MO MOMA「Roll」インタビュー|メジャーとインディー、それぞれの経験を経て鳴らすエレクトロサウンド

2019年結成の4人組バンド・MO MOMAが配信シングル「Roll」をリリースした。

MO MOMAは、2018年に解散したLILI LIMITの土器大洋(G, Cho)、志水美日(Vo, Key)、黒瀬莉世(Vo, B)の3人に、ドラマーで映像制作も担当する高橋尚吾(Dr, Sampler)が加わる形で2019年に活動を開始。これまでサブスク型のオンラインスペース「WE WAVE」を活動の基盤としてきたが、今年1月に終了して新たな環境に身を置いて再始動した。

志水と黒瀬のツインボーカルが織りなすポップなメロディと打ち込みによる力強いビート、生とデジタルを融合させたサウンドデザインが印象的な最新作「Roll」は、バンドの新たな始まりを告げる1曲となっている。音楽ナタリーではLILI LIMITの解散からMO MOMA結成へと至った経緯、「WE WAVE」設立の理由、志向する音楽性から未来への展望まで、メンバー全員によるインタビューをお届けする。

取材・文 / 金子厚武撮影 / Yuki Kawashima

「まだバンドをやりたい」MO MOMA結成の経緯

──まずはMO MOMAの結成の経緯について話していただけますか?

土器大洋(G, Cho) LILI LIMITは2018年に解散が決まったんですけど、この3人(土器、志水、黒瀬)は「まだバンドをやりたい」という気持ちが強かったこともあって、僕から声をかけました。

志水美日(Vo, Key) バンドの解散が決まった日、帰り道でこの3人になって、その時点で次のバンドの話をちょっとした記憶がある。

黒瀬莉世(Vo, B) うん、話した記憶ありますね。

志水 なので「やりたい」という意志はすぐに固まったし、「3人という形もよくない?」みたいに盛り上がって。

土器 笹塚のスタジオでそれを自分から言った場面が今頭の中で思い返されました(笑)。解散が決まってから最後のライブまで半年くらいあったので、その間に少しずつ準備を始めて、2019年になって本格的に始動した感じです。

土器大洋(G, Cho)

土器大洋(G, Cho)

──LILI LIMITの解散発表のタイミングでは特に理由については触れていなくて、そのあとで志水さんや土器さんがブログで「人生観や音楽観の方向性の違い」と書かれていましたが、当時はどんな状況だったのでしょうか?

志水 メジャーデビューから1年くらい経っても思うような結果が出なくて、わりと悩んでいた時期があったんです。それで1回やりたいことをやり切ろうと思って、「LIB EP」というそれまでとはかなりカラーの異なる作品を出して。その先もがんばっていきたい気持ちがあったんですけど、その後の話し合いで結果的にバンドの解散が決まりました。

──LILI LIMITとしては区切りを付けることになったけど、音楽に対する意欲を失ったわけではなくて、だからこそすぐ次に移行したと。

志水 はい。なので、MO MOMAは延長線上的なところがあると思います。

土器 解散してソロでやるとかいろいろ選択肢はあったと思うんですけど、解散が決まってからの半年くらいで、この3人に謎の結束力が生まれていて(笑)。志水も黒瀬も僕がやりたい音楽にハマるプレイヤーだし、信頼もありましたしね。長くやってきてバンドが大変なのも十分にわかったから、新しい関係性の人とイチから集まって始めるのも考えづらかったし、自分をよく理解してくれてる2人に声をかけました。

──その3人に高橋さんが加わることになったわけですが、それはどういう経緯だったのでしょうか?

土器 最初はがっつりロックバンドって感じではなく、ドラムは打ち込みにして、コンパクトでミニマムなバンドがいいんじゃないかと思ってたんですけど、その中で「映像コンテンツを充実させたい」という意見が3人の中で一致して。それで近い世代のいいクリエイターを探してたときに、地元福岡のバンドの知り合いが高橋を紹介してくれて、いきなりDMしたんです。当時はexpctrにいたんだっけ?

高橋尚吾(Dr, Sampler) いや、もうexpctrは抜けてましたね。バンドに所属したい気持ちもありながら、1人でいろいろ音楽とか映像をやっていたら、いきなり土器さんからDMが来てびっくりしました。

高橋尚吾(Dr, Sampler)

高橋尚吾(Dr, Sampler)

土器 僕は一度expctrのライブを見たことがあって、そのときからサンプラーを使ったり、デジタルとアナログをかけ合わせながらやっていて、すごくいいプレイヤーだなという印象があったんです。なので、いいプレイヤーであり、映像もできるというのに惹かれて、すぐに声をかけて、実際に会って話してみたら、聴く音楽や考え方もすごく近くて。もともとドラムを入れるつもりはなかったけど、ドラム兼サンプラーみたいなポジションでやってもらってもいいんじゃないかなって。

志水 会ってみたら変な人だったんだけど、2人(土器と高橋)がすでにすごく盛り上がってたので、「いや、無理」みたいに言える空気じゃなくて(笑)。でも実際に一緒に制作を始めたらすぐに馴染んで、スッと4人になりましたね。

メジャーで経験したことを見直す

──MO MOMAは結成してすぐにライブ活動を始めるわけではなく、noteを使ったサブスク型のオンラインスペース「WE WAVE」を開設して、そこでデモ音源やトーク配信など、さまざまなコンテンツを発信していました。あのアイデアはどのように生まれたものだったのでしょうか?

