森七菜インタビュー|森山直太朗書き下ろしの「bye-bye myself」で見つけた新しい私 (2/2)

歌う気持ちよさを感じたい

──では、ご自身の歌声についてはどうでしょう?

最初はあまり好きではなくて。お芝居を始めたときも「この声じゃ女優になれないんじゃないかな? 支持されないんじゃないかな?」と思っていましたし、新海(誠)さんのオーディションを受けたときも「絶対無理だよ!」と言いながら受けたんですが、新海さんが私の声をすごく褒めてくれたのが少し自信につながりました。その後も、岩井俊二さんや小林武史さんが歌声を褒めてくれたから、またさらに好きになっていって。今はまだまだですけど、これから歌っていく中ですごく気持ちよいと感じられたらなと、人生でそういう瞬間に一度は出会ってみたいなと思ってがんばっているところです。

森七菜

──僕は森さんの歌声にはちゃんと芯があると同時に、どんな色にも染まれる透明感もあって、それによって作品ごとにいろんな表情を見せられるのかなと思っているんですよ。この「bye-bye myself」でも新しい側面を垣間見ることができましたし、今後もいろんな引き出しを見せてくれるのかなと勝手に期待しているところもあります。

ありがとうございます。そうだといいなあ。それこそ映画「天気の子」ではアフレコでキャストの方がそろっていないときに、その場にいないキャストさんの役を私が代わりに演じて、一応似せてやってみたら新海さんに「いけるね!」と言われたこともあって。音楽でも表現力を磨くことで、聴いている方々にとって私の印象が広がるような曲を出していけたらなと思っています。

──MVも拝見しましたが、ユニークな撮影方法ですね。

はい(笑)。フィルムカメラが6つぐらいあって同時に撮っているんですけど、私のことを見ずにカメラマンさんが腕だけ振って撮っているから、撮影中は完成がまったく想像できなくて不安なときもあったんです。でもそれらを全部つなげたら動いているように見えるんですよね。そういう新しい撮り方もすごくおしゃれだし、思い出に残る作品になりました。

──小物もたくさん使っていますよね。

椅子を2つ使うシーンがあるんですが、そこでは300枚ぐらい写真を撮ったんじゃないかな。椅子を振り回していたんですけど、体にぶつけてアザを作りながらがんばりました(笑)。1人でここまでいろいろできるんだなという、面白い体験でした。あと、MVではブラウン管テレビを使ってるんですけど、あんなに大きなブラウン管テレビを見たのは初めてで。ビデオも付いていたんですけど、古かったからか調子が悪くて、叩いて直したりしていました(笑)。

──いろんなアイテムと対峙しながら見せる表情もそれぞれ違って、そこも見応えがありましたし、曲調と相まって笑顔になれる作品でした。

よかった(笑)。曲の反響も気になりますが、MVに対する感想もどんな声が届くのか、今からドキドキしています。

森七菜
森七菜
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もっと歌がうまくなりたいです!高まる向上心

──森さんは2020年1月にCDシングル「カエルノウタ」で歌手デビューし、気付けば約2年半が経過したことになります。音楽との向き合い方や音楽活動に対するモチベーションの保ち方に対して、以前と比べて変化を感じることはありますか?

この2年半はいろんな意味で長かったと感じますけど、節目節目で音楽番組に出させていただいたり配信ライブをやらせていただけて、そのどれもがうれしくて。何がうれしいのかと言われたら、例えば配信ライブではコメントをたくさんいただいて、反響の大きさを実感できたこともそうなんですけど、何よりも音楽活動の場が自分の中で伸び伸びできる場所に変わってきていることが一番大きくて。ただでさえお芝居もやらせていただいていて楽しいのに、「こんなことまでやっていいんですか?」と本当に思いますし、だからこそ自分が満足するだけじゃなくて、いろんな人にもちゃんと楽しんでもらえるようなレベルのものを作らないといけないという、その士気が毎回高まっているんです。音楽チームのスタッフさんに「もっと歌がうまくなりたいです!」って情熱的なメールをしたこともありましたが(笑)、その気持ちをずっと絶やさずに続けていきたいです。

森七菜

森七菜

──ある意味マイナスからのスタートだった分、そこからプラスに到達するまでの大変さはあったものの、一度プラスに変化してからはどんどん楽しくなっていったと。

あれですね、少女マンガのヒロインが男の子に対して、最初「こいつサイテー」って思うところからだんだん「あれ、なにこいつ? 気になるんだけど?」って変わっていくような(笑)。でも、自分がそう変われたのは皆さんからもらった感想のおかげだし、最初に岩井さんと小林さんが「カエルノウタ」というとても素敵な曲に出会わせてくれたこともすごく大きかった。お芝居で共演した方々が2年半前の曲なのに「あれ、すごくいいよね」と言ってくれることもいまだにあって、そういう意味でも最初からすごくいい形でスタートが切れていたんだなと感じます。

──楽曲を制作するチームや作家さん含め、ここまでの出会いはかなり恵まれていますよね。

本当にそう思いますし、誰もがうらやむと言ってもおかしくないんじゃないかなと思います。なので、1つひとつの経験を無駄にしないようにと思いつつも、毎回どこか悔しい気持ちも残るので、それが次への原動力になり、まだやめたくないという思いにつながるのかなと。でも、次こそは完璧にやりたいと常に思っています。

森七菜にとって安らぎの時間

──なるほど。では、音楽活動を初めてから、音楽の聴き方に変化を感じることは?

