ナタリー PowerPush - 水樹奈々

シンフォニックロックはこうして生まれた 水樹×上松スペシャル対談

僕ら作曲家は騎士であるべき

「ETERNAL BLAZE」ジャケット

──水樹×上松コンビの作品として大きく世に広まったのは、やはり「ETERNAL BLAZE」(2005年10月発売の12thシングル)でしょうか。

水樹 上松さんとのお仕事は2回目なのに「ここはもっと激しく!」「でもここはもう少しシンプルに」とか、すっごく細かくリクエストしました(笑)。私と三嶋さんは漠然とした抽象的なお願いをするんですけど、上松さんはそれをきちんと拾い上げて形にしてくださるんです。そこに甘えてしまって「もっとこう! もっとこう!」って(笑)。できあがってくるものをさらによくするために。今までに体感したことがないサウンドを求めてたんだと思うんですけど、上松さんの未知なる可能性をもっともっと見てみたいという思いがあったからこそ、何度も手直しをしていただいて。

上松 自分の中で元になる曲を3曲ぐらい作って、そこからブラッシュアップしていったのを覚えてます。最終的にできあがったものを、2人の意見を聞きながらさらに磨いていって。

──水樹さんは歌入れだけじゃなく、トラックダウンやミックスにまで立ち会われるという話ですが、歌専門のアーティストで、しかも声優としても多忙な方がそこまでやるのって異例ですよね。

上松 衝撃でしたね(笑)。でも本来はそうあるべきだとずっと思っていて。アーティストが姫や王様だとしたら、僕ら作曲家は騎士(ナイト)であるべきで、表現したい音楽がアーティストから生まれていることこそが僕らは一番うれしいし、それに対してがんばれるんです。例えばお姫様が「今回は自由にやってほしい」とおっしゃるならそれはそれでうれしいし。だから奈々ちゃんが喜んで「これだ!」って言ったものは、すごいものになるんじゃないかという確信がある。それに奈々ちゃんは抽象的な意見だというけど、だからこそ僕が張り切れるところもあって(笑)。

──どのぐらい抽象的なんですか?

上松 「ここはバンと、バーン!と行きたいんですよ」という感じですね(笑)。

水樹 そうそうそう(笑)。「もっとこう広がって、でもちょっとここに引っかかりがある感じで」とか(笑)。毎回ホント「上松さんごめんなさい!」と思いながらも、こういう表現しかできない自分がもどかしい!と。 あくまで感覚的なことでしか言えないけど、いつも純粋に感じ取ったものを曲にしてきたので。特に上松さんとお仕事を始めた頃って、ちょうど私も「もっとこういう音楽を作ってみたい」と自発的になり始めた時期だったんです。

上松 聞いていて、その思いがすごく伝わってきました。

水樹 それまでは曲の制作過程については右も左もわからなくて、みんなに言われるがままに進んで、自分がどう歌うかだけに集中しているみたいな感じで。もっと自分からものづくりに携わりたい、みんなとゼロから作品を作り上げていきたいって気持ちが芽生えた時期で、そんなときに上松さんと出会えたのは幸運でした。

上松 「これは無限に遊べるおもちゃだぞ」って思っていただけたんですかね?(笑)

水樹 いやいやいや! そういうことじゃなくて!(笑)

──理論や理屈を超えた意見だからこそ膨らむところもあるでしょうし。

上松 そうなんです。逆に僕はボーカル録りのとき、ピッチだとか技術的なことではなく抽象的な意見を言うようにしてるんです。「超感動した!」って思えたところからさらにその先にもっと感動させられるものがあるはずだ、って。たぶん三嶋さんとの関係性もしっかりしてるから、これだけみんなが信用し合えるんだと思います。

水樹 三嶋さんはもう最近は「お奈々の感じるままに」しか言わない(笑)。「いいねー。嫌じゃないねー」「でももう1こ上があるんじゃない?」って(笑)。

上松 その2つだけですよね(笑)。究極形ですよ。

“ちゅるぱや”創世秘話

水樹奈々

──“上松サウンド”は「ETERNAL BLAZE」に代表されるシンフォニックロック路線のほかに、もう1つ「DISCOTHEQUE」や「Lovely Fruit」のようなディスコもの、16分ノリのグルーヴィーなサウンドがありますよね。こちらはどのようにして生まれたんですか?

