ナタリー PowerPush - 水樹奈々

シンフォニックロックはこうして生まれた 水樹×上松スペシャル対談

水樹奈々の通算29枚目となるニューシングル「Vitalization」が完成した。タイトル曲は「ETERNAL BLAZE」「DISCOTHEQUE」「深愛」などのヒットソングを手がけてきた上松範康(Elements Garden)による書き下ろしで、上松が共同原作で作り上げたテレビアニメ「戦姫絶唱シンフォギアG」のオープニングテーマ。水樹×上松コンビの真骨頂と言える“シンフォニックロック”をとことん追求したエネルギッシュな楽曲だ。

2004年に出会って以来数多くの楽曲をともに作り上げ、日本のアニメソングにおける1つのジャンルを生み出したと言っても過言ではない両者。今回ナタリーでは2人の対談をセッティングし、これまでの歴史から新曲「Vitalization」の制作秘話をたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 臼杵成晃

「わっ、想像していた人と全然違う!」

──お2人が初めて一緒にお仕事したのは、ディスコグラフィで確認したところ、水樹さんの楽曲「Tears' Night」になるのでしょうか?

水樹奈々 そうですね。アルバム「ALIVE & KICKING」(2004年12月発売の4thアルバム)からです。

──そうするともう出会って9年目なんですね。

上松範康 ほおー。早いですねー!

「ALIVE & KICKING」ジャケット

水樹 もうそんなに経つんですね。あっと言う間です。

上松 もうすぐ10周年ですか。これはお祝いしたいですね(笑)。

──9年も前となると……出会ったときのことってまだ覚えてます?

水樹 リアルに覚えてますよ、私は。夜、自分で車を運転してラジオを流していたら、そこである曲が流れてきたんです。栗林みな実さんの「翼はPleasure Line」という曲なんですけど、そのカッコよさに「えっ、なんだろうこの曲!?」ってすごく気になって。翌日にはプロデューサーの三嶋(章夫)さんに「あの曲を書いた上松さんという方に会いたい」ってお話したんです。

上松 奈々ちゃんからだったんですね!? 知らなかった。

水樹 「翼はPleasure Line」にはいろんな要素が入ってたんです。ファンタジーな要素もあるし、ロックだし、でもどこか歌謡曲みたいな雰囲気もあるし。「私の好きな要素がいっぱい詰まってる!」って(笑)。それで三嶋さんに話したら、以前一緒にお仕事されたことがあったらしくて「じゃあちょうどライブがあるから誘ってみよう」って連絡を取ってくださったんです。それでライブ会場でお会いしたのが初対面です。そのとき上松さんは金髪で「わっ、想像していた人と全然違う!」「ヴィジュアル系みたいな方!」というのが最初の印象です(笑)。

上松 あはははは(笑)。僕がすごく覚えてるのは「Tears' Night」のレコーディングのときですね。実はすごく緊張していて。才能がある人に会うと細胞が反応して、緊張で変な汗が出てくるんですよ。それで歌録りのときは「この声を最大限に生かすには」って頭の中でぐるぐる考えて……。とにかく緊張しました。

水樹 最初、上松さんには2曲お願いしたんです。ドラマチックな、シンフォニックロックと呼べるような曲と、もう1つはみんなで歌えるようなミディアムスローな楽曲を。どちらも素晴らしかったんですけど、今まで歌ったことがないテイストの曲に挑戦したい!と前者を選んだんです。それが「Tears' Night」で。スタジオでは私も緊張してたんですよ。あははは(笑)。

上松 緊張はしてたのかもしれないですが、その頃からオーラがありましたね。それがサウンドに宿る感じがあって「ああ、この人はすごいぞ」と。自分の中でもここから何か変わりそうだなという予感がありました。

「上松サウンド」の源流

──その頃の上松さんはまだ20代半ばですけど、その段階ですでに僕らが頭に描く特徴的な「上松サウンド」、シンフォニックロックサウンドができあがっていたわけですよね。その作風はどこで培われたのでしょうか。

上松 よく聞かれる質問なんですが、自分でも自分のルーツがよくわからないんですよ。もともと、好きなアーティストであるCHAGE and ASKAさんと、あとは根っからのゲーム好きなので「ドラゴンクエスト」のサウンドトラックとか、CDは合計14枚しか持ってなかったんです(笑)。そのままずっとこの業界で仕事してきたんですね。ただ「ストリングスを使った速い曲って世の中にあんまりないな」と思っていたので、何曲か作ってみたものに奈々ちゃんが反応してくれたという(笑)。僕の中にあった原石を見つけ出して、そこから先は奈々ちゃんが僕の中からさらにいろんなものを引き出してくれて、それが奈々ちゃんサウンドに変わっていくんです。

