昨年12月5日に脳腫瘍のため亡くなった黒沢健一(L⇔R)と石田ショーキチ(Spiral Life、SCUDELIA ELECTRO)を中心に、田村明浩(スピッツ)、ホリノブヨシ(ex. modern gray)により結成されたバンド・MOTORWORKSが、活動中に唯一残したライブDVD「BRAND-NEW MOTOR SHOW」の再発盤を黒沢の一周忌に合わせて12月6日にリリースした。
本作は、2005年12月に行われた東京・SHIBUYA-AXでのライブを中心に、メンバー個々のインタビューやレコーディング風景、ツアーのオフショットなどを収録した映像集である。1960~70年代ロックからの影響をダイレクトに受けながら、それを現在進行形のロックンロールとして演奏する様子は貫禄たっぷりで、黒沢&石田による美しいメロディと共に、今も色褪せぬ輝きを放っている。今回音楽ナタリーでは、石田と田村の2人に、MOTORWORKS結成秘話から盟友・黒沢への思いまで語り尽くしてもらった。
取材・文 / 黒田隆憲 撮影 / 草場雄介
放課後のサークル活動みたいな気分だった
──もともとMOTORWORKSは、石田さんと黒沢さんで始めたバンドだったんですよね?
石田ショーキチ(G, Vo) そう。2003年頃だったかな、当時僕はSCUDELIA ELECTROというバンドをやっていて、結果的にそのグループのラストアルバムとなった「ELECTROCKS」を作り終えた直後に、ちょっといろいろと疲れてしまって。
──と言うのは?
石田 SCUDELIA ELECTROって特殊なバンドで、エンジニアがメンバーにいるし、バンドと言うよりプロデューサーチームだったんです。実際、複数のアーティストのプロデュースなども手がけていましたし。で、気付けば僕は、レコーディングするときの予算の管理やスケジュール調整などもするようになっていた。プロデューサーの仕事だからね。ところがメンバーは、僕も含めてみんなサウンドプロダクションに対するこだわりが非常に強くて。「あのスタジオの、あのピアノが使えなければ困る」みたいな話になり、しかし実際にお金をかけてそのスタジオを押さえたとしても、目当てのピアノを結局使わなかったとか。そんな感じで制作費の節減を考えないメンバーと、なるべくお金はかけたくないメーカーとの間に立って、予算の管理やらスケジュール調整やらしなければならない僕は、メチャクチャ大変な立場にあったんです。
──音楽以外のことで、煩わしい思いをすることが多かったんですね。
石田 気が付いたら「音楽ってこんなにつまらなかったっけ?」とまで思うようになってしまって。「こうなったらもう、コピーバンドでも結成して、自分が子供の頃に好きだった音楽を好きなように演奏したいなあ」と。そんなことを(黒沢)健一に話したら、彼も「やろうやろう」って言ってくれて。で、当時SCUDELIA ELECTROでサポートドラムをしてくれていたホリノブヨシくんにも声をかけた。ホリくんは、デビューする前に一緒にバンドをやっていた古い付き合いなんですよ。3人で仲よく、僕が住んでいる町田のホルモン焼き屋で飲んでいたら話が進んで「ベースを誰にしようか?」と言うことになり、「田村くんを誘ってみようぜ」と。
──石田さんは、スピッツ通算9作目のアルバム「ハヤブサ」をプロデュースしていますが(2000年リリース)、そもそもお二人は、いつ頃から交流があったんですか?
田村明浩(B) 当時スピッツはポリドールにいたんですが、ディレクターの竹内(修)さんが担当していたrosyというガールズバンドがいて、プロデューサーは石田くんだったんだよね?
石田 そう。それで、僕がrosyの一行を引き連れて、竹内さんとスピッツのレコーディング現場に挨拶に行ったのが最初だった。まあ、その前にもスタジオではすれ違っていたんだよね。Spiral LifeとL⇔Rとスピッツはよく同じスタジオを使っていたから。そんな感じで田村くんと交流はあったのだけど、いざバンドに誘うってなったときは、「でも、あんな忙しい彼がやってくれるかなあ」って黒沢と話していて。「これはちょっと作戦を立てるべきだ」と。「まずは彼の好きそうなオリジナル曲を作って、それを聴かせてやる気になってもらおう」ってことになった。
──それが「Speeder」という曲ですね。
石田 そう。まんまと乗ってきた(笑)。
田村 聴いた瞬間に即決でしたね。「これは俺がやるしかないだろ」と。石田くんと健ちゃんが作るんだったら好みのサウンドなのは間違いないし、ツインボーカルっていうのにも魅力を感じたんですよ。今までやったことがなかったから。もちろん、人間的にもみんな気心の知れた人たちばかりだったし、楽しいに違いないじゃないですか。ただ、蓋を開けてみたらカバーばっかりやってるから、「あのオリジナル曲はなんだったんだ?」って思ったけど。
石田 (笑)。代々木にあるリハーサルスタジオに入って、ビール飲みながらThe BeatlesやThe Who、Led Zeppelinなどのカバーをしてたね。放課後のサークル活動みたいな気分だった。スタジオ代は割り勘だったしね。
出てきたアイデアをこのバンドで仕上げていくのが楽しくて仕方なかった
──人前で演奏したのはいつが最初ですか?