上松 これもやっぱりルーツがあるわけじゃなくて、奈々ちゃんと三嶋さんから引き出してもらったものなんですよね。師匠がディスコサウンド好きで、僕もいつか16分刻みのそういう曲が作ってみたいと思ってたんですけど、ちょうどそういう話がアニメ(2008年1~3月放送「ロザリオとバンパイア CAPU2」)側からあって。

水樹 アニメの監督さんから「オープニングは80'sなディスコサウンドにしたい」というリクエストがまずあったんです。そこからいろんな作家さんにお願いをして、デモテープを集めました。その中にいきなり「CHU-LU CHU-LU CHU-LU PA-YA-PA」から始まるすごくインパクトの強い曲があって(笑)。

上松 アッハッハ(笑)。

水樹 「これ誰が書いたんだろう?」って問い合わせをしたら、まさかの上松さん(笑)。

上松 うち(上松が代表を務める音楽制作ブランド「Elements Garden」)からデモを出すときは、いつも無記名なんです。奈々ちゃんが感性で曲を選ぶのに、名前って邪魔なんですよ。名前で選んでいると、プロデューサーと奈々ちゃんが純粋に作り上げてきた歴史に合わなくなるときがあるかもしれないから。でもこの曲は作るのあっという間だったよね。

水樹 デモの段階で「このままフルコーラス仕上げてください」という感じで。

──なんで「CHU-LU CHU-LU CHU-LU PA-YA-PA」になったんですか?

上松 吸血鬼のアニメだから、血を吸うんですよ。劇伴は僕の尊敬する田中公平さんなんですけど、1期の劇伴にチューチューチューみたいなのが入ってる歌があって。これはすでに劇伴としてなじみがあるから、この要素を入れたいと思ったんです。それでメロディを考えてるときに自然と「ちゅーるちゅるちゅる」って出てきたから(笑)。「ちょっと恥ずかしいな……でもなんかビビッと来るしな……まあいいや出してみよう」みたいな勢いでした(笑)。

──それがまさか世界の共通言語と言えるものになるとは(笑)。「Lovely Fruit」についてはアルバム「ROCKBOUND NEIGHBORS」発売時にもお話したんですけど(参照:水樹奈々「ROCKBOUND NEIGHBORS」インタビュー)、この曲は「ポストちゅるぱや」と呼べるキャッチーさがあるのではないかと。サウンド的にはもっと発展した、ジャズロックというかファンクというか……。ちょっと“渋谷系”的な要素も感じて「こんな引き出しもあるんだ」と驚いたんです。

上松 引き出したのはこの方です(水樹を指して)。「あれ、こんなとこにも引き出しあるんじゃん」みたいな(笑)。ここまで弦中心のものが多かったんで、ブラスに注目してみたかったんです。ブラスでもこんなカッコいいことができるよってのを奈々ちゃんにも知ってもらいたかったというのもありますね。

ニューシングル「Vitalization」 / 2013年7月31日発売 / 1200円 / KING RECORDS / KICM-1461
ニューシングル「Vitalization」
収録曲
  1. Vitalization
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:上松範康(Elements Garden)/ 編曲:上松範康 菊田大介(Elements Garden)]
    テレビアニメ「戦姫絶唱シンフォギアG」オープニングテーマ
  2. 愛の星
    [作詞:水樹奈々・吉木絵里子 / 作曲:吉木絵里子 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]
    劇場上映版「宇宙戦艦ヤマト2199」第七章エンディング主題歌
  3. ドラマティックラブ
    [作詞:SAYURI / 作曲:KOUTAPAI / 編曲:齋藤真也]
水樹奈々(みずきなな)

愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ハートキャッチプリキュア!」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコン週間ランキング1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2012年12月に通算9枚目のオリジナルアルバム「ROCKBOUND NEIGHBORS」を発表。同年末には4年連続となる「NHK紅白歌合戦」への出場を果たした。2013年7月31日には通算29枚目となるニューシングル「Vitalization」をリリース。

上松範康(あげまつのりやす)

音楽事務所「アリア・エンターテインメント」および音楽制作ブランド「Elements Garden」代表・プロデューサー。水樹奈々、宮野真守ら声優アーティストを中心に数多くの楽曲を提供し、アニメやゲームのサウンドトラックでも手腕を振るう。2009年1月には水樹奈々のシングル「深愛」でオリコン週間ランキング2位を獲得。水樹の「NHK紅白歌合戦」出場に大きく貢献した。2013年7月31日にリリースされる水樹の最新シングル「Vitalization」では作曲を担当している。