ナタリー PowerPush - 水樹奈々

サービス過剰な特盛りライブとその舞台裏

水樹奈々のライブBlu-ray / DVD「NANA MIZUKI LIVE GRACE -OPUS II-×UNION」がリリースされた。この作品は、今年1月に行われた総勢188名のフルオーケストラライブ「NANA MIZUKI LIVE GRACE 2013 -OPUS II-」と、昨年夏のライブツアー「NANA MIZUKI LIVE UNION 2012」のファイナルとなった千葉・QVCマリンフィールド公演をまとめてパッケージしたもの。合計7時間におよぶ豪華絢爛なステージの模様が、舞台裏映像や水樹本人によるオーディオコメンタリーとあわせてたっぷり楽しめる。

あのサービス過剰とも思える水樹のライブ空間が、いったいどのようにして生まれるのか。今回のインタビューでは、水樹のライブに対する真摯な姿勢に迫った。

取材・文 / 臼杵成晃

チーム水樹は盛りがち

──前回のアルバムインタビューでも同じようなことを言いましたけど、水樹さんの作品っていつもサービス過剰というか、これでもかというぐらい盛りますよね(笑)。今作も大規模なライブを2本ワンセットという。

あはははははは(笑)。はい。かなり濃い口な感じになっております。

──この水樹さんの盛りに盛るサービス精神って、実家の両親に帰る間際になってあれこれ手みやげ持たされる感覚にもちょっと似てて(笑)。

晩ごはん食べたあとに「ハイ、おみかんあるわよ、ようかんもあるわよ」ってどんどん出てくる感じですね(笑)。

──お母さんみたいな盛りっぷりだなと。この2本のライブは僕も会場で拝見していたのですが、そもそもライブ自体の贅沢な盛りっぷりがすごくて。

チーム水樹は「これやりたい!」って思うと全部形にしたくなっちゃうんですよ。それにやっぱり、来てくださった方には「ああ、また来たいな」って大満足してもらいたいといつも思うので、結局いつもこれでもかってぐらい盛りだくさんになっちゃうんです。

──チーム全体の姿勢がそうなんですね。

はい。ライブのチケットって決して安いものではないと思うんです。私も学生時代には、好きなアーティストのライブに行きたくても高くて行けないから、DVDになるのを待ったり、テレビでダイジェストが流れたりするのを観て「いいなあ」って思ったりしていて。バイト代をコツコツコツコツ貯めてようやく手に入れたチケットは、熱い熱い思いがこもったとっておきの1枚だと思うんです。みんながかけてくれたその熱量の2倍返し、3倍返しでお迎えしないと、それは礼儀に反するんじゃないかなって。暑苦しくてウザいって思われるかもしれませんけど(笑)、そのぐらいやっちゃうのがチーム水樹なんです。

ステージにマイクが200本

──今回はこの2つのライブについて振り返っていただけたらと。まずはフルオケ公演「NANA MIZUKI LIVE GRACE 2013 -OPUS II-」について聞かせてください。このライブはステージ上の演者総数が188名という、見た目も音もすさまじい内容でした。ナタリーでは翌日にレポートも掲載しましたが……(参照:ステージ総勢188名!水樹奈々、豪華絢爛フルオケライブ)。

写真に全員収まりきれてないですよね(笑)。こんな幸せな、贅沢な空間があっていいのかというぐらい、本当に楽しかったです。すごく心地よくて、いつまでもここにいたい、いつまでもここで歌っていたいと思えるステージでした。

──102名のオーケストラとロック編成のバンドが同時に音を鳴らすとどうなるのか、という音響的な部分でも興味深い公演でした。これはすごい挑戦だなと。

総勢188名がステージに上った圧巻の光景(撮影:上飯坂一)。

オーケストラとバンドという対照的な演奏方法をとる楽器を共存させるのは、実はすごくバランスを取るのが難しいんです。指揮の藤野浩一さんは、クラシックの音使いはもちろん、ロックの特性についても理解の深い方で。藤野さんには1回目のフルオケライブ(2011年1月開催「NANA MIZUKI LIVE GRACE 2011 -ORCHESTRA-」)に続いて指揮をお願いしたんですけど、藤野さんがいなければこのライブは成り立たなかったと思います。当日はステージにマイクが200本も立っておりまして(笑)。PAチームも「今までこんなにマイクを出したことはない」と言っていたのですが、その中でハウリングを起こさないようにとか、通信障害が起きないようにとか、本当にいろんな問題をクリアしていただいているんです。アリーナと500レベル(スタンド最後方)の席で同じように聞こえる音響作りはとても難しくて。

──オーケストラがあの会場で音を鳴らすというだけでも大きなハードルですよね。水樹さんをはじめ演奏をする方たちも大勝負ですけど、マイクをさばく音響班や照明など、すべてのスタッフが前例のない大勝負に挑むという。

