ナタリー PowerPush - 蜜
魅惑の“声”を凝縮した「eAt me!」解説
コケティッシュな魅力を振りまきながら、表情豊かに歌う木村ウニと、優しく繊細な歌声とギターで聴き手を包み込む橋詰遼。キャラクターも音楽性も全く違う2人による蜜は、歌合戦をするかのように声を響かせながら、多彩な音楽性を披露していくアコースティックデュオだ。今年メジャーデビューを果たし、フジロックなどフェスへの出演も果たした彼らが、待望の1stアルバム「eAt me!」を完成させた。
取材・文 / 宮内健 撮影 / 広川智基
“一軍”が揃った収録曲
──今年のフジロックではGypsy Avalonに出演されてましたよね。僕も観ることができたんですが、会場の雰囲気に合ったいいステージでした。
木村 ありがとうございます。まだまだ蜜のことを知らない人が多かったけど、外国の人も「フーッ!」とか言って盛り上がってくれて。
橋詰 それって、良いのか悪いのかわからないですけど(笑)。
木村 なんか木村の踊りに興奮したみたいな感じで。
──言葉の壁を超えて、蜜のパフォーマンスで魅了したわけですね(笑)。今年6月に「初恋かぷせる」でメジャーデビューして、いよいよ1stフルアルバムがリリースされるわけですが、いつ頃から作り始めたんですか?
橋詰 インディーズのアルバムを作り終えてから、少しずつ録りためていて。楽曲に関して以前から演奏してたものもあれば、レコーディングぎりぎりまで作ってたものもあったり。
──自分たちのレパートリーの中から、今回収録された10曲を選んだ基準はあったんですか?
橋詰 まず2人の声を聴かせたかったので、できるだけ削ぎ落としたサウンドで録りたかった。その中で振り幅の広さを見せたかったので、曲調が被らないようにして。
──確かにシングルを単発的に聴いているだけではわからない、「蜜ってこんな曲も歌うの!?」っていう新鮮な驚きがある10曲ですよね。既発のシングル曲のように、爽やかで温かみのある曲がある一方で、情念がドロッとあふれる一面も見えたり、表情豊かで楽しんで聴けました。
橋詰 ライブではそういう部分も出せてたんですけど、シングルだけではなかなか。だからアルバム1枚を通してコンセプトがあるというより、今の自分たちはこういうこともやってますって、いろいろ見てもらうようなアルバムにしたかったんですよね。
木村 そう、手を替え品を替え(笑)。蜜の4年間で作ってきた曲の中でも“一軍”が揃ったなって思ってます。なので、私にとってもお気に入りの1枚になりました。
「アセロラ」は歌詞が肝
──いくつか曲ごとに話を訊いていきたいんですが、まず1曲目の「アセロラ」から。
橋詰 蜜の音楽にはいろんなフレーバーがあると思うんですけど、その中でもど真ん中になるような曲が欲しいなって思って、この曲のメロディを書いて。それを軸にしつつ、一方でどこまで遊べるかというのを意識しながら作ったんですよね。でも僕の中では、この曲の肝は歌詞だと思ってるんです。
木村 「アセロラ」は、みんな1人だってことを書いてて。いい意味で独立心を持って、自分の時間とかアイデンティティを大切にすることで、初めて周りの人たちや自分の側にいる人たちと寄り添える環境に気付けるというか。まず今日1日をどう生きていくかを突き詰めることが、自分と自分の人生を作っていくんだっていうことを言いたかったんです。
──そこに「アセロラ」っていう、一見すると関係なさそうなキーワードが絡んでくるのは?
木村 アセロラの実って、甘酸っぱくもありつつ、ちょっとエグい感じの味がするんですよね。その味覚のイメージと曲で伝えたいことが重なって。生きるっていうことをすごく考えて作ったんです。
──そういったことは、歌詞を書くにあたって改めて思考を巡らす感じなんですか?
木村 歌詞を書くときに限らず、割と日々考えてます。私自身、色がない人間だと思うんですよね。他人に言ってもらったり、気付かせてもらわないと、自分のことがわからなくて。グラグラしたり偏ってたり、定まってないなって思うから。
──それを言葉にしていくことで、だんだんと道が見えてくるというか。
木村 そうですね。いつもは身の回りで起こったことを点で考える感じなんですけど、歌詞を書くって作業は、その点と点をつないで紐解いていくようなことだと思ってて。うまいことつながったら、すらすら書けるんですけど。
──そうして生まれた曲たちも、アルバムを聴き進めていくことで、いろいろなところでつながっていくような気がしますね。
- ニューアルバム「eAt me!」/ 2012年11月07日発売 / 2500円 / EMI Music Japan / TOCT–29079
- ニューアルバム「eAt me!」
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CD収録曲
- アセロラ
- レター
- 初恋かぷせる
- ひとつだけ
- パープルスカイ
- DX
- ロイヤルノンタイトル
- 行かなきゃ
- どうしようもない
- あいせき
- 配信限定カバーアルバム「蜜狩り」
- 配信限定カバーアルバム「蜜狩り」
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収録曲
- HONEY / L'Arc-en-Ciel
- バウムクーヘン / フジファブリック
- 心もよう / 井上陽水
- traveling / 宇多田ヒカル
- あざやかな場面 / 岩崎宏美
- Give me a Shake / MAX
- ひとつだけ / 矢野顕子
- 私がオバさんになっても / 森高千里
- 髭と口紅とバルコニー / 鈴木慶一とムーンライダーズ
- トンネルぬけて / BO GUMBOS
蜜(みつ)
木村ウニと橋詰遼の2人からなる男女ボーカルユニット。木村はロックバンドのボーカリストとして、橋詰はソロアーティストとして活動していたが、コンテストでの出会いをきっかけにユニットを結成。アコースティックスタイルを基本に、大阪でライブ活動を行う。どこか懐かしさを感じさせるキャッチーなメロディ、美しく伸びやかなツインボーカルの妙、躍動的なパフォーマンスが繰り広げられるライブなどでリスナーを獲得。2011年10月に「いくつかの恋」、2012年3月に「ひとひらの時」というミニアルバムをインディーズレーベルからリリースしたのち、2012年6月に「初恋かぷせる」でEMIミュージック・ジャパンからメジャーデビュー。同年11月にメジャー1stアルバム「eAt me!」をリリースした。