ナタリー PowerPush - 水樹奈々

未来へつながる“歌謡曲”の力

16年の時を経てリベンジ

──そして終盤、13曲目の「Million Ways=One Destination」は前山田健一さんと伊藤賢治さんの共作ということで、発表時にはこの3人の組み合わせが大きな話題になりました。前山田さんはいろんな作風があるので、水樹さんを相手にどの球を投げてくるのかと。

前山田さんとは初めてご一緒する形だったので、どんな曲になるんだろうって私もすごく楽しみで。

──前山田さんは大のイトケンファンを公言されていましたが、そのリスペクトの思いが感じられる楽曲になりましたよね。ちなみにイトケンさんとの共演は?

イトケンさんとは、実は18歳の頃に一度ご一緒していたんです。あるゲーム音楽のオーディションに合格して。でもレコーディングした曲が使われるはずだったゲームがお蔵入りになってしまい、結局世には出なかったんですよ。今回の曲はスマートフォン向けゲーム「乖離性ミリオンアーサー」の主題歌として書き下ろされたものなのですが、あとでうかがったお話だとイトケンさんがゲームの制作チームの皆さんに「奈々ちゃんがいいんじゃない?」って提案してくださったそうなんです。まさか16年の時を経て……。

──リベンジを果たすことになろうとは(笑)。

神様ありがとう!って(笑)。がんばっていればこういう形で再び巡り会うこともあるんだなって感激しました。

──レコーディングの際はお2人もご一緒に?

はい。お2人ともスタジオに来てくださって。前山田さんからは「いや、感動しました!」「アニメソング界には水樹奈々がいてよかった!」と熱い感想がトークバックで何度も(笑)。

──その制作現場の映像、Blu-rayの特典で収めてほしいです(笑)。細かい指示はなく?

なかったです。「感じるままに、自由に歌ってください!」って。収録時間もものすごく短かったし、ひたすら楽しかったです。歌入れ前にもいろんなお話をしていたんですけど、前山田さんは世代が一緒なので、触れてきた音楽にも似たところがあって。初めてお会いするとは思えないような盛り上がりでした。イトケンさんともホントにひさしぶりの再会で(笑)。アルバムの新曲の中では最初に歌入れをしたのがこの曲なので、すごく特別な1曲になりました。

大人版「POWER GATE」を

──一方、次の「僕らの未来」は長年一緒に音楽を作り続けてきた矢吹俊郎さんの楽曲ですが、先ほどおっしゃっていた「民衆を導く自由の女神」のイメージそのものというか、先導者としての水樹さんの力量を信じているからこそのメッセージソングだなと感じました。同時に水樹さん自身をも鼓舞するような、そんな矢吹さんの思いが込められているのかなって。

水樹奈々

矢吹さんに楽曲をお願するとき「大人版『POWER GATE』をお願いします」ってお伝えしたんです。「POWER GATE」が生まれたのは2002年なのですが、その頃私はまだ歌手としてデビューして2年目で……。歌えるだけで楽しくてうれしくて、ただただ目の前のことに全力で向かうことしかできなかったので、「“水樹奈々の音楽”として表現したいことは何だろう?」という問いに答えが出せなかったんです。

──ナタリーでの最初のインタビュー(参照:水樹奈々「TIME SPACE EP」インタビュー)でも、自身のスタイルが確立されるきっかけになった曲として「POWER GATE」を挙げていましたよね。

「POWER GATE」に出会ったことで、自分の中ですごく大きな転機が訪れたんです。私はみんなの背中を押せるような応援歌を歌いたいんだ!って。気持ちが奮い立ったというか、未来への道に光が差した感じがしたんです。あれから12年の時が流れて、自分を取り巻く環境も変わった今、あの頃とは違う悩みや立ちはだかる壁があって。大人になったからこそ感じる思いを改めて矢吹さんに書いてほしいとお願いしました。