あります。例えば、自分の曲で自分がコーラスをするという経験をしてから、いろんな曲を聴くときにコーラスやハモリを意識して聴くようになって、それが曲にどう影響するのかと考えたりするようになりました。それこそ「こういう技術があるんだ、こういう歌い方があるんだ」と、勉強しながら聴いています。以前は音楽が安らぎの場所だったのに、いつの間にかそんなことを考えられるようになったのも、向上心の表れなのかな。

──聴く音楽のジャンルやアーティストにも変化は表れているんでしょうか?

もともといろんなジャンルの曲を聴いてはいたんですけど、最近は浅く広くよりも狭く深くに変わってきた気がします。例えば、福山雅治さんの「桜坂」や「最愛」、クリープハイプの曲をシャッフルして聴いていると、すごく心地よくて。それは年齢を重ねたことで、歌詞の意味をより理解できるようになってきたことも大きくて。いろんな経験を重ねたことで「桜坂」の歌詞の意味がだんだんわかってきて、言葉の意味を深く考えながら聴くようになったと思います。

──日常の中でこれをしていると癒されるとか、音楽以外で興味があることは何かありますか?

お料理と運動かな。そう聞くと、めっちゃ健康的ですね(笑)。自分でギターを弾いたり歌ったりする時間は安らぎますね。最近はお料理をすると家族が「七菜のこれしか食べられん」って言うぐらい喜んでくれるので、それもすごく幸せにあふれた時間だなと感じます。

森七菜
森七菜

──ご家族は何がお気に入りなんですか?

チャーハンです。私、お料理は好きなんですけど手際が悪くて、ご飯を炒めて醤油をかけたあとにほかの調味料を探し始めるんです(笑)。でも、そこでいい感じのおこげができて、すごくおいしいんですって。そのさじ加減でできたチャーハンじゃなくちゃダメらしくて、よく「チャーハン作って」と言われます(笑)。

──タイミング含め完全にオリジナルなわけですね。一方で、運動は普段どういうことをやっているんですか?

走ったりとか、ちょっと筋トレしてみたりですね。以前は「運動している人って自分を追い込むことが好きなんだな」と感じていたんですけど、いざ自分もやってみたら体が軽くなって体力も付くし、何より写真写りがよくなるので(笑)、続けるようにしています。

みんなに会って恩返しがしたい

──ここから先アーティスト活動で挑戦してみたいこと、特に「2022年のうちにこれを果たせたらいいな」ということはありますか?

やっぱり、ファンのみんなに会いに行きたいです。最近はいろんなアーティストさんがお客さんを入れてライブをしていて、私もそこに観客としてお邪魔させていただく機会も増えて、やっぱりいいなと思います。まだお客さんは声を出せない状況ですけど、それでも私のことを応援してくださる方や私の曲を聴いてくださっている方に、同じような環境を用意できたら少しは恩返しになるんじゃないかなと思って、今年中にはできたらいいなと思っています。

──状況も少しずつよくなり始めていますし、再び声を出せるようになればより一体感の強いライブもできるでしょうし。いざその日が来たら、どんな反響があるんでしょうね?

どんな声援が飛んでくるかわからないですけど、皆さんの声が聴ける日を楽しみにしています。以前、地元の大分でライブをしたときはみんな恥ずかしがって、「七菜ちゃーん!」みたいな声援はなかったんですけど、せっかくなので次はいっぱい声を出してもらって、いろんな皆さんの声を直接聞きたいです。

──そこでステージに出ていった森さんの第一声も気になります。

「ひさしぶり!」とか。それこそ、その流れでまた大分に帰れたら「ただいま!」って言いたいですね。

森七菜

プロフィール

森七菜(モリナナ)

2001年8月31日生まれ、大分県出身。2019年7月に公開された劇場アニメ「天気の子」でヒロイン・天野陽菜役に抜擢され一躍脚光を浴びる。その後、数多くの映画やドラマに出演し、2021年3月に「第44回日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞した。2020年1月公開の映画「ラストレター」では岸辺野颯香、遠野裕里(高校時代)役を務め、主題歌も担当。その主題歌「カエルノウタ」で歌手デビューを果たした。同年7月に大塚製薬「オロナミンC」のCMソングとしてホフディラン「スマイル」をカバーし、配信リリース。YouTubeで公開された同曲のミュージックビデオの再生回数は3600万回を超える。2021年8月にYOASOBIのコンポーザーとしても活躍するAyaseが提供した「深海」、10月に「天気の子」の新海誠監督が作詞した「背伸び」を配信リリース。2022年6月には森山直太朗が作詞作曲した「bye-bye myself」を配信。