宮野真守「THE ENTERTAINMENT」インタビュー|5年ぶりのフルアルバムに乗せたエンタテインメントの未来への希望 (3/3)

希望は歌い続けられる

──アルバム後半は「光射す方へ(Album ver.)」から穏やかにチルアウトしていくような印象です。

もともと「光射す方へ」はこのアルバムバージョンのアレンジで制作を進めていたんですよ。シングルとして収録されているオリジナルバージョン(2020年4月にシングルとして発売)はテレビアニメ「あひるの空」のエンディングテーマということで、アニメの内容にマッチした青春ドラマらしい疾走感が前面に出たものなんです。僕はもともとのこのグルーヴ感が強いバージョンも好きだったので、「どこかで収録できないかな」「するとしたらアルバムかな……」なんて思っていたら2年以上経っちゃいました(笑)。

──「EVERLASTING」はアルバムに先駆けて8月に配信されました。スマートフォンゲーム「鋼の錬金術師 MOBILE」の主題歌で、宮野さんのエモーショナルな歌声を堪能できる1曲ですね。

この曲では「鋼の錬金術師」ならではの世界観を打ち出せたらなと。殺伐とした戦いだけじゃない、“あたたかさ”が表現できればいいな、と思ってミディアムテンポな曲に仕上がりました。

──「透明 with overture」は昨年5月にシングルリリースされた際、坂本真綾さんが作詞で参加されていることが大きな話題になりました。

大好きと大好きが集まったコラボレーションです。真綾さんは「今のマモくんが歌う意味、みたいなものを入れたい」とおっしゃっていて。現状が明けたその先の未来には、こんな幸せが待っている、こんな自由が待っている。そんな素敵なメッセージを込めた歌詞を書き下ろしていただきました。完全なる自由と言うにはまだまだだけど、その希望は歌い続けていけるなって。本当にありがたい歌詞をいただきました。

宮野真守

「TEAM」にはみんなの声を乗せて

──11曲目はミュージカル的な雰囲気の「アンコール」で、ラストは「TEAM」。ドラマチックな流れですね。「TEAM」の作曲と編曲はおなじみのTSUGEさんで、作詞は宮野さん。曲名通り、“仲間”に向けた歌です。家族、友人、ファン……広い意味でのチームというか。

そうですね。ファンのみんなもスタッフもバンドダンサーも含めて、僕と出会ってくれた人全員に向けた曲が「TEAM」です。

──これまでも同様に“TEAM”に向けてのメッセージが込められた楽曲はあったと思うんですが、コロナ禍を経て、より強いメッセージ性を感じます。

アルバムのリリースに合わせてライブも決まっていたので、ライブをどのようにしてどんな曲で締めくくるか、という視点もありました。アルバムの全体像を考えたとき、ラストは合唱にしたいなと思ったんですよね。そこに希望が乗せられないかな、と。声を出せないライブであることが決まっている中で、「みんなの声がここにあるよ」と示せる曲を作りたかった。スタッフ含め全員にレコーディングに参加してもらってアンセム感を表現できれば、聴く人にも自分の声を投影してもらえるんじゃないかなと。そう思って合唱曲にしました。

──今はロックバンドなど顕著に「ライブで声が出せないからシンガロング曲が作れない」というジレンマを抱えるアーティストも少なくないと思うんですが、そういう発想の転換もできるんですね。

みんなのことを本気で考えながら録った声をライブで流せば、より合唱感が出るんじゃないかなと。ここ数年で、ライブだけでなく、みんなの前に出るさまざまな場面で手拍子のありがたさを強く感じた一方で、“その先”の曲が欲しいなと思ったんですよね。みんなで歌おうよ!って(笑)。でもそれが叶わないから、「僕たちが歌うよ」「そこにみんなの気持ちも乗せてよ」という思いで作った楽曲です。

──そんなひさしぶりのアルバムを携えたライブツアー「MAMORU MIYANO ARENA LIVE TOUR 2022 ~ENTERTAINING!~」が11月22日にスタートします。これまでのお話にあったように「THE ENTERTAINMENT」というアルバムを軸にしたステージになるかと思いますが、ライブ全体の方向性についてはアルバム制作と同時並行で考えていたんですか?

