MIYAVI|「自分が何をすべきか、ようやくわかってきた」国内外アーティストとの“対戦”がもたらしたもの

MIYAVIがニューアルバム「SAMURAI SESSIONS vol.3 - Worlds Collide -」を12月5日にリリースした。これは彼が2012年、17年とリリースし好評を博してきた“対戦型コラボレーションアルバム”の第3弾である。

今回は、世界的俳優のサミュエル(・L・ジャクソン)をはじめ、ダックワース、ボック・ネロ、ヌーズ、ショーン・ボウ 、ベティー・フー、アール・エー・シー、ミッキー・エッコ、ガラント、ユナといった海外勢が名を連ねている。さらに国内からも、KREVA、三浦大知、AK-69、シシド・カフカ、加藤ミリヤ、そして1998年の急逝以降、尚も絶大な支持を誇るhide(X JAPAN、hide with Spread Beaver、zilch)の代表曲「ピンク スパイダー」のリミックスバージョンも収録されている。

今回、音楽ナタリーでは本作の全曲解説をメインに、「BLEACH」、「ギャングース」と新作映画への出演が続く俳優業と音楽活動の接点や、今後の目標までが大いに語られたMIYAVIのロングインタビューをお届けする。止まることを知らない進化の過程にある彼の現在に注目してほしい。

取材・文 / 内田正樹 撮影 / 後藤倫人

いいやもうめんどくせえ。全部ごちゃ混ぜにして出しちまえ

──MIYAVIは前作「SAMURAI SESSIONS vol.2」のインタビューにおいて、「実はもうアメリカのシンガーたちとの『SAMURAI SESSIONS』アメリカバージョンを作ってある。まだ詳細は話せないけれど、そう遠くない時期にリリースできるはず」と話していました(参照:MIYAVI「SAMURAI SESSIONS vol.2」インタビュー)。今回の「SAMURAI SESSIONS vol.3 - Worlds Collide -」には多くの海外勢が参加していますが、つまりはこのアルバムがその「アメリカバージョン」に該当するのですか?

そのつもりだった曲もあるし、これ以外にもまだたくさんあります。LAでは毎日のようにセッションしているので、曲は日々増えているし。そもそも「SAMURAI SESSIONS」自体、いろんなアーティストとガチンコでぶつかって出てくるケミストリーを作品にするシリーズで、特に今は、自分がギタリストとしていろんな歌い手と対戦することで、もっともっとギターに専念してギターで歌って“ニューギターミュージック”を作るというのが命題。レーベルからも「日本のマーケット向けに、フィーチャリング色の強いこのシリーズは続けていきたい」という意見が上がっていて。じゃあ「アメリカ向けと日本向け、2つのバージョンの『SAMURAI SESSIONS』に分けよう」と思っていたんだけど、途中でいちいち考えるのに疲れちゃったんだよね(笑)。

──疲れちゃった(笑)。

そもそも俺自身が「これは日本向け、こっちはUS向け」みたいな区別自体好きじゃない。むしろ、それを壊すのが俺の役目だろう?と(笑)。やっぱり日本における邦楽と洋楽の壁はとてつもなくデカいと今も感じているし、それは言葉の問題も含めて仕方ないんだけど、音楽のジャンルだけで言えば、別にそこに壁はなくていいじゃないですか? 例えば、ハードロックなら洋楽だろうが邦楽だろうがハードロックなわけで、そこに国境なんて存在しない。自分は日本人として、当たり前に世界で自分の音楽を鳴らしたいと思っている。そのうえで日本と海外を行き来しているけれど、邦楽と洋楽の壁自体をもっと壊していくことも、これからの自分の役割の1つなのかもしれない。だから、今回はあまりアルバムとしてのまとまりは考えず、今できた音、鳴らしたい音を詰め込みました。

──とは言え、全体は大きく3つのパートで構成されていますね。序盤は主にストリート色の強いEDM絡みのヒップホップ。中盤がナイーブな匂いもするポップスで、後半が女性ボーカルという。

