音楽ナタリー PowerPush - MISIA

雪から桜へ ドラマ彩る渾身のシングルに込めた思い

MISIAのニューシングル「白い季節 / 桜ひとひら」。表題の2曲は、「白い季節」がテレビ朝日系「セカンド・ラブ」の挿入歌、「桜ひとひら」がテレビ東京系「永遠の0」の主題歌と、どちらもテレビドラマを彩るため書き下ろされた渾身のバラードだ。雪から桜へ、季節の移ろいを感じさせるこの時期にピッタリの作品に仕上がった。

今回のインタビューではMISIAがこの2曲について解説。さらに30代という成熟した時期に我が身を見つめ、メンタルを強く保つための努力、これからも歌い続けていく覚悟を語ってくれた。

取材・文 / 鳴田麻未

楽曲作りのコンセプトは“全部シングル”

──2014年のMISIAさんの活動は、アルバム「NEW MORNING」のリリース、2013年2月から行ってきたツアー「星空のライヴVII-15th celebration-」のフィナーレ、6公演のコンセプトライブ「Candle Night Live」などがありました。その裏で楽曲制作も進めていたんですか?

MISIA

4月に新しいアルバムを出して、そのアルバムを皆さんに届ける活動をするとともに、すぐに次作の制作に取りかかっていましたね。去年はロンドンに行って初めてアビーロードスタジオでレコーディングをしたり、鷺巣詩郎さんやher0ismさんと一緒に制作をしてみたり、いろいろ挑戦した1年だったと思います。その中で「白い季節」「桜ひとひら」という大きな存在の曲が上がってきたのは、やっぱり半年の制作期間があったからだと思います。

──「新しいシングルを作ろう」と決めて制作にあたってたわけではないってことですか。

うーん……。私たちはいつだって、楽曲作りのコンセプトは“全部シングル”です。それは、ほかのアーティストの方もそうだと思います。どの曲がシングルとしてリリースされるかは、制作中はほとんどわからないですけど。

──へえ。すべての曲に主役級の存在感を求めていると。

それは、もちろんそうですね。

──まず「白い季節」からお聞きします。こちらは亀梨和也さんと深田恭子さんのドラマ「セカンド・ラブ」の挿入歌ですね(参照:MISIA「白い季節」が亀梨×深キョン“大人のラブストーリー”彩る)。作詞、作曲、編曲を手がけたher0ismさんは今回初タッグですが、アイドルソングから和製R&Bまで幅広く作っているプロフェッショナルなJ-POP作家というイメージが私はあります。MISIAさんはher0ismさんの作られる楽曲にどんな印象を持ちましたか?

洋楽的アプローチがあっても日本らしいメロディ感のある方だなっていう印象ですね。洋楽のようなアプローチの曲って、日本語が乗せにくいことがあるんですね。日本語ってすごく情緒のある言葉だし、メロディによっては場面転換が難しい言葉だなと思うんです。それが彼の場合はすごくいい形でミックスされているというか。きっと子供の頃からJ-POPも洋楽も同時に触れ合うことができた私と、すごく似た環境で音楽をやってこられた人じゃないかなって思います。

──この曲をher0ismさんからもらって一聴したときの感想を教えてください。

とってもサビが印象的な曲だなと思いました。A、Bメロがメジャーコード中心で進んでサビからマイナーコードという、王道といえば王道のパターンかもしれませんが、すごくドラマチックな曲。

──そこに乗る歌詞もまた、切なさを煽るロストラブストーリーですね。

「白い季節」は詞もher0ismさんに作っていただいたんですが、最終的な方向性はドラマの台本を読みながら話し合い決めました。台本の中には、登場人物が恋愛だけではなくて夢に向かってがんばっているシーンもありましたので、夢に向かっている人の心の中にある言葉も入れ込んだ詞にしようとか。あとは私らしい言葉遣いというんでしょうか。スタジオで「ここの歌詞変えてください!」とか「今考えてください!」ってher0ismさんに言いながら(笑)、言い回しを少し自分らしく直してもらったりはしました。でもher0ismさんもそういうやりとりが面白いって言ってくださって、曖昧な言い方でもそれをうまく汲み取って楽曲を作ってくださる方だなと思いました。

