ナタリー PowerPush - MISIA
音楽の翼で羽ばたくペガサスに
馬と人間の信頼関係
──歌詞のキーワードになっている“ポラリス”も“ペガサス”も、どちらも星の名前ですけど、それは「星空のライヴVII」ツアーをやってたからなんでしょうか。
それもあると思います(笑)。それと、この1年、例え話みたいな切り口でリリックを書きたいな、“私”とか“僕”が人間じゃない、いわゆる擬人法で書きたいなと思ってたんですね。もしかしたら、今の世の中の流れは、特に“日本が”なのかもしれないんですけど、若干擬人したり例えたりしないとものが言いづらい世界になっているような(苦笑)、そんな印象を受けていて。で、ちょうど「来年は午年で、私は午年だなあ」って思ってたんです(笑)。
──ペガサスは“天馬”だから(笑)。
そうなんです。ここ数年、私は馬が大好きで、しょっちゅう乗馬に行っていて、馬に関してはいろいろ思うところがあるんです。馬と人間の関係って、人と人との信頼関係みたいなものにすごく通ずるところがあって。馬と人との例え話が、人と人との例え話に繋がるところがあると思う。アルバムのジャケットも「今回は馬で行く」って言われて、「お? みんなの志向がちょうど合ってるな」と。そんな状況の中で、馬と一緒にジャケット撮影をしたその日に、この歌詞を書きました。
──ところで、ドラマ「S -最後の警官-」で向井理さん演じる神御蔵一號と、綾野剛さんが演じる蘇我伊織は、どっちがポラリスなんでしょう? ポラリスは、北極星で、航海の目印にもなってる星ですが。
まったく思想が違う2人なんですけど、実は“犯人から人々を守りたい”っていう共通点を持っている。2人の信頼関係っていうのが、歌詞のポイントでした。それを擬人法で語ることによって、男と男かもしれないし、男と女かもしれないっていう、性別を超えられるっていうところもあるので、すごくいいんじゃないかなあって思ったんですよね。そこから強さや信頼関係を描きたかった。2人は、お互いにとってお互いがペガサスやポラリスになっていく存在なんじゃないかなと思ってるんですね。それは一號の恋人役の、吹石一恵さんが演じてる棟方ゆづるとの関係性にもつながっていて、ラブソングにも友情の歌にもなるかなあっていう感じでしたね。
音楽という翼を持ったペガサスにならなきゃいけない
──いろんな要素が重なって、うまいところに収まりましたね。
はい。それに……この曲は楽器のレコーディングをするスケジュールを12月に組んでいて、「そろそろレコーディングしなきゃ」って言ってるとき……12月3日に青山純(MISIAをデビュー以来支えてきたドラマー)さんが突然お亡くなりになって。その数日後に楽器レコーディングがあったんですね。私はすごく悲しくて、「どんな気持ちでレコーディングに臨めばいいのかな」って思ってました。不思議なんですけど、同じように悲しんでる人たちとスタジオで会って、青山さんの思い出話をいろいろしているうちに、すごく慰められました。みんなで「青山さんはポラリスになっちゃったね」っていう話をして、じゃあ生きていく私たちが何にならなきゃいけないのかって言ったら、音楽っていう翼を持ったペガサスにならなきゃいけないって。みんなが青山さんっていうポラリスを胸に抱いてる状態で、この曲の楽器レコーディングをしたんです。
──CDのジャケットに「In Memory of Our Beloved Drummer Jun Aoyama, Alex」って書いてあるのは、そういうことなんですね。
「青山さんに」っていう思いもあったし、この曲自体がそういうストーリーを含んでるんです。そして、カップリングの「Jewelry」が青山さんとの最後のレコーディング曲なんです。今回の「星空のライヴVII」のツアーが始まる約半年前に、楽器レコーディングをした曲だったんですね。
──青山さんって、どんなドラマーだったんですか?
やっぱりバラードでのドラムは忘れられないですね。レイドバックしながらも、後半に向けてラッシュできる人って、あまりいないのではないでしょうか。青山さんのスネアって、キックよりちょっとだけ後ろに行ってるんです。レコーディングのときは、それをスタジオで聴いた瞬間に「うおおおお! 青山さんだあ!」ってみんなで声を上げました(笑)。
──すごいですね。さすが名人。
「Jewelry」は素晴らしい出来だったので「この曲、みんなに早く聴いてほしいよね」っていう話をしてたんです。偶然なんですけど、歌詞自体に青山さんとのことに通じるような言葉があって、私、亡くなられたときにも「青山さんと一緒に歌えたことが宝物だ!」ってずっと言ってたんですけど、考えてみたら「あ、あの曲、『Jewelry』だ」と思って。青山さんと最後にレコーディングした曲がジュエリーだ、宝物だったっていう。だからこの「僕はペガサス 君はポラリス」は、私にとって忘れられないシングルになりました。
- ニューシングル「僕はペガサス 君はポラリス」 / 2014年2月5日発売 / アリオラジャパン
- 初回限定盤 [CD] / 1500円 / BVCL-573
- 初回限定盤 [CD] / 1500円 / BVCL-573
- 通常盤 [CD] / 1200円 / BVCL-574
初回限定盤収録曲
- 僕はペガサス 君はポラリス
- Jewelry
- 君の太陽になろう
- 恋は終わらないずっと(Candle Night Live)
通常盤収録曲
- 僕はペガサス 君はポラリス
- Jewelry
- 君の太陽になろう
MISIA(みーしゃ)
長崎県生まれの女性シンガー。1998年2月にシングル「つつみ込むように…」でデビュー。同年6月に発表した1stアルバム「Mother Father Brother Sister」は200万枚以上を売り上げ、R&Bブームの火付け役存在となる。2000年に発表したシングル「Everything」はドラマ主題歌にも起用され、200万枚を超えるセールスを達成した。2013年2月にはデビュー15周年記念ベストアルバム「MISIA SUPER BEST RECORDS -15th Celebration-」を発表。その直後にスタートした全国ツアー「MISIA 星空のライヴVII -15th Celebration- Schedule」は2014年3月まで、合計75公演におよぶ。2014年2月に最新シングル「僕はペガサス 君はポラリス」をリリース。