ナタリー PowerPush - 水樹奈々

サービス過剰な特盛りライブとその舞台裏

野外のライブは記憶が体に刻まれる

──では少し前の話になってしまいますが、「LIVE UNION」についても聞かせてください。こちらもまあ、空は飛ぶし巨大な船は登場するし花火は上がるし(笑)、野外ならではの大規模なライブでしたね(参照:空を飛ぶ!船が進む!花火が上がる!水樹奈々ツアー大団円)。

とにかく夏らしく、しかもツアーファイナルということで、スペシャル感のあるお祭り騒ぎに可能なかぎりしたかったんです!

──巨大な船「ユニオンスター号」はツアーの中でも、この最終公演のQVCマリンフィールドだけだったんですよね。

全長12mの巨大船「ユニオンスター号」で会場を旋回する水樹奈々(写真:上飯坂一)。

海の近くだからということで。この船に乗ってみんなで各地を旅してきて「ついに目的地の港にたどり着いたぞ!」みたいなイメージだったんです。誰もが船に乗って登場すると思いきや、私は空を飛んできてのちほど合流するという(笑)。初めてフライング(場内を宙吊りで移動)を屋根のないところで試みたのですが、実はあれはカメラのレールに使うワイヤーを使用していたんです。それもスタッフさんの巧みの技と試行錯誤があるからこそできたことで。まさに「LIVE UNION」、みんなの絆でなし得たツアーだったなと実感しました。

──さらに野外ならではの演出として、クライマックスには花火が打ち上るという。僕はちょうどスタンドの陰で見えない席だったので、映像化を楽しみにしていました(笑)。きっと素晴らしい画角で収められているんじゃないかと。

素晴らしかったです! 私も同じく、当日は自分の真後ろで打ち上っていたので全然見えなかったんですけど(笑)、ようやくちゃんと観ることができました。めちゃくちゃ感動しました!

──こうやって映像化されると、当日参加できなかった人が楽しめるのはもちろん、会場にいた人たちも違った角度から思い出を追体験できるのがいいですよね。

好天に恵まれたQVCマリンフィールド。アリーナにはセンターステージが設置された(写真:上飯坂一)。

そうですよね! 特に野外のライブは、記憶が体に刻まれる感じがあるなあって。その日の気温や空気感までダイレクトに感じられるので。野外はこれが2度目だったんですけど、以前「LIVE UNIVERSE」というツアーで日比谷野外大音楽堂に立ったとき(2006年7月)の記憶も、今でもリアルに残っていて……。

──だんだん日が落ちていく様子や、夜になるにつれ温度が下がっていくような変化まで、演出の一部になっているというか。

そうなんです。室内だとだいたいいつも同じような温度に保たれていて、今が昼なのか夜なのか、晴れなのか雨なのかもわからない、一定の状態の中で始まるじゃないですか。それはそれで、現実とは違う場所にトリップできるファンタジーな世界が作りやすいというよさもあるんですけど、野外は外の景色が見えてとてもリアルなぶん、その日の記憶としてしっかり刻まれるんだと思います。

Cherry Boys渾身のショートムービー

──映像化の醍醐味としては、会場ではスクリーンでしか観られなかったCherry Boysのショートムービー「恋のロックンロールストーリー」がじっくり観られる点も挙げられますね。

ツアーと言えば恒例になってきたメンバー紹介のVTRで、今回はUNIONというテーマからの「絆」と、ユニオンジャック=ロンドンから「ロック」というイメージが生まれて……結果、某銀蝿さん風のロックンロールストーリーが完成しました。特典映像として独立したチャプターが組まれていますので、じっくり……観ていただければと……(笑)。

