MOTORWORKS|石田ショーキチと田村明浩が振り返る、黒沢健一と生きた日々

「このバンドでは何やってもいいんだ」と思って、普段よりリミッターが外れてた

──石田さんと健一さん、それぞれの作風の違いはどんなところにありましたか?

石田 健一の楽曲って、すごく奇妙な転調を自分で意識せずにしていることが多かった。僕も転調は多用するほうなんですけど、わりとセオリー通りのことしかやらないので、健一の曲にはよく驚かされましたね。

田村 AメロとBメロで、まったく違う曲になったんじゃないか?っていうくらい変化したりするからね。

左から石田ショーキチ(G, Vo)、田村明浩(B)。

石田 そう。あまりにもチグハグだから(笑)、僕がCメロを書き直して多少辻褄を合わせたこともある。ただそれも、作曲は黒沢健一とクレジットされているから、どれが共作で、どれが1人で作ったかの境目も、今となっては曖昧になってるな。

田村 「曲作り合宿」とかもやってたよね?

石田 合宿と言っても、ビール飲みながらダラダラやってただけなんだけどね。

──オリジナル曲を作るにあたって、当時の音楽シーンをどのくらい意識してました?

石田 ちょうどその頃って、ASIAN KUNG-FU GENERATIONなんかが四つ打ちのダンサブルなギターロックをやり始めて盛り上がって来た時代だったと思うんですけど、そんな中で僕らはあまり時流を意識することなく、大好きだった1960~70年代の、今で言うビンテージロックに影響を受けた曲を、デカい音で演奏すればパワーポップになるんじゃないか、みたいな。そのくらいの認識だったかな。

田村 だから、策略的なことは何も考えてなかったんですよ。いくらでも策略的なことができそうなメンバーが集まってたのだけど(笑)、MOTORWORKSではほんと純粋に音楽に向き合ってた。だから全然売れなかったんだろうな(笑)。

──(笑)。今おっしゃっていたシーンの話ですが、1960年代のサイケデリアを現代的な感覚で鳴らすMOTORWORKSの音楽は、2000年代のUSオルタナと言うよりは、例えば1990年代のUKロック、つまりマッドチェスターやシューゲイザー、ブリットポップなどに近いのかなと思うんです。それって90年代リバイバルが進んでいる今の耳で聞くと非常に新鮮なんですよね。

田村 確かにそうかもね。

──ほかの曲も、下敷きになっている初期Deep PurpleやLed Zeppelinっぽさが、The CharlatansやThe Stone Rosesを経由して鳴らされていると言うか。今度リリースされるDVDを観ると、Spiral Life時代の曲「Dance To God」も演奏しているのですが、それがもろマッドチェスター的なアレンジで(笑)、後半はビートルズの「Tomorrow Never Knows」的な展開へと雪崩れ込んでいくんですよね。

石田 僕も当時はもちろん、そのあたりのシーンを意識しながら曲を作っていたのは間違いないです。ただ、最近になってひさしぶりにMOTORWORKSのアルバムを聴いてみたら、なんと言うか「Cheap TrickとThe Raspberriesの延長線上にあるようなバンド」っていう印象だった。UKサイケと言うよりはUSパワーポップみたいな。

左から石田ショーキチ(G, Vo)、田村明浩(B)。

田村 結局USのパワーポップって、60~70年代のUKロックに憧れていたアメリカ人が、真似してやってみたらこうなっちゃった、みたいなところあるじゃない?(笑) 僕たちだって同じで、「The Whoみたいなことがやりたい」と思って憧れて音を出すんだけど、そこにショーキチのメタル魂やグランジ魂も入っていたりして全然違うものになっていくという(笑)。

石田 そうだね。僕自身、「このバンドでは何やってもいいんだ」と思って、普段よりリミッターが外れてたところはあるかもしれない。

田村 そうやって、メンバーそれぞれの持ち味が融合し、結果的にMOTORWORKSでしか出せないサウンドになっていたところが楽しかったんだよね。僕で言えば、スピッツももう長年やってきて、自分の立ち位置みたいなものも見えてきて。それはそれで不満はまったくないし、楽しんでやってきてたんだけど、MOTORWORKSをやってみることで、「あ、俺ってこんなベースを弾くんだ」という驚きもあったし、自由にもなれたと言うか。

──それがスピッツの音楽性にフィードバックされることもあった?

田村 あったと思う。石田くんの転調の仕方とか、そこからの戻り方とか参考にしたことあるし(笑)。

そろそろ健一を呼んで曲でも作ろうかと思ったら、だんだんあいつの体調が悪くなって

──そんなMOTORWORKSですが、最近リイシューされた1stアルバム(2004年発売の「BRAND-NEW MOTORWORKS」。収録曲を増やして「MOTORWORKS ~COMPLETE BEST~」として再発)1枚と、今回再発されたライブDVD(「BRAND-NEW MOTOR SHOW」)を出した直後に、活動休止状態になってしまいました。

石田 あれだけ忙しい連中が、2年近くの間スケジュールを合わせながら活動を続けていたこと自体が奇跡的だったんですよね。最初のうちは「ちょっとくらい無理してでもやろう」っていう情熱もあっただろうし。で、1年近くやるだけやってひと段落したとき、「じゃあまた、いつでもやれるし集まれるときにまたやろう」みたいな感じに自然となっていったと言うか。だから、解散したつもりも活動休止したつもりも、そのときはなかった。

田村 ただ、そこからが長かったね(笑)。

石田 田村くんから毎年送られてくる年賀状には「今年こそMOTORWORKSやろう」って書いてあった(笑)。ホリくんが2006年暮れに田舎に帰って、それで動けなくなったのも大きかったんですよね。

──2014年、ドラマーにウルフルズのサンコンJr.さんを迎えて再始動するまでの経緯は?

