MIYAVI「Lost In Love」インタビュー|混迷の時代にロックスターとして歌う“愛”と“もがき” (2/2)

ボーカルを突き詰め、ギターに固執しない

──何よりこのアルバムをまとめているのは、MIYAVIさんのボーカルワークですね。今回、歌がすごくいい。正直、以前のMIYAVIさんはボーカリストとしての自覚よりも、ギタリストとしてのそれのほうが勝っていたと思いますが、近年はアルバム毎にボーカリゼーションへの手応えを感じ、徐々に自信を深めてきた。そして遂に開花したという印象を受けました。

最高にうれしいです。今回の制作の中でも、作詞、ボーカルワーク、ハーモニーは特に時間と力をかけて徹底的に突き詰めました。北米の多くのボーカリストは曲をトラックメイカー任せにする。だからトラックメイカーの色に大きく左右されるし、だからこそ誰と組むかを慎重に決めるわけだけど、僕の場合は、ギタリストとしてコードワークやリフを自分自身で担保することができるから、いろんな楽曲やジャンルにもトライできるというか、最終的に自分の色にできる。ギタリストでもあることがより功を奏したというか、それがあるから逆にいろんなところに行ける。しかも、実は今回は僕以外の人が弾いたギターの音もけっこう入っていて。

MIYAVI
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──え、それは気付かなかった!

曲によってまちまちだけど、その曲に携わったプロデューサーとか、何人かがデモの段階で弾いた音とかね。

──それを寛容に採用するあたりにも、今のモードが表れていますね。

制作における自分の身の置き方が変わったのかも。やっぱり、ひと頃まではギタリストが作るアルバムとして、自分のギターサウンドをどう輝かせ、ギターでみんなをどう踊らせるかを強く意識していたし、そこに意固地なぐらいこだわる場面もあった。もちろん、今もギターミュージックとして存在はしてるんだけど、そこへの固執みたいなものは、まったくない。例えば、「Last Breath」はピアノ曲だけど、あれも以前の僕なら無理矢理にでもギターでやろうとしたかもしれない。今はピアノでしか出せないものがあるんだからそれでいいと思えるようになって、前半の静かな部分ではギターをまったく弾かずサビで爆発させた。この曲のサビの引き裂くようなギターソロは、やっぱり僕にしか弾けないものだし、前半に出さないことで曲にインパクトとメリハリがついたかなと。そこは我ながら成長したなあと捉えています。ただ丸くなったわけじゃなくてね(笑)。

──より楽曲至上主義になっている、とも言えますか?

そうですね。ギターが輝くギターミュージックでありたい、とは思っているけど、“ギター至上主義ミュージック”でなくていい、というか。みんなを「踊らせたい」だけじゃなく、「歌わせたい、一緒に歌いたい」という気持ちが一層強くなった。そういう意味では、また新章を迎えたという感覚ですね。もう第何章か忘れちゃったけど(笑)。

MIYAVI
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「シンガーとは役者だ」

──ここからは収録曲に触れていきます。アルバム冒頭の、MIYAVIのモノローグによる「Intro」のムードと説得力は、役者としても活躍するMIYAVIだからこそ生まれたのでは?

ありがとうございます。僕は「シンガーとは役者だ」と思っています。シンガーはみんな多かれ少なかれ自分の人生を切り売りして、歌に自分自身を投影し、自分自身を演じ切る。そこでジャニス・ジョプリンのように自分で自分を消費しちゃう人もいるだろうし、だからそういったアーティストたちの作品はときに痛々しくもピュアで美しい。でも、そうじゃない人もいる。それが役者寄りのシンガー、つまり他人や曲における物語上の人物について歌うスキル。自分という媒体を使って、歌詞という台詞にどれだけ感情移入し、最大限にアンプリファイさせられるか。そういった意味では、確実に俳優の仕事は音楽や歌、ギターでの表現に大きな影響を与えているし、反対に音楽が俳優業に与えている影響も大きい。どちらも自分の糧になっていますね。エレキギターとアコースティックギターのように、異なる音だけどどちらも必要みたいな。