──ずーっと「このサウンドのルーツはなんなんだろう」と思ってたんですけど、特にないと(笑)。

上松 ホント語りがいがなくて申し訳ないんですけれど(笑)。ただ最近1つだけわかったことがあって。1回耳にした音楽のよかったところをずっと記憶してるんです。その記憶の中の音をいつか使いたいって溜め込んでいるのがいくつかあって。自分の特徴というと積み重ねた記憶の中の音を、自分流にアレンジして楽曲にしていけるところなのかなと思います。

──そもそもなぜ音楽の道を志したんですか?

上松 父親が楽器屋だったんですよ。家が楽器屋だから、生まれたときから音楽があるのが日常で。朝起きたら父親が歌ってたり(笑)、妹がハープを弾いていたり。

──水樹さんの親友でもある、アルパ奏者の上松美香さんですね。

上松 はい。常に音楽が隣にあって、逆に音楽以外の仕事に就くという話を家庭で出すと、なんか空気がおかしくなるというか。「パイロットに」「えっ!?」みたいな(笑)。

水樹 あははははは(笑)。

──それは特殊な環境ですね。バンドブームも体験している年代だと思うし、水樹さんの初対面の印象と同じで見た目から「ヴィジュアル系かな?」と思ってたんですよ(笑)。

上松 ははは(笑)。でもそれも半分正解で、いろんな音楽に触れながら高校ではバンドもやってたんですよ。SKID ROWとかNIRVANAとか、グランジロックやメタルをやってて。髪も伸ばして化粧したりしてましたから。

水樹 ええーっ!

──ではプレイヤーとしての遍歴は?

上松 最初はハモンドオルガンですね。父親が楽器屋で売ることになったからやらされるっていう、いいマスコットですよね(笑)。でもそれで全国大会にまで行けるようになって。そのあとは中学の吹奏楽部でティンパニーを。そこでオーケストラの音が耳に入るようになったんですね。高校ではバンドでドラムを叩いて、それがロックの要素につながってる。そのあとリバーサイド・ミュージックに入社して、アシスタントとしてお仕事してたんですけど、そこの師匠がいろんな歌謡曲を作る人だったんです。そこでメロディの大切さやアレンジの基礎を学んで。

──なるほど。こうしてたどると今につながる要素が見えてきますね。

上松 そうですね。あとはアニソンも好きだしゲームも大好きだから、アニメやゲームで聴いたいいメロディは全部体の中にあって。その全部が自然と出たのが僕の曲なんですよね。だから全然ルーツを説明できない。

──上松さんが打ち立てた要素というよりも、水樹さんが上松さんの中から掘り起こしたものが“上松流シンフォニックロック”だと。

上松 ホントそうですよ。よくぞ見つけてくださったみたいな(笑)。

ニューシングル「Vitalization」 / 2013年7月31日発売 / 1200円 / KING RECORDS / KICM-1461
ニューシングル「Vitalization」
収録曲
  1. Vitalization
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:上松範康(Elements Garden)/ 編曲:上松範康 菊田大介(Elements Garden)]
    テレビアニメ「戦姫絶唱シンフォギアG」オープニングテーマ
  2. 愛の星
    [作詞:水樹奈々・吉木絵里子 / 作曲:吉木絵里子 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]
    劇場上映版「宇宙戦艦ヤマト2199」第七章エンディング主題歌
  3. ドラマティックラブ
    [作詞:SAYURI / 作曲:KOUTAPAI / 編曲:齋藤真也]
水樹奈々(みずきなな)

愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ハートキャッチプリキュア!」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコン週間ランキング1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2012年12月に通算9枚目のオリジナルアルバム「ROCKBOUND NEIGHBORS」を発表。同年末には4年連続となる「NHK紅白歌合戦」への出場を果たした。2013年7月31日には通算29枚目となるニューシングル「Vitalization」をリリース。

上松範康(あげまつのりやす)

音楽事務所「アリア・エンターテインメント」および音楽制作ブランド「Elements Garden」代表・プロデューサー。水樹奈々、宮野真守ら声優アーティストを中心に数多くの楽曲を提供し、アニメやゲームのサウンドトラックでも手腕を振るう。2009年1月には水樹奈々のシングル「深愛」でオリコン週間ランキング2位を獲得。水樹の「NHK紅白歌合戦」出場に大きく貢献した。2013年7月31日にリリースされる水樹の最新シングル「Vitalization」では作曲を担当している。