宮野真守「THE ENTERTAINMENT」インタビュー|5年ぶりのフルアルバムに乗せたエンタテインメントの未来への希望 (2/3)

30代ラスト、宮野のエンタメはド派手にぶち上げる

──アルバムは前作以降にリリースされた既発曲に新曲4曲を加えた全12曲で構成されています。その幕開けを飾るのがアルバムタイトルを冠した「THE ENTERTAINMENT」で、アルバム全体のムードを表すテーマソングのような存在かと思いますが、その全体像というのはどのように考えていったのでしょうか。

アルバム制作の際には、いつもライブにつながるテーマを設定しているんです。去年の秋にやっと有観客ライブ「RELIVING!」が開催できたことが自分の中では大きくて。試行錯誤を経て、チーム一丸となって成功させた4公演は、「自分は立ち止まらずに音楽を発信していくよ」という決意表明や、「またみんなで笑い合ったり声を出し合ったりできる日が来るといいね」という希望を込めたライブでした。だからこそ、これに続くアルバムとライブは「これからのエンタメをもっと前に進めていくよ」という思いを込めて、絶対に今までのようなエンタメ感全開の楽しいアルバムにしていこうと決めていました。僕は今年で39歳ですし、大人っぽい落ち着いた表現に惹かれる一方で、今アルバムを出すのなら、みんなの“希望”にならないといけない気持ちもあって。まだまだ苦しい世の中ですし、今までと同じようにはいかないかもしれないけど、今できることをやっていこう、と。あとは40代手前であることも逆手にとって、「30代ラストに、宮野のエンタメをド派手にぶち上げていくぜ!」みたいな(笑)。中でも表題曲である「THE ENTERTAINMENT」は、とにかく派手に攻めていこうと決めていました。

──録り下ろしの新曲については、やはりバリエーションも意識して?

僕が好きなソウルミュージックとか、最近聴いててカッコいいなと感じるチルリラックスとか……40代目前で大人になった今だからこそ挑戦できる、「新しくも懐かしい、ソウルな世界観」を打ち出せたら面白いなと思っていました。そこに「この先に新しい未来があるよ」というメッセージを乗せられたらエモいだろうなと。今までも、声優としての宮野を知ってくれているファンのみんなが出会ったことのない曲調だったり、僕が好きな音楽の方向性だったりを楽しんでもらえるようなアプローチをしてきました。それこそR&Bやヒップホップ、ダブステップ、レゲトン、ドラムンベース……ファンのみんなは、知らないジャンルがあったとしても「そんな世界があるんだ!」って楽しんでくれていたと思います。僕の場合はアルバムとライブがセットのことが多いから、「ライブならこうなるんだろうな」と想像することも楽しくて。ワクワクしながら音楽をアップデートしてこれたんですよね。

宮野真守

──「THE ENTERTAINMENT」は70年代ソウルのサウンドが基盤になっていますけど、そこに90年代のR&Bに発展するクラブミュージック、さらには現行のダンスミュージックの要素も感じられる、ダンス音楽史を“全部盛り”にしたような音作りで、宮野さんと長年タッグを組んでいるstyさんのこだわりを感じました。そこに「エンタメの力を信じる」というメッセージが込められていて。「当たり前も変わる君とだから楽しむ」というフレーズも印象的です。

メッセージについては、「変わってしまった世界の中でも見つけられるものがある」という今の僕の思いを、styさんとディスカッションを重ねながら盛り込んでいきました。僕自身、昨年の有観客ライブをやったときに、みんなの手拍子に感動したんです。まるでみんなの歓声を受けたような、温かい気持ちにさせられて。その経験も楽曲に乗せています。

──そこから既発曲の「ZERO to INFINITY」に続きますが、メッセージとしてつながる部分もある、すごくいい並びだなと。

ありがとうございます。ちゃんと思いを届けたかったので、曲順はすごく考えました。

1人だけどボーイズグループになりたい

──「Butterfly」は音数が少なく抑揚の効いた、軽やかなダンスミュージックですね。作詞、作曲、編曲はSHOWさん。

新曲のテーマは4曲とも一緒にしたかったんですけど、すべてが同じメッセージになってしまうことは避けたかったので、根本は同じでも彩る物語を変えています。これまでもSHOWさんとはリアリティのある男女の世界観をテーマに物語性のある曲を作ってきたので、伝えたいメッセージを“男女の世界観”に置き換えたうえで曲作りをしていきました。「余裕のある男性が女性を引っ張ってあげる」みたいな甘い世界観を作れたらいいなと。ダンサブルなミュージックで歌えたらいいなとも思って作っています。

──「Butterfly」のような抑揚の効いた音像は、世界的なムーブメントともリンクしているように感じます。

最近の流行りの要素も盛り込みたい、という思いはありますね。ボーイズグループになりたいなと思って。1人だけど(笑)。こういう軽やかな曲を5人くらいで歌ったら楽しいだろうなって思っています。僕は1人で歌ってるので寂しいですが(笑)。

──「ジャーニー」はディスコファンク的ではありますが、ちょっとバタくさい歌謡曲の要素も乗っていて。そのあたりは上松(範康 / Elements Garden)さんの真骨頂、という感じがします。

この曲は「うた☆プリ」のために作られた曲なので(スペシャルテレビアニメ「うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEスターリッシュツアーズ ~旅の始まり~」メインテーマ)、その世界観の中で表現できるキャッチーさを意識しました。「ジャーニー」はデジタルシングルではあるもののCDにはまだなっていませんでしたし、これを機にぜひじっくり聴いてほしいです。

──アルバム前半はとにかく攻める、ブチ上げっぱなしという印象です。レコードでいうとA面まるまる、息つく暇もないようなすごい展開ですね。

やっぱり“A面B面感”は考えますね! 前半の流れを踏まえて、後半はどうしようか、みたいな。

──「行こう!」は歌謡曲の世界で脈々と続くラテンの血が通ってた楽曲で。例えば米米CLUBのような、洗練されたソウルミュージックと歌謡曲の融合と言いますか。「この歌謡曲っぽいバタ臭さがいいなあ」と思いながら聴いていたんですが、「作詞:森雪之丞 / 作曲:岡崎司」というクレジットに納得するものがありました(笑)。

雪之丞先生の歌詞、やっぱり個性的でめちゃくちゃ“アガる”んですよ。僕も子供の頃から「CHA-LA HEAD-CHA-LA」してきたので(笑)。まさか自分の人生の中で出会えるなんて思ってもいなかったです。今年の春に上演された「劇団☆新感線 いのうえ歌舞伎『神州無頼街』」という舞台で、岡崎さんと雪之丞先生とご一緒するというとても稀有な経験をしまして。劇団☆新感線の舞台は2018年の「髑髏城の七人」に続いて2度目なのですが、劇団☆新感線の舞台は、とにかく得るものが多くて。音楽的にも新しい発見がありました。せっかくのご縁なので、ぜひ自分のアルバムでもご一緒したいと思ってダメ元でお願いしたら、劇団☆新感線も次の制作期間に突入して忙しい中だったのにもかかわらず快諾していただいて。何十曲も作らないといけないって言ってたのに、快く受けていただいてとてもうれしかったです。