──メンバーの皆さん、完全に楽しんでますよね。

ハマりすぎちゃって、昔ホントにこんな感じだったのかなーって方もちらほらいたり。うふふふ(笑)。音楽界では大ベテランのミュージシャンの皆さんに、あんなカツラをかぶっていただいて(笑)。皆さんの人柄というか、「楽しいステージにするためならなんでもするよ!」というその心意気に感謝の気持ちでいっぱいです。初めの頃は「こういうことやりたくて……」とお話してもキョトンとされてたのですが、今はCherry Boysの皆さんのほうから「今度は何やるの?」って聞いてくださるから、それがうれしくて。この撮影をしてたら道行くおじさんに「何? お笑い芸人なの?」と話しかけられていたんですけど、市川(祥治 / G)さんなんか「そうなんですよー」とかノッちゃって(笑)。「歳なのに大変だねえ」「下積み長いんだねえ」みたいなことを言われてました(笑)。

水樹奈々サウンド=ソフトロック?

──最後にもうひとつ、今作とは関係ないんですけど、どうしてもご本人に確かめたいことがあって。以前「ROCKBOUND NEIGHBORS」発売時にスペースシャワーTVプラスで放送された特番で、「お気に入りの音楽は?」という質問に「60年代のソフトロック」と答えてましたよね?

はい。好きなんですよー。

──突然意外な単語が出てきたので、ちょっと驚きまして。きっかけは何だったんですか?

周りにソフトロック好きが多くて、レコード好きな人に「おすすめの曲があったら教えてよー」って話したら、いろんないい曲をいっぱい詰め込んだMDをくれたんです。そこからどんどんハマッていって。もともと私フリッパーズ・ギターが大好きで、中学生の頃からめちゃくちゃ聴いてたんです。当時お2人が「影響を受けた音楽」として雑誌に挙げてた音楽の情報を見て、興味がありつつも、マニアックすぎて自分で探すには敷居が高かったんですよ。CD化されてない音源もたくさんあったし。のちに知り合った人たちに、雑誌でしか見たことなかったレコードをたくさん教えてもらっているうちに、どんどんハマっていって……。

──あー、もともとフリッパーズの洗礼があるんですね(笑)。きらびやかで複雑な管弦と強いリズムが合わさって、でも主軸にはメロディがあるという構造は、今のアニソンとソフトロックで共通するところが多いと思っていて。水樹さんの「アヴァロンの王冠」や「Lovery Fruit」も、「DISCOTHEQUE」だってソフトロックの範疇だと思うんですよね。

わあ! うれしいです!

──特定の好きなアーティストや作家さんはいますか?

王道なんですけど、やっぱりロジャー・ニコルズは大好きです。アルバム「Roger Nichols & The Small Circle Of Friends」(1968年発表)が大好きで、ずーっと聴いてます。

──「Don't Take Your Time」の複雑なストリングスなんて「LIVE GRACE」が楽しかった人なら絶対ピンとくるんじゃないかと。

ふわあー! そうそう! あの曲が特に大好きなんです!

──ああいう音像が好きな上で今の水樹さんのサウンドができあがってるんだと思うと、また少し聴き方も変わってくるなと思って、あえて質問させていただきました。

ソフトロックのコーラスワークやふくよかなコード感が大好きなんです。不思議な構成なのに聴いていて違和感がないし、個性的なアレンジだけどメロディで勝負しているところとか。時代的にまだ、今みたいに音数をたくさん入れられない中でのレコーディングだったと思うんですけど、その中での潔さというか、少ないトラック数で工夫をこらしている作品は本当に魅力的ですよね。

LIVE Blu-ray / DVD「NANA MIZUKI LIVE GRACE -OPUS II-×UNION」2013年5月1日発売 / KING RECORDS
Blu-ray Disc [2枚組] / 7777円 / KIXM-81~2
DVD [4枚組] / 7777円 / KIBM-352~5
水樹奈々(みずきなな)

水樹奈々

愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「シスター・プリンセス」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコンウイークリーチャート1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2012年12月に通算9枚目のオリジナルアルバム「ROCKBOUND NEIGHBORS」を発表。同年末には4年連続となる「NHK紅白歌合戦」への出場を果たした。2013年5月1日にはライブBlu-ray / DVD「NANA MIZUKI LIVE GRACE -OPUS II-×UNION」をリリース。