──「Broken Fantasy」は、ライブの新たなアンセムになりそうですね。

はい、自分も大好きな曲です。この曲こそ、けっこうハードロックになったけど(笑)、夢や理想というのはある意味、幻想を抱かずには追い求められない。だけど、「その幻想はもはや壊れてしまっている」ので、2部作の舞台設定と“答え”を最初にまとめて提示している部分もあります。結局、幻想を壊してしまったのは自分自身で、それは夢をあきらめたことを意味しているのか、もしかしたら、その夢を現実にしてしまったのかもしれない。自分の愛するものに翻弄される自分、そして翻弄されている自分やその感覚すら愛してしまっているマゾヒスティックな楽曲です。

──続く「Eat Eat Eat」のボーカルワークは新境地ですね。すごく官能的だし、なんならR&B系のディーヴァみたいなグラマラスなボーカルを歌いこなしていて。

まさに両性具有のイメージでした。M・ナイト・シャマラン監督の「スプリット」じゃないけど、多重人格的なアプローチというか。そしてSとMという二面性もある。これは理性と本能というテーマにもつながりますが、いずれかの人格を否定するのではなく、どちらも肯定し、包括する。その欲望の推移をテーマに映像も撮りました。

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──アプローチとして、ちょっとデヴィッド・ボウイを思い出しました。

Aメロ、Bメロ後半、サビと、自分の中にあるいろいろな表現方法を使い分けてみました。喉の使い方や息の使い方を変えることで、いろんな表現ができる。改めて清水ミチコさんやコロッケさんみたいな憑依芸の領域を尊敬します(笑)。でも、本当にソロでデビューしてから今が一番歌録りが楽しい。1人で何時間でも飽きずに取り組んでいられる。逆にスタッフは疲れちゃうけど(笑)。

──この曲のようなボーカル表現を獲得できたのは武器として大きいですね。

そうですね。非常に大きいです。今の自分の制作意欲にも影響していると思います。10年前ならできなかったと思うし、これと同じようなボーカリゼーションを10年後に始めようとは思わなかった気もする。いずれにせよ、ようやくギタープレイのレベルに近いところまでボーカルのレベルを押し上げてこられたのかな、という気がしています。

MIYAVIにとって愛とは?

──「Real Monster」は、自分の頭の中にいる“怪物”について歌っています。

「自分の中にある弱さ」についての歌。僕も幼い頃から感じてきた恐怖心や不安感、怯えについての思いも込められています。恐怖を誇張させるのも自分の妄想。僕たちはその弱さと必ずどこかで対峙しなければならない。そしてこういった感覚とは一生付き合っていかなくちゃいけない。そいつとどう向き合っていくのか。この曲に限らず、MIYAVIの音楽はそういう不安を抱えた人たちにこそ届けたいし、背中を押せるものであってほしいと、今猛烈に感じていて。即効性で、急激にドキドキさせる曲もあれば、癒しを提供するような曲も同じスタンスで作っています。

──弱さと向き合うという点では、「Mirror Mirror」の歌詞もそうですね。

鏡は自分との対峙において1つの大きなモチーフだし、自分の弱い部分や嫌いなところとの対峙はあらゆる人にとっての永遠のテーマでもあると思います。この曲では、弱い自分への葛藤を強く描いています。弱い自分でも愛さないわけにはいかない。今回のアルバムには「モンスター」というワードを多く登場させています。その言葉を通して、何が強くて弱いのか、何が正しくて間違っているのか、時代の変化や自分の成長によって変わっていくものを表現しました。

