet」などタイアップ曲を含む全10曲を収録。レコーディングはグラミー受賞のエンジニア、スティーヴ・フィッツモーリスを迎えてイギリス・ロンドンのRAK Studios、アメリカ・ロサンゼルスのSunset Soundで行われ、豊かで奥行きのあるバンドサウンドを実現。今現在のMr.Childrenが生々しく表現された作品に仕上がっている。

音楽ナタリーでは、桜井和寿(Vo, G)にインタビュー。「SOUNDTRACKS」の制作を軸に、ソングライティングやサウンドの変化、現在のバンド観、音楽観などについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之

海外レコーディングのきっかけは田原

──ニューアルバム「SOUNDTRACKS」についてじっくり聞きたいと思っています。ドームツアー「Mr.Children Dome Tour 2019 "Against All GRAVITY"」を終えた2019年夏から制作が始まったそうですが、今回のアルバムに向け、当初はどんなビジョンがあったんでしょうか?

「Mr.Children『Brand new planet』from "MINE"」より。 「Mr.Children『Brand new planet』from "MINE"」より。

明確なビジョンはなかったですね。僕が1人でコンピューターの中で作ったデモが何曲かあっただけで、バンドでのデモ音源はなかったので。曲を書いている段階では、どういうアルバムにしたいかというコンセプトもなかったです。ただ、その時点で書いていた曲には、すでに歌詞が付いてたんですよ。これまではバンドでアレンジしたあとで歌詞を付けることが多かったんだけど、今回はデモの段階である程度歌詞もあって。歌はいくつかできていたけど、どういうサウンドにするかというイメージはまったくなかった、という感じだったと思います。

──エンジニアのスティーヴ・フィッツモーリス氏と共に、ロンドン、ロサンゼルスのスタジオでレコーディングするというアイデアは、どのあたりから出てきたんですか?

最初はギターの田原(健一)ですね。「ロンドンで、アナログで録るのはどうだろう?」と。そして「サム・スミスのような温かくてシンプルな音像を作れるエンジニアと一緒にやってみたい」という提案があって。僕としては、どう転んでも、そのアクシデントを楽しみたいという気持ちが強いので「ぜひやってみよう」と言ったんです。Mr.Childrenとして28年やってきて、“目指すところ”みたいなものがなかなか見付けづらくなってるし、外部の要素によってアクシデントやハプニングを常に求めているところがあるんですよね。最初から「全曲やってみよう」ではなくて、まず「Documentary film」「others」を録って、もし合わなかったらそのときに考えればいいと思ってたので、まったく怖さはなくて、逆にワクワクしてましたね。しかも実際にやってみたら、素晴らしい音で録れて。

──「Documentary film」「others」がアルバムの起点になったんですね。サウンドメイクの方向性に関して、スティーヴさんとどんなやり取りがあったんですか?

まずプリプロを日本のスタジオでやって、そこでアレンジを固めて。それをあらかじめスティーヴに送って、バンドで鳴らした音像をより膨らませてくれたり、無駄なところは省いてくれたりして。現地に行ってからは、全部任せてましたね。

バスドラの革が揺れる音

──なるほど。レコーディングの雰囲気のよさは、アルバムの初回限定盤に付いているドキュメンタリー映像(「LIVE & Documentary of SOUNDTRACKS "MINE"」)からも伝わってきました。

人がやってることですからね。現場の空気や人が出しているエネルギー、雰囲気が自然に音に入ってくるんだなって改めて感じました。それは怖いところでもあるんですけど。

──メンバーの皆さんの演奏のニュアンス、歌の表情もしっかり感じられる、すごく生々しい音ですよね。

そうですね。そもそも僕らはバンドなので、音を聴いたときに、「JEN(鈴木英哉)がドラムを叩いてて、中川(敬輔)がベースを弾いていて、ギターは田原が弾いていて」という感じで、4人の顔が浮かぶような音像を常々求めていて。ただ、4人でやれることは限られているし、それだけで作り込もうとすると、どうしてもスケールが小さくなってしまうんです。なのでギターを2本、3本とダビングしたり、音を重ねていくわけですけど、今回はサイモンの力がすごく大きくて。

──ジャミロクワイ、ビョーク、ジョージ・ベンソンなどの楽曲に関わってきたサイモン・ヘイル氏ですね。

桜井和寿(Vo, G)

はい。バンドはいたってシンプルなことをやっていて、あとはサイモンが弦、ブラスのアレンジでダイナミクスを作ってくれたり、よりロマンティックに響かせてくれて。そのバランスが絶妙だったんですよ。これがもし、今までのようなバンドの音で録ってたら、やたら弦がフィーチャーされたゴージャスな音に聞こえてしまったと思うんですよね。スティーヴが僕ら4人の音を生々しく録ってくれて、それが骨格になっているから、これだけふんだんに弦を使ってもバンド感を損なわずに済んだんじゃないかと。肌ざわりまで感じられる音だし、バスドラの革が揺れてる音がするというか(笑)、演奏している場面が目に浮かびますからね。

──サイモン氏が手がけた弦のアレンジも、このアルバムの魅力ですよね。

本当にすごいです。涙が出るくらい。デモ音源の中で鳴っている弦の編成、ラインを入れていて、それをサイモンが膨らませてくれたり、曲によってはイメージを遥かに超えるニュアンス、和音の響きを加えてくれて。ショックに感じるくらいよかったですね。「サイモンが弦を重ねてくれたら、どんなメロディでも感動しちゃうんじゃないか?」という悔しさもありました。

──「memories」のアレンジは、サイモン氏のピアノに合わせて、桜井さんが実際にメロディを歌いながら作り上げたそうですね。

「memories」はクリックをまったく聴かないで、まずはピアノと僕だけでレコーディングしたんです。それに対して弦を合わせていくレコーディング方法だったので、事前のコミュニケーションがすごく大事だったんですよね。

──レコーディングのスタイルとしてはかなりオーソドックスなやり方だと思いますが、「バンド本来の音とは、こういうものだ」と提示したい気持ちもあったのでは?

いや、僕の中ではそんな頑固な思いはなかったですけどね(笑)。田原とかは、そういう気質がありますけど、僕は全然。例えば自分でギターを弾いたとして、1番と2番が同じコードだったら、最初に弾いたテイクを2番にコピー&ペーストしても平気なんです(笑)。合理的な人間なんでしょうね、僕は。