ナタリー PowerPush - 坂本美雨
“いいことしか起こらない”音楽の魔法
坂本美雨がニューアルバム「Waving Flags」をリリースする。ここ数年はエレクトロ路線のサウンドを志向してきた彼女だが、本作では蓮沼執太をプロデューサーに迎えてぬくもりあふれる音の世界を表現。多数の参加アーティストとともに、凛とした歌声を響かせている。
ナタリーでは坂本美雨本人にインタビューを行い、アルバムに込めた思いを聞いた。
取材・文 / 大山卓也
コンセプトは“おまじない”
──アルバム聴かせてもらいました。オーガニックなサウンドと美しい歌声が印象的で、それぞれの楽曲から美雨さんの強い思いが伝わってきました。
ありがとう。うれしい(笑)。
──まずはこういうアルバムを作ろうと思ったきっかけから教えてもらえますか?
去年のベストアルバム(参照:坂本美雨「miusic ~The best of 1997-2012~」インタビュー)ができた頃から「次はこういうアルバムにしたいな」っていうイメージは浮かんでいたんです。まず音の面では人が演奏するっていうこと。
──打ち込み主体のサウンドではなく?
そう、それまでの3枚のアルバムをエレクトロで作って、それも楽しかったけど今度はもっとゆらぎのあるものを作りたいっていうのが1つあったんです。そしてもう1つが“おまじない”っていうコンセプトで。
──おまじない?
絶対にサバ美(自身の愛猫)が死なないとか、恋人や友達が悪い目に遭わないとか、そのためのおまじない。でもそんなの普通に考えたら約束できないことじゃないですか?
──そうですね。
絶対死なないなんて自然に逆らうことだし、そんなこと無理なのは頭ではわかってるけど、そういう大自然のルールにすら私はものすごい力で抗って、大事なものを絶対に守りたいし、それを音楽でやりたかった。その力を“おまじない”って呼んでみたんです。
いい人にはいいことしか起こらない
──無理なのがわかっているのにそれでも願うんですね。
だって「絶対大丈夫だよ」なんて誰も言ってくれないでしょ? でも大丈夫だし、絶対に悪いことは起こらないし、絶対幸せになるんだってとにかく言い切りたかった。……でもそれはたぶん、私自身が一番そういう言葉を必要としてるからだと思うんだけど。
──不安だからこそ安心を求める?
うん、だから根っから楽観的な人にはこのアルバムは必要ないかもしれないですよね。でも私はそうじゃなくて、人に大丈夫って言ってもらわないと怖くて生きていけないから。サバ美が死んだらどうしようとか恋人が死んだらどうしようとか、どちらかと言うといつも悪いことばっかり考えてる。だからこの世界をサバイブするためのおまじないが自分にとっても必要なんです。
──でも現実の世界はいいことばかりというわけにはいかないですよね。
そうなの。悪いことが起こらないなんて、芸術の中かディズニーランドでしか成り立たないことでしょ(笑)。だからこそ音楽で魔法をかけたいし、そのために音楽があるような気がする。言霊みたいに言ってたら絶対そうなるって思ってて。そういう“魔法の音楽”を作りたいんです。
──なるほど。
だから「そんなこと言って責任取れるの?」とか「根拠は?」って言われたらなんにもないんだけど(笑)、そうだとしても「あなたはいい人だからいいことしか起こらないの!」って言いたい。そういう世の中じゃないのはわかってるんだけど、そうあるべきだと思ってるんですよね。
──「いい人にはいいことしか起こらない」。確かにそうあってほしいですね。
今は世の中がそうじゃなさすぎるから。そのことにずっと納得がいってない。諦めもついてない。しょうがないじゃんって思えないんですよね。もしかしたら、母親たちってそうなんじゃないかな。
──母親というのは?
世の中の母親はどんなに不安を抱えていても、自分の子供に対しては「大丈夫だよ」って言ってあげてると思うんですよね。そして子供のことを絶対守るって思ってるはず。それは自然な気持ちだし、そこに根拠はなくてもいいんじゃないかなって。
- 坂本美雨 ニューアルバム「Waving Flags」 / 2014年3月5日発売 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ
- 「Waving Flags」ジャケット
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3150円 / YCCW-10214/B
- 通常盤 [CD] / 2730円 / YCCW-10215
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CD収録曲
- ドア
(作詞:坂本美雨 / 作曲:蓮沼執太) - Q & A?
(作詞:坂本美雨 / 作曲:蓮沼執太) - ピエロ
(作詞・作曲:成山剛[sleepy.ab]) - HIRUNO HOSHI
(作詞・作曲:illion [illionカバー曲]) - welcome to the village!
(作曲:蓮沼執太) - VOICE
(作詞:山田亮太 / 作曲:蓮沼執太) - =(イコール)
(作詞:坂本美雨 / 作曲:蓮沼執太) - your name is magic word
(作詞:坂本美雨 / 作曲:蓮沼執太) - おとぎ話
(作詞・作曲:三浦康嗣 [□□□カバー曲]) - Waving Flags
(作詞:坂本美雨 / 作曲:蓮沼執太) - やくそく
(作詞:坂本美雨 / 作曲:蓮沼執太)
初回限定盤 DVD収録内容
- Waving Flags(Music Video Short Version)
- The Making of "Waving Flags"
- ドア
坂本美雨(さかもとみう)
1980年生まれの女性シンガー。1997年1月に「Ryuichi Sakamoto featuring Sister M」名義でデビューし、1998年から本名での音楽活動を開始する。透明感あふれる歌声が高い支持を集め、1999年発表のシングル「鉄道員」は映画「鉄道員(ぽっぽや)」の主題歌に起用された。2010年からはエレクトロポップ路線のサウンドを追求し、同年5月にアルバム「PHANTOM girl」、2011年5月に「HATSUKOI」を発表。2012年8月のアルバム「I'm yours!」ではKREVAとのコラボレーションでも話題を集めた。2013年6月に15年間のキャリアをたどる初のベストアルバム「miusic ~The best of 1997-2012~」をリリース。現在はおおはた雄一とのユニット「おお雨」としても活動中。父は坂本龍一、母は矢野顕子。