ナタリー PowerPush - 雅-MIYAVI-

プロデューサー亀田誠治と手加減なしの“侍”対談

「これってポップすぎない? 明るすぎない? 子供っぽすぎない?」

──私は「PLEASURE!」を聴いたときに「セサミストリート」で流れている曲を思い浮かべたんですよね。子供も楽しめて、教育にもなるような曲っていう意味で。

雅-MIYAVI-亀田 そうそう!

亀田 2人とも「セサミストリート」って言ってたな。

雅-MIYAVI- レコード会社の人には「おかあさんといっしょ」でやりたいって言ってる(笑)。普段から子供番組とかめっちゃ観てるしね。H ZETT Mくんもエディケーショナルなものにしたがってたし。でも作ったとき、俺はめっちゃビビってたんだよね。

──ご自身のイメージとの乖離ですか?

雅-MIYAVI- そう。「これってポップすぎない? 明るすぎない? 子供っぽすぎない?」みたいなことをずーっと考えてました。「STRONG」のあとにレコーディングしたから、なおさらギャップが大きく感じて。

亀田 それを僕が「大丈夫だから、大丈夫だから」って後押しして。

雅-MIYAVI- 今回「SAMURAI SESSIONS」の中には、強さ、希望、怒り、幸せ、祈り、悲しみ、いろんなテーマが曲ごとにあるんだけど、「PLEASURE!」を作ったのは各テーマが形になる前で、突出して幸せ度が高かったからね(笑)。「ちょっと幸せすぎだろ」みたいな葛藤があって。

亀田 最終的に「PLEASURE!」のセッションが序盤にあったおかげで、このあとの風通しは良くなったよね。「SAMURAI SESSIONS」をどう進めていくか見えたというか。

雅-MIYAVI- まあ、それまであらゆるアーティストに断られてたしね(笑)。ぶっちゃけ軽くしんどくなってたんですよね。だけどこの曲ができたことで、作品の幅も広がったし、活路が見えた。

亀田 僕らが「侍」だと思う人たちにお声がけしていたんですが、スケジュール的なもので実現できなかったケースもあれば、コンセプトが響かなかった人も中にはいて。いろんな事情はあるんだけど、オファーをしては断られて枕を涙で濡らして。「(作品が)出てから見てろよ」って思ったり(笑)。

レコーディングが終わった瞬間「勝った」って

写真左から雅-MIYAVI-、亀田誠治。

──上妻宏光さんや沖仁さんとの「HA NA BI」も刺激的なサウンドですよね。ギターと三味線とフラメンコギターっていう、弦楽器という共通項はあるけど、違うタイプの楽器が1曲の中で絡んでるのがすごい。

雅-MIYAVI- 手前味噌ですけど世界中どこを探しても、こういう作品はないと思う。左から三味線、右からフラメンコギター、真ん中からスラップギター、って絶対ないでしょ?(笑)

亀田 日本海と地中海がぶつかり合って、曲の中でうねってるんです(笑)。

雅-MIYAVI- かつ日本の伝統音楽でもなく、フラメンコでもなく、ロックでもない。日本の弦奏者としての誇りを詰め込めれたって思ってる。元々、曲のタイトルは「KA TA NA」だったんだけど、たまたまレコーディングの前日に家族で花火を観に行ったんですよ。花火ってどれもこれも凝ってて奇麗だけど、瞬きしたらもう煙になって夜空に消えてる。そこからまた打ち上げるまで職人さんたちは1年ずっと積み重ねて、それを何年も何十年も繰り返してる。上妻さんや沖さんも、大きな系譜の中でそれぞれのジャンルの歴史の上にいて、また次の世代に継承していくために一瞬一瞬を爆発させている。それが花火の切なさとロマンに重なったんです。

亀田 2人には伝統楽器や伝統音楽の中で戦う人でしか出せない刹那感があるんだよね。

雅-MIYAVI- そういう意味では俺なんか全然気が楽だもんね(笑)。良くも悪くもバックボーンがないから、俺がここから作ればいいやって感覚なんで。でも彼らは違う。そして自分の中に確固たるオリジナリティがあり、上妻さんも沖さんも世界に向けて戦ってる。