同時並行で考えながらも、常に変化していましたね。最初「ENTERTAINING!」は今まで通りド派手なライブにしようと思ってましたが、やはり現状そうもいかなくなり。制限された中で何ができるのか、どんなパフォーマンスで見せていくのかを考えています。宮野のエンタテインメントを追求したライブになっていくんじゃないかなと思います。「RELIVING!」は「宮野真守がコロナ禍でライブをやるっていうのはこういうことだ」というテーマを持って挑んだライブでしたけど、今回の「ENTERTAINING!」は1つ“シチュエーション”を設けて展開していこうと思ってます。これまでみんなが観てきた“宮野真守のライブのよさ”が戻ってくればいいなと思っていますね。

宮野真守

前例のないキャリアを進む

──ちなみに先ほどから何度か年齢の話が出ていますが、宮野さんは自身が年齢を重ねていくことについて先々まで意識されていますか?

職業柄、華やかな部分しか見せていないけど、実際の自分が抱える問題はもっとたくさんあって。「そのときどきでできることはなんだろう」というのはよく考えていますね。ただ僕のような前例はあまりなく(笑)、ロールモデルを立てるやり方はうまくいかないな、とは感じています。

──確かに。宮野さんの歩みは、まさにエンタメの総合商社というか、多岐にわたっているので……あるジャンルでは通用することが、ほかのジャンルでは意味をなさないかもしれない。

お芝居は歳相応が求められると思うんですけど、子供心も忘れちゃいけない仕事です。声優のお仕事も、声だけ合っていればいいというわけでもないので、年齢との向き合い方は難しいなと感じます。ドラマでのお芝居であれば見た目年齢で役が決まりますが、アニメの現場だと今でも10代の役柄を演じますし。まだ20代の頃、高校生役をしていたとあるアニメの続編の収録をした際にスタッフさんから「宮野くん思い出して! 高校生だからね!」って言われたことがあって(笑)。きっと高校生らしからぬ渋い声が出ちゃったんでしょうね(笑)。年齢との向き合い方はけっこう悩みの種ですね。

──アニメやドラマなど作り込んでいく現場がある一方で、ミュージカルという生身での一発勝負の舞台でも活躍されています。

舞台は生ものなので、別の大変さがありますね。ただ、そこでしか得られない刺激もたくさんあるので楽しんでいます。それで言うと、音楽活動は「宮野真守が今何を考えているか」をしっかりと打ち出す大変さがありますね。自分で詞を書くときはもちろん、誰かに書いてもらうときも宮野真守の名前でリリースされるものはすべて“宮野真守の思い”として伝わっていくので。演じるお仕事はキャラクターが乗っかりますけど、音楽は宮野真守自身を発信するのでこれもまた大変です。

──50歳くらいになる頃には、もっと手札が増えているかもしれませんね。

50歳か……何やってますかね? ライブの現場では演出についてスタッフと話し合うことも多くなってきているので、今後は新しく何かを作りたくなっちゃうかもしれません。怖いですね。何足草鞋履くのよって(笑)。

公演情報

MAMORU MIYANO ARENA LIVE TOUR 2022 ~ENTERTAINING!~

  • 2022年11月22日(火)兵庫県 ワールド記念ホール
  • 2022年11月23日(水・祝)兵庫県 ワールド記念ホール
  • 2022年12月3日(土)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
  • 2022年12月4日(日)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
  • 2022年12月24日(土)愛知県 日本ガイシホール
  • 2022年12月25日(日)愛知県 日本ガイシホール

プロフィール

宮野真守(ミヤノマモル)

1983年6月8日、埼玉県生まれの声優、俳優、歌手。7歳から劇団ひまわりに所属し、子役として活動を始める。声優としてのデビューは2001年放送のNHK海外ドラマ「私はケイトリン」のグリフェン役。以降はアニメ、ゲーム、洋画吹替など幅広く活躍し、ミュージカルや出演アニメのキャラクターソングで歌手としての実力も発揮し、2008年にシングル「Discovery」でアーティストデビュー。近年は俳優としても活躍。2020年に「半沢直樹」、2022年には「石子と羽男-そんなコトで訴えます?-」「君の花になる」などのドラマに出演するほか、「劇団☆新感線 いのうえ歌舞伎『神州無頼街』」では草臥役として舞台に立った。