──歌唱面ではどんなところに気を配りました? MISIAさんの印象の通り、確かにサビが強い曲ですよね。

そうなんです。だからA、Bメロは比較的柔らかく明るい声で歌って、サビは涙声……泣いてるときのような声で歌うっていう、まったく違う歌い方をするようにしました。

──泣いてるときのような声で歌う……ってどうやったら出るんですか?

泣いてるときの話し声って、普段より少し声が高いというか、声帯がちょっと上に上がってる感じがしませんか? 泣いているときに、普段より声帯を下げて低い声で話したりとかって、あまりないですよね。正確に説明することは難しいのですが、声帯の位置を少し高くして歌っているイメージですね。

桜が咲いて散る=生きる

──もう1つの「桜ひとひら」はドラマ「永遠の0」の主題歌として書き下ろされた曲ですね(参照:「時代を超えた名曲」MISIA渾身の「永遠の0」主題歌を向井理が絶賛)。作詞はMISIAさんご本人ですが、平和を願う曲のモチーフに“桜”を選んだのはなぜですか?

私、原作の小説の中ですごく印象に残っているシーンというのが、特攻前夜に宮部(久蔵)さんと宮部さんが教えていた生徒(大石賢一郎)が川辺に座って「こんなに世界が美しいとは思わなかった。今になってようやく気付いた」って話すシーンで。彼らはそこで、何かや誰かと戦ったり傷付け合うんじゃなくて、ただ咲いている花のように一生懸命生きればよかったって思ったんじゃないかって。私はあのときに戦争の悲しさというものをすごく感じました。

──ええ。

ただまっすぐに生きていくっていうことと、戦争の悲しさを、直接的な言い方ではなく、あの場面のような表現で伝えられたらいいなと漠然と思っていて。それで今回詞を書くにあたって、生半可な知識ではいけないと、いろんな文献を読んだり、長崎や広島、鹿児島、沖縄……全国の資料館に行って、特攻のことだけでなく戦争の悲しみというものをもう1回学び直して感じてみることからスタートしました。それで戦史などを見たときに、「桜」がよく出てくるなと思ったんですよね。桜は、昔は潔く散る姿から、潔く命を散らすことを表現して語られていたようで……。でも、桜の花が咲いて散るのは、来年も咲けるからなんだと前に聞いたことがあって。花が咲く=来年もその木が元気っていうことらしいんです。桜の花が散ることは、桜の命が終わることではない、未来に向けて生きるっていうことなんだと思います。なので、桜が咲き散ることは、戦争時代には悲しい意味で語られていましたが、これからは「命が散る」のではなく「命が咲いていく」というメッセージであってほしい。つまり平和の象徴であってほしいという願いを込めて、桜というモチーフを選びました。

──なるほど。

それから、桜の花びらが舞って地面に付く前にその花びらひとひらをつかむことができたら、願いが叶うっていうジンクスがあって。私も子供の頃よくやっていたんですよ。それを思い出して、平和への願いが叶うようにという思いを込めて「桜ひとひら」というタイトルにしました。

──そうなんですね。小説の中では桜や春をフィーチャーしたシーンは特になかったはずなので、どこから着想を得たんだろうという疑問で。それが解決しました。

主題歌を歌う際に心がけているのは、その物語自体を歌うというのではなく、その真ん中の部分っていうんですかね、なるべく中核の部分を表現できたらなと思っていて。「桜ひとひら」に関しては、その中核とは「平和」です。それをどうやって伝えるかを、とても考えました。また、この歌ではそれをラブソングという形で伝えたいと思いました。なぜなら、ラブソングは1対1の世界から、100にも、1万にも、1億にもつながる糸口になると思っているので。

