ナタリー PowerPush - 水樹奈々

シンフォニックロックはこうして生まれた 水樹×上松スペシャル対談

「三十路近い大人が本気で何かやろうとしてる」

──これまでお2人が一緒に作った曲で、一番苦労したものは?

水樹 うーん。どれでしょう……?

上松 今回じゃないですか?(笑)

──あはは(笑)。では新曲「Vitalization」の話をお聞きしたいのですが、その前に……この曲は現在放送中のアニメ「戦姫絶唱シンフォギアG」のオープニングテーマですけど、このアニメ、上松さんが原作者の1人としてクレジットされてますよね。

上松 はい(笑)。皆さんびっくりされますけど……元をたどればもう6年ぐらい前になるかな。その頃には僕はもうアニソンに命を捧げる気持ちがあって。アニメソングは文字通り「アニメ」と「ソング」の集合体ですけど、その2つの距離をもっと近付けることができないか、アニソンの究極形が作れないかと模索しているうちに「物語から作ってみる」というアイデアが浮かんだんです。それで1週間会社を休んで、夢いっぱいでウワーッと書き始めたら、えらい騒ぎのよくわからない物語になっちゃったんですよ(笑)。そのとき出会ったゲームクリエイターの金子(彰史)さんが「三十路近い大人が本気で何かやろうとしてるから、これは手伝わなくちゃいけない!」と手を貸してくださって(笑)。これも最初の段階で奈々ちゃんにも相談させてもらったんですが、今こんなことをやろうとしてるんだって話したら「面白いと思います!」って言ってくださって。あのとき奈々ちゃんが真剣に話を聞いてくれたから、どうにか長年かけて形にすることができたんだと思います。

──第1期(「戦姫絶唱シンフォギア」)の放送が去年の1月だから、足かけ5年ぐらいでしょうか。

上松 そしてそのアニメに奈々ちゃんが声優として参加することになったので、これは運命だなということで、主題歌も奈々ちゃんにお願いしたいと三嶋さんに相談しました。それが第1期の「Synchrogazer」(2012年1月発売の26thシングル)だったんです。

熱意を増幅させるシンフォギアシステムを身にまとって

「戦姫絶唱シンフォギアG」 (c) Project シンフォギアG

──そして今回も引き続きオープニングテーマは水樹×上松コンビと。「Vitalization」はこれまでで一番苦労したというのもうなずける……壮絶な曲ですよね。

水樹 あははは(笑)。ものすごい曲になってしまいました(笑)。

上松 なってしまいましたね(笑)。お互いもう笑っちゃうしかないですよね。

水樹 まさに絶唱状態で。2期(「戦姫絶唱シンフォギアG」)のシナリオを読んだときに、ものすごい情熱を感じたんです。シンフォギアチームって熱いんですよ! 上松さんを筆頭に。みんな体育会系で、作品そのものを愛してるんです。その熱意を受け取った私は、それを増幅させられるシンフォギアシステムを身にまとって歌わなくてはいけない(笑)。出てくるキャラクターもさらに増えて、また新たなドラマが生まれているんです。バトルも1期以上に派手になっていて、みんな極限状態で戦っている印象があったので、私も極限まで追い込まないといけないんじゃないかと(笑)。それぐらい突き詰めた音を聴きたくなったんです。演じ手としても、「シンフォギア」の1ファンとしても。

──大前提として「Synchrogazer」を超える熱量が必要だと。

水樹 そうなんです!「Synchrogazer」のときもハアハア言いながら「すごいのできちゃったねー」って言ってたんですけど、今になって思えばかわいいもので(笑)。

上松 アッハハハハハ(笑)。

水樹 「Synchrogazer」を超えるとなると、やっぱり同じ方向で攻めてもたぶん飽和状態になってしまうから、新たな要素を加えたいと思って。今回は「ビート感」を意識しました。どっしり重低音を効かせたビート感と駆け抜けるような疾走感って、ある意味まるで相反するものなので、それをどう共存させるかはすごく悩みました。

上松 奈々ちゃんの言う通り求めている要素にちょっと矛盾があって、最初は僕にも迷いがあったんですよ。でももしこれが成功すれば、絶対にどこにもなかった新しい曲ができるという確信があったので、燃えましたね。それこそ20回近くリテイクを重ねても(笑)。

水樹 あはははは(笑)。最後はテイク17でした。

上松 ワンコーラス分はそうなんですが、そこからアレンジのリテイクが4回あったんですよ(笑)。

水樹 そうでした! すみませーん(笑)。

上松 でも僕は信じてやまないんですよ。何を引き出してくれるんだろう、まだ僕には引き出しがありそうだって。悩みすぎて口内炎ができるんですけど(笑)、そうやって求められることが本当にありがたいんです。

