20歳までの森七菜が詰まった1stアルバム完成、新曲のひと言解説で紐解く「アルバム」の全貌

森七菜の1stアルバム「アルバム」が自身の21歳の誕生日にあたる8月31日にリリースされた。

「アルバム」は2020年1月公開の映画「ラストレター」の主題歌「カエルノウタ」で歌手デビューした森七菜の2年半が詰まった、まさに集大成と言えるアルバムだ。ホフディラン「スマイル」のカバーや、YOASOBIのコンポーザーとしても活躍するAyase書き下ろしの「深海」など既発曲に加え、コレサワ、絵本作家の荒井良二、オカモトコウキ(OKAMOTO'S)、kiki vivi lily、福岡晃子と佐藤千亜妃といった作家陣が参加した新曲が収められている。

今回のインタビューでは、アルバムに収録される新曲5曲について、本人にひと言解説を書いてもらい、それを足掛かりにアルバム全体、来るワンマンライブについてもたっぷり語ってもらった。

取材・文 / 張江浩司撮影 / 入江達也

「君の彼女」
[作詞・作曲:コレサワ / 編曲:川口圭介]

森七菜直筆メッセージ

もうまっすぐすぎるくらい素直な主人公の心の中が表現されていて、私だったら歌詞にあるような言葉を口に出すのはたぶん無理だなって。誰かに素直な気持ちを見せるのってやっぱり怖いじゃないですか。「昔付き合った恋人の話はしないで」とか「メールで済ますのはなんか もったいないから 今日電話していいかな?」とか、なかなか言えないですよ。でも、歌だったら表現できる気がしたんです。

──確かに、みんながみんな思いをストレートに表現できるなら、ラブソングはいらないのかもしれないですね。

そうですね(笑)。歌の力を借りたいときもあります。

森七菜

──気持ちを口に出せずにモヤモヤしてしまうことは、日常的な場面でも多いですか?

私は家族にもなかなか自分の思いを素直に言えないタイプで。ひたすらしゃべって遠回しに伝えようとしちゃうんですよ。

──言葉数が多くなってしまうと。

そうですね。好きな相手にほど、嘘っぽくなっちゃうかもしれない。

「ロバとギターときみとぼく」
[作詞:荒井良二 / 作曲・編曲:澤田空海理]

森七菜直筆メッセージ

絵本作家の荒井良二さんに作詞していただきました。荒井さんの絵本を読むと、台本やマンガとは違う感覚で感性が動かされるんですね。だから、荒井さんが書く歌詞って正直どんな内容になるか想像がつかなかったんですけど、何かの機会にご一緒したいと思ってたので今回作詞をお願いしました。この曲を聴いてると、私の大好きな荒井さんの絵本の世界観がそのまま思い浮かぶし、澤田(空海理)さんが作ってくれた軽やかなメロディも心にすっと届きますよね。

──ページをめくるようにリズムが進んでいくので、とても心地よいです。

絵本ってなんの邪念もなく読めるものだと思うんです。それをそのまま歌にしたような作品ができあがって、すごくうれしいですね。「スマイル」をカバーしたときに、多くの子供たちが本当に喜んで聴いてくれてたそうで、お子さんにも楽しんでもらえる曲をまた届けたいと思って歌いました。たくさんの子供たちにぜひ聴いてほしいです。

森七菜

──荒井さんと澤田さんに依頼したのは森さんのアイデアですよね。「背伸び」のときにも作詞を新海誠監督に直談判してますが、「この人と一緒にやりたい!」とピンとくるものがあったんですか?

うーん、なんだろう。直感ですね。「大好き! 一緒にやりたい!」みたいな。単純ですけど(笑)。

──「自分に合うかどうか」よりも好きな気持ちが大事なんですね。

「どうなっちゃうんだろう?」という感じのほうがワクワクするのかなって。想像がつかないほうが面白いです。

──今後一緒にやりたい人はいますか?

