“自らの新章の幕開け”と銘打たれた森山直太朗の新曲「すぐそこにNEW DAYS」が、7月17日に配信リリースされた。同曲は、森山作品の多くの作詞に携わる御徒町凧が「いつどんな思いで書いたか覚えていない」という1編の詩に森山がメロディを乗せて制作した楽曲で、2018年から19年にかけて行われたコンサートツアー「人間の森」にてビッグバンド調のジャジーな楽曲として初披露された。このたびリリースされた音源はツアーでのパフォーマンスから一転、ギター、フィドル、チェロ、バンジョー、ピアノの編成によるブルーグラス調の軽快なサウンドを押し出した、森山のルーツである“古きよき時代のアメリカ音楽”を感じさせるアレンジに仕上がっている。
また森山は同曲のリリースと同時に、「日清カレーメシ」「さけるグミ」「BOOKOFF」など話題を集めるコミカルなCMを数多く手がけるディレクター・佐藤渉を監督に迎えたミュージックビデオを公開した。佐藤が手がける初のMV作品となった今作では、森山が架空のサーカス団員に扮してダイナミックに歌い踊り、喜怒哀楽を見せながら個性的なキャラクターたちとドラマを繰り広げるという、これまでのパブリックイメージとは異なる新たな表現に挑戦している。
音楽ナタリーでは「すぐそこにNEW DAYS」とそのMVについて掘り下げるべく、森山と佐藤、そしてかねてから森山のファンを公言しているEXITの兼近大樹による鼎談を企画。実はそれぞれ縁があった3人に、今作で作り手が表現したかったことやMV制作の裏話、いちファンが作品に抱いた思い、また各々が表現について考えていることなどを語ってもらった。
取材・文 / 秦野邦彦 撮影 / 岩澤高雄
チャラ男の生みの親
──この3人での顔合わせは初めてですか?
森山直太朗 初めてですね。
佐藤渉 でも僕、実は兼近さんとは以前お仕事をさせてもらっているんです。
兼近大樹 えっ、僕とですか?
佐藤 3年前、CMの仕事で湖に連れて行かれましたよね? 「日清焼きそばU.F.O」のWeb CMで、雑誌「ムー」とコラボして藤岡弘、さんがいろんなUMAになりきる「未確認藤岡物体」という映像作品を僕が監督したんですけど、そのティザー映像に兼近さんが出演されて現場でもお会いしていたことに最近気付いて。
兼近 思い出しました! 確か僕は、女の子と2人でボートに乗っていたら藤岡さんの顔をしたネッシーを見つけるというチャラ男の役で(笑)。
佐藤 そうそう。チャラ男がスマホで自撮りしてたらネッシーが現れて、その映像を誰かがTwitterに上げてバズらせたという設定でした。
3年前に演出したUFO未確認藤岡物体シリーズのチャラ男役が、EXIT兼近くんだったことが判明しました。#未確認藤岡物体 https://t.co/r9fxBPUWly
— 佐藤渉 (@WATARAZORRR) June 6, 2020
森山 (映像を見ながら)へー、演技めちゃめちゃうまいじゃん。このときはもうEXITとしてコンビを組んでたの?
兼近 組んでなかったです。このときは自分がチャラ男になるとは思ってなくて。それまでは僕は黒髪のおかっぱで、内側だけ全部刈り上げた髪型だったんですけど、このCMのオーディションで「チャラ男っぽく髪型を変えて金髪にしたら合格です」って言われて(笑)。
森山 じゃあ、今の芸風はそのあとから?