──ひたすら前へ進め!という背中の押し方ではないのがいいですよね。「奪うだけが道じゃない 譲ってしまいましょう 笑いながら逃げる勇気」とか、ちょっと「ん?」と引っかかる要素があるのが。まさに経験値を積んだ大人になった今歌うからこそ意味のあるフレーズというか。

そうなんですよね。これがまさに矢吹節で、私には書けないメッセージですね。みんなの背中を押すだけじゃなく、私やチーム水樹全体を鼓舞するような曲になったなって。

魂を揺さぶられるアルパとの関係

──そしてアルバムのラストを締めくくるのが「愛の星 -two hearts-」と。シングルのバージョンとは違って、親友でもある上松美香さんの演奏するアルパのみというシンプルなアレンジになっていますが、これ一発録りですよね?

はい。美香ちゃんと2人で「せーの!」で録りました。緊張感もありましたが……すっごく心地よくて、ずーっとこの空間に身をゆだねていたくなるような、愛にあふれた時間でした。「愛の星」をアルバムに収録すると決めた瞬間、三嶋さんに「美香ちゃんのアルパと2人だけで歌いたいです」とお願いしました。三嶋さんは別のバージョンを考えていたみたいなんですけど、私の意見を聞いてすぐに納得してくれました。今まで1つの楽器とボーカルだけでフルコーラスを構成する作品ってなかったんですよ。10枚目ということでぜひそれにチャレンジしたいなと思って。それってある意味、裸にされるようなものだと思うんですけど、脱ぐなら今だ!って(笑)。

──ライブでの弾き語りを経験した今だからこそ(参照:水樹奈々「NANA MIZUKI LIVE GRACE -OPUS II-×UNION」インタビュー - 2万7000人の前で見せた痛恨のミス)、レコーディングでも裸の自分を見せる覚悟ができた。

そうですね(笑)。みんなにすべてを観てもらったからこそ、裸の歌を届けられるようになったんです。ライブだけじゃなく、CDでもそれができる自信が付きました。

──楽器1つのみをバックにするときに、ピアノやギターではなく、アルパという楽器を選ばれたことは興味深いですね。なぜ水樹さんにとってアルパという楽器がこれほど特別なものになったんでしょうか。

もともと美香ちゃんのファンだったということもあるんですけど、やはり「深愛」(2009年1月発売の19thシングル。同年末の「NHK紅白歌合戦」初出場時にはこの「深愛」が披露された)の存在が大きいですね。初めてご一緒させてもらったのは「Heart-shaped chant」(2007年4月発売の15thシングル「SECRET AMBITION」に収録)なんですけど、実はこのときもせーの録りをしてるんです。ほかの楽器はすべて収録していて、最後に私の歌と美香ちゃんのアルパだけせーの録りだったんですけど……アルパの音色に何か引き出されるものがあって、「こんなに楽しくて鳥肌が立ったレコーディングは初めてかも」ってそのとき思ったんです。それから時が経って「深愛」という楽曲が生まれたときに、絶対にアルパを入れてほしいと上松お兄ちゃん(範康)にお願いして(笑)。そのときもすごく素直に歌えて涙が止まらなくて。私にとってアルパは最も魂を揺さぶられる、とても大事な楽器になりました。

水樹航空、フライト開始!

──そして6月1日からライブツアー「NANA MIZUKI LIVE FLIGHT 2014」がスタートしますが、今回はなぜ「FLIGHT」に?

