ナタリー PowerPush - Mitchie M feat. 初音ミク
無類のポップセンスと神調教が生み出した“偉大なアイドル”アルバム
ボカロP、Mitchie Mがアルバム「グレイテスト・アイドル」を11月6日にリリースする。
上質なセンスに裏打ちされたメロディと、あらゆる黒人音楽のエッセンスを取り込んだグルーヴィなトラック、そしてあたかも人間が歌っているかのような、徹底的な調声を施された初音ミクの声という3つを武器に、ボカロシーンで圧倒的な存在感を誇ってきたMitchie M。そんな彼のメジャー1stアルバムはその名の通り、当代きってのNo.1アイドル・初音ミクが極上のポップミュージックの数々を歌う“グレイテスト”なアイドルポップアルバムに仕上がっている。
ギターロック優勢の今日のボカロシーンにあって、明らかに異彩を放ち続けるMitchie Mとは何者なのか。本人を直撃した。
取材・文 / 成松哲
「ブルース・ブラザーズ」をきっかけに名盤を掘る中学時代
──Mitchie Mさんの楽曲を初めて聴いたとき、ホントにビックリしたんですよ。日本人好みのする歌謡曲的なメロディラインと黒人音楽的なグルーヴ感を高い次元で融合させたトラックの上に乗るのは「これ、ホントにボカロが歌ってるの!?」っていうくらいリアルな調声を施した初音ミクの歌声。これはただごとではないと思って、以来ずっと「この人何者だ!?」って気になってたんです。なので今日はルーツからガッツリ追わせてもらいたいんですけど、まず最初に買ったCDってなんですか?
初めて買ったのは映画「ブルース・ブラザーズ」のサウンドトラックです。中学時代だったと思います。
──いきなり今日のMitchie Mサウンドに至る道が見つかっちゃった気もするんですけど(笑)、中学生が最初に買うCDとしてはけっこう渋いですよね。
もともと「ブルース・ブラザーズ」の映画が好きだったんです。音楽に入ったのも映画がきっかけって感じなんですよね。映画が面白かったからサントラを買ってみたら、ジェームス・ブラウンとか、アレサ・フランクリンとか、レイ・チャールズとか大御所がいっぱい参加していて。当時はもちろんどれほどすごい人たちなのかは知らなかったんですけど、やっぱり音楽はカッコよかったので。
──周りにその手の黒っぽい音を理解するお友達は?
全然聴いてなかったですね(笑)。逆に僕もそのときどきのタイムリーなJ-POPとかはあまり聴いてなかったので、本当に個人的な体験って感じではありました。その後も洋楽のクラシック的な……例えばLed Zeppelinだとか、そういういわゆる「名盤」をよく聴いていた感じでしたし。
作曲テクニックの源泉は雑食を求められたプロの現場
──一方、プレイヤーとしてのキャリアは?
ピアノは小学1年生から4年生くらいまで習ってたんですが、クラシックピアノはあまり面白くなくてやめちゃいまして。ただ音楽は好きだったので、高校生になってから「バンドやってみたいな」ということでコピーバンドを組んで、キーボードを担当してました。
──当時はどんな曲のコピーを?
やっぱりZeppelinはコピーしてましたし、あとはベック「Loser」だったり、Jamiroquaiみたいなジャズファンク的なものもやってみたりだとか。本当にジャンル関係なくいろんなものを好きにコピーしてました。
──「ジャンル関係なく」とはいえ、中学時代の「ブルース・ブラザーズ」同様、ハイブロウなアーティスト名が並んでいる気がしますけど(笑)。
確かに周りのコピーバンドに比べるとちょっと変わってた気はします(笑)。で、大学に入ってからYMOを聴いたのをきっかけに打ち込みにも興味を持つようになって、音楽制作に本格的に力を入れるようになったんです。作品の発表自体はしていなくて、本当に趣味で作っていたって感じなんですけど、卒業してどうしようか?ってなったときに、DTM関連の人脈をいろいろ当たってみて。その人たちからゲームのトラック制作なんかのお仕事をいただくようになって、それ以来フリーで音楽制作の仕事を続けてきて腕も磨いてきたって感じですね。仕事で音楽を制作する場合、いろんなジャンルを求められるので、仕事を通じていろんなものを聴いたり作ったりすることが本当に勉強になったな、と思ってます。
──ただMitchie Mのブログを見ると、そもそもジャンルレスなんじゃないかって気もするんですよ。Nirvana「Nevermind」と、スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトが共演した「Getz/Gilberto」のアナログ盤を並べて写真を撮っていたりするし。あとドナルド“ダック”ダンが亡くなったときにはSTAXレーベルの話をしたかと思えば、別の日にはD.A.F.みたいなジャーマンニューウェーブをレコメンドしてみたり、The Gossipのライブ映像を猛プッシュしてみたりもしているし。
(笑)。そういう意味では中学生や高校生の頃と変わってはないのかもしれないですね。「このジャンルだから」みたいな決まりは作らずに名盤や話題になってるバンドを常に追いかけている感じですから。
- ニューアルバム「グレイテスト・アイドル」 / 2013年11月6日発売 / Sony Music Direct
- 初回限定盤 [CD+DVD] 4095円 / MHCL-2373~5
- 通常盤 [CD+DVD] 3150円 / MHCL-2376~7
CD収録曲
- FREELY TOMORROW
- アゲアゲアゲイン
- 愛Dee
- ビバハピ
- Bye Bye Blue Memory
- Aizu~会津~
- イージーデンス
- 悲しみは愛情のように
- 短気呑気男子
- アイドルを咲かせ
- Believe(ver.HD)
- シティー・ボーイ
- Birthday Song for ミク
初回限定盤DVD収録内容
- FREELY TOMORROW(by yama_ko)
- イージーデンス(by ライクーP)
- 愛Dee(by yama_ko)
- Birthday Song for ミク(by llcheesell)
- アイドルを咲かせ(by Gたま(ネコ系))
- ビバハピ(by cort & THORU MiTSUHASHi)
- アゲアゲアゲイン(by TOHRU MiTSUHASHi)
- FREELY TOMORROW(Project DIVA ver.)(by SEGA)
通常盤DVD収録内容
- 愛Dee(by yama_ko)
- Birthday Song for ミク(by llcheesell)
- アイドルを咲かせ(by Gたま(ネコ系))
- ビバハピ(by cort & THORU MiTSUHASHi)
- アゲアゲアゲイン(by cort & THORU MiTSUHASHi)
Mitchie M(みっちーえむ)
ニコニコ動画を中心に活躍するボカロP。高校時代よりバンド活動を始め、大学時代にはDTMでの音楽制作をスタート。大学卒業後、フリーの作曲家、エンジニアとして活動を開始する。2011年7月にニコニコ動画に投稿した「FREELY TOMORROW」がわずか20日で100万再生を達成し、以来、日本の古きよき歌謡曲にも連なる和モノのメロディと黒人音楽的グルーヴ、ラップすらも巧みにフローし、息づかいさえ感じさせるリアルな初音ミクの調声技術が評価を集め、「ビバハピ」「イージーデンス」「愛Dee」など多くのヒット曲を生み出す。2013年11月にはメジャー1stアルバム「グレイテスト・アイドル」をリリース。その楽曲群はもちろん、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズなどのキャラクターデザインで知られる貞本義行が描く初音ミクをあしらったジャケットデザインも大きな話題を集めている。