兼近 そうです。このときのオーディションがめっちゃハネたから「今後はチャラ男でやってみようかな」と思って、今の相方のりんたろー。さんに声をかけて一緒にやっていくことになったんです。
佐藤 あのときはもともとそういうキャラの人かと思っていたけど、あの役のためにギャル男になってたんですね。
──佐藤監督と森山さんも「すぐそこにNEW DAYS」の撮影以来、これが2度目の対面だとか。
森山 はい。佐藤くんは、共通の知り合いで今回のMVのクリエイティブディレクターでもある瀧澤慎一くんに紹介してもらいました。もともと僕が佐藤くんの作った「日清カレーメシ」のCMを観ていて、奇想天外なことをやりながら古い時代の空気感を重んじている感じが面白いなと思っていて。「すぐそこにNEW DAYS」もまさに古きよき音楽を踏襲しながら新しい表現を探している楽曲だったので、「MVを撮ってもらえませんか」と瀧澤くんを通じてお願いしたら二つ返事で快諾してくれて。
佐藤 もともとMV制作には興味があったんですけど、それまで実際に作ったことはありませんでした。でも瀧澤くんから「森山さんはこの曲でこれまでのイメージを払拭して新しいことをやろうとしている」と言われたので、型にハマらずに自分の感性を入れて作れたらいいなと思ってお受けしました。
森山 こういう状況だから制作中の打ち合わせも全部リモートで、それまではお互いずっと“パソコンの画面の中の人”だったんだよね。で、ようやく初めて会ったのが撮影当日の東武動物公園。
兼近 デートみたいっすね(笑)。
──兼近さんと森山さんは?
兼近 はじめましてではないんですけれども。
森山 まず、こんなに近くに居たことはないよね。音楽番組で中継先からやりとりさせてもらったことはあったけど、生で会うのは初めてなんです。近くで見ると、こんなにきれいな肌してるんですね(笑)。でも、佐藤くんと兼近くんがつながっていたのはびっくりだったな。だって、言ってしまえば佐藤くんがチャラ男の生みの親なわけでしょ?
兼近 確実にエキスは入ってますね(笑)。
好きになった女の子
──兼近さんが森山さんのファンであることは「ゴッドタン」(テレビ東京系)などでも広く知られていますよね。
森山 「ゴッドタン」は義理の兄(おぎやはぎの小木博明)が仕切っている番組なので、毎週観てます。ただ、兼近くんが出ると必ず「さくら(独唱)」が流れるんだよね。僕はいち視聴者として番組を楽しみたいのに自分の曲が流れるから、なんか感情移入しづらくて(笑)。
兼近 あはは(笑)。「ゴッドタン」のいじりは仕方ないなと思ってるんですけど、別の番組でも「さくら(独唱)」が流れることがあるんです。「チャラ男芸人EXITでーす!」ってステージに出て行ったら、“♪ぼーくーらはー”ですから。
森山 でも、EXITはチャラいけど話を聞くとピュアな青年の主張が出てくる、というパターンを作ったのは「ゴッドタン」だよね。
兼近 「ゴッドタン」の「この若手知ってんのか!? 2018」(2018年7月7日放送)がチャラ男芸人EXITになってのテレビ初出演なんです。そこでスタッフさんから“チャラ男なのに森山直太朗さん好き”といういじりをされて。
森山 まだ完成していない芸風をいきなり破壊されるようなものだから、怖いよね(笑)。
──せっかくですので、兼近さんの森山さん愛を聞かせていただけますか。
兼近 森山さんとの最初の出会いは小学校の卒業式で歌った「さくら(独唱)」なんですけど、一番大きいのは16歳のときに出会って好きになった女の子ですね。その子は森山さんのファンクラブに入っていて、曲をオススメしてくれたり、歌詞の意味とか直太朗さんに起こったエピソードを全部教えてくれて。それがきっかけで僕も森山さんが好きになりました。
森山 へーっ、いい話。
兼近 僕が特に好きなのは「太陽」という曲の「さっき食べたカレーパンの 賞味期限はとっくに切れていたんだ」という歌詞ですね。日常の中の非日常を、こういう言葉で表現するのってめちゃくちゃエモいなって。「ほらまた縦列駐車でぶつけてる」という部分も非日常のはずだけど、この歌の中ではそれが日常なわけじゃないですか。そういう歌詞と曲調のポップさにすげえ胸を打たれたことが一番ハマった理由ですね。
森山 16歳のときに出会ったその女の子のおかげだね。
兼近 ちなみにその子のことは今も好きなんですけど。
森山 今でも!? かねちくん、今いくつだっけ?
兼近 29歳です。
森山 それもう一途とかじゃないよね。
兼近 はい(笑)。
森山 マジか……強引かもしれないけど、その子今からここに来れたりしないの?
兼近 無理です無理です!(笑)
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