ナタリー PowerPush - 水樹奈々
声優アーティスト界の女王が語るデビュー秘話から新作「TIME SPACE EP」まで
声優アーティストとしてトップを走る水樹奈々が、ナタリーに初登場。人気アニメの声優として、番組ナレーターとして、そして毎回チャートをにぎわせるソロアーティストとして、多方面に活躍する彼女の魅力をインタビューで紐解く。
2000年12月の歌手デビュー以来、数多くのシングル&アルバムを世に送り出してきた水樹は、6月6日に通算27枚目となるニューシングル「TIME SPACE EP」をリリース。インタビューでは、バラエティに富んだ収録曲4曲にまつわる話題はもちろん、毎回異常な盛り上がりを見せるライブに関するエピソードや、多忙な毎日を生きる彼女の生活術まで、幅広く話を訊いた。
取材・文 / 臼杵成晃
初ライブは手作り感満載
──水樹さんの名前は、今やアニメファンや声優アーティストに興味がない人にも広く知られる存在ですが……。
いえいえ、とんでもないです!
──いや、「普段ロックしか聴かない」という人たちにも水樹さんの存在は知られていますし、例え水樹さんの音楽を聴いたことがない人でも「スタジアムクラスの会場でものすごく大規模なライブをやっている、声優アーティスト界のトップランナー」というイメージは知れわたっていると思います。世界規模のアニソン / 声優アーティストブームを象徴する、真っ先に名の浮かぶ1人ですよ。今回のインタビューは、そういった「名前は知っているけど……」という人にも伝わるものにしたいなと。毎年多くのライブをやられていますが、最初のワンマンライブについては覚えてますか?
最初は20歳のときですね。20歳の記念に銀座のヤマハホールで。当時インターネットラジオをやっていたんですけど……ネットラジオって今でこそ珍しいものではないですけど、当時はまだ浸透しておらず、環境も、聴いてくださる方も限られていたんですよ。そんな中、「いつも聴いてくださっている方と触れ合えるライブがやれたらいいね」って。当時はインディーズ、しかも通販でCDを出していて。それには音楽だけじゃなくてラジオドラマやおしゃべりも入っていたんです。ある程度曲がたまってきたし、20歳の誕生日の記念として本格的な歌のライブがやりたいです、って私からラジオのスタッフの皆さんに提案させていただいて。初めてなのに、生バンドでやらせてもらったんです。というのも、実はラジオのスタッフの皆さんがプライベートで趣味でバンドをやってらっしゃって(笑)。
──スタッフだけで、DIY精神あふれるライブを。
はい。まさに手作り感満載でした。しかも「今できる全てを投入したライブにしよう」ということで、いきなり演歌のオリジナル曲を歌ったり、アフレコが始まったり(笑)、今考えるとめちゃくちゃな構成で。これが最初で最後のライブになるかもしれないと思っていたし、水樹奈々の全てをみんなに見てもらいたいっていう気持ちが強くて。歌手としての一面、声優としての一面、そして曲のジャンルも問わない……とにかく全力投球でした。
運命の出会いと歌手デビュー
──そのとき、ライブをやる上で参考にした、お手本みたいなものは何かありました? 演歌歌手のステージしかり、ポップスのアーティストしかり。
なかったです! 自分のやりたいことをとにかくそのままやるっていうライブでした(笑)。でも今のライブスタイルの原型は、そこにはあるなって思います。実はこのライブを、たまたまKING RECORDSのプロデューサーである三嶋(章夫)さんが観に来てくださっていて、そこでスカウトされたことがデビューへとつながって……。そこからもまだまだ道のりは険しかったですけど、そのライブがなかったら今の私はないです。ターニングポイントになった忘れられない初めてのソロライブなんですけど……もう本当にチケットは全然売れなくて(笑)。関係者の皆さん、スタッフの皆さんのお友達、私のお友達、いろんな人にお願いして、来てもらって。
──そこで出会った三嶋さんとは、結果として今に続く長いお付き合いになりますが、最初に言われた言葉は覚えていますか? どういう印象だったとか、どんなところに惹かれてスカウトしたんだとか。
「なんか変わった子だなー」って思ったらしいです(笑)。でもそのとき聴いた歌声がずっと気になって、連絡を取ってみようと思ったと言っていました。演歌は歌うわドラマは始まるわ、ほかでは観たことないめちゃくちゃなライブだったけど、すごく気になる何かがあったって。あとは「哀愁を帯びた“泣きの声”に惹かれた」って(笑)。
──その“泣きの声”こそ、今の水樹さんの音楽スタイルにつながる重要な要素だったんじゃないでしょうか。
三嶋さんが当時一番印象に残ったとおっしゃるのが「NANA色のように」という曲で。すごく明るい曲なんだけどそれだけじゃなく、笑顔なのに涙を浮かべてるような情景が浮かぶ歌声だったと言ってくださって。三嶋さんはその頃からアイドルを育てたいという気持ちでディレクターをやってらっしゃって。だからデビューに当たって曲をセレクトするとき、ポップで明るい曲ではなくて、ミディアム調の切ない「想い」という曲を選んでもらったことは私にとっても意外でした。三嶋さんにもいろいろな考えがあったと思うんですけど、ポップスだけを学んできたのではない私の歌声に合う楽曲ということで「想い」を選んでくれたのかなと。
──いわゆるアイドル的な、ポップな楽曲でデビューしていたとしたら、今とは違う人生を歩んでいたかもしれませんね。
ええ。三嶋さんと話していても「あのとき、なぜこの曲を選んだのか不思議だよね」って(笑)。
ライブはみんながキャストで演出家
──そうしてアーティスト活動がスタートし、リリースやライブを重ねながら少しずつ今のスタイルが築き上げられてきたのだと思いますが、水樹さんご自身はアーティストとしての自分のスタイルについてどのように考えていますか?
