ガチでいいですか?
──埼玉・東武動物公園でのMVの撮影はいかがでしたか?
佐藤 6月末の梅雨時だったので雨に降られないか不安だったんですけど、この日だけ奇跡的にピーカンで、逆に暑すぎるくらいでした。サーカスの団員に「2FACE」というお腹に顔が書いてあるキャラクターがいるんですが、お昼に彼の登場シーンを撮ったあと、夕方に森山さんが団員たちに説教する場面を「2FACE」のお腹の顔を描き替えてから撮ったんですけど、「2FACE」のお腹が日焼けしすぎて昼間の顔の跡が残っちゃってるんです。
兼近 (MVを観ながら)これ日焼けの跡なんすね(笑)。
森山 そう(笑)。それぐらい天気には恵まれましたね。悪天候でもスタッフ含めこの作品に関わるすべての人を再び集めて撮り直しするのは難しいと思っていたので、あの日の撮影はけっこうギャンブルだったんじゃないかな。あと、普通こういう場所で撮影する場合、施設を貸切にするか営業時間外に撮らせてもらうかなんだけど、「こういう状況なので通常営業時もお客さんが少ないから貸切じゃなくてもいいですよ」と言われたんですよね。
佐藤 なので、普通に一般のお客さんが近くにいる状態で撮影しました。本番中も「これは園内のイベントなのかな?」という感じで、お客さんが団員たちの曲芸を見ていたりして。
兼近 へー!
佐藤 限られた予算内で仕上げるためにプロデューサー含め制作陣ががんばってくれて、後半登場する大砲も手作りしました。演者の中にもスタッフがいたりしますし。
森山 「BALOON MAN」ね。
佐藤 スタッフの1人に「BALOON MAN」をやってもらったんですけど、バルーンの中に入るのって実はすごい技術が必要で。しぼんでいる状態のバルーンの中に入って、空気を入れている間に内側から穴を開けてそこから顔を出すという難易度の高いことを彼はやってのけました。
森山 でも6つ持ってきた風船、5つ割ったよね(笑)。
佐藤 最後の1つでなんとか撮り終えましたね。あと印象的だったのは、森山さんが「マリー」という女性のキャラクターにビンタされるシーンでちょっとイラっとしてたこと。
森山 あのシーンは角度でそう見せる技術的な撮り方をするのかなと思っていたら、監督が「ビンタ、ガチでいいですか?」って言ってきて。
兼近 あれ、思いっきり頬に当たってますよね?
森山 そう、でもそれは全然怒ってないの。気合いを感じたし。ただ、マリーも俺もそういうシーンに慣れてないから思いっきり彼女の掌底が入って、俺、本当に倒れたのね。そしたら監督が「すみません、撮れてませんでした」って。その都合で2発ビンタ入れられてます(笑)。
佐藤 アングルから外れちゃったんです。勢いありすぎて。
兼近 あははは(笑)。でも見てわかりますよ。これちゃんと当たってるなと。
新しい世界が広がる
──MVには森山さんのバンドメンバーも「TACT」「JOHNNY」「HARUKA」「DAISUKE」「MR.BANJO」として参加してましたね。
森山 フィドルの山田拓斗くんは若くしてカントリー&ウエスタンやブルーグラスを演奏できるミュージシャンなんですけど、この状況下で自分のライブやレコーディングが飛んでしまって。その空いた時間で、ツアーではビッグバンド調のジャジーなアレンジで作っていた「すぐそこにNEW DAYS」を、自主的にブルーグラスっぽくアレンジしてくれたんです。聴かせてもらったのが2月下旬頃だったんですけど、「いやこれめちゃめちゃいいね」という話になって。鉄は熱いうちに打ったほうがいいし、コロナの状況も先が見えないから早めに録ろうということで、勢いでレコーディングしました。もともとこの曲をリリースしたいという気持ちは2年前からあったんですが、「NEW DAYS」ということで、令和に変わる瞬間か、2020年になる瞬間かとタイミングを見計らっていたらこういう状況になったので、「もう今しかないっしょ、エモいっしょ」と。
兼近 エモいっす。このタイミング、ベストすぎます!
森山 たぶん兼近くんならわかってくれると思うんだけど、この曲については僕からのメッセージとか、別にないんですよ。それは聴いた人の中に宿るものであって、僕から説明できるものじゃない。ただ言えるのは、この曲をこの時期にこの形でリリースして映像作品として作ったという、その姿勢しかないわけ。だってさ、リモートで漫才やるのって、拷問じゃん?
