ナタリー PowerPush - Mizca × pal@pop
Perfume路線に乗っかりたい!? エレクトロポップシーンに新星登場
Mizcaが1stシングル「キラキラ☆」を1月20日にリリースした。キュートな電子音に彩られたポップなダンストラックは、Chappieのプロデュースなどで知られるpal@popによるもの。Perfumeのブレイクに端を発するテクノポップブームに乗って、今Mizcaがエレクトロシーンの新たなアイコンとして注目を集めつつある。
ちなみにMizcaがデビューを果たすのは今回で3度目。17歳でオーディションに合格した彼女は、2005年に3人組ダンスユニットSister Qのメンバー・MASAMIとして芸能界入りし、2007年には自身の引きこもり体験を歌うシンガー・光岡昌美としてソロデビューしていた。一見バラバラなキャリアを歩んできた彼女がなぜエレクトロの道を選んだのか、本人とプロデューサーのpal@popこと高野健一の2人に話を訊いた。
取材・文/橋本尚平 撮影/中西求
危うく「シャイニングミミ」になるところでした
──まず、どういった経緯でMizcaというプロジェクトが始動したのか教えてください。
Mizca 前のレコード会社の契約が終わって、新しいところでイチから始めようというときに、スタッフの方から高野さんを紹介していただいたんです。それをきっかけにMizcaというプロジェクトは始まったんですけど、でも私が高野さんのことを知ったのはそれが初めてじゃなくて。
高野 僕の詩集を持ってたんだよね。
Mizca はい。光岡昌美時代はずっと自分で歌詞を書いていたので、本屋さんで詩集を探して読むのがすごく好きで、気に入ったものは買ってたんです。だから最初にスタッフから聞いたときは「pal@pop? 誰だろう?」って思ったんですけど、それがあの高野健一さんだって知ってビックリして。私、すごく好きだったんですよその詩集。すごいところに縁があったなって思いました。
──高野さんやpal@popの音楽は知っていましたか?
Mizca いえ、詩を書く人だと思ってたんです。今まで私は王道のJ-POPしか聴いてこなかったから「Mizcaではpal@popプロデュースでエレクトロを歌っていく」と決まったときも、そもそもエレクトロというものがよくわからなくて。最初、自分の知らないジャンルに飛び込むのはすごく怖かったんですが、デモを聴いたら面白い音が使われていてグッと掴まれるものがあったし、しかもあの詩集で読んだ高野さんの歌詞で歌えるってことで、ぜひやりたいなっていう気持ちが強くなったんです。
高野 ちなみにこのMizcaって名前は僕が考えたんですよ。スタッフが「名前も光岡昌美じゃなくってエレクトロっぽいアイコンにしたいね」って話しあってたから、横から「じゃあ、光岡だからMizcaで良いんじゃないですか?」って冗談交じりに言ったら、それがいくつもの会議を乗り越えて最終的に残ってしまったという。何の気なくポロッと言ったのが採用されちゃって、僕がビックリしましたけどね(笑)。
──良い名前だと思います。本人はMizcaって名前を聞いてどう思いました?
Mizca これしかない! って思いました(笑)。いろいろ候補はあったんですけど、スタッフ一同「これだよね」って。
──他にはどんな候補が残ってたんですか?
Mizca 「シャイニングミミ」とか、「ブリリアンスミミ」とか。プロレスラーみたいな(笑)。
高野 わはは! 確かに強そうだね(笑)。
──高野さんがMizcaって提案してくれてホントに良かったですね(笑)。
きっと本人は何を歌ってるんだかワケがわかってないと思います
──これまでプロデュ-サーとしてさまざまなキャリアを積んできている高野さんですけど、今回のプロデュースに関して他と比べて苦労した点などはありますか?
高野 いや、与えられていたテーマは「エレクトロ」ってことだけで、サウンド面に関しては僕のほうからいろいろと提案できるスタンスだったので、迷いやストレスも一切なく自由に作らせてもらえました。逆に言えば「エレクトロ」という枠組み以外は完全にノーコンセプトなので、曲調を毎回ガラッと変えていくことで出てくるバラエティ感というか、むしろそこが推しポイントなんですよね、僕の中では。
──ああ、確かにこのシングル、表題曲とカップリング2曲それぞれのサウンドの雰囲気がだいぶ違いますよね。
高野 サウンドもそうなんですけど、特に歌詞ですね。例えばシンガーソングライターであったり、アイドルやタレントだったり、その人なりのパーソナリティやアイデンティティのあるアーティストをプロデュースするとなると、普通なら世界観を統一していく作り方をすると思うんです。でもここはあえて、Mizcaのビジュアルと声っていう骨組み部分だけ残して、それ以外は何をあてはめてもいいだろうって気持ちでやってみました。だから歌詞に関してはすごく振り幅を広げてるので、1曲ごとにバラッバラな感じになってて。これはあくまでいい意味で言うんですけど、きっと本人は何を歌ってるんだかワケがわかってないんじゃないかと思います。
Mizca あはは(笑)。
高野 歌詞を書くうえで「こういうメッセージを伝えたい」とか具体的なものは考えてなくって、現代的な言葉遊びをMizcaっていうアイコンでいろいろ試したいって思ってるんです。だからそういう部分をリスナーが面白がってくれればなって。
──歌詞もそうですけど、歌い方もそれぞれ違いますよね。そういったところも高野さんがレコーディングに立ちあって指示をしたんですか?
高野 そうですね。例えば「普通にサビで声を張って歌って」って指示する曲もあれば「サビだけど無機質に歌って」っていう曲もありました。そうやって録ったいろいろなテイクを、パズルのピースのように組み合わせて作っていくんです。
──光岡昌美では力強く歌い上げる感じの曲が多かったのに、Mizcaではそれまでとは真逆の歌い方を要求されているわけで、やりづらさはありませんでしたか?
Mizca ええ、大変だと思うことは、最初はたくさんありました。
高野 そりゃそうだよね(笑)。
Mizca 今までは感情をものすごく込めて、ボイトレの先生からもレッスンで「感情で勝負しなさい!」って言われてたんですが、今回エレクトロになって無機質に歌うことが多かったので、感情をいかに殺すか、ロボットになりきって歌うかがとても難しかったですね。こういうレコーディングの仕方って初めてだったので、自分の中でひとつ発見ができたというか、引き出しがひとつ増えたような気がします。
Mizca(みつか)
1986年生まれ、愛知県出身の女性シンガー。グループでの活動を経て、2007年に光岡昌美名義でソロデビュー。2009年8月にはレコード会社を移籍し、アーティスト名をMizcaに改名。pal@popプロデュースのもと、それまでのロック路線からキュートなエレクトロポップ路線へ大胆なイメージチェンジを図る。同年10月に配信限定シングル「Robotics」で再デビュー。2010年1月に初のCDシングル「キラキラ☆」をリリースした。
pal@pop(ぱるあっとぽっぷ)
/高野健一(たかのけんいち)
1971年生まれ、東京出身の男性シンガーソングライター。高校卒業後に放浪生活を送り、ニューヨークやロンドンのメジャーレーベルに作品の売り込みなどを行っていた。1998年にpal@pop名義によるシングル「空想X」でデビュー。2000年には報道番組のテーマソング「Lover's Delight」を手がけ、話題を集めた。2005年に高野健一名義での1stミニアルバム「will」を発表。2007年春にはシングル「さくら」がスマッシュヒットを記録し、2009年3月には初のベストアルバム「best@pop」をリリース。ソロミュージシャンとして以外にも、サウンドクリエイターとしても高い評価を得ており、現在も幅広い分野で活躍中。