Mitchieさんがすごく褒めてくれる(笑)
──楽曲が完成したあとは、キャラデザと動画制作のフェーズに入るわけですよね。具体的にはどういうことが行われる感じなんでしょうか。
Mitchie M 曲ができあがった段階で、まず僕が企画書とラフコンテを用意して……最初はお二人との打ち合わせからでしたね。資料を見てもらいながら細かい質問を受け付けたり、実際どこまで実現可能なのかを相談させてもらったり。
TSO そのキックオフミーティングのあとは、まず白狼さんがキャラクターデザインに取りかかって、そのあとで僕が本コンテを描いて、という流れですね。
白狼 さっきもちょっと言いましたけど、デザインは本当にすんなりできまして。やっぱり曲がすごくよくてイマジネーションを刺激してくれたというのもあるし、あとMitchieさんがすごく褒めてくれるから(笑)。
Mitchie M・TSO あははは。
白狼 めちゃくちゃ褒めてくれるんですよ。僕はわりと単純なんで、褒められると調子に乗るんです(笑)。しかも、設定は細かく作り込んであってヒントはたくさんくれるんですけど、具体的に「こういうデザインにしろ」というのがないので、すごくやりやすくて。かなり自由にやらせてもらえましたし、だからこそ「よりいいものを作りたい」という気持ちで描けたと思います。
Mitchie M ミクの対戦相手として出てくるリン、レンのデザインが視聴者の方々に人気ですよね。
白狼 うれしいです。僕自身がボーカロイドにすごく詳しいわけではないので、だからこそ自由にデザインできたのがよかったのかもしれないですね。
Mitchie M あと、ミクが持つ凶器のパイプもよく見るとカラーリングがネギになっていたり(笑)、そういう発想がすごいなと。なかなか思い付かないですよ。
白狼 あれも「気付かれなくてもいいや」くらいの気持ちで描いたものなんですけど、けっこう気付いてくれる人がいてうれしかったです。
TSO 僕は初めのほうでミクに絡んでくるヤンキーたちが面白くて好きなんですよね(笑)。
Mitchie M あの人たち、もともとそんなに重要なキャラクターじゃないんで企画書には「デザインは適当でいいです」みたいに書いたんですけど、白狼さんが1人ひとりちゃんとキャラデザしてくれたんですよ。
白狼 やらなくていい作業ではあったんですけどね(笑)。やれる時間があるなら、ちゃんと設定を決めて作りたいなと思ったんです。
二人のおかげで、自分の考えたものを完璧な形で観ることができた
TSO キャラクターデザイン後の作業でけっこう大事になってくるのが、イラストレーターさんとの「どこからどこまでをどちらが作業するのか」みたいな線引きですね。「こういうふうにレイアウトを組みますよ」となった段階で、「じゃあこのカットはどういう動きをするんだろう?」「そのためには手や足をどうレイヤー分けしたらいいだろう?」というのを精査していって、動画側で対応するのか、追加でイラストを描いていただくのか、発生する作業を切り分けていくんですけど。
Mitchie M 最初のコンテは僕が描いてはいるんですけど、基本的に映像に関しては素人なので、そこから先はほとんどTSOさんにまとめていただいた感じです。
──言うなればMitchieさんが総監督で、TSOさんが現場監督みたいなイメージになるわけですね。進行上、何か苦労したことなどはありましたか?
TSO 動画にするためのイラストを描くのって、実際かなり難しいことなんじゃないかと思うんですよ。一枚絵を描くのとは全然違うプロセスになるわけですから、白狼さんにはかなり負担を強いてしまったところがあるんじゃないかと思っていて……むちゃくちゃ無理難題を申し上げましたが、最終的にすごく使いやすいデータとして上げていただけて本当に助かりました。
白狼 いや、そこは別にそんな。僕はもともとゲーム会社にいたんですけど、ゲームでもそういう用途の絵を描くことは日常的にありましたし、特別そんなに苦労はなかったですね。
Mitchie M 僕からすると、バイクとイラストの合成が本当にすごいなと。2Dと3Dが違和感なく見事に一体化していたので、すごく感動しました。
TSO そこはけっこう複雑な工程を経ていたりするんですよ。Mitchieさんが用意してくれたバイクの3Dモデルをもとに、僕が画角に合わせてレンダリングして、それを白狼さんに渡して上からイラストを描いてもらう、みたいな。細かく行ったり来たりしながら進めていきましたね。
──そうしてできあがった映像に関しては、皆さん十分にこだわりを詰め込めた手応えがありますか?
Mitchie M 率直に言うと「やり切ったな」という気持ちですね。お二人のおかげで、自分の考えたものを完璧な形で観ることができてすごい感激です。
TSO やればやるほど「あれもしたい、これもしたい」が出てくるので、やめ時を探すのが難しかったですね。特に終盤くらいになると、もうやってもやらなくても観ている人にとっては何も変わらないんじゃないかくらいのところまで手を入れたりしていたので……。
──その作業にどうやって区切りを付けたんですか?
