ナタリー PowerPush - 宮本笑里×多和田えみ
異色対談で語る「私の沖縄、日本、音楽」
バイオリニストの宮本笑里が、「沖縄」をコンセプトにしたニューアルバム「大きな輪」をリリースした。宮本は本作で中孝介、上間綾乃、ORANGE RANGE、喜納啓子 Ohana、sandii、jimama、玉城千春(Kiroro)、多和田えみ、普天間かおり、前川真悟(かりゆし58)、宮沢和史(THE BOOM)といった個性的なアーティストたちとコラボレート。オリジナル曲のみならず、沖縄を題材にしたヒットソング、長きにわたり沖縄で親しまれているスタンダードナンバーを、バイオリンの音色と各シンガーたちの歌声で表現している。
今回ナタリーでは宮本笑里と、本作でTHE BOOMの「島唄」を歌っている多和田えみにインタビューを実施。同世代の2人に、お互いの印象や一緒にレコーディングした感想、沖縄に対する思い、東日本大震災を通じて感じたことについてじっくり語ってもらった。
取材・文 / 西廣智一 撮影 / 中西求
笑里さんをきっかけに未知の音楽の世界が広がった
──2人が初めて会ったのはいつですか?
宮本笑里 レコーディングスタジオでお会いしたのが初めてでしたね。
多和田えみ この作品がきっかけで。
──宮本さんは多和田さんに会う前、どういう印象がありましたか?
宮本 歌声が特徴的といいますか、すごく魂のこもった歌声を出されるなと感じていました。
多和田 恐縮です(笑)。
──では多和田さんは宮本さんに対して、どういう印象を持ってましたか?
多和田 私はクラシックに本当に疎いんですが、笑里さんや笑里さんの音楽からはクラシック特有の敷居の高さみたいなものをあまり感じなくて。バイオリンの音色だったり、音楽トータルにおけるアンサンブルの魅力だったり、そういったところから音楽の持つエネルギーを強く感じました。だから、笑里さんをきっかけに未知の音楽の世界が広がったような気がします。
──多和田さんが言うように、確かにクラシックって知ってる曲はたくさんあるのに、独特の敷居の高さがあるかもしれないですよね。でも、今回の宮本さんの音楽ってポップスの中にクラシックのテイストを入れる、独特の表現だと思うんです。宮本さんの中ではこういう形で作品を作ることで、もっといろんな人に聴いてほしいという考えがあるんですか?
宮本 確かに、幅広い人たちに聴いてほしいなっていう気持ちはありますね。普段あまりクラシックを聴かない人にも、テレビとかで私の曲を聴いたときに「あ、このメロディ聴いたことある」って思ってもらえて、そこから「どんな曲なんだろう?」って意識してもらえたら、それがクラシックへの興味の入り口になるかもしれませんし。
バイオリンだけだったらこのアルバムは成立しなかった
──沖縄をテーマにした作品を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
宮本 もともと私の家族全員、沖縄が大好きで。私の父(元世界的オーボエ奏者の宮本文昭。現在は音楽家)も休みがあれば「沖縄に行こう」って私を連れていってくれて。だから何度も訪れているんです。それと私の父も以前、沖縄音楽とオーボエやクラシック楽器を融合させたコンサートをプロデュースしたことがあって。最初、オーボエみたいな管楽器と三線のような弦楽器って合うのかなって違和感があったんですけど、いざ聴いてみると「こんなにも新しい世界があるんだ!」という衝撃を受けたんです。その頃から、いつか私も沖縄音楽とバイオリンで何かできたらいいなってずっと思い続けていたんです。
──なるほど。アルバムには沖縄音楽の代表曲も多く含まれていますが、どういう基準で選曲していったんですか?
宮本 まず、私が好きな楽曲というのが第一にあって。「さとうきび畑」や「涙そうそう」、「島唄」なんかは大好きで聴いていたので、この曲をやりたいという希望を自分で出しつつ、スタッフさんと相談しながら決めました。特に今回は「いろんなアーティストさんとコラボレートするに当たり、どういった曲を歌ってもらうのが一番良いんだろう」っていう点ですごく苦労したんですけれど、結果的に良い感じにまとまったなって思ってます。
──実はアルバムを聴く前には、沖縄音楽や沖縄の楽曲というテーマに対して、もっと土着的なテイストなのかと思ってちょっと構えてたところもあったんです。でも、いきなり耳なじみのあるクラシックの名曲のフレーズを奏でるバイオリンの音色が聞こえてきて、安心して聴くことができました。
宮本 もしバイオリンだけだったら、このアルバムは成立しなかったと思うんです。たくさんのアーティストさんたちがメロディに歌声や言葉を乗せてくれたことで、この世界感が作れたんだなと。本当に皆さんに感謝してます。
──沖縄出身の多和田さんから見て、このアルバムはどう映りますか?
