ももいろクローバーZインタビュー|ももクロの歴史を彩るアニメタイアップ曲

日本の女性アイドルシーンにおいて不動の地位を築き、結成から15年以上が経つ今も新たなファンを獲得し続けているももいろクローバーZ。その歴史の中で、彼女たちの活動に新鮮な彩りをもたらし、モノノフ(ももクロファンの呼称)への入り口を作り続けていたのが、アニメ作品とのタイアップ楽曲の数々だ。

「美少女戦士セーラームーン」「ドラゴンボール」「クレヨンしんちゃん」「ちびまる子ちゃん」といった国民的作品のタイアップに起用されてきたことからもわかる通り、初期からコンセプチュアルな音楽性やビジュアルを武器にしてきたももクロはアニメとの親和性が高い。今年も「転生したらスライムだった件 第3期」オープニング主題歌第2弾の「レナセールセレナーデ」と、「甘神さんちの縁結び」のオープニングテーマ「やわく恋して ~ずっと僕らでいられますように~」がリリースされ、アニメ作品とももクロ双方に新鮮な相乗効果が生まれた。音楽ナタリーではももクロの4人にインタビューし、アニメ作品との関わりの中で得たものや、今年リリースしたアニメソング2曲の印象について語ってもらった。

取材・文 / 西廣智一撮影 / YOSHIHITO KOBAヘアメイク / チエ(KIND)、竹内美紀代(KIND)、横山藍(KIND)、RIKO(KIND)スタイリスト / 藤井希恵(THYMON Inc.)

国民的アニメの楽曲を歌ってきたのは「今でも不思議な感覚」

──ももクロは2010年にキングレコードに所属して以降、アニメの主題歌や作品に関連する楽曲を多数発表しています。

佐々木彩夏 確かに、いろんなアニメの主題歌をやらせていただいてきました。

高城れに 「モーレツ宇宙海賊」や「ヨスガノソラ」を観たあとにももクロのことを「テーマソングを歌っている子たちだ!」と認識して、そこからファンになってくれたという話も聞きますし。

玉井詩織 深夜アニメから国民的アニメまで、本当に幅広く主題歌を歌わせていただているよね。とはいえ、ファン以外の方の中にはまだももクロとアニメとのつながりがあまりピンときていないという人もいるみたいで、たまにアニソンフェスに出させてもらうと「あれっ、これももクロが歌ってたんだ!」という反応をいただいたりするんです。そうやって楽曲がアニメファンの方に届いていたり、国境を越えて海外の方にも聴いてもらえたりしているので、アニメのおかげでももクロの曲が広まっているという印象があります。

玉井詩織

玉井詩織

佐々木 ももクロのメンバーカラーをわかりやすく色分けしているところだったり、それこそ今回の「やわく恋して ~ずっと僕らでいられますように~」にある4姉妹感……テレビアニメ「甘神さんちの縁結び」に登場するのは3姉妹ですけど、そういうところを通じて、私たちの特徴をいろんなアニメのキャラクターと照らし合わせて楽しんでくださっているんだと思います。

──そんな中でも「クレヨンしんちゃん」や「ちびまる子ちゃん」という誰もが知る国民的アニメに関われているのはすごいことですよ。

玉井 それに「ドラゴンボール」や「美少女戦士セーラームーン」も。信じられないですよ。どれも自分たちが幼い頃から観ていたアニメだったので、そこに主題歌という形で携わらせてもらうというのは想像してなかったです。

佐々木 どれも生活の一部としてずっと観ていたアニメなのに、そこから自分たちの歌声が流れてくるのはうれしいと同時に、今でも不思議な感覚です。

百田夏菜子 「おどるポンポコリン」のももクロバージョンは、「ちびまる子ちゃん」で何年にもわたって使ってもらっていますし。しかも「ももいろクローバーZ feat. まるちゃんと仲間たち」名義で歌わせていただいたんですけど、「ちびまる子ちゃん」でそういう形のコラボをするのは珍しいことですし、長く使っていただけることも含めて改めてうれしいです。今のちっちゃい子たちは私たちが歌う「おどるポンポコリン」を聴いて、これがまるちゃんの主題歌なんだと認識しているわけですもんね。そして大人になってからも、子供の頃の思い出の中に私たちの歌がある……本当に想像するだけですごいことだなと実感します。

百田夏菜子

百田夏菜子

いつも以上に柔らかくて甘い雰囲気のももクロ

──初期の頃と今とで、アニメのタイアップとの向き合い方や意識に変化はありますか?

玉井 昔は主題歌のお話をいただいたとき、シンプルにうれしいという気持ちが強くて。もちろん今もアニメの話をいただくととてもうれしいですが、それと同時に……例えばこの間の「転スラ」(「転生したらスライムだった件」)みたいにシリーズとして長く続いている作品で、前期主題歌のファンの方が多くいるような場合だと、そういった方々が私たちの曲を受け入れてくれるかどうかという緊張感みたいなものが、より大きくなってきました。

高城 確かに。

百田 だから、今のほうが怖いです。お話をいただくたびにドキドキしちゃう。

──これまでももクロが歌ってきたアニメのタイアップ曲も、今回の「やわく恋して ~ずっと僕らでいられますように~」も、作品との親和性はしっかりと高いのに、それでいてどの曲もしっかりももクロらしさを突き通している。その軸のブレなさが毎回気持ちいいなと思います。

百田 例えばアルバムの楽曲ではいつもの雰囲気をあえて消すようなアプローチの仕方をすることもあるんですけど、アニメの主題歌はわりと「ももクロらしさ」を求めていただくことが多い気がします。

高城 今回は特撮さんが楽曲提供してくださったんですけど、特撮のNARASAKIさんには初期からももクロに関わっていただいているので、「ももクロらしさ」とアニメの特徴が交わる部分がうまく表現されたんじゃないかなと思います。

──それにしても、ソフトな曲調と「作詞:大槻ケンヂ / 作曲:NARASAKI」というクレジットにかなりのギャップがあって。いい意味で想像と違った楽曲で、最初に聴いたときはびっくりしました。

佐々木 びっくりしますよね。

高城 かわいらしくて優しいっていう。

百田 大槻ケンヂさんは「労働讃歌」(2011年発表の6thシングル)の印象が強いですもんね。

玉井 うん。カッコいいイメージがあるから。

──皆さんはこの曲を最初に聴いたとき、どういう印象を持ちましたか?

