音楽ナタリー PowerPush - 水樹奈々

オールタイアップの4曲入りシングル&国内外ツアーの舞台裏

声優アーティストのトップランナーとして活躍を続け、昨年末には6年連続となる「NHK紅白歌合戦」出場を果たした水樹奈々。2000年の歌手デビュー以来着々とリリースを重ね、2015年の幕開けを飾る新作「エデン」は通算31枚目のシングルとなった。ナタリー7回目の単独特集となる今回は、シングル「エデン」に収められる新曲4曲の制作秘話に加え、同時発売となるライブDVD / Blu-ray「NANA MIZUKI LIVE FLIGHT×FLIGHT+」に収録される昨年夏のライブツアー「NANA MIZUKI LIVE FLIGHT 2014」の舞台裏について詳しく話を聞いた。またインタビューの最後には、水樹“奈々”の特集“7”回目にちなみ、2015年の“7大目標”を挙げてもらった。

取材・文 / 臼杵成晃

大事な大事な1年になりました

水樹奈々

──2014年を振り返ってみると、どんな1年でしたか?

うれしいこともつらいこともたくさんあって、改めて自分を見つめ直すいい機会になった1年でした。大事な大事な1年になりました。

──夏のツアーでは、体調不良でライブ中止というまさかの事態もあり(参照:水樹奈々、音声障害の治療により山口&鳥取公演中止)。

三嶋(章夫)プロデューサーをはじめ周りの皆さんは「鉄人だと思ってたけれど、お奈々も人間だったんだね」って(笑)。体にはちゃんと休息という栄養をあげないといけない、いいパフォーマンスをするためにはそういう時間も必要なんだなって考えさせられました。

──そして2015年一発目の新作ができあがりましたが……これ毎回同じこと言ってますけど、今回も濃いですよね。4曲全部にタイアップが付いた、全A面みたいな。

まるでアルバムのようだと言われます(笑)。今回もてんこ盛りです! 今年は歌手デビュー15周年の節目の年でもありますし、今やりたいことをギュッと1枚に詰め込んでおきたいなって。

恋するように胸をつかまれた「エデン」

──1曲ずつじっくりお話を聞かせていただけたらと。まずは表題曲になった「エデン」について。

毎回作品を作るときは無記名のデモテープを集中して延々と聴く会議を開くのですが、その中でどうしても気になったのがこの「エデン」だったんです。この曲は「animelo mix」のテレビCMソングとして制作したのですが、アニメロさんのCMソングでは毎回新しいチャレンジをさせていただいていて。最初は「still in the groove」(2003年7月発売のシングル)で、当時の私にとってはとても珍しいダンスチューンだったんです。次の「Trickster」(2008年10月発売のシングル)は、ストリングスを多用したファンタジックな楽曲が多くなっていた中で、あえて骨太なバンドサウンドにチャレンジした曲で。CMのスタッフさんとも「新しい水樹奈々が表現できる曲にしたい」とお話していて……そんな中で出会ったのが「エデン」だったんです。三嶋さんに「どうしよう、あの曲が頭の中でループして止まらない!」って(笑)。

──デモの段階で「これは新しい扉が開く」という予感があったと。

はい。そう思ったのは私だけじゃなく、チーム水樹のみんなが同じ気持ちだったので「これはきっと何かあるね」って。今回のシングルはまさに全曲A面で、どの曲が1曲目に来てもおかしくなかったのですが、CDに収録するためには並び順を決めなくてはいけない。そんな中で、最初に感じた直感を信じて「エデン」を1曲目にしようと決めました。恋しちゃったようにこの曲ばかりが頭に浮かんでしまって、こんなに胸をつかまれるということは、私が今表現したい音楽なんだろうなって。

──ほかの3曲はアニメのタイアップだから、まずアニメの世界観ありきで作られた楽曲ですよね。一方でこの「エデン」は何か別の作品に寄り添ったものではない中で、どのようにイメージを固めていったのでしょうか。

曲を聴いたときに、雪が舞っている冬の景色が浮かんだんです。新年1発目のシングルで、31枚目というまた新しい区切りのスタートでもあるので、まっさらな気持ちでストレートに表現したいなって。

──メロディや歌声はすごく直球でまっすぐ進んでいくような印象なのに、リズムがすごくドタバタと変化していくのが面白いなと感じました。

そうですね。辺りは猛吹雪なのに、歌っている私の周りだけ無風で台風の目の中みたいな印象で。すごく寒くて切ない気持ちなのに心だけはあったかいみたいな、不思議な温度を感じたんです。

“作詞家・水樹奈々”の作家性

──このサウンドとメロディから、歌詞はどのように導き出したんですか?