石田 それが実は、SCUDELIA ELECTROのライブのアンコールだったんですよ(笑)。そのときちょうど、健一も田村くんもライブを観に来てくれてたから、ダブルアンコールで「出ちゃえ出ちゃえ!」ってなって。確かビートルズの「Come Together」と、The Kinksの「You Really Got Me」をやったのは覚えてる。
──お客さん、ビックリしたでしょうね(笑)。
石田 「なんだこれは?」って感じでしたよ。ただ、「バンド結成しました」とかひと言も言ってなかったし、やった曲はカバーだったからね。たまたま2人が遊びに来ていて、セッション的な感じでやることになったと思ったんじゃないかな。バンド名もなかったし。
──じゃあ、バンド名を付けてオリジナル曲を本格的にやることになったのは?
石田 2004年の初めくらいに、「レコードを出さないか?」というお誘いを受けてからですね。結成してしばらくはただただ楽しく遊んでいただけだったんですけど、さっき話したディレクターの竹内さんが、ドリーミュージック内にTeenage Symphonyというレーベルを立ち上げて。そこのショーケース的なイベントに「出ないか?」という話がまずあったのかな。まあ、それでオリジナル曲が必要になって。
田村 必要に迫られてと言うか。「それに、ライブやるならバンド名が必要だろう」ということで、やっと名前を考え始めたりして。ほんと、流れに身を任せてっていう感じだった。
──ただ、せっかく“お遊びバンド”として始めたものが、また“仕事”になってしまうことへのためらいはありませんでした?
石田 うーん、それはなかったかな。このメンバーでやっていくのであれば、そこは大丈夫だろうって思っていましたね。
──楽曲はどんなふうに作っていったのでしょうか。
石田 いろんなパターンがあったよね。健ちゃんがラフに作ってきたデモを、みんなでいじりながら仕上げていくこともあったし、スタジオでイチからセッションで組み立てたこともあった。例えば、「自分の中の、こういうルーツを前面に出して、こういうサウンドにしていこう」とか、コンセプトめいたことはまったく考えず、ただ出てきたアイデアをこのバンドで仕上げていくのが、とにかく楽しくて仕方なかった。だから、最初に田村くんに聞かせた「Speeder」以外、そんなに作り込んだデモを用意した記憶は、このバンドではないんだよな。
田村 そっか、そうだったね。
石田 1人でデモを作り込んだりするのは、当時はもう本当にこりごりだったから(笑)。適当にコードとメロディだけ考えたものをスタジオに持ち込み、100円ショップで買ってきたホワイトボードを2枚つなぎ合わせて壁に貼ってね。そこにコード進行や構成を書き込んで、それを見ながら演奏したりね。
- MOTORWORKS「BRAND-NEW MOTOR SHOW」
- 2017年12月6日発売 / ドリーミュージック
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初回限定盤 [DVD]
特製オリジナル発泡プリントTシャツ付き
7560円 / MUBD-1080 -
通常盤 [DVD]
4860円 / MUBD-1081
- 収録内容
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DOCUMENT SHOW:MOTORWORKS結成からのメンバー個々のインタビュー、レコーディング、撮影風景、全国ツアーのステージやオフショットなど秘蔵映像満載で綴る"1st period of MOTORWORKS"(65分)
LIVE SHOW:ツアー"BRAND-NEW MOTOR-SHOW" 東京公演2004年12月18日のSHIBUYA-AXの模様を収録(74分)
- MOTORWORKS「MOTORWORKS ~COMPLETE BEST~」
- 2017年4月26日発売 / ドリーミュージック
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[CD2枚組]
3500円 / MUCD-1385
- Disc 1
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- The Slide
- World One Sign
- ステレオ・ラヴ
- 氷の空
- Missing Piece
- F・A・T・M・L
- SPEEDER
- (A Place Where)Love Goes Withered
- コスモゼロ
- SATURDAY NIGHT
- The End
- Disc 2
-
- (Love Is Like A)Heat Wave
- SPEEDER-English ver.-
- Reach Out I'll Be There
- Missing Piece-Unplugged Ensemble-
- 1-2-3-4 MOTORWAY
- プラスティック・ソング-Synthsizd Remix-
- MOTORWORKS(モーターワークス)
- 石田ショーキチ(G, Vo / SCUDELIA ELECTRO)、黒沢健一(Vo, G / L⇔R)、田村明浩(B / スピッツ)、堀宣良(Dr / ex. modern gray)が趣味のサークル的な感覚で2003年頃に始めたロックバンド。2004年に「SPEEDER」「Missing Piece」という2枚のシングルとアルバム「BRAND-NEW MOTOR WORKS」を発表し、全国ツアーを行った。翌2005年もライブDVD「BRAND-NEW MOTOR SHOW」とシングル「1-2-3-4 MOTORWAY」をリリースするも、個々の本業が忙しさを増したことにより活動を停止。2014年にサンコンJr.(Dr / ウルフルズ)を迎えて再始動し、ライブを5公演行うが、黒沢が闘病生活に入ってしまう。2016年12月に黒沢は脳腫瘍のため他界。2017年4月にアルバム「BRAND-NEW MOTORWORKS」のリマスター盤が発売され、12月にDVD「BRAND-NEW MOTOR SHOW」が再発された。