TSO どうやって……ええと、体力の限界(笑)。
一同 あははは!
TSO 最終的には自分の限界までやり切ったんじゃないかな、という感覚はありますね。
白狼 僕はちょっと自分の絵に自信を持っていないタイプなんですけど、できあがった映像を観ると、TSOさんの動画の中ではすごく映えて見えるので「やっぱ動画ってすげえ」と感じました(笑)。「音楽と動画の力を借りるとこんなに絵がよく見えるんだ?」っていう。
TSO いやいやいや、こちらこそ「白狼さんのとんでもない作画コストがかかっている絵を、こんなにジャブジャブ湯水のように使っていいんだろうか……?」という思いでやってましたよ。すごく手の込んだいいカットなのに1秒にも満たない時間しか使われていないようなケースもあったりするんで、皆さんにはぜひ一時停止しながらじっくり味わってもらいたいですね。
バッドエンドをどうやってうまく見せるか
Mitchie M ちなみに今回、ラストがけっこう暗い終わり方になっているんですけど、お二人はそれについてどう思いました?
白狼 僕はすごく、コンテの段階ですでに好きでしたね。あれを観て、けっこう勝手にミクが死んだものと思い込んでいる人も多いみたいですけど、実際のところはわからないですよね? もしかしたら生きてるかもしれない。
TSO 僕もあの終わり方は好きでしたよ。作りながら「続きがあるんちゃうかな」と思ってたんですけど(笑)。この後日談みたいなものがもしあったら、作ってみたい気持ちはありますね。
Mitchie M ああ、よかったです。意外と、自分が思っていた以上にあの結末に拒否反応を示すリスナーもいたんですよね。世の中がハッピーな音楽に慣れすぎちゃってるのかもしれないなと改めて感じたというか。昔の日本では、例えば70年代には「貧しさに負けた~」みたいな歌(さくらと一郎「昭和枯れすゝき」)が共感を呼んで大ヒットしたりしていたわけですけど、今の時代だと「こんな暗い歌は聴きたくない」という反応が主流になるんだなと。初のバッドエンド曲を出してみたことでそれがわかって面白かったですし、チャレンジできてよかったなと。
──個人的には、まったくバッドエンドとは感じなかったですけどね。痛快で気持ちのいい終わり方だな、としか。
Mitchie M ああ、それはうれしいです。僕もそう思ってるんですよ。たぶん我々の世代が暗い終わり方をする物語に慣れているということもあるんでしょうね。そういう映画とかも昔はたくさんありましたし。
──「ダンサー・イン・ザ・ダーク」とか。
Mitchie M そうそう、まったく救いのない(笑)。でも、今はかなり「バッドエンドにすると視聴率が取れない」みたいな風潮が強いみたいで。なので、今後は「バッドエンドをどうやってうまく見せるか」というところを勉強していきたいですね。毎回ハッピーで終わるわけにもいかないですし、若い人たちにも拒絶されないバッドエンドというものは模索していきたいです。
プロフィール
Mitchie M(ミッチーエム)
2011年7月15日にニコニコ動画にオリジナル曲「cosmic ballad」を投稿し、ボカロPデビュー。その2週間後に投稿した「FREELY TOMORROW」は当時ボカロP史上最短である10時間40分で100万再生を達成した。ボーカロイドに息遣いや人間らしい発声を求めた“神調教”を特徴とし、2013年11月にメジャー1stアルバム「グレイテスト・アイドル」をリリース。2015年に安室奈美恵「B Who I Want 2 B feat. HATSUNE MIKU」の調声と作詞を担当し、2016年には初音ミクが出演して話題となったヘアケアブランド「Lux」テレビCMに楽曲「未来序曲」を提供した。その後も「白猫プロジェクト×初音ミク」コラボ企画のテレビCMソングやモバイルリズムゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」のテーマ曲、「ラブライブ!サンシャイン!!」×初音ミクのコラボ曲などを手がけて幅広く活躍。2023年1月にMitchie Mとしての約2年ぶりの新曲「少女Aに夜露死苦(feat. 初音ミク)」を配信リリースした。
Mitchie M (feat.初音ミク)@ボカロP (@_MitchieM) | Twitter
白狼(パイラン)
主にオリジナルメインで活動しているイラストレーター。
TSO(トサオ)
映像クリエイター。学生時代は美術大学で版画を専攻。その後、独学で、3DCGや映像制作を学ぶ。ボーカロイドのミュージックビデオ制作をはじめ、ニコニコ動画の黎明期から活動。代表作は「Bad∞End∞Night」シリーズ、「リングの熾天使」など。ロゴデザインやイラスト制作など活動は多岐に渡る。