MOROHA「MOROHA V」インタビュー|アフロとUKが2人きりで歩んだ15年、“MOROHA”という音楽の広がりと今後の展望

今年で結成15周年を迎えたMOROHAが、6月7日にニューアルバム「MOROHA V」をリリースした。

困窮を極めるライブハウスに会場費を先払いするための試みとして、2020年に全国ツアー「日程未定、開催確定TOUR」を企画し、2022年にはキャリア初となる東京・日本武道館での単独公演を開催するなど、コロナ禍においても精力的な活動を続けてきたMOROHA。近年はランジャタイ、蛙亭、ニューヨーク、金属バットなどのお笑い芸人をゲストに迎えたツーマンツアー「無敵のダブルスツアー」の開催や、バラエティ番組への出演などフィールドの垣根を越えて活躍している。

彼らにとって4年ぶりとなるオリジナルアルバム「MOROHA V」には、新型コロナウイルス感染拡大に伴う生活の変化や葛藤について歌った「主題歌」、アフロ(MC)が自身の家庭環境について生々しくつづったミッドナンバー「ネクター」、彼らが活動の中で感じた悔しさや現状を曲にする「文銭」シリーズのラストを飾る「六文銭」など全14曲が収録されている。音楽ナタリーではアフロとUK(G)の2人に、「MOROHA V」の制作エピソードや、15年の活動を経て広がったMOROHAの音楽、今後の展望について話を聞いた。

取材・文 / 秦野邦彦撮影 / 森好弘

お笑い芸人との競演で得たもの

──先日お二人が出演されたテレビ朝日の番組「ランジャタイのがんばれ地上波!」の「2代目MOROHA選手権」、最高でした! 特にヤマゲン(ネコニスズ)さんのラップは感動しました。

アフロ(MC) お! ホントですか?

──「MOROHAはただのアーティストじゃない、ロック、ヒップホップ、MOROHAみたいに音楽界で1つのジャンルになっている。誰かがMOROHAという音楽を引き継いで残していかないといけない」という前口上に始まり、出演者、番組スタッフのMOROHAへの理解度と愛情が素晴らしかったです。

アフロ 以前「ゴッドタン」(テレビ東京)の「マジ歌選手権」で蛙亭のイワクラさんがMOROHAの名前を出してくれたんですけど、みんな俺らのことを知らないから変な間が生まれちゃったんですよ。俺はイワクラさんがMOROHAのことをすごく好きでいてくれているのを理解しているので、そういう人に損させちゃった自分たちの知名度のなさをすごく恨んだ。だから今回は俺たちを知ってる前提で番組が作られていること自体がまずうれしかったです。

MOROHA

MOROHA

──なるほど。

アフロ ランジャタイの国ちゃん(国崎和也)が同い年で、去年のツーマンで一緒にステージを分け合ったあと仲よくなり、「また一緒に仕事できたらいいね」と話したところから今回のオファーをもらったんです。「2代目MOROHA選手権」って、出演者に愛情がないと自分たちが真剣にやってることをパロディにされる可能性もあるじゃないですか。でも、MOROHAのがんばりみたいなものをスタッフさんに理解してもらえてたから、俺らもその仕事を受け入れることができた。番組が放送されて、こうして感想をもらえるっていうのもひっくるめて、出演してよかったですね。

──UKさんがアフロさん以外の人の隣でギターを弾く姿も珍しかったです。

UK(G) 確かに。人前ではあまりないですね。

アフロ いい現場だったよね?

UK 収録もすごく楽しくて、よかったっす。

──昨年開催の「無敵のダブルスツアー」で得たものは大きかったんじゃないですか?(参照:MOROHAが2年ぶり新曲発表!新規ツアーに金属バット、蛙亭、ニューヨーク、オズワルド、ラランドら

アフロ 大きかったですね。芸人さん、俺たち、芸人さんというタイムテーブルでやったんですけど、芸人さんが緩和させてくれたところを自分たちがギュッと締めて、最後また緩和していくっていう、心の動きの振れ幅がすごく大きい構成だったから、お互いすごくいい相乗効果があったんじゃないかなと思います。それが自分たちだけでできるようになったらもっと強いだろうなっていうのは、あのツアーで感じたところです。そういう思いが周りに伝わったのか、バラエティだったり、テレビでしゃべらせてもらう機会が増えてきたので、意図的にこうなりたいと思う方向に道が開けてる感じがします。

──そもそも、あのツアーはどんな意図で開催しようと思ったんですか?

アフロ バンドとのツーマンはたくさんやってきていて。前は名も知られてないMOROHAが有名な人たちに挑戦状を出して、受けてもらえて、さあやるぞとなったら、みんなジャイアントキリングを期待してワクワクしてくれてたと思うんです。でも俺らも15年がんばってきたから、お客さんがもうあんまりドキドキしてない感じがあって。それは俺らが上がってこれた証明でもあるんだけど、改めてみんなが驚くようなことをしたかった。あとは今回のアルバムにも入っている「チャンプロード」という曲に「無敵のダブルスなめんじゃねぇ」というラインが出てくるんですけど、このフレーズは芸人さんとのツアーにぴったりだなと思って。

──金属バットが出演した「チャンプロード」のミュージックビデオもグッときました。

UK どんなことをやっていても根っこの部分はみんな一緒だと思うんです。言葉にすると安っぽいですけど、「一生懸命やろうね」みたいな。表現する手段が違うだけで、それが笑いだったり、音楽だったり。そういう者同士が集まって、1つのステージを作るっていうのが尊いんじゃないかなって。なので今後もいろんな人と同じ現場を別の表現方法で共有できるといいなと思っています。

5回目のハイタッチ

──ニューアルバム「MOROHA V」はアニバーサリーイヤーにふさわしい、MOROHAの15年の重みを感じる曲がそろいました。これまでは3年ごとにアルバムをリリースしてきましたが、今回4年ぶりになったのは?

