ナタリー PowerPush - 百々和宏
タナカカツキと異色対談 初ソロアルバム「窓」
部屋にいながら違う場所にいる感覚(タナカ)
──窓っていうのはどこから発想されたんですか?
タナカ まあ部屋だから「窓」ですよね。部屋って描いてて面白いものってなかなかないんですよ。結構具体的なものになっちゃうんで。でも窓ならどんな部屋にもあるし、まあ窓さえ描いておけば部屋に見えるだろうっていう(笑)。
百々 がっはっはっは!(笑)
タナカ でも、それもやっぱり音を聴いたからだと思いますよ。自分の意識しないところで、聴いて感じたことが手先から出ることはあるから。だからアルバムタイトルが「窓」になったと聞いて、ああなるほどと思いました。この異世界感を言葉にすると「窓」なんだっていう。こっちと向こうの世界を隔てる、つなげる距離が「窓」なんだって。
──窓越しに向こうの世界を見る。
タナカ 窓から出ていくのか、窓から来るのかわからないですけど。そういったイメージがあったんですよ。曲を聴いてね。だから窓を描くことになんの違和感もなかった。
──弾き語りのソロというと、日常的な感覚をイメージしがちですが、むしろそういう異世界感のほうを強く感じたと。
タナカ そうかもしれないですねえ。部屋にいるんだけど、どこか意識が飛んでるっていう。だからこれは自分でも気に入ってるんですよ。部屋にいながら違う場所にいる感覚。それが自分の中では(アルバムのイメージに)一番近いと思いますよね。なんか(絵の中の人物が)死んでるんじゃないかっていう(笑)。
百々 これは素晴らしいですよねえ。
タナカ でもちょっと怖いので(笑)。
百々 多分アナログ盤で出すのなら、これ(部屋の絵)になったと思うんです。でもCDサイズだから顔のアップになって……。
マネージャ- 1点だけ中ジャケに使ってますね。
完成形は氷山の一角に過ぎない(百々)
──結構数をお描きになってますが、どれぐらい時間がかかるものなんですか。
タナカ すごい時間かかってます……と言いたいですが(笑)、一筆描きに近いですね。でも、描く気持ちに持っていくまでの時間を入れると、相当かかりますよ。線に人生出ますからね(笑)。40年以上かかってますよ!
百々 わはははは!(笑)
──ああ、この線を出すまでに、これまでの一生をつぎ込んでると。
百々 ああ、その言い方はいいなあ。歌詞を書いてるとき「何割書けた?」って訊かれるのが一番ツライんです(笑)。歌詞の完成型は氷山の一角に過ぎないのに。
──それまでの人生の膨大な蓄積の末にできるものだから。
百々 そうそう。だからこの絵を見て、本当にうれしかった。それら全てを含めて理解してくれてるんだって。
タナカ ありがとうございます!
──そもそもなぜイラストのジャケにしようと思ったんですか?
百々 それはねえ、写真にするのが怖かったんですよ。
──怖い?
百々 写真って、まあ加工はいろいろするんでしょうけど、パキッと出ちゃうじゃないですか。結構僕、作りながら「こんなに暗くて大丈夫かな?」とずっと思ってたんですよ。だから写真にすると結構ベタすぎるというか、カッコつけになっちゃう気がしたんですよ。駅のホームのベンチでギターケース置いて座ってるとか、絶対やりたくなかった。「狙った情感」というか、そういうのはいやだった。
──なにもかもがはまりすぎ、キメすぎみたいな。
百々 そう。だから絵がいいなとは思ったんです。それで肖像画って話になって、この人で大丈夫かと思ったら、最高のものができたっていう。
モーサムとは違う、自分でずっと聴ける作品に(百々)
──今回の作品はモーサムとは対照的ですけど、でもソロをやる必然性みたいなものが感じられる仕上がりですね。
百々 このアルバム、自分でずっと聴けるものにしたかったんですよ。例えば……天気のいい朝にニール・ヤングの「ハーヴェスト」を聴いて、ああ今日もいいことありそうだな、みたいな、そういうフラットな気分で、このアルバム聴きたいなって。モーサムじゃ絶対できないんで(笑)。無意識のうちにそういうテーマを設けてたんですね、どうせソロ作るなら、自分が聴きたいものを作ろうと。でもモーサムはそうじゃない。自分が聴きたくない、あとから聴き返したくないっていうのを突き詰めたほうが絶対いいものになるから。
──ああ、その場を燃焼するという。
百々 うん、ガシャーンと。投げっぱなしでいいやと。じゃあソロはその真逆で、何年経っても聴けるものにしたいなと思ったんですね。いわば今回はマンガ家さんの仕事に近いかもしれないですね。バンドは相手がいるんで、武道みたいなもので。
タナカ マンガの仕事ってフィニッシュまで自分1人でやるんで、今回みたいに人と一緒にやる仕事って、そういう意味では楽しいですね。
──全部自分1人で完結する世界と、相手も満足しないと成り立たない世界。
タナカ そうですねえ。打ち合わせがあるっていうのがワクワクしますね(笑)。でも音楽関係の仕事も、最近はCDジャケットとか、だんだんなくなっていくじゃないですか?
──音楽配信の普及で。
タナカ 音楽とグラフィックって、昔はもっと一体化してたじゃないですか。それがだんだん離れていってしまうのは寂しいですね。音楽も絵も書籍もデータ化されることで、そこに新しい鑑賞の仕方、融合の可能性があるような気がしますけど、CDはCDの良さがある。
──まさしく音とビジュアルが一体になって訴えてくる作品ですね。
百々 だから今回の作品も、ぜひCDを手にとって、ジャケットを眺めながら聴いてほしいですね。
LIVE INFORMATION
百々和宏とテープエコーズ
「社会の窓ツアー」
- 2012年5月18日(金)
東京都 新宿風林会館ニュージャパン
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2012年5月26日(土)
大阪府 digmeout ART&DINER
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2012年5月28日(月)
福岡県 VOO DOO LOUNGE
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2012年5月29日(火)
愛知県 名古屋APOLLO THEATER
OPEN 18:30 / START 19:00
チケット:前売3500円(税込 / ドリンク別)
オフィシャルサイト先行受付:
2012年4月25日(水)~ ※先着
一般発売:2012年4月28日(土)
百々和宏(ももかずひろ)
MO'SOME TONEBENDERのボーカル&ギターを担当。1997年の結成以来、バンドのフロントマンとして多くのロックファンを魅了する。無類の酒好きでも知られ、雑誌の連載コラムをまとめた「泥酔ジャーナル」「泥酔ジャーナル2」の著書もある。2012年4月、初のソロアルバム「窓」をリリース。
タナカカツキ
1966年大阪生まれのマンガ家、映像作家。マンガ家としての代表作に「バカドリル」「オッス!トン子ちゃん」「ブッチュくん全百科」などがある。その他映像作品やも多数手がけ、アーティストとして幅広いジャンルで活躍。音楽にも造詣が深く、クラムボンのビデオクリップやキリンジのアートディレクションなども担当。近作はサウナを題材にしたマンガ&エッセイ「サ道」。