ナタリー PowerPush - mishmash*
コンテンポラリーダンス×音楽 魅惑のコラボレーション
実写はある程度お金をかけないと
──撮影はaugment5が担当。草津、京都などの日本の風景をスタイリッシュに映像化した作品で話題の制作チームですね。
マスヤマ そうですね。今回のミュージックビデオは当初、ニューヨークロケを考えていたんです。折原さんもダンサーもニューヨークに住んでいるし、向こうのスタッフを使って撮ったほうがいいだろう、と。でも、いろいろと考えているうちに「日本の風景のほうが海外向けにはエキゾチックだし、マーケットバリューも高いんじゃないか」ということに気付いて、ダンサーと折原さんをこっちに呼ぼう、と。そうなると撮影はaugment5に頼むのが一番いいと思ったんですよね。まあ、プロデューサーとしていろいろなものを見ていく中で、「いいな」と思う作品を作っているチームに発注したということですね、単純に。
折原 私もアダムとチェルシーが日本の風景の中で踊る映像はとてもいいと思いました。撮影が12月だったから「寒さは大丈夫かな?」と思ったけど、彼らは若いから(笑)。
マスヤマ 本当に文句ひとつ言わずにすごい踊りを見せてくれて。素晴らしい人たちですよね。
折原 うん、ホントにそう思います。完成した映像も想像以上でしたね。振り付けもいいし、踊りが切れてないんですよね。
マスヤマ うん、全部がつながって見えるっていう。もちろん、編集技術の高さもありますね。撮影に入ってからは、僕は何も言ってないんですよ。最初はいろいろと説明しましたけど、あとは信頼して任せました。今回の曲は歌詞もありますから、映像スタッフにも歌詞を読んでもらえれば、ある程度通じるじゃないですか。例えば「Ding dawn」だったら、鐘の音(Ding-dong)と夜明け(Dawn)がダブルミーニング、だから夜明けっぽい映像、とか。
美島 そうですよね。
マスヤマ 「Reach out~」は、私とaugment5の井野さん柘植さんが去年の9月にニューヨークに行ったとき、アダムとチェルシーがリハーサルスタジオで即興で踊ってくれたものが原点になってるんです。ディレクターの柘植さんが手持ちのカメラで2人の周りを回りながら撮ったんだけど、それが本当に素晴らしくて。アダムとチェルシーは踊りのボキャブラリーを共有しているから、すぐにカタチになるんです。トップダンサーが目の前で踊るとやはり感じるものがあるんですよね。スタッフもみんな感激して「これでイケる」と思ったんじゃないかな。
折原 うん、あれで十分だったかもしれないですね。
マスヤマ 本番もワンカットの長回しだしね。
──2人の踊りをそのまま見せるというコンセプトだったんですね。それにしてもこの映像、本当にすごいですよね。ダンサーのレベル、撮影チームのクオリティを含め、こんなミュージックビデオは世界的にも稀だと思うですが。
マスヤマ そうですね。80年代に坂本龍一さんが「エスペラント」というコンテンポラリーダンスをテーマにした曲を発表してましたけどね。モリサ・フェンレイ(前衛舞踏家)のダンスのための音楽でした。それ以外に観たことある?
折原 ないかもしれないですね。私たちの立場から見ると、ミュージックビデオというよりも“ダンスオンフィルム”という感じもあって。踊りを見せる作品としても、いい線行ってると思います。
美島 すごい映像ですよね、本当に。僕の曲でよかったのかな?と思うくらい(笑)。
──これだけ大きな規模のプロジェクトを実現させられるって、すごいことだと思います。
マスヤマ プロデューサーとしては間違ってるかもしれないけどね(笑)。
折原 ハハハハハ(笑)。
マスヤマ いいんです、いいものができたので。僕も以前は映像の仕事をしてたんですけど、実写ってある程度お金をかけないとどうしてもショボくなるんですよ。だからaugment5のスタッフにも「ケチらなくていい」って言ったんですよ。
美島 あ、言ったんだ?
マスヤマ 勢いで(笑)。
mishmash*Miki Oriharaは生で見せるのが一番
──こうやって2つの作品が生まれましたが、mishmash*Miki Oriharaのこのあとはどう展開していくんですか?