左から石田ショーキチ(G, Vo)、田村明浩(B)。

石田 5年くらい前かな。サンコンが町田に引っ越してきて。最初、サンコンは健一の弟の秀樹に紹介されて、それで会って意気投合したんです。MOTORWORKSの活動にも興味を持ってくれたので、「じゃあ一緒にやりましょうか」ってなったのが2013年くらいだったかな。ただ、ちょうどウルフルズの再結成と、僕らMOTORWORKSの再結成の年が重なっちゃって、告知のタイミングやスケジュールを調整するのがけっこう大変だったのは覚えてる(笑)。サンコンが一番気を揉んだと思うけど。

──サンコンさんを加えた新体制になってライブを5公演行っていますが、レコーディングに入ることはなかった?

石田 結局、一度もなかった。レコーディングに入るつもりで予算も用意し、そろそろ健一を家に呼んで曲でも作ろうかなと思って声をかけたんですよ。「レコーディング合宿がてら、家に来るかい?」って。でも、だんだんあいつの体調が悪くなり、「ちょっと今週調子悪いから、また来週にでも」みたいなやり取りが続いて。そうこうしているうちに入院したり検査したりで、結局何もできなくなってしまった。

田村 その年の11月のBillboard Liveはやったんだよね。

石田 あのライブをやったのは、「調子はよくないし体力的に自信もないけど、ライブの勘は失いたくない」「コンパクトにできて、場数を踏めるライブのパッケージを考えてほしい」と健一に言われたから。ちょうどそのタイミングでBillboard Liveから声がかかったんです。東京と大阪で2公演ずつ、移動が1度で4ステージ踏めるから、健一にはちょうどよかったんですよね。健一本人も、翌年の「黒沢健一 with KACTUS」名義のライブをBillboard Liveでやっていたから、よほど気に入っていたんだなと。

MOTORWORKS「BRAND-NEW MOTOR SHOW」
2017年12月6日発売 / ドリーミュージック
MOTORWORKS「BRAND-NEW MOTOR SHOW」初回限定盤

初回限定盤 [DVD]
特製オリジナル発泡プリントTシャツ付き
7560円 / MUBD-1080

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MOTORWORKS「BRAND-NEW MOTOR SHOW」通常盤

通常盤 [DVD]
4860円 / MUBD-1081

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収録内容

DOCUMENT SHOW:MOTORWORKS結成からのメンバー個々のインタビュー、レコーディング、撮影風景、全国ツアーのステージやオフショットなど秘蔵映像満載で綴る"1st period of MOTORWORKS"(65分)

LIVE SHOW:ツアー"BRAND-NEW MOTOR-SHOW" 東京公演2004年12月18日のSHIBUYA-AXの模様を収録(74分)

MOTORWORKS「MOTORWORKS ~COMPLETE BEST~」
2017年4月26日発売 / ドリーミュージック
MOTORWORKS「MOTORWORKS ~COMPLETE BEST~」

[CD2枚組]
3500円 / MUCD-1385

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Disc 1
  1. The Slide
  2. World One Sign
  3. ステレオ・ラヴ
  4. 氷の空
  5. Missing Piece
  6. F・A・T・M・L
  7. SPEEDER
  8. (A Place Where)Love Goes Withered
  9. コスモゼロ
  10. SATURDAY NIGHT
  11. The End
Disc 2
  1. (Love Is Like A)Heat Wave
  2. SPEEDER-English ver.-
  3. Reach Out I'll Be There
  4. Missing Piece-Unplugged Ensemble-
  5. 1-2-3-4 MOTORWAY
  6. プラスティック・ソング-Synthsizd Remix-
MOTORWORKS(モーターワークス)
MOTORWORKS
石田ショーキチ(G, Vo / SCUDELIA ELECTRO)、黒沢健一(Vo, G / L⇔R)、田村明浩(B / スピッツ)、堀宣良(Dr / ex. modern gray)が趣味のサークル的な感覚で2003年頃に始めたロックバンド。2004年に「SPEEDER」「Missing Piece」という2枚のシングルとアルバム「BRAND-NEW MOTOR WORKS」を発表し、全国ツアーを行った。翌2005年もライブDVD「BRAND-NEW MOTOR SHOW」とシングル「1-2-3-4 MOTORWAY」をリリースするも、個々の本業が忙しさを増したことにより活動を停止。2014年にサンコンJr.(Dr / ウルフルズ)を迎えて再始動し、ライブを5公演行うが、黒沢が闘病生活に入ってしまう。2016年12月に黒沢は脳腫瘍のため他界。2017年4月にアルバム「BRAND-NEW MOTORWORKS」のリマスター盤が発売され、12月にDVD「BRAND-NEW MOTOR SHOW」が再発された。