──ここ数年の世間は、特にそうしたパラダイムシフトを感じさせる話題が多いですね。

昨日正解だったことが、明日は不正解になるかもしれない世の中。「Tragedy Of Us」は、まさにそれを描いた曲です。「人生は近くで見ると悲劇だが遠くから見れば喜劇である」と言ったのはチャップリンだけど、どこの視点で見るのかによって捉え方が変わってくる。本当に物事は表裏一体で紙一重なもの。この曲の物語は「ロミオとジュリエット」のように成就しない恋を描いていますが、カルマによって愛し合うべき人々が傷付けあってしまうことをテーマにしています。ウクライナやパレスチナの問題にもそういう側面があるというか、世の中には僕らの上の世代からずっと未解決のままで、自分たちの世代で解決しなきゃ次の世代まで影響してしまうような問題がある。核廃棄の問題もそうですよね。本当は争うのではなく、助け合い、認め合わなきゃいけないんだけど、人間はどうしても奪い合い、憎しみ合い、傷付け合ってしまう。そして結果的に自分たちで自分たちの首を絞めてしまう。そんなパラドックスを歌っていますし、シングルのジャケットアートワークでもそのことを表しました。暗い曲だけど希望も込めながら歌っています。

MIYAVI
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──ラストの「Last Breath」には、心を締め付けられるような激しさがあります。

この曲はジェイソン(・ペンノック)&マットのチームと作った1曲ですが、ギターソロ以外はほぼデモのままでした。暗闇の静寂の中、吐息も凍るような緊張感のあるピアノから、突然豪雨のような激しさのあるサウンドに移っていく。氷の上を歩いているかのような場面から、その氷自体を壊していきなり氷海の中にダイブして嵐が吹き荒れるイメージというか。このギャップと緊張感を果たして自分のボーカルで表現できるのか不安だったんだけど、うまく歌えたと思います。この曲は、ソロ以外にギターの音が入っていなくて。全然いくらでも足せるんだけど、弾かなくても曲として成立しているし、弾くべき場所がはっきりしてきた。こうした意識や表現の変化は今後のライブにも作用していくと思う。ステージングも変わってくると思います。

──2部作の前編「Lost In Love」を完成させて、改めてどんな思いがありますか?

全体を貫いているのは、愛の中にある“もがき”。そして2部作共通して「自己との対峙」。これは死ぬまで僕のテーマのひとつなんだと改めて思い知らされました。1曲ごとに違った切り口でそれぞれにメッセージがあるんだけど、全体を1つの物語として伝えていくというコンセプチュアルなアルバムです。こんなにもアルバム全体の世界観を感じてほしいのは初めてかもしれない。じっくりとよく噛んで、感じて、一緒に歌ってほしいです。後編「Found In Pain」は、今仕上げの真っ最中です。そちらもいい曲たちがたくさんそろっているので、楽しみにしてください。

──最後に、今「愛とは?」と問われたらどう答えますか?

難しいな……受け入れること、肯定すること、かな。自分に対しても、他者に対しても、世界に対しても、あきらめずに。そこで抗い、もがいたとしてもね。

MIYAVI

プロフィール

MIYAVI(ミヤヴィ)

1981年大阪府出身のアーティスト / ギタリスト / 俳優。エレクトリックギターをピックを使わずにすべて指で弾くという独自の“スラップ奏法”でギタリストとして世界中から注目を浴び、これまでに約30カ国350公演以上のライブ、8度のワールドツアーを成功させている。多彩な活動でも注目され、アンジェリーナ・ジョリー監督の映画「不屈の男 アンブロークン」で俳優としてハリウッドデビューを果たしたのち「BLEACH」「ギャングース」「キングコング:髑髏島の巨神」「マレフィセント2」にも出演した。またYOHJI YAMAMOTO、Y-3、Monclerなどでモデルとしても活躍。音楽活動や俳優業、モデル業のかたわら、難民問題への知識を深め、2017年には日本人として初めてUNHCR親善大使に就任した。2022年11月にはYOSHIKI、HYDE、SUGIZOとTHE LAST ROCKSTARSを結成。2024年4月に2部作アルバム「Lost in Love, Found in Pain」の前編「Lost in Love」をリリースした。

着用衣装
ジャケット 1,408,000円

問い合わせ先
ヴェルサーチェ ジャパン
https://www.versace.jp