亀田 それと仁さんも上妻さんも素晴らしい人格者。自分に厳しく戦ってる人っていうのは、こんなにも人に優しくなれるんだっていうのがあって。愛情が音にも出てる。一流なのに、別に外車乗って登場するわけでもなく、ポロシャツでコーラを飲みながらスタジオに来るんですよ。だけどやっぱね、演奏した瞬間に空気が変わる。

雅-MIYAVI- うん、変わる。と同時に音自体に包容力があるんですよね。それは正直、俺にはなかった。それもすっげえ勉強になったし。このセッションのときは、どっちかっていうと俺がホストとして2人の間に立って、一番良いポジションで2人の音を楽しんでるというか(笑)。どちらかと言うとおまけみたいで。でもとにかくすごい楽しかったの。

亀田 なんかセッション中ずっとニヤニヤしてたよね。

雅-MIYAVI- ある意味で本当に「SAMURAI」を象徴した1曲になったと思う。だってねえ? 上妻さんは日本を代表する三味線奏者で、沖仁さんは世界的なコンクールで優勝して本場のフラメンコギターの世界で認められてる人だし。俺なんて何年か前まで会場によっては、ヴィジュアル系だからって出演断られたりしてたくらいだからね(笑)。そんな俺がこの2人とやれること自体、感無量だし、言葉にはできないくらいうれしかった。「SAMURAI SESSIONS」は終わってないんだけど、レコーディングが終わった瞬間「勝った」って感じがした。

ニューアルバム「SAMURAI SESSIONS vol.1」 / 2012年11月14日発売 / EMI Music Japan
初回限定盤 [CD+DVD] / 3200円 / TOCT-29086
通常盤 [CD] / 1800円 / TOCT-29087
収録曲
  1. MIYAVI vs HIFANA “GANRYU”
  2. MIYAVI vs KREVA “STRONG”
  3. MIYAVI vs YUKSEK “DAY 1”
  4. MIYAVI vs TAKESHI HOSOMI “SILENT ANGER”
  5. MIYAVI vs H ZETT M “PLEASURE!”
  6. MIYAVI vs HIROMITSU AGATSUMA vs JIN OKI “HA NA BI”
  7. MIYAVI vs SEIJI KAMEDA vs MIU SAKAMOTO “祈りを”
雅-MIYAVI-
雅-MIYAVI-(みやゔぃ)

1981年大阪府出身のソロアーティスト / ギタリスト。エレクトリックギターをピックを使わずに全て指で弾くという、独自のスラップ奏法でギタリストとして世界中から注目を集めている。これまでに北米、南米、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアなど約30カ国で200公演以上のライブを行い、3度のワールドツアーを成功させている。2010年10月リリースの最新アルバム「WHAT'S MY NAME?」では、ギターとドラムのみの編成でロック、ファンク、ヒップホップ、ダンスなどジャンルを超越したオリジナルなサウンドを確立。さらに2011年10月からさまざまなジャンルの”サムライアーティスト”とのコラボレーション企画「SAMURAI SESSION WORLD SERIES」を始動。2012年11月にその集大成となるアルバム「SAMURAI SESSIONS vol.1」をリリース。近年は他のアーティストやクリエイターからも高い評価を受けており、UNIQLO、東芝、日産自動車、ロッテ、大塚製薬のCMへの楽曲提供や、布袋寅泰、野宮真貴、GOOD CHARLOTTEらの作品への参加など、精力的な活動を続けている。

亀田誠治
亀田誠治(かめだせいじ)

1964年アメリカ・ニューヨーク生まれ。1989年に音楽プロデューサーおよびベーシストとしての活動を始める。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、Do As Infinity、スガシカオ、アンジェラ・アキ、JUJU、秦基博、いきものがかり、チャットモンチー、エレファントカシマシ、WEAVER、植村花菜、ハナエ、MIYAVI VS KREVAなど数多くのアーティストのプロデュースやアレンジを手がける。また2004年夏に椎名林檎らと東京事変を結成し、数多くのヒット曲を発表。2012年閏日に惜しまれつつも解散する。2007年には「第49回日本レコード大賞」で編曲賞を受賞。2009年には自身初の主催イベント「亀の恩返し」を日本武道館にて開催した。