はい。ただ、それも「並べて聴くとしたらこういう流れかな?」と思った程度で。

──個人的に興味深かったのは、11曲目の「Get Into My Heart(Radio Edit)」(MIYAVI vs SHISHIDO KAVKA)、12曲目の「Our Love」(MIYAVI vs 加藤ミリヤ)、13曲目の 「Me and the Moonlight」(MIYAVI vs Yuna)といった女性アーティストとのVS曲から、初期の“雅 -MIYAVI-”名義時代を思わせるポップさを感じたことでした。

MIYAVI

本当? それはまったく考えてなかったな。カフカちゃんはドラマーとしてももちろんだけど、フロントマンとしても華があるので、そこを切り取らせてもらいました。ミリヤちゃんとの曲は、当初まったく違うエレキのアレンジだった曲を、彼女の歌をもらって、アコースティックにしました。ミリヤちゃんが合流する前のデモはまったくJ-POPっぽくなくて、むしろヨーロッパな感じだったんだけど、 2人で歌詞のテーマを話し合っていくうちに、LGBT、同性愛というテーマが持ち上がって。彼女にしか歌えないものになったと思います。自分としてはサビ前の「愛し合うのに」とか「抱きたいのに」っていうとこがフックだと思っていて。俺1人だったら作れなかったと思います。

──マレーシアのシンガーソングライター、ユナについては?

ユナちゃんとはIncubus(※アメリカのロックバンド)のマイク(・アインジガー)を通じて知り合ったんだけど、アッシャーとも一緒にやっている実力派シンガー、素晴らしいアーティストです。うれしいことに、俺の音楽を10年も前から聴いてくれていたんですよ。歌詞にも出てくるけど、このギターはいかに“ゴースト”のようなギターが弾けるかという挑戦でした。布袋(寅泰)さんにおける王蟲(※映画「風の谷のナウシカ」に登場する王蟲の鳴き声は布袋のギターによるもの)の2018年バージョンみたいな(笑)。でもぶっちゃけ、今回は日本のメディア向けの宣伝、やりづらいかもしれないなと思っていて。

──と、言うと?

今回の相手は皆、向こうではすでにアップカミングだったり人気の存在だけど、日本ではサミュエル(・L・ジャクソン)以外、「誰?」って感じでしょ? だから分けて出そうと思ったんだけど「いいや、もうめんどくせえ。全部ごちゃ混ぜにして出しちまえ」と(笑)。

──MIYAVIっぽい(笑)。

そう? もちろん俺はカッコいいと思っているし、我ながらすげえいい作品ができたと思っています。けど、今回は「どう受け止められるだろうか?」という実験作でもあって。日本と海外の境界線が独自のバランスで成立しているこのアルバムが、国内外それぞれのマーケットでどう受け止められるのか、俺自身も興味深いし、すごく楽しみです。今回もたくさんのアーティストの要素が詰まっていて、頭から最後まで音楽に乗って宇宙旅行するような気分で聴いてもらえたらいいなと思っています。

ギター1本で海外に渡ったやつの名前を、サミュエルが叫んでくれた

──たしかに今回の“VS相手”は、アップカミングなアーティストが多いですが、予習のつもりで各アーティストのYouTubeやストリーミングなどをチェックしていくうちに面白くなっちゃって、気付いたら何時間も経っていましたよ。

面白いでしょ? 海を渡ると、エベレストの麓にはこのクラスがわんさかいるわけ。血が沸くと言うか、刺激をもらうし、毎セッション、ワクワクしますよ。自分の新しい面も引き出されるし。

──海外のVS相手とは、制作の前からコミュニケーションがあったんですか? それともオファーが先だったんですか?

曲によるかな。サミュエルやユナちゃん、アール・エー・シーとかベティー・フー、ダックワースとは面識がありました。逆にボック・ネロとガラントとは制作が決まってからやりとりを始めたし。ミッキー・エッコとも、彼はナッシュビルにいるので、離れたままネットを通じて作業しました。今回は、日本のアーティストとの作業のほうが大変でしたね。面識があっても、俺が基本ロサンゼルスにいるせいで、どうしても全て遠隔作業でお願いするしかなかった。ちょっとやりにくかったし、やりとりで面倒をかけた部分もあります。「SAMURAI SESSIONS」は単なるフィーチャリングのアルバムではなく、あくまでも“対戦型コラボレーションアルバム”がコンセプトなので、自分のサウンドも大事にしつつ、相手のエッセンスを拾っていく。その相手との“ぶつかり感”を遠隔作業で出すのは正直、苦労しましたね。

MIYAVI

──では駆け足ですが、ほかの曲についても聞いていきます。まずは1曲目の「Worlds Collide(Intro)」。まさかの大物俳優、サミュエル(・L・ジャクソン)がMIYAVIの名前を高らかにアナウンスするという。これ、つまりプロレスやボクシングにおける入場コールですよね?

