音楽ナタリー Power Push - 水樹奈々

15周年を飾る15のアンセム

好きになったら止められない!

──そして6曲目が「Angel Blossom」のカップリング曲「レイジーシンドローム」ですが……ここまで休む間もない怒濤の展開で、濃い楽曲の連続なんですよね。

メインディッシュがずっと続くコース料理みたいな。うふふふ(笑)。

──この曲は歌詞が随所に韻を踏んでいて、かつラップのようなフレーズも飛び出すという。

この曲は、アコースティックライブのリハーサルで静岡に向かっているとき、新幹線の車内で届いた曲で。三嶋さんが「この曲面白いよ! お奈々、ちょっと聴いてみて!」と大興奮でイヤフォンを渡してきて、私も一発で気に入りました。ラップと言えば、私は2ndシングルの「Heaven Knows」(2001年4月発売)でチャレンジして以来、触れる機械がなく。実は仮歌は作曲のヨシダ(タクミ / phatmans after school)さんが歌われていて。このカッコよさは男性ボーカルだからこそかもしれないという不安も最初はあったんですね。でも女性向けのキーに変えてもらったら爽快感が加わって、ルーズで斜に構えた思春期特有のモヤモヤした感じだけではない、未来に希望を求めるような前向きさがプラスされたように感じて。

──歌詞はデモのままなんですか?

はい。歌詞も含めて気に入っていたので「このまま歌いたいです!」とお願いしました。

──濃い曲続きの中で、7曲目の「コイウタ。」はようやくホッとできる曲というか。

ここでほっこりしていただければ(笑)。

──ひと言目に出てくる「午前2時」というフレーズ、アニメ視聴者的にはゴールデンタイムですけど(笑)、深夜の物思いにふける静かな時間をそのまま音楽にしたような印象でした。

そうですね。どこかノスタルジックで温かいこのメロディから浮かんだのは、片思いのあのどうしようもない気持ちで。恋する気持ちをストレートに表現したラブバラードにしたいと思ったんです。しほりさんが私と組むときは濃い口で言葉の強い曲が多いのですが、実は彼女はラブソングを書くのが得意な人で。ご自身でもラブソングを歌われていますし、私の「星屑シンフォニー」(2012年12月発売の9thアルバム「ROCKBOUND NEIGHBORS」に収録。参照:水樹奈々「ROCKBOUND NEIGHBORS」インタビュー)という曲でもすごくキュートな歌詞を書いてくださっていたので、この曲もぜひしほりさんにとお願いしました。人を好きになる気持ちって、年齢性別問わず変わらないと思うんですよ。好きになったら止められない! その気持ちは大人になったらうまくコントロールできるかと言うと、全然できない。むしろ子供の頃のほうが「悟られたくないから」って変にカッコつけたり大人ぶったりしてたなあって。

──なるほど。

人によってアプローチは違うと思いますけど、包み隠さず「好きなんだよね」ってハッキリ言えるのは大人のほうかもしれないって思うんです。相手に対してというよりは、自分自身に対して素直に向き合うというか。この曲ではあえて比喩表現ではなく、ストレートに「好きだよ 好きだよ」と歌っていて、文字だけで読むと一見幼く感じるかもしれませんが、この潔さは今の年齢だからこそだと思うんですよね。

ジャパニーズソウル=演歌の血

──と、物思いにふけっているとすぐに「禁断のレジスタンス」が始まって……。

さあ、第2部が始まるよ!みたいな(笑)。

──アルバムではシングルと異なる「Extended Mix」になっています。

このバージョンは昨年の「NHK紅白歌合戦」で歌わせていただいたときと同じもので、ストリングスのみをバックに歌うところから始まるアレンジになっています。ロックと民族音楽を融合したサウンドは新たな試みで、それにチャレンジできたのは「クロスアンジュ 天使と竜の輪舞(ロンド)」という作品の世界があったからこそだと思うんです。また自分の可能性を広げてくれる作品に出会えたなと感謝しています。

──続く「The NEW STAR」はEDMともまた違う、面白い音像のダンストラックですね。後半に向けての展開は、どんな音作りになっているのか想像がつかなくて。

一番のチャレンジ曲です。ウイスパーボイスとかフェイクとかいろんな種類のコーラスを録って、ビートも複雑に絡んでいて。

──かと言って、無骨なEDMではなくどこか上品なダンストラックになっているのが面白いなと。

「女子たちの時代を始めよう!」という内容の歌詞なので、女性的なサウンドになるよう意識したんです。それが上品な感じ、身軽で華麗な表現につながっているのかなと思います。ちょっと強気な女の子が「男性だけに任せてられないわ!」みたいな。ダンストラックを入れたいと初めから考えていたんですけど、11枚目という新たな始まりのタイミングでもあるし、これまでとは違うものにしたかったんです。デジタルでハイパーな感じではなくあえてテンポを落として、メロディは直球だけど構成を面白く。

──ボーカルのソウルフルな歌い方も新鮮ですね。

はい。ただ「ソウルっぽく」とか「○○っぽく」にはしたくなくて、「ソウルを水樹奈々が歌うとこうなる」というイメージをちゃんと自分の中で消化して歌うことを目標にしました。私にはジャパニーズソウル、演歌の血は流れているので(笑)、面白い化学変化が起きるといいなと思いながら歌いました。

“タオル曲”と赤いサイリウム

──「Clutch!!」もやはり「これシングルやリード曲じゃないんだ!?」というほどキャッチーで。

水樹奈々

この曲は制作期限ギリッギリのタイミングで届いたんです(笑)。前向きで水樹らしい応援ソングだけど、今までとは違うテイストのものを求めていたんですね。そうするとなかなか「これだ!」と言えるものに出会えなくて。あと2週間でマスタリングを終わらせないと11月11日の発売に間に合わない……というタイミングで運命的に出会いました(笑)。