志水 根っこにあったのは、それまでのライブとプロモーションの繰り返しに疲れてしまったということ。メジャーで経験したことを見直すというか、もっといろんなやり方があるはずだから、どれが自分たちにとって最善なのかを考えたくて、それで始めたのが大きかったと思います。もともと宅録バンドでもあったので、「家で何ができるだろう?」みたいなことを考えていて。当初はまだコロナ禍ではなかったんですけど、結果的にはより「オンラインで何ができるだろう?」という方向になっていった感じでした。

土器 MO MOMAはそれまでのバンド活動でキツかったことの反動で、何をするかを選んでる部分がけっこうあって。最初にドラムを入れずにやろうと思ったのも、ベースとドラムのグルーヴのすり合わせは本当に奥が深い作業なので、「そこは一旦すっ飛ばして同期でいいんじゃない?」という理由からだったんです。それにライブで地方を回るのもすごく大変だけど、ネットなら日本の端っこにも、なんなら海外にもすぐに届けられるんじゃないかとか、そういう狙いもありましたね。

──じゃあ、コロナ禍の影響はそこまで受けなかった?

土器 初めてやろうとしたライブが飛んだんだっけ?

志水 そう。2020年5月に初ライブをする予定だったんですけど、それは飛んでしまって。でも今思えば、完成度を上げてからライブに臨めたのでよかったのかなって。

──2021年3月の新代田FEVERでのワンマンが初ライブになったんですよね?

志水 そうです。その前に2本くらい決まってたんですけど、当時はまだ楽曲をどうやってライブで表現するかが固まってなくて、曲の数自体もあまりなかったので、そこからもう1年準備期間ができたのはよかったと思います。ただ、そうやって時間が空いたことによって、「元LILI LIMIT」という印象がだいぶ消えてしまったんですよね。ちゃんと忘れられたというか、ゼロから始まることになって、それがよかったのか悪かったのか……もしかしたらよかったのかもしれないなと少し思ったりしました。

黒瀬 それはライブを本格的にやるようになって実感したことで、たまたまライブで私たちのことを知って「え、元LILI LIMITなんだ」みたいな、そういう人がけっこう多くて。

黒瀬莉世(Vo, B)

黒瀬莉世(Vo, B)

──知名度という意味では振り出しに戻ってしまったのかもしれないけど、変なバイアスなしにバンドを見てもらえるのはいいことでもあるように思います。

土器 そうですね。イチからバンドに出会ってくれて、素直な感想をくれるのが心地いいというか、フラットに見てもらえるのはすごくうれしいです。

MO MOMAで表現したいサウンドとは

──音楽性に関しては、生楽器とデジタルの融合をLILI LIMIT時代から引き継ぎつつ、志水さんと黒瀬さんがツインボーカルになっていたりと、もちろん変化も大きくあるわけですが、作詞作曲編曲を担当する土器さんとしては、どのような青写真をお持ちでしたか?

土器 LILI LIMITの要素はもちろん引き継ぎつつ、ボーカルがドンと真ん中にいて、そのバックにサウンドがあるというよりは、歌もサウンドに溶けるような、シューゲイザー的な音楽も好きなので、MO MOMAではそういう音像をやりたいという軸が最初にありました。「Nights Wave Comes」はそのイメージが固まった状態で、MO MOMAとして初めてイチから作った楽曲です。逆に「L.O.E.A.」だったり、今回の「Roll」とかは、LILI LIMITの頃にすでにデモはあって、それをMO MOMAでやりたいサウンドに合わせてブラッシュアップした曲です。あとは、メッセージ性を強く感じさせないバランスの歌詞がいいなっていうのも考えてました。

──「WE WAVE」の最初のブログで「メッセージ性のない詞」や「肉体性を排除した音」にも挑戦したいということを書かれていましたね。

土器 「肉体性を排除した音」というのは、さっき言ったようなドラムとベースでのグルーヴのすり合わせを一旦排除するということで、もっとスクエアな感じでやりたいというのはありました。

志水 我々は人間性的にも熱くなったりするのを恥ずかしがるタイプなんですよ。いわゆるロックバンドの熱い感じもカッコいいなとは思うんですけど、自分たちには似合わないし、できない。そうじゃないほうがわりとすんなりできるから、そっちを突き詰めようという。

志水美日(Vo, Key)

志水美日(Vo, Key)

──ちなみに、サウンドメイクの部分において、MO MOMAが始動してからの3年半の間で、影響を受けたアーティストやプロデューサーはいますか?

土器 「Nights Wave Comes」に関しては、LILI LIMITの頃からずっと好きなThe Naked and Famousのような広い音像に影響を受けてると思います。あとはカシミア・キャットとかムラ・マサとか、オルタナ要素としてはBattlesの音像にも影響は受けてるかな。「この耳触りが気持ちいい」とか「この音色聴いたことない」とか、そういうのに影響されてトラックを作ることが多いですね。あとBloc Partyの2ndアルバム(「A Weekend in the City」)にはずっと影響を受けていて、「プロデューサーが入ったロックバンド」という、インディーズ感が出過ぎない、あの音像のバランスはずっと好きなんです。