音楽ナタリー Power Push - MIYAVI

さらなる高みへの飛翔

MIYAVIが1年4カ月ぶりのオリジナルアルバム「Fire Bird」をリリースした。数々の西海岸系の名盤を手がけてきたエンジニアたちと共に制作したこの新作には、2年前にアメリカ・ロサンゼルスへと移住してから今日までの時間を費やしMIYAVIが叩き出した、彼なりの回答が込められている。そしてまさにタイトル通り火の鳥のように激しく鳴り響くギターは、リミッターを取っ払ったかのような様相である。

なぜ彼は本作で、このようなサウンドへ踏み切ることができたのか。プロモーションのために帰国していたMIYAVIにじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 内田正樹 撮影 / 後藤倫人

アメリカは日常生活の延長線上にクリエイションがある

──ニューアルバムからは、また新たなサウンドの変化が感じられますね。

MIYAVI

そうですね。そこはデヴィッド・ボウイしかりベックしかり自分しかり、ソロアーティストとしての強みだと思っています。制約のない表現こそが、ソロでやっている1つのだいご味というか。これまでも変化の繰り返しだったし、これからも死ぬまで変わり続けていく気はしているけれど。

──その変化の話に入る前に、まずは2015年リリースの前作「The Others」から今作までの期間について、ざっと振り返っておきたいのですが。

映画(「不屈の男 アンブロークン」)に出演して、前作(「The Others」)をナッシュビルで作って……今になって振り返ると、ぶっちゃけあの頃は何も見えていなかったなあと。アメリカに移住したかと思ったら、身ぐるみ剥がされたようにギターも持たずにレッドカーペットとか放り込まれたりして。いずれも自分で選んだ道だったとはいえ、言葉も文化も生活環境もステージも、すべてが今までと異なる環境に飛び込んで、正直言うといっぱいいっぱいだった。

──ロサンゼルスに移住して、どれくらい経ちましたか?

今年の8月で約2年ですね。2年前の6月にワールドツアーを終えて、その足でほぼそのまま向こうへ飛んだので。

──MIYAVIはこれまでもツアーで世界のさまざまな都市を巡ってきた。でも異邦人として短期間だけ訪れるのとそこに住んで生活するのとでは、やはりまったく違うのでしょうね。

MIYAVI

うん、何もかもが違った。その中で、自分なりに物事の断片が見え始めた状態で作ったのが「The Others」だった。今は生活にもある程度慣れてきたし、向こうでの仲間も増えてきた。音楽仲間に限らず、ファッションや映画関係の人もいる。そうしたコミュニティをようやく築き始められた中で、ようやく俺自身、MIYAVIというアーティスト像を俯瞰して見られる余裕も生まれてきたのかなと。改めて「MIYAVIとは?」という命題にフォーカスすることは、自分の音楽性やギタリストとしてのアイデンティティがどう在りたいのかを自問自答し続ける作業だった。正直しんどかったし、決して楽しい行為ではなかったです。でもそれを経たことで、アウトプットに対する意欲もかなり湧いてきた。ここまでが、前作から今作までに費やした時間の中身だったかと思います。

──その自問自答の中で、何か具体的な答えは得られましたか?

うーん……まず端的にいうと、やっぱアメリカってデカい(笑)。

──本当に端的だ(笑)。でも重みのある言葉ですね。

本当にデカい。そして強い。人も国土もマーケットもね。身を置いて生活して初めて実感することも多かったし、いかに日本で守られていたのかも痛感した。あとはクリエイティビティの質が高い。日本が劣っているとかそういう話ではなく、ただただ高い。

──それについては個人的にも、「フジロック」のようなフェスの場で多々感じることがあります。

アイドル的なシンガーにしたって歌がうまいし、音1音を発する際における筋肉の使い方もまったく違う。日本で探したらひと苦労というレベルのプレーヤーが、そこらへんのレストランで働いていたりするしね(笑)。あとは何より気負いがない。友達がビョークやMassive AttackのVR作品に関わっているんだけど、彼らはクリエイトする姿勢がすごくナチュラル。「よし、スタジオ入るぞ!」じゃなく、飯食って歯磨いてセックスして酒飲んで寝て起きて何か創ってる、みたいな。日常生活の延長線上のフラットな行為としてクリエイションがある。そうした姿勢からの学びは大きかったですね。そういう部分は自分も見習いつつ、その上で、緻密な計算による“日本人だからこそ”であり“MIYAVIだからこそ”という、あいつらとは違う音を出すことにも集中していました。

ニューアルバム「Fire Bird」 / 2016年8月31日発売 / Virgin Music
初回限定盤 [CD+DVD+ブックレット] / 5378円 / TYCT-69105
通常盤 [CD] / 3240円 / TYCT-60089
CD収録曲
  1. Another World
  2. Fire Bird
  3. Dim It feat. Bones
  4. Raise Me Up
  5. You Know It's Love
  6. Afraid To Be Cool
  7. She Don't Know How To Dance
  8. Steal The Sun
  9. Long Nights
  10. Hallelujah

<ボーナストラック> ※初回限定盤に収録

  1. Cocoon
初回限定盤DVD収録内容
  • 「Raise Me Up」Teaser Video
  • 「Afraid To Be Cool」Music Video (short version)
  • Introduction to "NEW BEAT, NEW FUTURE"
    ※全国ツアー「MIYAVI Japan Tour 2016 "NEW BEAT, NEW FUTURE"」のステージをイメージさせるスタジオパフォーマンス映像を収録
    • Cocoon
    • Another World
    • Raise Me Up
    • Fire Bird
    • Steal The Sun

MIYAVI Japan Tour 2016 "NEW BEAT, NEW FUTURE"

2016年9月19日(月・祝)北海道 札幌PENNY LANE24
2016年9月21日(水)宮城県 Rensa
2016年9月22日(木・祝)石川県 金沢EIGHT HALL
2016年9月24日(土)愛媛県 WStudioRED
2016年9月25日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
2016年9月27日(火)熊本県 熊本B.9 V1
2016年9月29日(木)福岡県 DRUM LOGOS
2016年10月1日(土)大阪府 なんばHatch
2016年10月2日(日)愛知県 DIAMOND HALL
2016年10月10日(月・祝)千葉県 幕張メッセイベントホール
MIYAVI(ミヤヴィ)

1981年大阪府出身のソロアーティスト / ギタリスト。ピックを使わず指でエレクトリックギターを弾く、独自のスラップ奏法で注目を集めている。2010年10月リリースのアルバム「WHAT'S MY NAME?」では、ギターとドラムのみの編成でオリジナルのサウンドを確立。2012年11月にさまざまなジャンルの“サムライアーティスト”とのコラボレーションアルバム「SAMURAI SESSIONS vol.1」を発表し話題を呼んだ。ほかにも布袋寅泰、野宮真貴、Good Charlotteらの作品への参加など精力的な活動を続け、2013年6月には自身の名を冠した海外デビューアルバム「MIYAVI」をリリース。さらに2014年にはSMAPのシングル「Top Of The World」を作曲し話題を集めた。また同年の12月には俳優として出演したアンジェリーナ・ジョリー監督によるハリウッド映画「UNBROKEN」が全米で公開された。2015年4月にDrew & Shannonをプロデューサーに据えロサンゼルス、ナッシュビルにて制作されたフルアルバム「The Others」を発表。2016年4月には前作から約1年ぶりとなる音源「Afraid To Be Cool / Raise Me Up」を両A面シングルとして配信でリリースした。8月にニューアルバム「Fire Bird」を発表。9月からは全国ツアーを開催する。