歌詞1つひとつの解釈は個人に委ねられている
──「momo」の次には、気鋭のシンガーソングライター / トラックメイカーであるMomさんが手がけた楽曲「なんとなく最低な日々」が収められています。
玉井 別に最悪ってわけじゃないんだけど、なんとなく今日ついてないなとか、気分が乗らないなという日が人には生きているとあると思うんですよ。「なんとなく最低な日々」はそういう誰もが経験したことがある日常を歌った曲ですね。
──インパクトの強い曲名ですが、歌詞は前向きな内容になっていますね。
玉井 歌詞の中に「2022年」というワードが入っていますが、誰も経験したことがない時代が今続いているし、思い通りいかない日々を過ごしている人も多いと思うんですよ。今の時代を生きる人みんなが共感できる歌詞がこの曲には多いんじゃないかな。サビに「どんな顔をすればいいか分からなくなっていくよ 嬉しいときも楽しいときも」という歌詞があるんですけど、これはコロナ禍でのマスクのことを歌っているのかなと、私はそう思いながら歌っています。このコロナ禍で出会った人たちって顔の半分がわからないわけですよね。もはや自分も今どんな顔をしているのかわからないし、マスクは自分を守るためのものではあるけど、人との壁になってしまっている部分もある。そういう日々の中で深く息を吸い込んで、今できることをやって強く生きていかなきゃいけないというメッセージがこの曲には込められていると思います。
──新曲が届くと、いつもそのような感じで歌詞を読み解いているんですか?
玉井 曲をもらったタイミングで歌詞を読んで解釈することもあれば、レコーディングやライブで歌いながら「こう解釈ができるんだな」と感じて、曲に対する印象が変わっていくこともありますね。曲のコンセプトについてはレコーディングの前に説明を受けることはあるんですけど、歌詞1つひとつの解釈は個人に委ねられているところがあって。メンバーによって感じていることが違うだろうし、作詞した方からしたら私たちの解釈に「全然違うよ。そんな意味じゃないよ」と思うこともあるかもしれないけど、私は歌うたびに「こうなのかな」と考えるのが楽しいです。
ももクロの楽曲で表現の幅を広げたい
──最後に、眉村ちあきさん提供のバラード曲「手紙」について話を聞ければと思います。
玉井 アルバムの中で唯一のバラードですね。眉村ちあきちゃんは同世代の女の子なので、アルバムに参加していただいた方の中では気持ち的に一番近い存在です。
──Momさんも20代の方ですが、同世代のクリエイターと一緒に仕事をする機会がどんどん増えてますよね。
玉井 中には自分たちより若い子もいるし、そういう人たちの才能ってすごいなと思います。作曲という自分ではできないことを担ってもらい、私たちが歌で表現するというのは、一緒に作ってる感じがして楽しいですね。
──眉村さんとの接点はフェスで競演したくらいですか?
玉井 フェスでお会いして、そのあと「ももいろ歌合戦」(ももクロが毎年大晦日に開催している年越しカウントダウンイベント)に出ていただいたくらいなので、ちゃんとお話ししたことがあるわけではなくて。でも、「手紙」には共感できる部分が多いなと感じました。今の自分が過去の自分に問いかけているような歌詞になっていて、積み重ねてきたものが今の自分を作っているというメッセージが込められているんです。それに、今の自分も未来の自分からしたら過去なわけですよね。私のパートに「未来の自分に 手紙は書けそうですか?」という歌詞があって。自分に対して「最高の今を作れました!」と誇れるのかと聞かれたら、みんな「どうなんだろう?」と疑問を抱くかもしれないですが、今を精一杯に生きていくと、それが積み重なって未来の自分を作っていくということがストレートに伝わる歌詞だと思います。
──眉村さんならではの言葉選びで曲のメッセージが表現されてますね。
玉井 誰もが考えるようなことが真を突いた言葉で表現されているというか。いいことだけの人生が一番なのかもしれないけど、この曲は悔やみとか妬みとか、自分のマイナスの感情を肯定してあげる歌詞になっているなって。「手紙」を聴いて勇気をもらえる人は多いと思います。
──玉井さん自身はメンバーや同世代のアーティストから刺激を受けて、自分でゼロから何かを表現してみようと思うことはありますか? ももクロの中では玉井さんだけ一度もソロコンサートを開催していないですが。
玉井 うーん、私はももクロのライブでも十分に表現できていると思うんですよ。別にソロコンを絶対にやりたくないわけじゃないんですけど、逆にソロコンをやるのが当たり前という考え方もちょっと違うなと自分の中では感じていて。自分で表現したいもの、自分で作り上げたいものがはっきりとできたときにやるものなんじゃないかな。それで言うと、私は自分自身で何かを作って表現するというよりは、ももクロの楽曲で与えられたものや、お芝居のお仕事で与えられたものを表現するほうが今の自分に合っているから、そっちで表現の幅を広げていきたいですね。
──ここ数年は特に、バラエティ番組をはじめ個々の活動を追うのが大変なくらいいろいろなお仕事をされてますよね。
玉井 はい、ありがたいことに。でも、決してこなしているという感覚はなく、どのお仕事に関しても今の自分に求められていることや、私自身が興味を持ったことをただ楽しんでます。バラエティ番組もみんなで1つのものを作っていく、チームプレイという意味ではももクロの活動に通ずるものがありますし。
──なるほど。ではインタビューの最後に「祝典」がどんな1枚になったか、アルバム全体の紹介をお願いします。
玉井 今の時代、ホントにおめでたいことでも「祝う」という行為に対して恐縮して、後ろめたく感じるような空気感がある気がしていて。それを心苦しく感じている人もいるだろうし、そういう方々の心の支えになって寄り添えるような曲がアルバムには詰まっていると思います。あと、やっぱりももクロの14年の歴史がないと歌えない曲、20代後半になった自分たちだからこそ歌える曲ばかりで。「祝典」は世の中の状況、グループの歴、自分たちの年齢のタイミングすべてが合致した1枚になっていると思います。
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佐々木彩夏インタビュー