今のスタイルの核になる部分が見え始めたのは「POWER GATE」(2002年発売の5thシングル)という曲に出会ってからだと思います。それまでは「とにかく歌うことが好き!」「声を使った表現が好き!」という思いだけでがむしゃらにがんばっていて。小さな頃から歌に慣れ親しんでいたから、衣食住と同じように……「衣食住歌」までが私の普通のライフスタイルで。そんな私が「歌手として何を伝えるべきか」と改めて考えたとき、デビュー当時はすぐに答えられなくて……。歌えること、それだけがただうれしくて。
──そんな頃に出会ったのが「POWER GATE」と。
そうなんです。私ひとりではなにもできないけど、みんなの力が合わされば大きなことだってできるし、不可能も可能にできる。ライブのステージだって、演奏してくださる方がいて、照明を当ててくださる方がいて、舞台を作ってくれる方がいて、一緒に盛り上げてくれるみんながいるからあんな夢の空間を作り上げることができるんです。「POWER GATE」には、仲間の大切さや、聴くだけでエネルギーが湧いてくるようなパワーが詰まっていて。「私の歌いたい曲ってこれだ! こういう世界なんだ」って、そこからどんどん曲作りに積極的になっていきました。それまでは「こういうのがいいんじゃない?」って提案してもらうだけだったけど、自分から「こういうのがやりたいです」って言えるようになって。今では本当になんでも話して意見をぶつけ合える、素敵なチームになりました。さらに新しい作家さんとの出会いも、これからもどんどんしていきたいです。自分の中には自分の知らない扉がまだたくさんあるので。
──今、ライブは「夢の空間」だとおっしゃいましたけど、水樹さんご自身やスタッフの熱量はもちろん、ファンの熱量もすごいですよね。極端な表現をすると、まるで祭事みたいだなと(笑)。あのムードはどのようにして出来上がっていったんですか?
いつからという厳密なものはないのですが、ステージを積み重ねていく中で、徐々に今の形に自然となっていきました。いつも「全員参加型ライブ」にしたいと思っているんです。ステージと客席に距離がない、本当にみんながキャストであり演出家である、という空間になるといいなって。応援してくださるみなさんも同じ気持ちでいてくれていることをすごく感じて、いつも本当にうれしくて。どうやったらもっと盛り上がれるか、もっと心がつながるかってことを考えてくれていて……。ライブが終わった後は「良かった!」という声だけじゃなく、「もっとこんなのが見てみたい」という意見もいただけて、それが次のライブにつながって進化していくんです。現状に満足しないで、もっともっといいものを、もっと楽しいものを、と常に一緒に考えてるような感じ。
──ブログのコメント欄やラジオでのつながりがいい結果を生んだり。
はい。例えば私の「この曲は“赤”のイメージで書いた」という言葉から、サイリウムの色を変えてくださったり。歌詞を読み込んで「雪のイメージだから白がきれいなんじゃないか」「これは七色がいいね」とか、私が発したものに対して大きな愛で受け止めてくれる、この関係がすごく幸せで。みんな体育会系なノリで、アツいんです(笑)。共に戦ってる感じですね。同じところへ向かって。
CD収録曲
- METRO BAROQUE
劇場版 「BLOOD-C The Last Dark」 主題歌
[作詞:水樹奈々 / 作曲:やしきん / 編曲:中山真斗(Elements Garden)] - PARTY! PARTY!
TBSテレビ 「ランク王国」 6月度・7月度オープニングテーマ
[作詞:SAYURI / 作・編曲:田尻知之] - 時空サファイア
meiji果汁グミ メグミとタイヨウII 主題歌
[作詞:ゆうまお / 作曲:吉木絵里子 / 編曲:陶山 隼] - ONE
NHK BSプレミアム 「あにまるワンだ~」 エンディングテーマ
[作詞:水樹奈々 / 作曲:内池秀和 / 編曲:藤間 仁(Elements Garden)]
水樹奈々(みずきなな)
愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ラブひな」「シスター・プリンセス」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコンウイークリーチャート1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。以降、3年連続で出演を果たしている。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2012年6月6日、通算27枚目となるシングル「TIME SPACE EP」を発表。8月1日には28thシングル(タイトル未定)の発売も予定されている。