百田 ここから物語が始まる、という期待が高まるようなイントロをまず好きになりました。明るさや優しさもあって、そこからどんどん元気な感じに展開していくのかなと思っていたら、そのまま落ち着いた雰囲気が続いて。そこがすごく新鮮でした。

佐々木 アニメの要素も歌詞の中にしっかり入っています。私たちはこの作品がどういう結末を迎えるのかをまだ知らないので、曲を聴きながら視聴者の皆さんと同じように「このキャラクターはこうなるのかな、こんなことを言うのかな?」といろんな妄想を膨らませているところで。そういう意味でもすごくワクワクさせられる曲だなと思いました。

佐々木彩夏

佐々木彩夏

高城 「甘神さんちの縁結び」の原作マンガを読ませていただいたんですけど、それを踏まえて歌詞を読むと、自分が主人公の(上終)瓜生くんになったような気持ちで楽しむことができました。私もかわいい女の子が大好きなので、「じゃあ自分は誰を選ぼうかな?」とか「この先みんなにどんな幸せが待っているのかな?」と、聴きながらニヤニヤしちゃうところもあって(笑)。あと、単に恋愛だけじゃなくて姉妹愛の部分もいろいろとリンクしていて、温かい曲だなと思いました。

玉井 私も大槻さん、NARASAKIさんが作ってくださったという情報を先に頭に入れてから曲を聴いたので、まずこの意外な曲調に驚きました。特に私は、曲中に出てくるブラスがすごくお気に入りで、落ち着いた雰囲気の中でワクワク感を与えてくれるので、聴いているだけでテンション上がります。

──レコーディングはいかがでしたか?

玉井 全体的に柔らかい雰囲気なので、歌い方もいつもよりも柔らかくできたらいいなと思って。例えば、恋愛のドキドキ感とかワクワク感を表すというよりは、もうちょっと落ち着いた大人の恋愛みたいな。ももクロって恋の歌が意外と少ないんですけど、今の年齢だからこそ表現できる大人の柔らかさもあるのかなと思って、そこは歌う際にかなり意識しました。

──普段のももクロの楽曲よりも、かなり甘めに歌っている印象があります。

玉井 レコーディングのとき、NARASAKIさんがディレクションしに来てくださったんですけど、「全体的に力を抜いて歌っていいよ」と言われて。今までは強いアタックやエッジを付けて歌うことが多かったのに対し、今回は「もうちょっと平坦に歌っていいよ」という感じだったんです。いつもはサビで4人の声が重なって歌が力強くなったりしますが、この曲ではサビでみんなの声が重なると……明るさはあるものの、いつもに比べたら柔らかくて甘い雰囲気になっていると思います。

高城 歌詞にも強い言葉が入っているわけではないので、それと相まって丸みのある歌い方になったのかな。

高城れに

高城れに

佐々木 サビの「甘神でいて」のメロディもすごくアンニュイな感じだし。いつもだったら最後はきっぱり言い切るような歌い方で盛り上がって終わる印象が強いけど、このふわっとしたサビ終わりはももクロ的にはちょっと珍しいかも。

玉井 そのふわっとした絶妙な音程が、実は難しくて。

百田 わかる。NARASAKIさんは「音程をしっかり取らなくていいよ」と言ってくださったんですけど、その滑らかに音程を取る感覚をつかむのがすごく難しいんです。私たちはハキハキ歌うことが多いし、レッスンやライブでもスポーツするような感覚で臨んでいるところがあるけど、この曲はどちらかというとストレッチしながら歌っているような感じかもしれない。

玉井 あと、私が歌う「途方に暮れるの」というパートは、もらっていた音源の段階では音程が確定していなくて。「当日NARASAKIさんが音を決めます」とスタッフさんから言われていたんですよ。

佐々木 え、そうだったんだ。

玉井 だからレコーディング前に「ここは覚えなくていいよ」と言われていて、それが逆に不安だった(笑)。最初の段階では完成した音源よりももうちょっと語尾の音が動いていたんですけど、アンニュイさや平坦な感じを出すために、レコーディング当日に全部同じ音になったんです。

高城 さっき聴いてて、ここ歌うの難しそうって思った。

玉井 確か、レコーディングは私が最後だったのかな。ほかのメンバーの声が入った状態の曲の雰囲気を踏まえて、最終的なメロディを決めたかったみたいです。

ももいろクローバーZ

ももいろクローバーZ

百田 私も事前にメロディが決まってないパート、ありました。レコーディング当日にブースで何パターンか歌って、「じゃあこれにしようか」という感じで決まったパートもいくつかあったし。でも、それって私たちの声を聴いて何がいいか、この曲とどれが合うのかを調整しているということなので、ちゃんとももクロのこともアニメのことも考えて曲を作ってくださっているんだなと感じました。