mol-74「OOORDER」インタビュー|“変わらないmol-74”と“新しいmol-74”が詰まった充実作

mol-74が2ndフルアルバム「OOORDER」(オーダー)を3月2日にリリースした。

本作には、バンドにとって初のタイアップ作となったアニメ「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」のエンディング曲「Answers」、アニメ「ブルーピリオド」のエンディングテーマ「Replica」をはじめとする全12曲を収録。まさにハレーションをイメージさせるようなまばゆいファルセットが絶妙な「Halation」、音の反響具合で鏡を連想させる「ミラーソング」など、彼らならではの繊細さが際立つ映像的なナンバーも充実している。

音楽ナタリーでは、mol-74のメンバー全員にインタビューを実施。自分たちでも大きな手応えを感じているという、新たな境地を切り開いたニューアルバムについて、たっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 田山雄士撮影 / 藤川正典

挑戦を続けた3年間の集大成が完成

──すごくいいアルバムですね。前回のインタビュー(参照:mol-74「Answers」インタビュー)で武市さんが「音楽を楽しむことを大切にしたい」というような話をされてましたけど、そんな姿勢も強く出ている作品だと思いました。

武市和希(Vo, G, Key) ありがとうございます。確かに、楽しみながら自分の気持ちもストレートに出せたというか。やり切った感じは強いですね。

武市和希(Vo, G, Key)

武市和希(Vo, G, Key)

──できあがってみての手応えはいかがですか?

坂東志洋(Dr) 現段階でできることを全部出せたと思います。これまでは武市の曲がメインだったんですけど、今回は髙橋やトゥン(井上)さんが作った曲も入っているので。そういう初めての試みが盛りだくさんで、何かと楽しかったですね。

髙橋涼馬(B, Cho) mol-74はメジャーデビューしてもうすぐ3年が経つんですけど、この期間における変化が伝わるんじゃないかなと。環境が変わって、自分たちからも変化を起こそうとトライして、いろんな試行錯誤が詰まったアルバムになったと思っています。作曲者が増えた結果、どうバランスを取るかとか。そのあたりもすごく考えて、最終的に納得のいく作品に仕上げられました。

井上雄斗(G, Cho) コロナ禍において、音楽への向き合い方を改めて考えさせられたのも大きかったですね。この間で自分たちなりに見つけた答えや感じたことを反映できたアルバムになりました。気分が落ち込んでいろんな人に迷惑をかけてしまった時期もある分、状態を元通りに戻すだけじゃなくてプラスまで持っていきたかったんです。「あのときがあったから、今こうなれてるよ」みたいなメッセージを、メンバーをはじめとする身内にも、聴いてくれる方たちにも放てるくらい。

武市 インディーズでやっていたことをそのまま続けるんじゃなくて、やっぱりもっと挑戦したかったんですよね。メジャーデビュー以降は“挑戦”をテーマにずっと活動してきたような気がしていて。髙橋も言った通り、まさに3年間の軌跡が詰まった、バンドの歴史が感じられる仕上がりだと思います。写真をまとめた“アルバム”に近い印象かな。

──挑戦や変化の記録と言える、ひとつの集大成になりましたよね。

武市 これまでの3枚のEP「Teenager」「Answers」「Replica」を通して、新しいことをやっていくこと、アプローチの幅を広げることをめちゃくちゃ意識してきましたからね。あとは、ポップさも前より増した気がします。

──ポップな面を出すことは怖かったりもしましたか?

武市 いや、案外そうでもないんですよ。mol-74の音楽は北欧ポストロック的と例えていただくことが多かったりして、僕らも北欧系のサウンドを好んで聴いてはいるんですけど、もともとはASIAN KUNG-FU GENERATIONやELLEGARDEN、Base Ball Bearといった日本のロックに憧れてバンドを始めた人間なので。初期の頃なんて、ライブハウスのブッキングの方に「君たちはほとんどアジカンだね」と言われていたくらいですから(笑)。

──むしろ、今のほうが着飾ってないというか。

武市 そうですね。武市和希のバックボーンを踏まえると、すごく自然なアウトプットなんです。北欧っぽい世界観の踏襲を好む方はもしかしたら若干の違和感を抱くのかもしれないけど、僕たちは変わっていきたい気持ちが強くあるわけだし。わかりやすいところだと「Teenager」かな。こういう曲のポップさやメロディの人懐っこさも、紛れもなく自分らしいものなんですよね。