キックの音色をデッサンしました

──その矛盾点を解決したのが、EDM的なサウンド使いや、ザクザク切り刻まれたボーカルトラックなどで表現された怒濤の展開でしょうか。いつになく大胆なエディットですよね。

上松 とにかく思い切ってやってみようと思って、Bメロではダブステップの要素を取り入れてみたんですけど、奈々ちゃんにとっては新たな挑戦ですよね。

水樹 私は専門的なことはわからないので「おっ、また難しいのが来たぞ」って(笑)。

上松 あと今回奈々ちゃんがすごかったのが、キックの音色1つにすっごくこだわってたんですよ。何種類もキックを聴かせて、それだけで1日使いましたから。キックを決める会議(笑)。でも確実にあるんですよ、奈々ちゃんの中で鳴っているキックの音が。理想の音色が1つ絶対にあるはずなので、ありとあらゆる科学力を使いました(笑)。

水樹 そうなんです。だから今回はTD(トラックダウン)の日とは別に「仮TDの日」を設けていただいて。やっぱりメールや電話のやりとりじゃ伝わらないんですよ。「ほら、あの不良の車のやつです。ドフ、ドフ、ドフって感じ」とか言いながら(笑)。

上松 アッハッハ(笑)。言ってましたね。

水樹 電話じゃ伝わらないから、実際にスタジオで音を鳴らしながら確かめようということになって。同じ「ドフ」でも「フ」の返り方が違う!とか。「ド」の太さだったり、あとはその形? 丸みがあるのかちょっと角張ってるのか、また抽象的なことを延々突き詰めていきました。

上松 「ちょっと1回絵に描いてもらえますか?」とかお願いしました(笑)。

水樹 キックの音色をデッサンしました(笑)。気心知れたメンバーだからこそのやりとりを今回はとことんやらせていただいて、すごく幸せです。

──キックの音色にまで口を挟む専業歌手ってそうそういないですよ(笑)。

上松 ですよね。キックの音なんて専門の専門で。……でも実はコアで一番大事なところなんですよ。だからやっぱり見抜いているんだなあって思います。こねくり回すとうまくいかないことが多いんですけど、奈々ちゃんの場合は作家みんな納得できるんですよね。「あ、そこを狙ってたんだ」というのがはっきりしてるので。

水樹 いえいえ、皆さんのおかげです。今回はその音がキーになると思ったので、そこが変わるだけで全体像が変わる気がしたんですよ。なんだろう、心臓の音みたいな核の部分だから、見つけたときは「ああ、これで『Vitalization』に命が宿った。文字通りVitalizationできた」と思いました。

上松 なるほど! 鼓動だったんですね。

ニューシングル「Vitalization」 / 2013年7月31日発売 / 1200円 / KING RECORDS / KICM-1461
ニューシングル「Vitalization」
収録曲
  1. Vitalization
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:上松範康(Elements Garden)/ 編曲:上松範康 菊田大介(Elements Garden)]
    テレビアニメ「戦姫絶唱シンフォギアG」オープニングテーマ
  2. 愛の星
    [作詞:水樹奈々・吉木絵里子 / 作曲:吉木絵里子 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]
    劇場上映版「宇宙戦艦ヤマト2199」第七章エンディング主題歌
  3. ドラマティックラブ
    [作詞:SAYURI / 作曲:KOUTAPAI / 編曲:齋藤真也]
水樹奈々(みずきなな)

愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ハートキャッチプリキュア!」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコン週間ランキング1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2012年12月に通算9枚目のオリジナルアルバム「ROCKBOUND NEIGHBORS」を発表。同年末には4年連続となる「NHK紅白歌合戦」への出場を果たした。2013年7月31日には通算29枚目となるニューシングル「Vitalization」をリリース。

上松範康(あげまつのりやす)

音楽事務所「アリア・エンターテインメント」および音楽制作ブランド「Elements Garden」代表・プロデューサー。水樹奈々、宮野真守ら声優アーティストを中心に数多くの楽曲を提供し、アニメやゲームのサウンドトラックでも手腕を振るう。2009年1月には水樹奈々のシングル「深愛」でオリコン週間ランキング2位を獲得。水樹の「NHK紅白歌合戦」出場に大きく貢献した。2013年7月31日にリリースされる水樹の最新シングル「Vitalization」では作曲を担当している。