今回のアルバムでも、スケジュールが合わずにコラボを断念した人がいるんですよ。同じ年代の女優さんなんですけど、一緒に歌いたいなとずっと思ってて。諦めきれないので、いつか叶えたいなと思ってます。

「愛のしるし」
[作詞・作曲:草野正宗 / 編曲:オカモトコウキ(OKAMOTO'S)]

森七菜直筆メッセージ

──「愛のしるし」は言わずと知れた名曲ですね。

本当にみんなに聴いてほしいなと思ってます。歌詞には理解するのが難しいフレーズが多いですけど、そのぶん想像力を掻き立てられてたくさんの気持ちを味わわせてくれる神秘的な曲ですよね。「自分がこれを歌ったときにどうなるだろう」と想像したらすごく楽しい気持ちになったので、「カバーしたいです」とお願いしました。オカモトコウキさん(OKAMOTO'S)がとっても素敵な編曲をしてくれて。

──原曲を歌うPUFFYとも、それをセルフカバーしたスピッツとも違う、ストリングスが前面に押し出されたエモーショナルなアレンジです。

間奏のギターソロがすごくカッコいいんですよ。私の今までの曲にはない曲調になったので新鮮に聞こえると思うし、原曲のファンにも楽しんでもらえると思います。

「Lovlog」
[作詞・作曲:kiki vivi lily / 編曲:sooogood!]

森七菜直筆メッセージ

──確かにエモい! アルバムの中でも雰囲気が少し違いますね。

「エモい」で片付けるのも惜しいくらいなんですけど(笑)。ラーメンのことを「650円のフルコース」と例えるような、日常に寄り添った飾らない曲で。聴いてくれた人に「私のことだ」と共感してもらえると思うし、好きな男の子の顔が普段より300%カッコよく見えるような力もあるんですね。

──「こんなにカッコよかったっけ?」と(笑)。

そうそう(笑)。恋に恋することも悪くないな、と思わせてくれるんですよね。恋を経験だって割り切るのはちょっと寂しかったりするけど、「Lovlog」は「いい経験になったね」という温かい気持ちになれる曲だと思います。kiki vivi lilyさんの曲は前から聴いていたので、お願いできてよかったです。

──この曲はヒップホップ、R&B的なグルーヴですが、歌ってみていかがでした?

馴染みのないポエトリーラップが入っていたり、今まで歌ったことのない感じだったので難しかったですね。でも、役に入り込むみたいで楽しかったです。レコーディングではアルバムの1曲1曲を違う人になりきって歌ってみて、新感覚でした。

森七菜

「かたつむり」
[作詞:福岡晃子 / 作曲:佐藤千亜妃 / 編曲:河野圭]

(スケッチブックとにらめっこしながら)うーん……。

──ひと言で表すのは難しいですか?

いっぱいありすぎて、どう書けばいいんだろうって。……できました!

森七菜直筆メッセージ

──先日ラジオに出演されていたときも「大事件ですよ!」と、すごいテンションでこの曲を紹介していましたよね。

びっくりですよ! あの福岡さんと佐藤さんが書いてくれるだけですごいのに、まさか1曲をお二人で作ってくれるなんて。「なんて豪華な曲になってしまったんだ!」と(笑)。プレッシャーにもなりました。

──福岡さんと佐藤さんのファンも、「どんな曲になるんだろう?」と興味津々になりますもんね。

「これを私が歌うんですか?」って……。仮歌を佐藤さんが歌ってくれていて、「もうこれで完成じゃん。これリリースしましょうよ」と(笑)。その仮歌の音源は普段でもずっと聴くくらい好きなので、これを自分の曲として歌いこなせるのか不安もありました。

森七菜

──森さんにとってチャットモンチー(2018年に完結)ときのこ帝国(2019年より活動休止中)は特別なバンドなんですね。

そうですね。「チャットモンチーの方に参加してもらいたいね」という話をスタッフさんとしてて、「最近きのこ帝国も聴いてる」とも話したんですよ。そしたら2人ともOKしていただいて。

──佐藤さんボーカルの仮歌音源はものすごいレアアイテムです。

これは私だけのものなので、絶対誰にも聴かせません(笑)。

──うらやましいかぎりです(笑)。レコーディングはいかがでしたか?

「かたつむり」のメロディや歌詞はすごく情熱的だし、流れの激しい曲だから、身を任せても全然大丈夫なんじゃないかなと思えてきて。やってみたらすごく気持ちよく歌えましたね。普段出せない感情も表現することができたというか。思い出の曲になりました。