──戦後70年という現代に、平和への願いを伝えるのはなかなか難しいですよね。

そうですね。私たちって幸いにも戦争を経験してないし、もう親の世代も戦争を知らないですし、体験者で話を聞かせてくれる方も少なくなっている中で、戦争というものをリアルに感じることが難しくなってきている世代だと思います。だからこそしっかり想像力を働かせてなんとか戦争の痛みを感じながら、平和への道を踏み外さないようにする必要があると思うんです。この曲を書くときも、どうやってその共感というか、悲しみを伝えられるのかという部分は難しかったですね。でも、現代の私たちが、一番共感して想像できる糸口は「愛しい人ともう会えない」「会えなくなってしまう世界がある」ってことだと思うんです。

──確かにそう言われると身近です。

人生を歩む中で、意志とは異なるところで二度と会えなくなってしまう。それは自分だけではなく、周りの人みんなも……。そういうふうに想像して痛みを感じ平和について考えてもらうことができたらいいなと思います。

MISIA星空のライヴVIII
2015年4月11日(土)愛知県 愛知県芸術劇場大ホール
2015年4月12日(日)愛知県 愛知県芸術劇場大ホール
2015年4月17日(金)福岡県 福岡サンパレス
2015年4月18日(土)福岡県 福岡サンパレス
2015年4月24日(金)北海道 ニトリ文化ホール
2015年4月25日(土)北海道 ニトリ文化ホール
2015年5月5日(火・祝)東京都 東京国際フォーラムホールA
2015年5月6日(水・祝)東京都 東京国際フォーラムホールA
2015年5月8日(金)東京都 東京国際フォーラムホールA
2015年5月15日(金)岡山県 倉敷市民会館
2015年5月16日(土)広島県 広島文化学園HBGホール
2015年5月20日(水)静岡県 アクトシティ浜松大ホール
2015年6月5日(金)宮崎県 宮崎市民文化ホール
2015年6月7日(日)鹿児島県 鹿児島市民文化ホール・第一
2015年6月11日(木)宮城県 仙台サンプラザホール
2015年6月12日(金)宮城県 仙台サンプラザホール
2015年6月17日(水)新潟県 長岡市立劇場
2015年6月18日(木)新潟県 新潟県民会館
2015年6月24日(水)広島県 ふくやま芸術文化ホール・リーデンローズ
2015年6月26日(金)鳥取県 米子コンベンションセンター
2015年6月30日(火)大阪府 大阪フェスティバルホール
2015年7月1日(水)大阪府 大阪フェスティバルホール
2015年7月7日(火)東京都 東京国際フォーラムホールA
2015年7月8日(水)東京都 東京国際フォーラムホールA
2015年7月11日(土)大阪府 大阪フェスティバルホール
2015年7月12日(日)大阪府 大阪フェスティバルホール
2015年7月17日(金)石川県 本多の森ホール
2015年7月18日(土)長野県 上田市交流芸術文化センター
2015年8月13日(木)福岡県 福岡サンパレス
2015年8月15日(土)大阪府 大阪フェスティバルホール
2015年8月16日(日)大阪府 大阪フェスティバルホール
2015年8月29日(土)沖縄県 沖縄コンベンションセンター劇場棟
2015年8月30日(日)沖縄県 沖縄コンベンションセンター劇場棟
MISIA(ミーシャ)

長崎県生まれの女性シンガー。1998年2月にシングル「つつみ込むように…」でデビュー。同年6月に発表した1stアルバム「Mother Father Brother Sister」は200万枚以上を売り上げ、R&Bブームの火付け役存在となる。2000年に発表したシングル「Everything」はドラマ主題歌に採用され、200万枚を超えるセールスを達成した。2013年2月にはデビュー15周年記念ベストアルバム「MISIA SUPER BEST RECORDS -15th Celebration-」を発表。その直後にスタートした全国ツアー「MISIA 星空のライヴVII -15th Celebration- Schedule」は2014年4月まで合計77公演におよんだ。2015年2月に最新シングル「白い季節 / 桜ひとひら」をリリース。