そう、WWE的な。これはもう、ネタです(笑)。サミュエルとは「キングコング:髑髏島の巨神」(※MIYAVIが2017年にカメオ出演した映画)のときにハワイで出会いました。今年の夏、ロンドンで映画の撮影をしているときに、彼も別のスタジオで撮影していて、ノリでオファーしたらすぐに「もちろん!」と言ってくれて。まさか即答とは思っていませんでした。お互い仕上がりの予想がきちんと見えていたから3テイクしか録らなかった(笑)。使ったのは2ndテイクのものだったと思います。声の存在感も説得力も本当に一流です。素晴らしかったです。

──まさかサミュエル(・L・ジャクソン)の声で「MIYAVI!!」コールを聴くとは(笑)。これは痛快でした。

今回は特にいろんな人を巻き込んだから、制作から権利関係に表記の確認まで大変だったと思う。でも、夢があるじゃないですか。単純にワクワクするというか。ヴィジュアル系でデビューして、ギター1本で海外に渡ったやつの作品であのサミュエル(・L・ジャクソン)が「サムライギタリストー!」って言って自分の名前を叫んでくれてる。そこに俺はすげえワクワクドキドキを感じるし、実際、サミュエルがMIYAVIの前に参加した音楽作品って、ケンドリック・ラマーの作品ですよ。これこそお金じゃ買えないことだと感じています。ぶっちゃけ、全員が“友情出演”みたいなノリですから。すごく感謝しています。

──ものすごく豪華な“笑いどころ”と言うか。

俺も聴いてて笑っちゃうもん(笑)。真面目な話、アーティストは数字だけじゃなく、自分を応援してくれているファンやリスナーの人たちに向けて、数値化できないワクワクやドキドキを届ける責任があると俺は思っているので。だからみんなにも笑ってほしいよね。「バカやってるなー」って(笑)。

──2曲目の「Rain Dance」には、KREVAと三浦大知が参加しています。もはや両者とは盟友と言うか、長いお付き合いとなりました。

MIYAVI

このお二人は、毎回お呼び立てして申し訳ないし、俺の友達の少なさを再確認しました(笑)。まあ、普段日本にいないから、物理的に日本のアーティストとの交流が増えていかないんですけど。大知くんもまさか前作から続けてオファーされるとは思わなかっただろうし(笑)、クレさんも、相性がいいんですよね。熱量も近くて、互いに音でまっすぐぶつかり合えるし。

──この曲では、RHYMESTERの「B-BOYイズム」のリリックへのオマージュが歌われていますね。

リリックに関しては、それぞれに持ち場を担当してもらって、全体的なイメージを全員でシェアして作りました。「例え世界がドシャ降りでも、俺たちは踊り続ける」というイメージでした。

──3曲目「U.G.L.Y.」には、カリフォルニアからラッパーのダックワースが参加しています。彼の「Fall back」という曲を聴くと「あ、MIYAVIが好きそうだな」と感じました。

彼は感覚派の天才と言うか野生的。パフォーマンスのアプローチも自分と似ている気がしました。セッションしていても、プロデューサーは反応しないのに俺と彼だけが反応するようなポイントがいくつもあったのは印象的でした。

──もともとアート気質と言うか、繊細そうですよね。一度はミュージシャンを辞めようとしていたとか。

かなり繊細。やっぱり感度が高い人は繊細だと思う。俺もこう見えてめっちゃ繊細ですよ?(笑) でも、それでいいと思っている。今回、彼とは細胞単位でハモれた気がしています。現代のラップアーティストだと思う。