ナタリー PowerPush - Mitchie M feat. 初音ミク
無類のポップセンスと神調教が生み出した“偉大なアイドル”アルバム
そろそろ自分の好きな曲も作ってみようかな
──ボカロPデビューっていつ頃なんですか?
2011年ですね。
──なぜボカロ曲を作ってみようと?
完全に趣味の延長です。
──それはそれでけっこう不思議というか。スタジオエンジニアリングまでできるプロの作家がなぜ趣味の曲を投稿しようと?
それまでずっと仕事として音楽を作ってきていて、個人的な作品を発表してこなかったので、そろそろ自分の好きな曲も作ってみようかなって思っていたというのがまずあって。ちょうどそのタイミングで初音ミクが盛り上がっていたので、一度使ってみようかなって感じだったんです。
──けっこう初音ミクのことを寝かせましたよね(笑)。音楽畑の方なら2007年に初音ミクが発売されていることはもちろん、2003年にヤマハがボーカロイドを発表したことも知っていたかと思うんですけど……。
そうですね(笑)。もちろんボーカロイドっていう技術のことは知っていたし、初音ミクについても発売当時からデモなんかは聴いていて、ニコニコ動画にいろんな曲が投稿されていることもわかってはいたんですけど、正直、技術的にちょっとまだまだだろうと思ってたんですよね。でも4年経ったとき、技術的に進化しながら、ブームもさらに広がっていて。それで試してみたって感じですね。で、試作として1曲作って投稿してみたんです。
──どのくらい反響がありました?
ほとんどなかったですね(笑)。まあ理由はわかりやすくて、僕自身ニコ動初投稿だったっていうのもあるし、その「cosmic ballad」っていう曲はバラード調でしたから、そんなにウケるような曲調でもなかったっていうのもあります。その反省も踏まえて「次の楽曲では本格的にがんばってみよう」っていう意味でダンサブルなチューンを作ったら、予想以上にウケてしまったという……。
ニコ動ユーザーはいいと思ったら受け入れてくれる
──その曲が今回のアルバム「グレイテスト・アイドル」の1曲目「FREELY TOMORROW」ですよね。プロの方にとって改めて楽曲が広く評価されるのってどういう気分がするものなんですか?
自分の曲を沢山の方が聴いてくれて反応してくれたことは、とてもうれしかったです。そういう声をいただいたから、その後ボカロ曲の制作を集中的にやることになったわけですし。自分自身に変化を与えてくれたな、と思っています。
──ご自身で分析するに「FREELY TOMORROW」以降、発表する楽曲が軒並み高い評価を集め続ける理由ってどこにあるんだと思います?
実はそんなに評価されているとは思ってないんですよ(笑)。もっとアクセスを集めている方はたくさんいますし。でもほかのPさんがやってないことをやっているというのがあるんだろうなとは思います。今ニコ動でトレンドのギターロックはやっていませんし。ちょっと変わった立ち位置でやっていたことが評価につながったのかな、と思います。例えば「イージーデンス」は本当に昔のディスコっぽい感じを狙って作ったので「ウケないかな」って思ってたんですけど、けっこう気に入ってくれる人がいたりして。
──たぶんニコニコ動画を観ている年若い子ってあの手の和モノディスコを普段は聴いてないですよね。
ただ普段聴いていないものであっても、いいと思ったら受け入れてくれる。そのことはニコ動を使うようになってすごく感じてますね。
Mitchie Mがジャンルを縦横無尽に横断する理由
──確かに若い子にとってはMitchie Mさんのトラックを聴くのってかなり新鮮な体験なんだとは思います。「グレイテスト・アイドル」の収録曲をとっても、フィルターハウスの「FREELY TOMORROW」や、ディスコチューンの「イージーデンス」もあれば、スラップベースをバキバキいわせるファンクの「愛Dee」や、ノベルティソングっぽいラップチューン「ビバハピ」、80年代テクノとヒップホップを融合させたアフリカ・バンバータ的な「短期呑気男子」もあるし。
僕がリスナーとして聴くとき、全部の曲が似たようなBPMの似たようなリズムパターンになっているアルバムって飽きちゃうんですよ(笑)。なのでなるべく同じ曲調は避けるようにはしています。あと、これはニコニコ動画で曲を発表しているから考えることなのかもしれないんですけど、観ている人はつまらないと思ったらすぐにブラウザを閉じたり別の動画に飛んでしまうんですよね。そういうリスナーの方たちにアルバム全曲をいかに楽しんでもらえるかって考えたら、こういう形になったという感じなんです。
──若いリスナーにいろんなジャンルの曲を聴いてもらいたい、っていう気持ちは?
