ナタリー PowerPush - MISIA

初のカバー集は素晴らしいものを受け継ぐ旅

クリックを使わず「いっせいのせ」で

──CMでもおなじみの「What A Wonderful World」は、以前歌ったことがあったとか。

2007年にラジオのイベントで歌いました。そのときは、子供たちに向けたとても穏やかなイメージで歌いましたが、今回は傷ついた人や場所があるけれども、それでも“What A Wonderful World”って言えるような世界をもう一度みんなで作りたいという思いの中で歌いました。

──実際に歌って、どんな違いや気付きがありましたか?

今回は“今の時代に必要な言葉”がテーマだったので、カバーの選曲をするときに耳だけで知っていた歌詞を改めてきちんと読み直してみたんですね。そうすると、あえて訳されずにいた言葉があるんじゃないかなと感じました。そういった部分も訳してみて、100曲以上の候補から50曲ほどまで絞り、そこから重美さんとスタジオにこもってピアノの伴奏で歌いながら、曲の雰囲気や相性などを見ていく作業が続きました。「What A Wonderful World」はそうやって最初に歌った感じがとても良かったんです。その場でキーやテンポも決めましたが、人工的にクリックを使うよりフリーテンポでお互い「いっせいのせ」で録るのがいいねって。クリックに合わせないと、後からそのトラックで歌う場合に難しいんじゃないかとも思ったんですけど、実際に歌ってみると不思議なことに歌えてしまうんですよね。人間が元々持つリズムの中に共通するものがあるんじゃないかなあって感じました。例えば、心拍数に近いBPM60~80の音楽は聴くと安心すると言われたり、ハウスミュージックに気分が上がる120よりちょっと上のBPMがよく使われたりするのは、つまり同じ体温感やビート感を無意識に共有しているんだなと思うんです。

──心地よさの共通点って、あるかもしれませんね。優しい雰囲気の「Ribbon In The Sky (Japanese Version)」はご自身で訳し、日本語で歌唱していますね。

私もこれまでいろんな方に自分の曲をカバーしていただきましたが、その土地の言語に訳すときにどうしても意訳になってしまうことが多いんです。歌詞の本質を伝えるためには仕方のないことですが、その経験から今回はできる限り直訳に近い形で、スティーヴィー・ワンダーのメッセージをそのまま伝えられるようにと心がけました。ただ、直訳しようとするとどうしても日本語の言葉数が増えてしまう。同じメッセージを繰り返し歌っている箇所は少しそれを短くして、言葉を補ったり。結果、元々日本語の歌だったんじゃないかと思うくらいとてもマッチしていて、とても楽しい経験になりました。日本語だとよりメッセージも伝わりやすいですしね。

──他の楽曲もMISIAさんが対訳をつけたとか。

そうなんです。ちょっとユニークなのは、ブックレットってたいていは英語の歌詞が先に書いてあって、その後に訳詞が載りますが、メッセージを伝えたいという思いから、先に対訳を載せてから英詞をその後に載せてもらいました。

MISIA SANTA

──今作はクリスマスアルバムという側面も持っていますよね。

そうなんです。リリースが12月になると決まったとき、シーズンズギフトのような作品にもしたいなと思ったんですね。アルバムの終盤3曲はクリスマスソングが並んでいるので、そういった楽しみ方もあるんじゃないかなって。クリスマスは誰もが愛を願ったり、その日には争いがなくなるとも言われているピースな日でもあるので、アルバムのラストに「大きな愛の木の下で」を入れることにしました。

──その「大きな愛の木の下で」のみオリジナル楽曲ですね。

「大きな愛の木」をそのままクリスマスツリーと感じていただくのもいいかもしれません。このアルバムそのものが、それぞれの素晴らしいアーティストの方々が実らせた果実であり、その実が連なる大きな木という捉え方もできますよね。この曲の冒頭とラストにスレイベルの音が入っていますが、クレジットには“MISIA SANTA”と書かれています(笑)。ただサンタっぽくなっているといいのですが(笑)。

──では最後に、今作をより楽しむためのアドバイスをお願いします。

今の時代に必要な言葉を大切に曲を選びましたが、全てのメッセージは感じることから始まると思うんですね。ですのでまずは聴いて体感、“Feel”してもらえたらいいなと思っています。そして、その後に歌詞を読んでもらうと自分の中の五感がつながる瞬間がきっとあると思います。今回は体温を感じられる音にしたかったから、全編ほぼ生音で制作しました。この冬に、身も心も温まるアルバムになれたらいいなと思っています。

カバーアルバム「MISIAの森 -Forest Covers-」 / 2011年12月14日発売 / 3000円(税込)/ アリオラジャパン / BVCL-292

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CD収録曲
  1. Smile
  2. Heal The World
  3. The Rose
  4. What A Wonderful World
  5. Ribbon In The Sky(Japanese Version)
  6. Mercy Mercy Me(The Ecology)
  7. This Christmas
  8. White Christmas
  9. Can't Take My Eyes Off You
  10. 大きな愛の木の下で
MISIA(みーしゃ)

1998年2月にシングル「つつみ込むように…」でデビューを果たし、大ヒットを記録する。同年6月に発表した1stアルバム「Mother Father Brother Sister」は200万枚以上を売り上げ、女性R&Bブームの火付け役存在となる。2000年に発表したシングル「Everything」はドラマ主題歌にも起用され、200万枚を超えるセールスを達成。2011年7月には通算10枚目となるオリジナルアルバム「SOUL QUEST」を発表し、12月14日に初のカバーアルバム「MISIAの森 -Forest Covers-」をリリースする。