音楽ナタリー Power Push - 宮沢和史
「音楽」を経て見つめる未来
3月に歌手活動を休止した宮沢和史のラストライブツアー「宮沢和史 コンサートツアー 2016『MUSICK』」の最終公演の模様が収められたBlu-ray / DVD「Miyazawa Kazufumi Concert Tour 2016 MUSICK」が発売された。
1月に東京・Zepp DiverCityにて、GANGA ZUMBAのメンバーと共に行った3時間超の公演(参照:宮沢和史、歌と言葉で思い伝えた活動休止前ラストツアー)の様子を収めた本作は、デビューから26年の間にさまざまな音楽を吸収し、発表してきた宮沢の集大成といえる内容。音楽ナタリーでは本作の発売を記念して、活動にひと区切りをつけた今の気持ちと、ライブでも明かさなかった「次の夢」、そして音楽や世の中への思いについて話を聞いた。
取材・文 / 安東嵩史
音楽ばかりじゃない人生を見てみたい
──心なしか、これまでで一番すがすがしい顔をされているような気がしますね。大きな区切りをつけて、今の心境はいかがですか?
今、とても新鮮な日々を過ごしています。中学校2年生くらいから歌を作り始めて、そこから家で1日2時間は歌ったりギターの練習をしたりするのが当たり前の人生を送ってきました。プロになってからは、それ以上に音楽のことばかりの日々で。そういう人間であるということに、1つ区切りをつけたかったんです。休もうと思えば何も言わずにただ休むということも可能だったと思いますが、音楽のことばかりじゃない人生を見てみたかったので。
──それがTHE BOOMの解散、そしてソロ活動の休止につながった、ということなんでしょうか。ただ、ライブ中に「GANGA ZUMBAは解散しません」とおっしゃっていましたよね。
今回のツアーをGANGA ZUMBAと一緒にやる中で、「このバンドはいいなあ」という気持ちはすごくあったんです。それで「解散しない」と言ってしまったんですけど(笑)。
──ソロからGANGA ZUMBAまでさまざまな曲がある中で、このセットリストになったのはなぜなんでしょう?
最初はかっちり第1部と2部に分けて、ソロ作とGANGA ZUMBAに分けるアイデアもあったんです。ですが、見せたいものがたくさんあったから、結果的には混在させることにして。あのメンバーでやっているのでGANGAのライブっぽくなるんですけど、弾き語りを入れたり、締めは僕のソロでとても大切な曲である「遠い町で」にしたりと、宮沢和史の世界をいろいろな角度から楽しんでもらえるものになったんじゃないかと思っています。
──例えば20年前くらいのTHE BOOMの鬼気迫るステージとはまったく違って、GANGA ZUMBAではすごくのびのびとパフォーマンスされていたような気がします。
後ろ髪を引かれるというほどではないんですが、「やっぱり、このメンバーは最高だ!」という場面が多いツアーだったので、このバンドをやめる理由はないなと。とても魅力的なバンドですから、いつかまたやりたいと思うときが来るんだろうなと思います。
「これで正しかった」と感じたライブ
──縦横無尽に動き回り、各メンバーにどんどんソロを振り、とても楽しそうでしたね。
会場には「もっともっと宮沢の音楽を聴きたかったのにな」というお客さんもいただろうけど、このツアーではとにかくお客さんと、そしてメンバーとも、一緒の時間を思う存分楽しもうと思ったんです。ただ、あとから映像を観ていると、ものすごく長くしゃべってたんですね。アンコールのメンバー紹介なんて20分以上話してるし(笑)。そんなつもりはなかったんですけどね……この1分1秒をとにかく大切にしようという気持ちでしたから、その思いがそういうところにも出ているんでしょうね。ステージは子供の頃から憧れていた場所で、楽しいことも嫌なこともあったし、自分の力のなさが光に照らし出されてしまうような夜もあって、戦いの場のようでもありました。それでもステージは自分のやりたいことが一番表現できる場所だった。あの夜、ずっと「やっぱり、ステージに立つのはいいな」と思いながらライブをやっていました。
──ご自分がステージで表現されてきたことや、奏でてきた音楽のことを、どのように思われてますか?
僕の歌には、いわゆるパーティソングというか「イエー! 楽しかった、さあ帰ろう」で終わる歌はないと思っています。せっかく音楽という素晴らしい媒体があるのだから、少しでもいいから何か引っかかるものを感じて、それまで考えてもいなかったようなことを考えるようになったり、次の「何か」に結びつくきっかけになったり……そういうことを期待して、デビューしてから26年間やってきたつもりです。「島唄」がヒットしたあと、各方面から「なんでもっと『島唄』の路線でヒット曲を作らないんだ」と言われたりしましたが、僕にはそれはつまらなく見えた。まだ誰もやっていないことをやり、誰も聴いたことのないものを作り、どこかにある悲しみを伝えたいと思ってやってきました。素晴らしい仲間やスタッフ、そしてお客さんに恵まれて、そういう姿勢を貫くことができた。これが正しかった。あのライブで、それを感じることができました。
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- ライブBlu-ray / DVD「Miyazawa Kazufumi Concert Tour 2016 MUSICK」 / 2016年6月1日発売 / よしもとアール・アンド・シー
- [Blu-ray Disc] 5400円 / YRXN-80006
- [DVD2枚組] 4860円 / YRBN-80157~8
本編(DVD DISC1)
- シンカヌチャー
- E TUDO TAO MENOR(矮小な惑星)
- BRASILEIRO EM TOQUIO
- I LUSAO DE ETICA
- あの海へ帰りたい
- SPIRITEK
- 世界でいちばん美しい島
- さがり花
- Perfect Love
- Primeira Saudade
- ハリクヤマク
- ちむぐり唄者
- The Drumming
- 楽園
- Bridge
- SAMBA CAOS
- Mambolero
- WONDERFUL WORLD
- 形
<アンコール>
- 抜殻
- HABATAKE!
- DISCOTIQUE
- 遠い町で
特典映像(DVD DISC2)
- リハーサル~ツアー初日ドキュメンタリー
- 沖縄みやんちSTUDIO&COFFEEスペシャルライブ
宮沢和史(ミヤザワカズフミ)
1966年山梨県甲府市生まれのシンガーソングライター。THE BOOMのボーカリストとして1989年にデビューし、2014年に解散するまでに14枚のオリジナルアルバムをリリース。一方でソロ名義で5枚、GANGA ZUMBAとしてアルバムを2枚発表している。2015年12月には過去のナンバーや新曲、新録のセルフカバー曲などをパッケージしたベストアルバム「MUSICK」を発売し、2016年1月に歌手活動の休止を発表。同月に休止前最後となる全国ツアー「宮沢和史 コンサートツアー 2016『MUSICK』」を開催した。6月には同ツアーのファイナル公演の模様を収めた映像作品「Miyazawa Kazufumi Concert Tour 2016 MUSICK」をリリースしている。