MONDO GROSSO「BIG WORLD」特集|アルバム全曲解説&大沢伸一×PORIN(Awesome City Club)対談 (4/4)

過去を振り返るのは好きじゃない

──もともとPORINさんはMONDO GROSSOの楽曲群をリスナーとしてどのように聴いていたんですか?

PORIN ずっと身近にあって、よく耳にしていました。でも、音楽性を深掘りしていくとコアなことをやられていて、カルチャーとの親和性もすごく高い。そういうアーティストはなかなかいないなと思って。コアなカッコよさもあるけど、ちゃんとお茶の間まで届いている。それってアーティストが一番憧れるような活動の仕方であり、存在感だと思うんですよね。

大沢 いいふうに言ってくれてますけど、ある意味すごく中途半端と言えるかもしれない(笑)。

PORIN いやいや! すごいことですよ。稀有な存在だと思います。例えばCMで「LIFE」が流れたときに、今の若い世代は過去の曲として捉えないと思うんです。それはダンスミュージックとしてだけではなく、ポップスとしての高い強度を兼ね備えているからだと思いますし、そうやってフロアからお茶の間までに響かせ続けるのは並大抵の強度じゃないと思います。

大沢 ありがたいですけど、たまたまの結果だと思いますよ。もちろん、僕自身も努力はしたと思ってますけどね。ベストアルバム(2021年11月に発表したオールタイムベスト「MONDO GROSSO OFFICIAL BEST」)をリリースしたばかりのやつが言う言葉ではないかもしれないけど、僕自身は基本的に過去を振り返ることがあまり好きじゃないんです。だから、スタッフから「ベストアルバムを出そうよ」と提案されたときも「うーん、まあいいけど、だったらちゃんとアップデートしようよ」と提案して。ほぼ全曲、何かしら手を加えているんですね。やっぱりクリエイターである以上、自分が作ったものに責任があるので。2021年にリリースするのであれば、2021年にふさわしいトリートメントがされていてしかるべきだと思いますし、マスタリング1つにしても、何か手を加えたほうがいいんじゃないかと思って、わがままを聞いてもらいました。

──時代性によってフィットする音像の差異は大きいですしね。

大沢 そうなんですよ。そのバランスが難しい。というのは、やっぱり音楽は自分が生み出しても、リスナーに届いた時点で僕のものではなくなるでしょ? そこからリスナーそれぞれの歴史とか思い出とか、いろんなものが曲に付帯していくので。それを新しくすることでリスナーの思い入れが台無しになる可能性もある。例えば、演歌歌手の人が大ヒットした曲をものすごくレイドバックした歌い方で歌唱することで、ずっとその曲を聴いてきた人がガッカリする、みたいなこともあると思うんですよね。それは演歌に限った話ではないですけど。そうなるのはよくないと思いますけど、その一方でアーティストでありクリエイターとしては少しでも新しいことをやりたいという欲求もある。そのせめぎ合いですよね。だからベストアルバムという性質を考えたときに、あまりやりすぎちゃうのはどうかなという危惧もありました。そういう意味で、過去を振り返るのは難しいから好きではないんです。

左から大沢伸一、PORIN。

左から大沢伸一、PORIN。

音楽生がラベリングされてしまうことへの恐怖

──今、Awesome City Clubはこれまで以上にいかにオーバーグラウンドに自分たちの音楽を届け続けるかということと、コアな音楽リスナーにも響かせられるかということを同時に叶えようとしていると思うし、そのハードルはどんどん上がっていると思います。そのあたりでPORINさんはどんなことを思考していますか?

PORIN 10年後も聴かれるような普遍性のある良質な音楽を作るということが大前提としてあって。その中で、バンドの表現においてもサウンド面においてもカウンターを当てていきたいということはまさに思っていることで。でも、めちゃくちゃ難しいと感じています。特に歌詞が本当に難しい。わかりやすさも大事だけど、そこに必ず自分たちのオリジナリティやパンチライン的なものを乗せないといけない。それを発明するのが本当に大変で。ひねくれたものだけではただの自己満足になってしまうし、ちゃんとポップソングでありながらも、カウンターを提示してこそヒットにつながるとも思うし。

大沢 まさにおっしゃる通りだと思いますね。ポピュラーになればなるほど自分たちだけのものではないという感覚がどんどん増幅していくので。その責任を果たしつつ自分たちの音楽性を進化させたり、自分たちの何がカッティングエッジなものなのかを探求したりすることは、成功していくアーティストの誰もが通る道だと思います。大変ですよね、それは。

PORIN しかも時間があまりない状態でそれを実行しなきゃいけないので、大変だなと思います。

大沢 時間との戦いですよね。

PORIN まさに。atagi(Awesome City Clubのメンバー)もすごくがんばってくれています。大沢さんも、MONDO GROSSOという存在がオーバーグラウンドになっていく中で、怖さみたいなものを感じたことはありましたか?

大沢 もちろんありましたよ。ただ僕の場合は「あ、自分の作った音楽が自分の把握できるキャパシティ以上の人に聴かれ始めているな」と最初に感じたのは、自分の作品ではなくて。それはbirdのプロデュース作品(1999年リリースのアルバム「bird」)だったんです。あそこで聴いてくれる人の桁が変わっちゃったけど、僕はプロデューサーだったので、その恐怖心からは少し距離があった。ただ、それ以降に自分のアルバムを作っていくにあたっては、ポピュラーになるという怖さよりも、誤解されてしまうことへの恐怖のほうが大きかったですね。いや、誤解というよりも「大沢伸一の音楽はこうなんだろう」と限定されることの恐怖というか。

──自分自身の音楽性がラベリングされてしまうことへの危惧ですか?