多和田 斬新っていう一言がまずパッと思い浮かんで。私が考える沖縄音楽って陽気な感じなんですけど、その中にノスタルジックなものやメランコリックなものを含んでいて、ちょっとブルースに通じるところがあって。でも、この笑里さんのアルバムの世界は、そういうものを全部包み込みつつ、どこか柔らかくてあたたかいものがある。清々しさというか、壮大な包容力をとっても感じました。いやあもう、素晴らしいです!
宮本 あはは。いやいや(笑)。
CD収録曲
- 明日への路 (feat. 上間綾乃)
- 花~すべての人の心に花を~ (feat. 喜納啓子Ohana)
- 島唄 (feat. 多和田えみ)
- one (feat. ORANGE RANGE)
- 朝日 (アコースティック・ヴァージョン) (feat. 玉城千春)
- 愛は私の胸の中 (feat. 宮沢和史)
- ボーダーレス・ジンジン (feat. 喜納啓子Ohana)
- 童神 (feat. Sandii)
- 涙そうそう (feat. 中孝介)
- Stay With Me (feat. 前川真悟 from かりゆし58)
- 大丈夫 (feat. jimama)
- さとうきび畑 (feat. 普天間かおり)
- ハイサイおじさん (feat. Eddie)
- シューベルトのアヴェ・マリア (※初回盤のみボーナストラック)
初回盤DVD収録内容
- 「明日への路」
- 「明日への路」ミュージック・ビデオ・メイキング
- 『大きな輪』制作ドキュメンタリー
宮本笑里(みやもとえみり)
バイオリニスト。14歳のときにドイツ学生音楽コンクールデュッセルドルフ第1位に入賞し、小澤征爾音楽塾・オペラプロジェクト、NHK交響楽団、東京都交響楽団定期公演、宮崎国際音楽フェスティバルなどに参加。これまでに徳永二男、四方恭子、久保陽子、店村眞積、堀正文に師事する。テレビドラマ「のだめカンタービレ」にオーケストラのメンバーとして出演したほか、サッポロビール「ヱビス<ザ・ホップ>」CMキャラクターとして父である元オーボエ奏者・宮本文昭と共演するなど、デビュー前からメディアに多数出演。2007年7月にアルバム「smile」で本格的なデビューを果たす。その後もコンサート活動やテレビ番組のテーマ曲担当など、精力的な音楽活動を展開。CHEMISTRYやDEEN、福山雅治、K、中孝介との楽曲コラボや、アメリカ人ボーカリストJadeとのユニット「Saint Vox」結成、エリック・マーティン(MR.BIG)やソリータなど海外アーティストとの共演など、国籍やジャンルを超えた幅広い活動でその存在感をアピールしている。
多和田えみ(たわたえみ)
沖縄県宜野湾市出身。2005年、高校卒業後カナダ留学中にストリートジャズバンドに参加し音楽に目覚める。帰国後、ナンクル沖縄で活動開始。県内限定シングル「ネガイノソラ」がインディチャートNo.1に輝く。2007年11月に活動の拠点を東京へ移し、2008年4月に全国デビュー。「FUJI ROCK FESTIVAL」をはじめ、多数の大型ライブイベント出演やテレビCMソング担当、クラブ系アーティストのゲストボーカルなど多方面で活躍する。これまでに2枚のシングルと3枚のEPを発売し、2009年11月、待望の1stフルアルバム「SINGS」を発売。2010年3月に村上てつや(ゴスペラーズ)をプロデューサーに迎え制作された3rdシングル「Lovely Day」、6月には全国6都市ワンマンライブ「SINGS OF SOULS live 2010」のステージを収録したCD+DVD2枚組ライブアルバムを発売した。ブルースやソウル、ジャズ、ファンクなどブラックミュージックから強く影響を受けたサウンドと、ときに激しく、ときに優しく聴き手に訴えかけるソウルフルな歌声が高く評価されている。