多くの人に当てはまるコロナ禍の葛藤

──「このまま 何処へ向かうのだろう」と始まる冒頭の「深青」(しんせい)から、すごく内省的な色も濃いアルバムですよね。「ミラーソング」では「なりたかった自分になれてるだろうか なれなかった自分に慣れてはいないか」と歌っているし、「Replica」も自らと向き合うことがテーマにあったりして。

武市 そこも今作の大きな特徴だと思います。僕らの場合、メジャーデビューの1年後にコロナ禍が起こったわけですが、初めての状況で必要以上に悩むことも多くて。自分自身を見つめ直す時間がすごく増える中で、歌詞にも葛藤がそのまま出てくるようになったんです。アルバムを作るにあたっては、風景や季節にまっすぐスポットを当てた、これまでのmol-74らしい楽曲を収録する案もあったんですけど、それを入れると逆に浮いちゃうと言いますか。振り返ってみれば「Teenager」「Answers」「Replica」でも心のことを歌ってきたし、だったら自分の内面を正直に出すほうが統一感が生まれる気がしたんですよね。

──なるほど。

武市 個人的なことをただ単に書き連ねるみたいな曲だとすごくパーソナルなものにしかなり得ないけど、僕が抱えているような葛藤はコロナ禍で多くの人に当てはまるテーマなんじゃないかなとも思いました。もはやミュージシャンに限った話ではなく、2020年のあのタイミングから誰もが「自分って何なんだろう?」と考え始めて、社会全体としてそうなった感じがある。それをひとつの景色と捉えたら、自然とこの方向性に向かってましたね。

井上 狙って作るようなメッセージも大切だけど、それよりも本当に歌いたいこと、自然とにじみ出てくる言葉のほうが説得力があるなと思っていて。歌詞を見せてもらったときは、武市が悩んでいるのももちろん伝わってきました。でも、気持ちが乗っかった、自分の心をちゃんとさらけ出したものを書いてきたなという印象が強かったです。

髙橋 サウンド面はもちろんなんですけど、歌詞でも武市さんは今までの方向性とは違う部分に足を踏み入れて模索してましたね。一緒に過ごしてきた時間も長いから、共感できる部分もすごくあって。いい変化だなと思います。

坂東 僕も共感ポイントがたくさんあったので、似たような悩みを抱えている人にも響く気がしますね。

──内面と向き合ったアルバムとはいえ、ネガティブな印象は受けなかったです。ポジティブなところへ浮上するために、深く潜る必要があったんだろうなって。

武市 そうですね。アルバムの曲順でまず決まったのが、「深青」を1曲目にしようってことなんですよ。これはトゥンさんが曲を作ってきてくれたんですけど、最初に聴いた時点ですごく沈んでいくイメージ、しかも心の中を思わせるような感じがあったので、そこを起点に全体像を考えていきました。いろんな曲がただただ並んだコレクション集みたいなものは好きじゃないし、やっぱりストーリー性を持たせたアルバムにしたくて。細かく言うと、冒頭の「深青」で潜ってから7曲目の「鱗」までは沈んでいるイメージ。「鱗」で自分が纏っていたものをいよいよ全部取っ払って、8曲目の「ニクタロピア」以降は浮上していく流れを意識しています。

──ちなみに「深青」のほかに武市さん以外のメンバーが作った曲というのは?

武市 「Renew」と「鱗」が髙橋の作曲で、「リマインダー」はトゥンさんの作詞作曲です。

──手元の資料にクレジットがなかったのでお聞きしたんですけど、音源だけでは誰がどの曲を書かれたのかがまったく判別できなくて、全曲がうまく馴染んでいるなと思いました。

井上 おお、それはめっちゃうれしい感想です!

井上雄斗(G, Cho)

井上雄斗(G, Cho)

武市 そう言っていただけてホッとしました。バンドはもう結成12年目で、ここまで長くやっていると手癖が出てくるというか、凝り固まってくる部分があったので、曲の作り方を変えることに挑戦してみたんです。でも自分の中ではさっきのポップさ云々の話よりも違和感がすごかったんですよ。2人が作ってきてくれた曲も「これはmol-74なんだろうか?」と思ってしまうくらい。

──今までは武市さんが基盤を作ることがほとんどでしたもんね。

武市 はい。僕は歌うメロディを誰かに作ってもらうとか、mol-74以外のバンドを組んだ経験もないんです。だから、ここに来て自分の考えを根底から覆すほどの、かなり大胆なことをやった感覚があって。そういう迷いも経て完成させたアルバムだけに、今の言葉でちゃんとmol-74になっているんだなと自信が持てました。結局、誰が大元を作ったとしても、坂東のドラム、髙橋のベース、トゥンさんのギター、武市の声がそろったらmol-74になるんでしょうね。