大沢 そうです。どんなアーティストでもみんな変化し、進化していくじゃないですか。でも、それって聴いている人たちの中では止められがちなんですよね。「あの人って、あの曲で売れた人だよね」というところで止まってしまう。そこを打破するために常に新しい刺激を自分なりに取り入れて、アウトプットしていくのが大変だなと思ったし、そこと向き合いましたね。そういうときに大事なのはインプットで。僕にとってのDJは、アウトプットではなくインプットだったりするんです。自分のエネルギーは出しているんだけど、そこで鳴っている音やそこで得た誰かからのエネルギーみたいなものを吸収してまた制作と向き合えたりする。「出しつつ、入れている」という感覚があるんです。

左から大沢伸一、PORIN。

左から大沢伸一、PORIN。

MONDO GROSSOで歌えたのが救い

──PORINさんは自身のアパレルブランドのディレクションなどもされていますけど、そういったことを通してクリエイティビティが枯渇しないように保たれていたりとか、音楽以外の表現との相互作用を感じることはありますか?

PORIN それはあると思いますね……。でも、今はめっちゃ枯渇してます。正直、苦しいです。なんか……泣きそう(笑)。(涙で声を詰まらせながら)コロナ禍もそうだけど、去年いきなりヒットして思うことがたくさんあって……。消化しきれてないものがいっぱいあるんですよ。

大沢 でも、やらなきゃいけないことは目の前に山積みでね。

PORIN そうですね。去年1年活動していく中で、なんて言うんだろう……空洞になってしまった部分もすごく多くて。マスに出て行けば行くほど、これまで自分たちがストリートで培ってきた感性や関係性みたいなものがどんどん薄れていく気がして。それがすごく悲しい。振り返ってみると、悲しい1年でもあったなって。だから、なくしてしまったものを取り戻していきたいという感覚もすごくあるんです。

大沢 でも、そこに気付けただけでもすごいね。そこで「もう、私は女王だから」となってもおかしくないですから。

PORIN ははははは(笑)。

大沢 売れた人は、そうなりがちですから。そうなってない人がいるというだけでよかったなと思うし、素晴らしい感性だと思います。

PORIN 去年もインタビューを受けながら泣いてばかりでした。売れることへの不安みたいなものがすごくあって。でも、今が一番大事ですよね。Awesome City Clubをやっと多くの人たちに知ってもらえたと思うので。だから、ここから長く続けるためにも「勿忘」だけでは終わりたくないし、本当に今回MONDO GROSSOで歌わせていただけたことが救いにもなっています。

大沢 いえいえ。少しでも役に立ったならよかったです。

PORIN すっごい救いです。本当によかった。

大沢 ぜひまた一緒にやりましょう。

PORIN ぜひ。本当に。

──大沢さん、次にPORINさんとコラボレーションするならどんな曲を作りたいですか?

大沢 今日のように彼女の感情がどんどんあふれ出てしまうような……。

PORIN あはははは(笑)。

大沢 感情が恐ろしいくらい出てしまうようなメロディを作れたら面白いかなと思いました。

PORIN 歌ってみたいです。感情を引き出してもらえるのはすごく興味があります。自分の感情を引き出してくれる方は限られてると思うので。

大沢 ぜひ一緒に作りましょう。

左から大沢伸一、PORIN。

左から大沢伸一、PORIN。

プロフィール

大沢伸一(オオサワシンイチ)

滋賀県出身のDJ / コンポーザー / プロデューサー。自身が率いたアシッドジャズバンドを前身としたソロプロジェクト・MONDO GROSSOにて革新的なトラックをリリースしつつ、国内外のアーティストのプロデュースを手がける。MONDO GROSSOとして2000年に発表したアルバム「MG4」は世界25カ国でリリースされる大ヒット作に。2007年からは個人名義での活動を本格的にスタートさせ、アルバム「The One」をリリース。テクノ、ハウス、エレクトロのシーンを中心にDJとして活躍した。2022年2月に、満島ひかり、齋藤飛鳥(乃木坂46)、坂本龍一、CHAI、田島貴男(Original Love)、PORIN(Awesome City Club)、中島美嘉ら豪華アーティストを迎えたアルバム「BIG WORLD」をリリース。現在は、RHYMEとのユニット・RHYME SOとしても活動している。

PORIN(ポリン)

2013年に東京で結成された男女ツインボーカルのグループ・Awesome City Clubでボーカル、作詞を担当。アパレルブランド・yardenのディレクター。2021年1月に公開された映画「花束みたいな恋をした」に本人役で出演した。Awesome City Clubは同年に「花束みたいな恋をした」のインスパイアソング「勿忘」を発表。この曲は各ストリーミングサービスで上位にランクインし続け、関連動画を含む総再生数は10億回を突破した。同年12月には自身最大キャパとなる東京・東京ガーデンシアターにて、ワンマンライブ「Awesome Talks One Man Show 2021 - to end the year -」を開催。さらに同年12月に「NHK紅白歌合戦」への初出場を果たした。2022年4月には4thアルバム「Get Set」をリリースし、約2年ぶりとなる全国ツアー「Awesome Talks One Man Show 2022」を開催する。

衣装協力 / ユリア イェンフィムチェック
ワンピース 48400円(税込)
中に着たトップス 26400円(税込)
タイツ、シューズは私物。
ショールーム ウノ:contact@showroom-uno.com

2022年2月11日更新