アフロ 単純に曲ができなかったからです! 4年で10曲しかできてないって「何してんの?」という感じですよね。俺ら的にも早いほうがいいに越したことないんですけど、一番よくないのは曲のクオリティを下げることなので。そうならないように作ってたら、単純に4年かかっちゃった。タイミングよく15周年だったから、「じゃあそこに合わせたってことにしようぜ」って腕組みしてるのが(ジャケットを指差して)これです。すべて計算通りみたいな顔して、大嘘ぶっこいてます。

「MOROHA V」ジャケット

「MOROHA V」ジャケット

──盟友・エリザベス宮地さん撮影のジャケット写真、いい表情されてますよね。ちなみにアルバムの最後のピースになったのはどの曲ですか?

アフロ 「命の不始末」だけど、それが最後のピースという感覚もなかったですね。とにかく10曲できたら出すという感じなので「あ、これで10曲じゃない?」「ホントだ! アルバム出せんじゃん!」みたいな。そのときだけだよな? 俺たちがハイタッチするの。

UK そうそう。今回で5回目だね(笑)。

15年走り続けてきたMOROHAにとってのコロナ禍

──MOROHAはコロナ禍が始まって間もない2020年3月に「COVID-19」「スコールアンドレスポンス」という楽曲を配信リリースしたり、4月には全国20カ所のライブハウスに会場費を先払いするために企画した全国ツアー「日程未定、開催確定TOUR」のスケジュールを発表するなど、ファンや現場のために精力的に動かれましたね。

アフロ 東日本大震災のときにできなかったことをやった感覚はあります。俺がTOSHI-LOW(BRAHMAN、OAU)さんや細美武士(the HIATUS、MONOEYES、ELLEGARDEN)さん、「東北ライブハウス大作戦」(東日本大震災の被災地にライブハウスを建設するプロジェクト)の人たちに対して思うのは、それをちゃんとカッコいい見せ方で求心力に変えながら自分たちのバンド活動の肥やしにしている。あえてドライな言い方をすると、ビジネス的にもちゃんと意味のあるものにしたっていうところまで見せてくれたことがすごく素敵だと思うんです。ありがたいなって。だから俺らもこれは誰かのためと言って動いてたけど、きっと自分たちの今後の糧に変わっていくという気持ちでやれたし、それは先人のおかげですね。

アフロ

アフロ

──制作面に関して、コロナ禍の3年間でどんなことを話し合いましたか?

アフロ 「休める!」って感じだったね?

UK うん。

アフロ 自分たちだけ休むのって嫌な気持ちになるじゃないですか? でもコロナ禍では「みんな止まってるから、どうとでも休めんじゃん」みたいな。俺がフィーチャリングで参加した、あらかじめ決められた恋人たちの「日々」という曲は、まさに「ほっとした。ようやく大手を振って休めるときが来た」ということを歌ってますね。UKは休み切った感あった? で、飽きて作り始めた? そんなこともない?

UK そんなこともないかな。僕はあの日々をすごく有意義な時間だったなと思ってるんですけど、休むという目線で見たら「一生このままがいいな」と思いましたね(笑)。このまま家でできることだけして、のらりくらりできるんだったら……って。

UK

UK

──15年間、ずっと走り続けてきた2人ですから。

UK 俺らがというより、「休みたい」みたいな誰もが持ってる思いって、自分の甘い面をまじまじと見るきっかけになるじゃないですか。緊急事態宣言で仕事ができない状況に直面して、自分のそういう部分と向き合ったときに、休んでる自分とか甘えてる自分が素敵だなって思えたというのが一番かもしれないです。お金をいっぱい貯めて隠居する人、いるじゃないですか。ああいうプチ隠居みたいなことの擬似体験ができた感じですね。

──今回のアルバムは、ともすればコロナ禍の記録のようなアルバムになるかもと思っていましたが……。

アフロ 直接触れているのは「主題歌」だけですね。この曲が生まれてよかったです。これがなかったら抜け落ちてる感じがするので。コロナ禍も逆境でしたけど、ぶっちゃけコロナ前も普通に逆境はあったし、みんなそれぞれ心の中は同じぐらい追い詰められてる状況だったと思うんです。で、俺が俺の逆境を歌うことで、そういう人たちは状況は違うけど自分をダブらせてMOROHAを聴いてくれてる。この構図はコロナ禍に入っても一緒で。立ってる場所は違うけど、目の前のものに対して同じようにあがいてる。で、あがいてる様を音楽に乗せる。そうするとお客がそれに自分を重ねて、ちょっと心が自由になったり、癒されたり、奮い立たされたりする。コロナ禍を意識してないのに当てはまる楽曲がたくさんあるのかな。「スコールアンドレスポンス」だって、もともとコロナ禍に入る前からあった曲だし。「これぴったりじゃん。今出そうぜ」って、それぐらいいつだって逆境に向かって歌ってたので。

2023年6月8日更新