ナタリー PowerPush - Mitchie M feat. 初音ミク
無類のポップセンスと神調教が生み出した“偉大なアイドル”アルバム
誰が「Mitchie M」を名乗るのか?
──あれほどの曲が書けて、あれだけリアルな初音ミクの調声ができて、しかもスタジオワークまで自分でこなせるのに「オレのCDを聴け!」っていう気持ちはない?
そういう時代でもないような気がしていて……。音楽の周辺にあるいろんなものを含めて1つのパッケージなんじゃないかな、と思っていて。僕が「オレのCDを聴け」って言っても、誰も興味を持たないんじゃないかな(笑)。
──ニコニコ動画ではみんな「Mitchie M」タグをクリックして、Mitchie Mさんの曲を楽しんでるわけですよね? ちゃんとMitchie Mさん自身がブランディングされているような……。
むしろニコニコ動画がまさにそうだと思うんですけど、僕はある意味音楽を作るだけ。動画を作ってくれる方はまた別にいて、その動画を楽しみに観に来ている人もいるわけですし。加えて、CDを出すとなればスタジオエンジニアの方や、プロモーションを担当してくれるレーベルの方もいるわけで。そういう人たちを含めたものがMitchie Mっていう存在なんじゃないかな、と思ってます。
──とはいえ、今回の「グレイテスト・アイドル」って本当にMitchie Mさんのソングライターとしての能力を満天下に見せつける1枚になっているから、今後、ご本人を取り巻く状況って変わるような気もします。
うーん、どうなんでしょう……。それはそうなったとき考えようかな、と(笑)。やるだけのことはやったので、あとは本当に結果を待つって感じですね。もともとプレイヤータイプではなくて、作詞、作曲、アレンジ、エンジニアリングっていうトータル的な制作が得意だっていうこともあって、状況を客観的に捉えようとしているのかもしれませんね。「気合いでなんとかなるだろう」とかそういうふうには思えないんですよ(笑)。
最新トレンドと名盤、そして一発屋を追いかける
──気合い一発みたいなタイプの人に対する憧れは?
すごくありますよ。一発屋とかも大好きですし(笑)。
──例えば誰?
ジグスパとか(笑)。
──Sigue Sigue Sputnikなんてまさに気合い一発、アイデア一発のグループじゃないですか(笑)。
でもジグスパがまさにそうなんですけど、気合い一発の人ってそうそう長くは続かない場合が多い気がしていて。でも売れると一気に行くじゃないですか。そういう部分もあるので、一発屋だろうと名盤を残した歴史に残るバンドだろうと、とにかくいろんな曲を聴きながら、冷静に制作を進めたほうがいいんだろうな、っていう気はしてますね。
──やっぱり音楽制作にはリスナーとしての耳って重要なものですか?
以前仕事でJ-POPのカバーのトラック制作をやってたんですけど、そこではいろんな楽曲を聴いてコピーして、それを和モノっぽく作り直すって作業を繰り返してたんですね。今、いろんなジャンルの楽曲を作れているのは、そのときにいろんな曲を聴いて、自分のトラックに反映させる力を鍛えられたからなんだと思っているんです。それに音楽シーンは常に変化し続けていて、新しいものがどんどん出てきているので、それを吸収していかないと置いてけぼりを食らうっていう面もありますよね。
──すごくポップな歌謡曲的メロディラインと黒っぽいリズムと神調教っていう独自のスタイルを確立した今でも?
ただ、例えば3枚目のCDを作るとき、今のテイストのままだと僕自身「また同じことをやってるよ」って気になるだろうし、聴いている人もきっとそう思うと思うんですよ。使える楽器に限りのあるバンドならある程度似たテイストでも続けていける部分もあるかとは思うんですけど、僕のやっていることは打ち込みなので、サウンドは時代とともに変化していかなきゃいけないですよね。なのでやっぱりクラブシーンなんかは常にチェックしておいて、新しいものが出てきたら聴くようにするし、新しい音を作るようにはする。それは怠れないな、と思ってます。
──では最近気になるアーティストは?
ディプロですね。もともとM.I.Aのアルバムに参加しているのをきっかけに知ったんですけど、それ以来好きで注目しているって感じなんです。それにM.I.A自身も、特別歌がうまいわけではないんだけど、ものすごくキャラクターが立っているところがすごく好きで。アーティストとしてのたたずまいがカッコいいっていうあたりは初音ミクにも通じるのかなって思ってます。
──逆に永遠のアイドルは?
アントニオ・カルロス・ジョビンですね。
──先ほど話に出させてもらった「Getz/Gilberto」にも参加してましたよね。
そうやってジャズマンと共演してボサノバを世界に広めましたし、あと彼自身の代表曲「想いあふれて」や「ディサフィナード」は全然単純なものではなくて、実はかなり複雑なコードを使ったりしてるんですけど、でも大衆に受け入れられている。その浸透のしかたは本当にすごいことだと思って尊敬しています。
- ニューアルバム「グレイテスト・アイドル」 / 2013年11月6日発売 / Sony Music Direct
- 初回限定盤 [CD+DVD] 4095円 / MHCL-2373~5
- 通常盤 [CD+DVD] 3150円 / MHCL-2376~7
CD収録曲
- FREELY TOMORROW
- アゲアゲアゲイン
- 愛Dee
- ビバハピ
- Bye Bye Blue Memory
- Aizu~会津~
- イージーデンス
- 悲しみは愛情のように
- 短気呑気男子
- アイドルを咲かせ
- Believe(ver.HD)
- シティー・ボーイ
- Birthday Song for ミク
初回限定盤DVD収録内容
- FREELY TOMORROW(by yama_ko)
- イージーデンス(by ライクーP)
- 愛Dee(by yama_ko)
- Birthday Song for ミク(by llcheesell)
- アイドルを咲かせ(by Gたま(ネコ系))
- ビバハピ(by cort & THORU MiTSUHASHi)
- アゲアゲアゲイン(by TOHRU MiTSUHASHi)
- FREELY TOMORROW(Project DIVA ver.)(by SEGA)
通常盤DVD収録内容
- 愛Dee(by yama_ko)
- Birthday Song for ミク(by llcheesell)
- アイドルを咲かせ(by Gたま(ネコ系))
- ビバハピ(by cort & THORU MiTSUHASHi)
- アゲアゲアゲイン(by cort & THORU MiTSUHASHi)
Mitchie M(みっちーえむ)
ニコニコ動画を中心に活躍するボカロP。高校時代よりバンド活動を始め、大学時代にはDTMでの音楽制作をスタート。大学卒業後、フリーの作曲家、エンジニアとして活動を開始する。2011年7月にニコニコ動画に投稿した「FREELY TOMORROW」がわずか20日で100万再生を達成し、以来、日本の古きよき歌謡曲にも連なる和モノのメロディと黒人音楽的グルーヴ、ラップすらも巧みにフローし、息づかいさえ感じさせるリアルな初音ミクの調声技術が評価を集め、「ビバハピ」「イージーデンス」「愛Dee」など多くのヒット曲を生み出す。2013年11月にはメジャー1stアルバム「グレイテスト・アイドル」をリリース。その楽曲群はもちろん、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズなどのキャラクターデザインで知られる貞本義行が描く初音ミクをあしらったジャケットデザインも大きな話題を集めている。