全国を飛び回るということと、あとはやっぱり夏ですから、みんなで飛びまくれるような曲を揃えたいという思いを込めて。「水樹航空」がこの期間はオープンしますよということで(笑)。

──ここ最近のツアーではガンガン攻めるような“スパルタ”感が天井知らずに底上げされてる感じがあるんですけど……(笑)。

はい、反省しています(笑)。

──そろそろスパルタではない、あえて“攻めない”ツアーもありなのかなと思ったのですが。

まあ……でも夏ですから(笑)。スパルタじゃないものは、別でまた何かできるよう企画を考えます!!(笑)

ライブ情報

水樹奈々「NANA MIZUKI LIVE FLIGHT 2014」
  • 2014年6月1日(日)山梨県 富士急ハイランド コニファーフォレスト
  • 2014年6月8日(日)長野県 ビッグハット
  • 2014年6月14日(土)三重県 三重県営サンアリーナ
  • 2014年6月15日(日)三重県 三重県営サンアリーナ
  • 2014年6月21日(土)福岡県 北九州メディアドーム
  • 2014年6月22日(日)福岡県 北九州メディアドーム
  • 2014年6月28日(土)山口県 防府市公会堂
  • 2014年6月29日(日)鳥取県 米子コンベンションセンター BiG SHiP
  • 2014年7月5日(土)山形県 やまぎんホール(山形県県民会館)
  • 2014年7月6日(日)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
  • 2014年7月11日(金)大阪府 大阪市中央体育館
  • 2014年7月12日(土)大阪府 大阪市中央体育館
  • 2014年7月20日(日)香川県 さぬき市野外音楽広場テアトロン
  • 2014年8月3日(日)神奈川県 横浜スタジアム
ニューアルバム「SUPERNAL LIBERTY」 / 2014年4月16日発売 / KING RECORDS
初回限定盤 [CD+Blu-ray] 3888円 / KICS-93036
初回限定盤 [CD+DVD] 3888円 / KICS-93037
通常盤 [CD] 3024円 / KICS-3036
CD収録曲
  1. VIRGIN CODE
    [作詞:Hibiki / 作曲:上松範康(Elements Garden) / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  2. GUILTY
    [作詞:SAYURI / 作曲:藤末樹・Ramon Riu / 編曲:角田崇徳]
  3. アパッショナート
    [作詞・作曲:水樹奈々 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]
  4. 笑顔の行方
    [作詞:吉田美和 / 作曲:中村正人/ 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  5. アンティークナハトムジーク
    [作詞:藤林聖子 / 作曲・編曲:古川貴浩]
  6. Fun Fun★People
    [作詞:菜穂 / 作曲・編曲:h-wonder]
  7. FATE
    [作詞:水樹奈々 / 作曲・編曲:陶山隼]
  8. Vitalization -Aufwachen Form-
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:上松範康(Elements Garden) / 編曲:上松範康・菊田大介(Elements Garden)]
  9. 哀愁トワイライト
    [作詞:水樹奈々 / 作曲・編曲:宇佐美宏]
  10. セツナキャパシティー
    [作詞・作曲:丸田新 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  11. Ladyspiker
    [作詞:しほり / 作曲・編曲:中野領太]
  12. Rock you baby!
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:遠藤直弥 / 編曲:角田崇徳]
  13. Million Ways=One Destination
    [作詞:前山田健一 / 作曲:伊藤賢治・前山田健一 / 編曲:伊藤賢治]
  14. 僕らの未来
    [作詞・作曲・編曲:矢吹俊郎]
  15. 愛の星 -two hearts-
    [作詞:水樹奈々・吉木絵里子 / 作曲:吉木絵里子 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)・上松美香]
初回限定盤Blu-ray / DVD収録内容
  • オリジナルドキュメンタリー「なつのカケラ ~ 水樹奈々 2013夏の出来事」-SPECIAL EDITION-
  • 「SUPERNAL LIBERTY」PHOTO SHOOTING
水樹奈々(みずきなな)

愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ハートキャッチプリキュア!」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコン週間ランキング1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2012年12月に通算9枚目のオリジナルアルバム「ROCKBOUND NEIGHBORS」を発表。2013年には台湾にて初の海外公演を行い、同年末には5年連続となる「NHK紅白歌合戦」への出場を果たした。2014年4月には通算10枚目となるオリジナルアルバム「SUPERNAL LIBERTY」をリリース。