音楽ナタリー PowerPush - 森恵

プロデューサーASA-CHANGと解き明かす“新しい自分”の正体

女としてナメられたくない

──そういったキャラクターの切り分けを森さんは無意識のうちに?

ASA-CHANG

ASA-CHANG そこを意識してやってたら小悪魔じゃないですか。「あたしここでこう言ってあげようかな」とか。

 (笑)。意識してはいないんですけど、強い自分でいたいっていうのはあると思います。ストリートでやってるときから周りが男性の方ばっかりだったので、女としてナメられたくないっていう。

ASA-CHANG ああ。ストリートでやる人って2種類いるんですよね。何が起きても常に合気道みたいに受け流せる人と、機動隊みたいにガッチリと盾を持ってる人。森さんは後者で盾そのものなんだけど、盾の後ろにも森恵さんが縮こまって隠れてる。その2種類が両方常にある。

 後ろが見えてるの、めっちゃ恥ずかしいですね(笑)。

今もストリートに

──森さんは高校性の頃から路上ライブを行ってますね。アーティストとしての自分はストリートで作られていった?

 ですね。私は経験が人の中身を作るものだって思ってるんですけど、実際ストリートに立つことでいろいろな刺激を受けたり出会いがあって今の自分になれて。だから今でも時間があれば出たくなるんだと思います。

──今もストリートで演奏してるんですね。

 数は減っちゃってるんですけど、地元に帰ったときやラジオで地方に呼んでいただいたときとか、夜に時間があるときはふらっと外に行って歌いますね。

──もともとのきっかけは?

 昔はコンプレックスがすごいたくさんありました。だからストリートに立つことは自分の居場所を確認する作業で。自分が歌えば誰かが足を止めてくれる、しかも楽しんでもらえているっていう実感がすごく幸せなことって気付けたんです。歌うことで誰かが反応してくれる幸せはいつも自分の中心に置いていないと歌う意味自体がぼやけてしまうと思ってます。

今回で表現の仕方が広がった

──これからアルバムを引っさげてのライブもスタートします。ファンに何を届けていきたいですか?

 「こう来たか!」って、いい意味での驚きを与えていける存在でありたいと思います。

ASA-CHANG 楽しみだね。僕も一歩一歩足取りを見ていきたい。「オーバールック」があるおかげで今後は今までの曲やカバーの歌い方も変わればいいなって思いますね。

 そうなっていくと思います。今回で表現の仕方は広がったので。

──表現の仕方?

左から森恵、ASA-CHANG。

 例えば「僕が愛した時間」のときって床に座って歌ったんですよ。クッションに座って膝を抱えながらレコーディングしました。

──へえー!

ASA-CHANG 「床に座ってみましょうか」「いいですねー」っていう話になったんですよね。

 はい。それによって出てくる声とかも変わってきたし、より歌の主人公になれる気がしました。だからもっと面白い録り方ないかなって思って探していて。これからはどう歌っていくかってところも手法として考えていくと思います。

ASA-CHANG ライブで座っちゃってもいいかもしれないね。ああ、でも今度の会場は教会か。教会で床に座ってっていうのはなんか別の意味が生じちゃうな。

 (笑)。でもライブのやり方も今後変わっていくでしょうね。

なんでもやればいいんだ

──今作を通じて本当にたくさんのものを得られたんですね。

 はい。「なんでもやっていいんだな」って気付きました。

ASA-CHANG それってなんか僕が放置プレイとかすげーひどいことやったみたいに聞こえない?

 そういうことじゃなくて(笑)、変な先入観を持たずになんでもやっていこうって。例えばスタイリストさんが「これとかどう?」って薦めてきたものでも、着てみれば想像と違うものになるかもしれない。きっとそういうことが世の中にはいっぱいあるんだろうなって気付きました。だから今後は苦手なものも含めて「まずはとにかくやってみる」って姿勢でチャレンジしていきたいです。そうすることで違う印象を持ったり、やってみて自分の引き出しが増えたりすると思いますし。

──ASA-CHANGさんはもしまた森さんのプロデュースを担当することになったらどうしたいですか?

ASA-CHANG またやることになっても、また自分が持ってるいろいろなアレンジメントやポップスへの思いの中からそのときそのときの森さんに合うものを用意して、ちゃんとおいしいものに料理したいって思います。まずいものってなんか忘れないじゃない? そんな形で皆さんの記憶に残りたくはないし(笑)。

左から森恵、ASA-CHANG。
ミニアルバム「オーバールック」2014年10月15日発売 / 2052円 / cutting edge / CTCR-14821 / Amazon.co.jp
「THE SHOW MUST GO ON」
収録曲
  1. この手の中に(アレンジ:八橋義幸)
  2. 星に願いを(アレンジ:間宮工)
  3. Lala...(アレンジ:八橋義幸)
  4. 僕が愛した時間(アレンジ:安宅秀紀)
  5. 赤い心(アレンジ:八橋義幸)
  6. 君の隣(アレンジ:澤田かおり)
森恵(モリメグミ)

森恵広島県出身、1985年生まれの女性シンガーソングライター。高校生時代に地元を拠点としたストリートライブでファンを増やし続け、2010年にcutting edgeからメジャーデビュー。2012年にはメジャー1stフルアルバム「いろんなおと」をリリースする。2014年には2ndアルバム「10年後この木の下で」のリリースのほか、完売となった東京・SHIBUYA-AX公演およびMt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE 2DAYSワンマンライブを実施。またギターメーカーのギルドスターズと日本人アーティストとして初のエンドースメント契約を結んだほか、テレビ番組出演などでも話題を集める。2014年10月にはプロデューサーにASA-CHANGを迎えたミニアルバム「オーバールック」をリリースした。

ASA-CHANG(アサ・チャン)

ASA-CHANG福島県いわき市出身のドラマー、パーカッショニスト。1985年から1993年まで東京スカパラダイスオーケストラの創始者として活動。スカパラ脱退後は多数のアーティストのサポートメンバーとして活躍する一方でChara、小泉今日子、UA、一十三十一などの楽曲プロデュースも担当。1998年にはASA-CHANG&巡礼を結成し、トライバルかつアブストラクトな楽曲で話題を集める。2014年2月には自身のプロデュース作品集「ASA-CHANG & 蒐集」をリリース。9月にはASA-CHANG&巡礼名義でライブシリーズ「アウフヘーベン」を始動させた。