マスヤマ やっぱり「生で踊りを見てほしい」っていうのがあるんですよね。去年、Julieちゃんと一緒にやったライブで、ミュージックビデオの撮影で東京にいたアダムとチェルシーにも踊ってもらったんですよ、実は。そのときは実験的なところもあったんだけど、それがすごくよくて。理想としては、折原さん、アダム、チェルシーに日本に来てもらって、僕らの曲と3人のダンスを見てもらいたいんです。そうなれば、mishmash*によるコンテンポラリーダンスのコンサートが成立すると思うので。生と映像では全然違いますからね、ダンスは。
折原 うん、それは絶対に違いますね。
マスヤマ 僕らの目は映像の特殊効果に慣れすぎてるんですよ。例えばASIMOって映像で見ると大したことないんだけど、実物を見るとすごく面白いんですよ。
美島 本当に生きてるみたいだよね。
マスヤマ 今回のミュージックビデオをたくさんの人に観てもらいたいっていう気持ちもあるんですけど、どちらかいうと次善の策ってところもあって。音楽を楽しむ方法はいろいろあるけど、生で見せるのが一番大きいんじゃないかな。今までmishmash*には生で演奏するっていう要素があんまりなかったんですけど……。僕と折原さんで「美島さん、ライブでピアノ弾かないの?」って言ってるんだけどね。Corneliusのライブでも昔は弾いてたじゃん、美島さん(笑)。
美島 今回の場合はちょっと違うからね。ダンサーとリアルタイムで掛け合いするとなると、ジャズのインプロビゼーションみたいな感じになると思うし。
──ぜひ期待してます。折原さんにもう1つ質問です。ナタリーではマスヤマさんに何度かインタビューさせてもらってるんですが、本当に奥深い方というか、全体像がなかなかつかめないところがあって。折原さんから見たマスヤマさんはどんな人なんですか?
折原 私も同じ印象ですね(笑)。
マスヤマ フォローしてよ(笑)。実はいい人です、とか。
折原 いい人ですけどね(笑)。マスヤマさんはいろんなことに興味があるところがいいと思うんですよ。1つの場所に留まっていないというのかな。
マスヤマ 飽きっぽいんですよ。
折原 昔、セルゲイ・ディアギレフという人がいたんですね。芸術プロデューサーでバレエ・リュス(※20世紀前半の舞踏、音楽、美術を象徴するバレエ団)を立ち上げた人なんですけど、彼のビジョンがなかったら例えば(ヴァーツラフ・)ニジンスキーも世に出てなかったんじゃないかなって。マスヤマさんもそういうタイプの人だと思いますね。
マスヤマ (MacBook Airでセルゲイ・ディアギレフのプロフィールを検索しながら)“天才を見つける天才”って書いてある。
折原 うん、まさにそうだと思う。
マスヤマ それでいこうかな、これから。「天才を見つける天才です」って(笑)。でも人を集めてくるのがうまいっていうのはよく言われる。まあ、普通に会いに行ってるだけなんですけどね。今回のaugment5にしても正面から“ピンポーン”って訪ねて行って、依頼したわけだし。決して「裏から手を回してる」とかではなく(笑)。
折原 あと、いつも面白そうなことをやってますよね。
マスヤマ mishmash*に関して言えば、自分たちが楽しんでるのが伝わってくれたらいいと思ってるんですよね。誰に頼まれてるわけでもないから、楽しくなかったら、こういう活動をやってる意味がない(笑)。
折原 いいと思う。私も好き嫌いが激しいから。
マスヤマ アーティストは誰でもそうですよ。
美島 今回のプロジェクトは、すごくスムーズでしたけどね。参加してくれた人のクオリティが高かったから、誰も文句言わず。
折原 あ、それは言えてますね。
マスヤマ このプロジェクトに限らず、合わない人には「こっちに来るな」オーラを放ってますからね(笑)。ダメなものはダメってハッキリ言うし。逆に言うと、一緒にやりたいと思う人がなかなかいないんですよ。そういう意味では、今回のプロジェクトはよかったと思います。イメージしたものがそのままカタチになったので。
- 配信シングル「Ding Dawn / ディン・ドーン」/ 2014年6月11日発売 / mishmash*
- 配信シングル「Reach Out until you can feel me. Hold tight. / 手を伸ばして、私にふれるまで、ぎゅっと。」/ 2014年6月11日発売 / mishmash*
mishmash*(ミシュマシュ)
Corneliusのサウンドプログラマーを務める美島豊明と、ゲームや出版、映像などさまざまなカルチャーコンテンツを手がけてきたマスヤマコムによる音楽ユニット。作品ごとに異なるクリエイターをフィーチャーすることをコンセプトに掲げている。2012年12月リリースの1stアルバム「mishmash*Julie Watai」および2013年12月リリースの2ndアルバム「セカンド・アルバム / The Second Album」では、写真家として活躍する元アイドル / モデルのJulie Wataiをフィーチャーした。2014年6月にはダンサーの折原美樹をフィーチャーしたmishmash*Miki Oriharaを始動。