ちょっと大人になった主人公が、思春期の頃の自分を思い出して「青いな」って笑っているような、そういう情景がまず浮かんだんです。昔を懐かしみ愛おしむような気持ちが込められているように私には感じられて。どこか荒削りな感じも。あと絶対に恋愛ソングにしたいというイメージがあって、恋愛偏差値のとても低い子供の頃というか(笑)、思春期の頃の不器用な恋を書けたらいいなって。

──あくまで物語を浮かべて描いた情景なんですね。この主人公は何か後悔の念を抱いているようにも取れて、これが水樹さんの心情を投影したものだとしたら「あの日に帰りたい」と思える何かがあったのだろうかと。

あははは(笑)。やっぱりみんな若いときって「恥ずかしい!」と思えることをいっぱいするじゃないですか。あの日に戻ってそこだけ書き換えられないかなと思うような。でも過ぎたからこそ痛い思い出も愛おしく美しく見える、という思いをドラマチックに書けたらいいなって。日常のワンシーンを切り取るような歌詞が書けたらいいなと思ったんです。しかも具体的な容姿や性別が見える一人称を使わずに。それでいてぼんやりしすぎていない、誰もが「ああ、わかる」って自分の経験と照らし合わせられるような歌詞にしたかったんです。

──なるほど、僕は勝手に主人公を青年に設定してましたけど、確かに一人称が使われていないですね。

そう受け取っていただけていたら成功ですね(笑)。

──あとは象徴的な「青い花」というフレーズがやはり気になります。

それは青春や未熟さを表す青でもあるし……昔は青い花って奇跡の象徴とされていて、見つけたら幸運が訪れる、青い鳥と同じような存在だったようなんです。みんなが恋い焦がれて憧れる、夢見るものの象徴としての「青い花」。ノヴァーリスの小説に「青い花」というタイトルの作品があるんですけど、それは夢の中に登場する青い花に恋をするというお話で。恋に恋する、理想を追い求める幼い恋愛を描きたくて「青い花」という言葉を象徴的に使いました。

──それでタイトルは「エデン」と。この曲で“作家・水樹奈々”の表現が一段と深くなっているような気がします。

ありがとうございます(笑)。この曲はメロディの音数が少なくて……つまり言葉数も少なくて。短い言葉でどう物語を作り上げるのかとても悩みました。風呂敷を広げすぎればまとまらないし、かと言って狭めてしまうと何も生まれない。聴いた方が想像をしていろんな捉え方ができるような構成を……と考えていった結果、このカタチになりました。

ニューシングル「エデン」/ 2015年1月14日発売 / 1296円 / KING RECORDS / KICM-1567
収録曲
  1. エデン
  2. No Limit
  3. 終末のラブソング
  4. Necessary
ライブDVD / Blu-ray「NANA MIZUKI LIVE FLIGHT×FLIGHT+」/ 2015年1月14日発売 / KING RECORDS
Blu-ray Disc4枚組 / 8316円 / KIXM-185~8
DVD6枚組 / 8316円 / KIBM-483~8
水樹奈々(ミズキナナ)

愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ハートキャッチプリキュア!」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコン週間ランキング1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2013年には台湾にて初の海外公演を行い、2014年4月には通算10枚目となるオリジナルアルバム「SUPERNAL LIBERTY」を発表。同年末には6年連続となる「NHK紅白歌合戦」への出場を果たした。2015年1月には通算31枚目となるシングル「エデン」とライブDVD / Blu-ray「NANA MIZUKI LIVE FLIGHT×FLIGHT+」を同時リリース。