──ライブだと間違いなく盛り上がる1曲でしょうし、演奏するバンドの皆さんもきっと楽しいだろうなあと思いました。

早くライブで歌いたいです! エンディングはライブをイメージしたかき回しで。これは絶対にタオル曲にしたい!と思っているので(笑)、みんなでタオルを振り回しながら思いっきりジャンプして歌いたいですね。アンコールで走り回りながら歌っている姿を想像しています。

──次の「熱情のマリア」も同じくライブの場面が浮かぶのですが、こちらは会場一帯をサイリウムの光が包み込んでいるイメージで。

そうですね。「熱情」だからきっと赤いサイリウムなのかなあとか(笑)。

──マイナーコードで情熱的に歌い上げる“ザ・水樹奈々”な楽曲ながら、後半に行くにつれ今までになかった新しさも感じました。

はい。Dメロの掛け合いが今までにない構成になっていて。加藤(裕介)さんはいつも新しいエッセンスを組み込んで、私にチャレンジの機会を与えてくださるんです。途中でカラーが一気に変わる曲だから、歌詞を書くのは本当に苦戦しました。最初にデモを聴いたときは、昭和歌謡の……中森明菜さんのようなセクシーさや、山口百恵さんが大人の艶っぽい歌を歌うときのようなイメージが浮かんだんです。愛なしでは生きられないけど愛に振り回されてしまう女の性、みたいな。そういうイメージで歌詞を書き進めていったんですけど、Dメロは開放感のあるメジャーコードに展開していくから、どう構成したらいいんだろうって。

──ちなみに水樹さんがご自身で歌詞を書くのと作家さんに委ねるのとは、どういう基準で振り分けてるんですか?

直感です。この曲も第一印象で「三嶋さん、これは私が書きます!」って。苦戦して、結局仕上げるのに2週間近くかかってしまいましたけど(笑)。

ニューアルバム「SMASHING ANTHEMS」 / 2015年11月11日発売 / KING RECORDS
初回限定盤 [CD+Blu-ray] 3888円 / KICS-93297
初回限定盤 [CD+DVD] 3888円 / KICS-93298
通常盤 [CD] 3024円 / KICS-3297
CD収録曲
  1. Glorious Break(テレビアニメ「戦姫絶唱シンフォギアGX」挿入歌)

    [作詞:しほり / 作曲:上松範康(Elements Garden)/ 編曲:藤間仁(Elements Garden)]

  2. Never Let Go

    [作詞:松井五郎 / 作・編曲:山﨑佳祐]

  3. SUPER☆MAN(TBS「東京EXTRA」2015年11月~2016年1月度テーマソング)

    [作詞・作曲:Kon-K / 編曲:陶山隼]

  4. Angel Blossom(テレビアニメ「魔法少女リリカルなのはViVid」オープニングテーマ)

    [作詞:水樹奈々 / 作曲:光増ハジメ / 編曲:EFFY]

  5. BRACELET

    [作詞:藤林聖子 / 作曲:伊藤寛之 / 編曲:南田健吾]

  6. レイジーシンドローム

    [作詞・作曲:ヨシダタクミ(phatmans after school)/ 編曲:藤間仁(Elements Garden)]

  7. コイウタ。(TOKYO FM「水樹奈々のMの世界」エンディングテーマ)

    [作詞:しほり / 作曲:中野ゆう / 編曲:中西亮輔]

  8. 禁断のレジスタンス -Extended Mix-
    (テレビアニメ「クロスアンジュ 天使と竜の輪舞(ロンド)」オープニングテーマ

    [作詞:水樹奈々 / 作曲:加藤裕介 / 編曲:加藤裕介]

  9. The NEW STAR

    [作詞:板橋カナオ / 作・編曲:木村篤史]

  10. Clutch!!

    [作詞:平朋崇 / 作・編曲:光増ハジメ]

  11. 熱情のマリア

    [作詞:水樹奈々 / 作・編曲:加藤裕介]

  12. エゴアイディール

    [作詞・作曲:水樹奈々 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]

  13. エデン(「animelo mix」テレビCMソング)

    [作詞:水樹奈々 / 作曲:藤森真一(藍坊主)/ 編曲:藤間仁(Elements Garden)]

  14. アンビバレンス

    [作詞:中村僚 / 作曲:中村僚、中村友 / 編曲:中村友]

  15. Exterminate(テレビアニメ「戦姫絶唱シンフォギアGX」オープニングテーマ)

    [作詞:水樹奈々 / 作曲:上松範康(Elements Garden)/ 編曲:藤間仁(Elements Garden)]

初回限定盤 Blu-ray / DVD収録内容
  • 未公開ライブ映像集

    LIVE ATTRACTION 2002 at 東京国際フォーラム ホールC
    「アノネ~まみむめ☆もがちょ~」
    「LOVE&HISTORY」

    LIVE SENSATION 2003 at 渋谷公会堂
    「テルミドール」
    「PROTECTION」

  • オーディオコメンタリー
  • 「SMASHING ANTHEMS」PHOTO SHOOTING
水樹奈々(ミズキナナ)

愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ハートキャッチプリキュア!」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコン週間ランキング1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2013年には台湾にて初の海外公演を行い、2014年末には6年連続となる「NHK紅白歌合戦」への出場を果たした。2015年11月には通算11枚目となるオリジナルアルバム「SMASHING ANTHEMS」をリリース。