兼近 お客さんからの反応もないですし、いろいろとズレてますし。
森山 だよね。ソーシャルディスタンスがすごいから、ライブ感なんて生まれない。だけどそういう中でも生き残っていく人って本当に面白い人だし、本当に表現力のある人だと思うんだよね。今すごく試されてるんだ、我々は。今回のMVは不要不急のラインに踏み込んだ作品になってるけど、例え批判にさらされたとしても、佐藤くんみたいにいつもと変わらない姿勢を示し続けるべきなんだろうなと思った。もちろん細心の注意は絶対に払わなければいけないけど、芯の部分では絶対に日和っちゃいけないよね。
兼近 この作品にはいろんなキャラクターが出てくるじゃないですか。今の時代って多様性が求められつつ、認められない時代だと思うんです。そんな難しい状況でも、このサーカスの団員みたいな存在の人たちががんばってるイメージがあって。だから僕としては、この作品は社会の縮図だなと思うんです。
森山 いいこと言う。俺と佐藤くんが伝えたいのはそこだから。
兼近 ホントすか!? 例えば頭を振ってるだけの芸をやってるやつに対して、「こんなことでお金を取るなんでふざけんじゃねえ」と馬鹿にする人もいると思うんです。でも、これはこの人なりの全力であって、これを認めてあげる世界があっていいと俺は思うんですよね。今の社会はすごく細かいことにもSNSでガーガー騒ぎ出す人がいて、“許さない暴力”が横行しているけど、こういうふうに許すことで新しい世界が広がる、“NEW DAYS”になれるんだということを感じましたね、僕は。
森山 ……締まったね、今。僕らが言おうとしてたことを全部言ってくれちゃったね。
兼近 ははは!(笑) 当たりだったんすかねえ?
3人で何かできたら
──ちなみに佐藤監督は寺田心さんが出演された「BOOKOFF」のCMを撮られたあと、CMの反響で「寺田さんのイメージに“面白い”が加わってよかったな」ということをTwitterでつぶやかれていましたね。ただ面白いものを作るだけでなく、出演された方の新しい見え方も考えられている。
佐藤 その人のイメージにないことをやったり、そうなるよう目指したいという思いは常にあります。今回も森山さんの中にある狂気みたいなものが歌舞伎メイクのシーンで爆発している感じがして。とにかく表現力がすごい人だなと思いました。さっき話していた団員たちに説教してるシーンも、MVでは森山さんのセリフは聞こえないんですけど、現場では全部即興でしゃべってるんです。この撮影が終わってからクリエイティブ関係者に会うたび「森山さんの演技めちゃくちゃいいから」と推してるんですよ。
森山 マジか(笑)。ありがとね。
──MVに限らず、この3人でまた何かできたら面白そうですね。
森山 いいかもしれない。僕そういうことに対してはけっこう壁を作るタイプなんだけど、ここまでお互いの背景がしっかりしてたら何かできそうだよね。
兼近 ぜひ! うれしいです。
佐藤 だったらドラマをやりたいですね。役者としての森山さんと兼近さんを演出してみたい。
森山 かねちくん、演技はやるの?
兼近 「THE突破ファイル」(日本テレビ系)ってクイズ番組の中にガチガチのドラマ班が撮るドラマパートがあって、そこでよくやらせてもらってます。ちょくちょく“面白”が入ってくるんで、ちゃんとした演技という感じではないんですけど。
森山 チェックしておこう。あとは兼近くんがさっき言ってた女の子に会いに行くドキュメンタリーとかね。俺、もうおじさんだからそういうの応援したくなるんだよ(笑)。今度その子とライブ来てよ。最前列の席、用意するから。
兼近 ホントですか!? その子森山さんのライブ中、ずっと泣いてるって言ってました。それを見てたぶん、俺も泣くと思います。
森山 あはははは!(笑)
公演情報
- 森山直太朗ファンクラブツアー2020「十度目の正直」FC会員限定 生配信ライブ
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配信日時:2020年10月6日(火)19:00〜
ツアー情報
- 森山直太朗Blue Note & Billboard Live Tour「すぐそこにnew days」
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- 2021年1月16日(土)神奈川県 MOTION BLUE YOKOHAMA
- 2021年1月17日(日)神奈川県 MOTION BLUE YOKOHAMA
- 2021年1月21日(木)大阪府 Billboard Live OSAKA
- 2021年1月22日(金)大阪府 Billboard Live OSAKA
- 2021年1月31日(日)東京都 ブルーノート東京
- 2021年2月1日(月)東京都 ブルーノート東京