本来クラシックは音の響きが計算しつくされたホールで演奏されることが多くて、スタジアム規模の会場というのはやっぱり、あまり例がないことなので。もともとアンプを通さない楽器だから、それを広い会場でどのぐらいの迫力で伝えられるのか、さらにはアンプを通す楽器を同時に鳴らすとき、お互いを打ち消さないようにするにはどうすればいいのか……と緻密な計算と調整が繰り返されていました。藤野さんがおっしゃっていたのですが、初めは「こんなに速いテンポの曲はさすがにきつい」という感じだったオーケストラの皆さんも、Cherry Boys(水樹のライブを支えるサポートバンド)の演奏とファンの皆さんの熱気を感じたら、奮い立ってロックギタリストみたいに噛みつくように前のめりで演奏されていて「いやあ、震えたね!」って。

──ああ、歓声や熱気も込みの演奏は、最終リハで鳴らした音とも全然違うんでしょうね。

そうなんです! 空気が伝染していく感じというか。オーケストラの皆さんは普段あんなにピカピカの照明の下で演奏することがないので、いろんなライトが差し込んでくると譜面が見えにくくなるんです。でも神奈川フィルハーモニーの皆さんは「自由にどうぞ。私たちのことは気にしないでください。とにかくいいステージを作りましょう」とおっしゃってくださって。歌っている人や演奏している人だけじゃない、ここにいるみんなが主役だということを、キャストとスタッフの全員が感じていたからこそ、あの空間ができあがったんだと思います。

「この人が水樹さん? ただの小ちゃいお嬢ちゃんだね」

──藤野さんはオーケストラとロックに対する造詣もさることながら、水樹さんの音楽についても深く理解されているというか、ステージ上では水樹さんのファンクラブに入ったことまで報告していました(笑)。そのMCもすごく面白くて。

相思相愛で見事なステージを作り上げた藤野浩一と水樹奈々(撮影:上飯坂一)。

もうマイクを渡すといつまでもしゃべってしまう(笑)、楽しい方なんです。一見おだやかなようで実はかなりの毒舌だったり(笑)。一緒にいる時間はリハーサルと本番を合わせた数日間だけなのに、こんなに私のことを深く理解してくださるのは、長い間ステージに立っていろんな方と触れ合ってきた藤野さんだからこそなのかなって。多くを語らなくても、歌っている姿で全部わかってくれる。前回とはオケのメンバーが違うということで、私のことを最初から細かく説明しようかとも考えたらしいんですけど「奈々ちゃんの歌声を聴けばすぐにわかると思ったから、ほとんど何も言わなかった」っておっしゃっていて。やっぱり歌ってその人の素顔が写るものなんだなあって改めて感じた瞬間でした。でも初めて藤野さんにお会いしたときは、「この人が水樹さん? ただの小ちゃいお嬢ちゃんだね」って思ったらしいですけど(笑)。

──きっとお客さんも「クラシック」というものに対して身構えてしまう、かしこまってしまうところがあったと思うんですけど、前半のあの藤野さんのMCで一気に心を許して、安心してライブに没頭できたところはあったと思います。白髪でタキシードを着た、いかにも紳士然とした方だけど「あ、この人も俺たちの仲間だ!」っていう(笑)。巧みなトークも相まって、あそこでまず会場がひとつになりましたよね。

エンタテイナーですよねー。私もお会いする前はすごく身構えていて、誰か別の人を介さないと直接おしゃべりもできないんじゃないかと緊張してたんです。でもいざお会いしてみたら、すっごく楽しい方で。歯に衣着せないぶっちゃけトークをされるので「ああ、私もそのままでいいんだなあ」って。

──この難度の高いオファーを2度目も引き受けたということは、藤野さんにとっても「LIVE GRACE」に大きな手応えがあったということでしょうね。

藤野さんは前回の公演でステージに立ったときに、ファンの皆さんがものすごく熱心にCDを聴き込んできてくださっていること、曲を深く愛してくださっていることを目の当たりにして、とても感動されたそうなんです。だから「どれだけオーケストラでやるのが難しい曲でも、その世界観を忠実に再現したい」とおっしゃっていて、それがまたすごくうれしかったですね。テンポがちょっとでも遅くなったりすると、CDの音に慣れているとどうしても頭に「?」と浮かんで全身でノッていけないから、その違和感を極力なくしたいって。特に今回はストリングスを使っていない曲をあえて選んだりしていて。そんな場合も違和感なく「この曲にはこんな表情もあるんだ」って感じてもらえるようなアレンジに、最後まですごく気を使ってくださいました。

LIVE Blu-ray / DVD「NANA MIZUKI LIVE GRACE -OPUS II-×UNION」2013年5月1日発売 / KING RECORDS
Blu-ray Disc [2枚組] / 7777円 / KIXM-81~2
DVD [4枚組] / 7777円 / KIBM-352~5
水樹奈々(みずきなな)

水樹奈々

愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「シスター・プリンセス」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコンウイークリーチャート1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2012年12月に通算9枚目のオリジナルアルバム「ROCKBOUND NEIGHBORS」を発表。同年末には4年連続となる「NHK紅白歌合戦」への出場を果たした。2013年5月1日にはライブBlu-ray / DVD「NANA MIZUKI LIVE GRACE -OPUS II-×UNION」をリリース。