それもありますね。僕、ジャコ・パストリアスが大好きなんですが、あの人っていきなりビッグバンドをやったりだとか、古いタイプのジャズ、例えばチャーリー・パーカーのカバーをやったりだとか。そういうものを現代に蘇らせるセンスがすごくいいですよね。
──確かに天才ベーシストであると同時に、すごくジャンルで括りにくい人っていう印象があります(笑)。
そうなんですよね。実は自分の作品を通じていい音楽を紹介するのがすごくうまいベーシストだと思うんです。できれば自分もそういう存在になれたらなとは思ってます。
──なんでそうやってバラエティに富んだ音楽を作っていながら、どの曲もきちんとも「Mitchie Mのトラック」になるんだと思います?
うーん……。自分の作風みたいなものを強く意識したことはないんですけど、メロディについては「なるべくシンプルにするように」っていうことを心がけています。多くの人に受け入れられるためには曲が覚えやすいっていうのは最低条件だと思っているので、Aメロ→Bメロ→サビっていう決まった構成はなるべく守るようにしたりとか、メロディ自体もできるだけシンプルにしたりとか。同じフレーズを何回もリフレインしたりするのもそういう理由からですし。それと僕、ジャコに限らずベーシストは大好きなので、ベースラインの研究は常にしてるんです(笑)。そのおかげでどの曲でも僕なりの黒っぽさが出てるのかな、とは思ってます。
- ニューアルバム「グレイテスト・アイドル」 / 2013年11月6日発売 / Sony Music Direct
- 初回限定盤 [CD+DVD] 4095円 / MHCL-2373~5
- 通常盤 [CD+DVD] 3150円 / MHCL-2376~7
CD収録曲
- FREELY TOMORROW
- アゲアゲアゲイン
- 愛Dee
- ビバハピ
- Bye Bye Blue Memory
- Aizu~会津~
- イージーデンス
- 悲しみは愛情のように
- 短気呑気男子
- アイドルを咲かせ
- Believe(ver.HD)
- シティー・ボーイ
- Birthday Song for ミク
初回限定盤DVD収録内容
- FREELY TOMORROW(by yama_ko)
- イージーデンス(by ライクーP)
- 愛Dee(by yama_ko)
- Birthday Song for ミク(by llcheesell)
- アイドルを咲かせ(by Gたま(ネコ系))
- ビバハピ(by cort & THORU MiTSUHASHi)
- アゲアゲアゲイン(by TOHRU MiTSUHASHi)
- FREELY TOMORROW(Project DIVA ver.)(by SEGA)
通常盤DVD収録内容
- 愛Dee(by yama_ko)
- Birthday Song for ミク(by llcheesell)
- アイドルを咲かせ(by Gたま(ネコ系))
- ビバハピ(by cort & THORU MiTSUHASHi)
- アゲアゲアゲイン(by cort & THORU MiTSUHASHi)
Mitchie M(みっちーえむ)
ニコニコ動画を中心に活躍するボカロP。高校時代よりバンド活動を始め、大学時代にはDTMでの音楽制作をスタート。大学卒業後、フリーの作曲家、エンジニアとして活動を開始する。2011年7月にニコニコ動画に投稿した「FREELY TOMORROW」がわずか20日で100万再生を達成し、以来、日本の古きよき歌謡曲にも連なる和モノのメロディと黒人音楽的グルーヴ、ラップすらも巧みにフローし、息づかいさえ感じさせるリアルな初音ミクの調声技術が評価を集め、「ビバハピ」「イージーデンス」「愛Dee」など多くのヒット曲を生み出す。2013年11月にはメジャー1stアルバム「グレイテスト・アイドル」をリリース。その楽曲群はもちろん、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズなどのキャラクターデザインで知られる貞本義行が描く初音ミクをあしらったジャケットデザインも大きな話題を集めている。